第三十話「体験入部!!」・1
時刻は午前十二時ちょっと過ぎ。
陽もすっかり昇り夏の天気にはふさわしい程のカンカン照りの日。
――光影学園。光影都市の中にたった一つしかない学校で、多くの学生――というかほぼ全員がこの学園に通い詰めている。俺、神童響史もまたその一人。そして、その学園には生徒たちを取り締まる組織『生徒会』が存在する。その生徒会のメンバーは、一人一人が曰くつきのある謎の人物の集まりで、個性豊かな人物が勢揃いである。おまけに経験上……生徒会のメンバーの大半が、俺が探し求めている太陽系の守護者のリングを持っていることが判明している。何故、生徒会メンバーがそれを持っているのかは謎であるが、俺はそれをどんな方法を使ってでも手に入れなければならない理由がある。
それは、瑠璃と麗魅を母親に会わせるため……そして、何よりも俺の目的は魔界で領地侵略を行っているという大魔王を止めるためだ。
そのためには、天界にいる女神――つまり、瑠璃達の母親に会わなければならないのだが、どういうわけかそこへ行くためのゲートが閉じてしまっているらしい。
まったくもって迷惑な話だ。そのゲートとやらが閉じなければ今頃俺はこんなに苦労することもなかっただろう。まぁ、今更そんなことを言っても始まらない。
――☆★☆――
ここは、その生徒会の面々がなんやかんやする生徒会室。ここには、歴代の生徒会の集合写真が額縁に入れて飾ってある。おまけに、棚には生徒の名簿やらが記載されたファイルなどの資料が収納されてある。
「やはり、そろそろアレを再開させた方がよろしいですかね……」
ふわふわの、見るからに座り心地の良さそうな椅子に座って足を組んでいる三年生の女子生徒が、黒に近い青緑色のウェーブがかった髪の毛の横髪を、クルクルと弄りながら呟いた。
「そうね。高等部の一年生も随分待ってるみたいだし……」
金色の髪の毛をなびかせながら、机に腰かけている二年生の瞳が言った。
「しかし、またアレが起こるかもしれませぬぞ?」
「それはそれで厄介ッスね……」
首にかけたタオルで額から滲む脂汗を拭いながら、眼鏡をかけた三年の男子生徒がある事柄に対して危惧する。二年の暁もまた、その事柄に対して困惑の言葉を洩らした。
「ん~……どうしたものか。とりあえず、一年生の部活動だけでも決めておきますか?」
喋り方と座っている椅子の豪華さからして、恐らく生徒会長であろう三年生の女子生徒が皆の意見を訊いた。
「あたし的には、それもありかと思いますけど……。それに、最近何だか部活の先輩達がグチってるんで、そろそろ一年生仕入れないとあたしが大変な目に遭いそうで……」
「あなたも一年生でしょ、火元さん?」
副会長の水滝麗が、顔を青冷めさせている火元と呼ばれる赤髪の少女に言った。
「あっ、そうでした」
「全く、あなたはあの時と今では全然キャラが違うんですね」
「あはは、よく言われます」
火元は自分の頭をかきながら照れ隠しをした。
「とりあえず、本日……体験入部始めてみましょうか」
「そうですね!」
こうして、生徒会の話し合いによって体験入部が始まる事となった。
――☆★☆――
所変わって教室棟。
俺、神童響史は、昼休みを優雅に過ごそうと屋上に向かって歩いていた。
しかし、その俺の行動を阻止するかの如く、瑠璃が俺の腕に自分の腕を巻きつけ話しかけてきた。
「響史~!」
「ちょっ、何するんだよ! 俺、これからちょっと用が……」
「ええ~、何の用?」
駄々をこねるように俺の腕を左右に激しく振り、どうしてもこちらの用事に付き合わせようとする瑠璃。
「いや、別に話すほどのことでも……」
「じゃあいいじゃん! ねぇ、響史、昼食食べに行こうよぉ~!」
「はあ? さっき弁当食ったじゃん!!」
俺は瑠璃がほんの数分前、バクバクと姫様という高貴な人物には見えないくらいむちゃくちゃな食べ方をしている姿を思い出して言った。
「でも、まだ食べ足りないんだもん!」
少し不満気な表情を浮かべ、俺に意味有り気な視線を流す瑠璃。所謂流し目光線というやつだ。
「麗魅と一緒に行けばいいじゃねぇか!」
「響史とがいいんだもん!!」
――嬉しいような悲しいような……。
俺はすっかり参ってしまい、頭をかいた。すると、瑠璃は再び同じ動作を始めて駄々をこねだした。
「ねぇ、お願~い! 響史ってば~!!」
顔の前で手を合わせて必死に懇願しながら迫られ、俺は思わず首を縦に動かしてしまった。
今思えば何でそんなことをしたのかさっぱり分からない。とにかく、俺が今心の中で思うことはただ一つ。俺の優雅な一時は、それを実現することなく夢の中で儚く散った。
時刻はもう午後三時。
本来ならばもう帰られる時間――だが、今日だけは違った。
それは、今日突然発表された体験入部のせいだ。
体験入部とは、主に部活動をやりたい人物などがやる活動で、本命が決まる前に体験して、どんな部活なのかを経験するということを目的とするものだ。まぁ、中等部から部活に入っているやつらの中には、そのまま継続で入らなくていいやつもいるが、中等部の時にやっていた部活動をやめて、高等部で新たな部活をやるというのもありのために、こういうものが存在する。俺も中等部の頃は部活をしていたが、高等部にあがる途中で止めた。
俺は家事などが忙しく、部活動などをやっている暇などさらさらなかった。特に中等部の頃は。だが、今は違う。今日も霖が家で家事洗濯などあらゆることを成し遂げてくれている。
全く、悪魔だと言うのにありがたい子だ。しかし、俺は部活動に入るつもりなどさらさらない。なるべく家にいたいからだ。それに、そこまでつきあっている友達も多くはないからな。
そして、俺達のクラスの帰りのHRが終わり、さっさと教室から出ようとしたその時、突然教室の扉が開け放たれ、そこから教室内へ見知らぬ人物が姿を現した。その人物は瓶底メガネをかけ、さらに額にはハチマキ、その他にも様々な物を身に着けていた。
「頼も~う、でござる!」
明らかに意味有り気な語尾。
「はあ……何か御用ですか?」
「ここに、水連寺霊殿はおられるか?」
その名前に、本人が俺の横を通って前に出た。
「私、だけど……?」
霊はなんだろうと言った表情で変な格好の男子生徒を見た。
「おお~なるほど! さすが噂にあるだけのことはあるでござるな……。まぁ密かにではござるが、会員も存在するくらいでござるからな」
「あんたたちは何なんだ?」
「ん? 拙者たちはアイドル研究部の者でござる! ちなみに拙者は隊長の『|米倉《よねくら 宗介』と申す者でござる! 今回は霊殿に是非ともお願いがあって参った次第でござる! 実は、拙者たちのクラブは最近、やる活動もなくて活気が薄れているのでござる! そこで、学園で人気があるという霊殿に協力を仰ぎたかったのでござるよ!」
米倉と名乗る男は言った。法被でよく見えないが、どうやら二年生のようである。
――ということは先輩か……。あんなんにはなりたくないなぁ~。
俺は心の中でそんなことを呟いた。目の前の現実を受け入れたくなかったのである。
「う~ん、やっぱり私は遠慮しとくよ!」
「ええッ!? な、何故でござる?」
納得がいかない様子の米倉先輩。後ろの隊員達も同様の顔をしている。
「だって、やっぱ私は家でゴロゴロしたいし~……それに、人の注目を浴びるのもそこまで好きじゃないんだよね~。……助けたいっていう気持ちはあるんだけど……ごめんね?」
「くっ! そう、でござるか……。分かったでござる。しか~し、拙者達は諦めないでござるよ? 必ず、必ずや霊殿を振り向かせて見せるでござる!!」
「分かりましたから、いい加減お引き取り願えませんか? それと、そこ塞がれると教室から出られないんですけど」
少し遠慮気味に言いながらも俺は半ば迷惑そうにアイドル研究部とやらの部員達に言った。すると、先輩達は俺に向かってこう言った。
「さっきから聞いていれば、貴殿は何者なのでござる? 霊殿とやけに親しそうに接しているでござるが」
「俺はこいつらの従兄妹だ!!」
「な、なんと! い、従兄妹でござるか!? なんと、羨ま――いやいや、そんな……う、くっ! まさか、一緒に暮らしているとまで言うつもりはないでござろうな?」
「そ、それは……」
思わず口ごもる俺に先輩達は狼狽する。
「なっ、その反応はもしや……!?」
「んなわけねぇだろ!!」
俺は相手が先輩だと言う事も忘れ、思わずムキになってしまい大声をあげた。
「そ、そうでござるな……もしそうでなかったら、拙者達は貴殿を殺していたところでござる。無益な殺生はしない主義でござるからして……ところで、貴殿の名前を聞いてなかったでござるな」
「ああ、神童……神童響史です」
「神童氏……それでは我々……しゃ――おっと、アイドル研究部一同、必ずや霊殿を協力させてみせるでござるから、そのつもりで」
「は、はぁ……」
勘弁してくれと言った顔で俺は先輩達を見たが、向こうはそんなことお構いなしに話を続け、さっさと教室から出て行った。
諦めて帰ってくれたのはいいが、必ず霊を協力させるというのはどういう意味だろうか? それだけはないようにと願いたいが。
――ん? そういえば、アイドル研究部なんて部活……あったっけ?
ふと疑問に思うその部活名。しかし、ずっと考え込むのもアホらしいので、しばらく考えて分からなかった俺は、考えるのを諦め教室から出た。
昇降口で靴を履き替え外へ出る。歩いていると、掲示板にたくさんの部活の紹介広告が貼られていた。いろんな部活があるよな、うちの学校……だなんて思っていると――。
「いてッ! おい、急に止まるなよ! ビックリするだろ?」
広告を見ていて余所見していた俺の前を歩いていた霄が急に足を止めたので、そのことに気付かなかった俺は、そのまま霄にぶつかってしまった。すると、掲示板のある広告を見て目を丸くした霄が、それを指差して俺に質問してきた。
「なぁ、響史。これは一体何の部活なのだ?」
「ん? どれが?」
霄に指さされた広告に書かれている内容を見て俺は驚愕した。そこに書かれていたのは、“剣道部”。
俺はあることを思い出し、思わず黙り込んでしまった。それに気づいた霄は、俺の顔を見て訊いた。
「どうかしたのか?」
「いや、ちょっとな……それより剣道部が何だって?」
「どういう活動をする部活なのだ?」
「ああ、そうだな。竹刀を振るって相手と闘うスポーツみたいなもんだ!」
「スポーツか。剣道……竹刀というのは?」
「まぁ、木刀みたいなもん……かな?」
「なるほど」
納得したのか、霄は肘に手を添えもう片方の手を自分のあごに添えて考え込んだ。そして何か閃いたのか、俺の手を強引に掴みどこかへ強引に連れて行った。
「お、おい! どこに連れてくんだ!?」
せめて目的地だけでもと俺は質問する。すると、鼻息を荒くしながらズンズンと歩を進めながら霄がその言葉を口にする。
「剣道部の道場だ!」
「なっ、どうして俺まで……ッ!?」
「お前も妖刀『夜月刀』を使いこなす剣士。ならば、剣の道を究めるのも一つの手であろう?」
「そ、そんな理不尽な理由知るかぁあああああああああッ!!!」
俺が悪魔の力に逆らえるわけもなく、結局そのまま強制的に連れて行かれてしまった。
ようやく俺が解放されたのは、剣道場の入口の前だった。
「……ま、まさか、本当に来ることになるとは」
「よしっ、では――」
「待て待て! 本気なのか?」
気合十分の霄が戸を開けようとしているので、それをどうにか制止させながら最後の意思確認をする。
「当たり前だ! 生半可な覚悟で行ってコテンパンにやられるのは癪だからな」
「そりゃそうだが」
俺は不安な気持ちでいっぱいだった。今すぐここから逃げ出したい、そんな気分だった。しかし、そんな俺を無視し、霄は剣道場の入口の扉を開けた。
「頼もう!」
霄の言葉に、剣道場の中にいた剣道部の人達が一斉にこちらを見る。そして、何事かとこちらに歩み寄ってくる剣道部員のメンツを見てある人物がいないことを確認し、俺はホッと安堵して嘆息した。
だが、それはほんの一瞬のこと。すぐに聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「すみませ~ん、通してくださ~い!!」
その声に周りの部員がガラッと道を開ける。そして、その隙間を通って剣道部員よりも少し身長の低い赤髪の少女が姿を現した。
見覚えのある顔に赤髪の一部をポニーテールにした、明るいという一言がまさに相応しいそんな元気な女の子。そして、極めつけのその紅茶の様な瞳の色。
女子生徒は俺達二人――というよりも一方的に俺だけを見て瞬時に理解し、指をさして大声を上げた。
「ああーっ!? し、神童君? 神童君じゃないですか!」
「響史、知り合いなのか?」
「あ……ああ、『火元 鈴』つって、前……ちょっとな」
「ちょっとなんてもんじゃないですよ! 中等部の頃からの付き合いじゃないですかー」
「中等部?」
首を傾げて不思議な表情を浮かべている霄を見て、鈴は言った。
「はい! 神童君は中等部の頃、あたしと一緒に剣道をやっていたんですよ?」
「剣道部に所属していたのか……」
「今はやってねぇけどな」
「どうしてやめたんですか、神童君?」
「退部する時に言っただろ? 家のやることとかがいっぱいあったし、親が出稼ぎでいなくなって自分でやらないといけなくなったからだよ!」
俺は目を逸らすようにして鈴に言った。
「そうですか……」
赤い髪の毛を後ろで一つ結びにしている鈴は、横髪をいじりながら少し悲し気に言った。そして鈴は、ふとあることを思い出して俺達に訊いて来た。
「ところで、今日は何しに来たんですか?」
「ああ、こいつが剣道部の体験に行きたいって聞かないもんだからさ……」
俺の言葉に、鈴はさらに少し残念そうに小声で言った。
「……なんだ、神童君じゃないんですか」
「ん? 何か言ったか?」
「何でもありませんっ! ということは、神童君の隣にいる――」
「霄だ! 水連寺霄!!」
「水連寺さん……。ん? 水連寺? どこかで聞き覚えのあるような、ないような……まぁ、いっか!」
鈴は何か頭の中に引っかかるものがあったのかふと他所を向くが、あまり深く考えるのも時間の無駄だとそのままその違和感を無視することにした。
「じゃあ、手始めに小手調べと行きましょうか……神童君?」
「えっ、何で俺? 俺は別に体験入部に来たわけじゃねぇし……それに、さっきも言っただろ? 俺は家事で忙しいんだよ」
「何を言ってるんだ響史。家事は全て霖がやってくれているではないか」
「あいつ一人にさせたら今度はあいつがダウンしちまうだろ?」
「むっ、それもそうだな」
なるほどと言った風に、霄が言った。
「でも、久しぶりに戦ってみたくなったんですからいいじゃないですか! ねっねっ?」
鈴が無理に俺を誘ってくるため少し困惑し、あまりにも執拗な誘いにだんだん面倒になってきた俺は、思わずその誘いに応えてしまった。
「わ、分かった」
「やったぁ~!!」
嬉しそうに飛び跳ねる鈴。その幼気な自然の行動が昔から変わっていないのを見て、俺は少し笑みを浮かべてしまった。
「じゃあ、ちょっと道具の準備をしてくるので待っててください」
そう言って、鈴は準備室へ向かった。
「響史、本当にやるのか?」
「仕方ねぇだろ? やるっつったら絶対にやるやつだからなあいつは……」
昔の事を思い出しながら、俺はふと呟いた。
そして準備が整い、鈴が戻ってきた。
俺は、なぜか知らないが制服のままでやることになった。
周りの観客――というより部員は、俺達の四方を囲むようにして座った。
靴と靴下を脱ぎ、裸足で畳の上に乗った俺は、鈴の向かい側になる位置に立ち正座で座った。すると、鈴から何かが投げられた。それは、俺が昔使っていた竹刀だった。
「まだとってあったのか……」
「いつか必ず、神童君が戻ってくると思ってましたから」
鈴は正座で座り、隣に竹刀を置きながら言った。
「そうか。じゃあ、ありがたく使わせてもらうぜ!」
俺は竹刀を手に取った。久しぶりに握ったが、一年前の感じが再び手から全身に伝わってくる……そんな感じがした。
「ふぅ……さてと、それでルールはどうするんだ?」
どんなルールにするのかを訊くと、鈴はすぐさまこう答えた。
「そうですね。ならば、あたしに傷を負わせることが出来たら勝ち、ということでどうですか?」
「傷を負わせるって、どの程度?」
少し不安な気持ちになりながら俺は訊いた。しかし、鈴は間髪開けず答えた。
「もちろん、深手を負わせるまで」
「そ、そんなこと出来るわけねぇだろ!?」
俺は眼を見開き、思わずその場に立ち上がってしまう。
「ふっ、相変わらず甘いですね神童君。でも安心してください、そう簡単に攻撃をくらったりするほど、あたしも落ちぶれてはいません!」
鈴はエッヘンと腰に手を当て偉そうにした。
「どうしてもやるんだな……?」
「はいっ!」
あくまでも真剣の様子の鈴。その覚悟と瞳に、俺は圧倒されて断ることが出来ず、仕方なく受け入れることにした。
というわけで今回はバトルです。体験入部で剣道部へとやってきた響史と霄。そんな二人は生徒会の一人である火元鈴と戦うことに。そして、ここで鈴が響史と中等部の時に同じ部活をしていたという事実が明らかに。そう、昔は響史も剣道をたしなんでいたんです。
これで二話辺りで霄と戦った時に家に木刀があったのかもなんとなく理解してもらえたと思います。そういう理由なんです。そして辞めた理由が家の事情という。
生徒会メンバーも今回出させていただきました。主に声だけですが、のちのち重要な人物も声だけ出してます。そして、教室に現れたアイドル研究部の面々。彼らものちのち絡んできます。というわけで後半をどうぞ。




