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魔界の少女  作者: YossiDragon
第二章:六月~七月 護衛役『現れし青髪の脅威(後)』編
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第二十九話「俺の誕生日(後編)」・3

「随分遅かったじゃねぇか!!」


 俺は両膝に手をついて息を整えている霙にそう言った。すると、霙は胸を押さえて呼吸を整えてつつこう言った。


「だって、何買えばいいか全然分かんなくて……」


「そんなに迷わなくてもいいんだけどね……」


 麗魅が腕組みをして横目遣いで言う。

 これでメンバー全員が揃った。準備が整い、後はテーブルなどの移動のみ。ケーキ前の前菜もとい……料理も作り終えているため運べばいいだけ。

俺達は全員フル稼働で最後の仕上げをした。そして、時刻は七時。時は満ちた。いよいよ、今年初めて体感する大勢での誕生日パーティ。こんな経験は一生に一度かもしれない。だとすれば、この一時を大切にせねば。俺はそう心に誓った。

 長テーブルに料理が並べられ、長テーブルの茶色の木が見えなくなるほど大量の料理が覆い被さっている。皆がクラッカーを片手に持ち、もう片方の手で紐を持つ。そして、せーのという掛け声に合わせて一斉にクラッカーの紐をグイッと引っ張った。

 パンッ!!というクラッカーがリビングに響き渡る音。それは、一人で鳴らす時とは迫力も音量も断然違っていた。


「なんか、いいなぁ~」


 しみじみとした気分になった俺は、思わず涙ぐんでしまった。


「ちょっと響史、まだパーティは始まったばっかりなんだからここで泣いたらダメだよ!」


 瑠璃に言われ、それもそうだと俺はゴシゴシと腕で顔をこすって気分を入れ替えた。


「じゃあ、まずは料理から食うか!」


「そうですね!」


「「いっただきま~す!!」」


 俺の合図で皆が手を合わせ、感謝の気持ちを込めていただきますを言う。そして、その言葉を言うや否や、皆はガツガツと料理を貪る様に喰らい尽くした。

 ローストチキンやハンバーグ、ステーキなど様々な料理が並んでいて、まるで豪華な豪邸の食事の様に思えた。作った本人でも少し張り切りすぎたかなと思う程だ。だが、大勢での誕生日パーティ。どうせやるなら派手にやった方がやった感があると言うものだ。そう思うと、俺は逆にやってやったぞという気持ちになった。と言っても、料理の殆どは霖が一人で作ったものだが。全く持って霖の料理の腕前は大したものだ。料理店でも開けそうなくらい本当に美味しいのだ。そんな霖が作った料理は、あっという間に皆にガッツかれてなくなっていった。




 誕生日パーティが始まってから一時間後……。

 時刻は八時。俺の誕生日も後四時間ほどしかない。料理を食べ終わって皆は満腹状態のお腹をさすった。


「しくじったな……。料理あまりにも作りすぎたんじゃねぇか? これじゃ、うぷっ! ケーキ入らない……かも」


「そ、そんなぁ。せっかく作ったのにぃ~」


 霖が急に悲しむ表情を浮かべた。その目はすごくウルウルしている。そんな表情をされては食わないわけにはいかない。俺は気まずくなり、霖が泣き出さないそうに宥めながら口を開く。


「わ、分かった。食うって、食うから……」


「よかった~! だって、私はまだまだ入るからね~!」


――えっ!?



 俺は思わず我が耳を疑った。何かの聞き間違えだろうか……いや、聞き間違えじゃない。確かに今、霖はまだ入ると言った。そんなバカな、あんなに大量の料理を食ったのにあんなに甘ったるいケーキをまだ食べられるというのか。いくら成長期の体だからと言って、一体霖の小柄な体系のどこにあの大きなケーキが収まりきるのだろうか。俺は悪魔は満腹感をも凌駕するのかと驚愕した。


「というわけで、本番いっくよ~!」


「「えええええぇぇえええぇええっ!!?」」


 霖以外の皆が声を揃えて言った。皆満腹で体の抵抗は出来ないものの、言葉の抵抗は苦しくても何とか言うことが出来る。しかし、やはり言葉だけで逆らうことなど出来るはずもなく、俺達はこれから満腹状態でケーキを食う事になるのだった……。




 満腹状態の俺達の目の前に、ケーキ係である俺と霖と霄が作ったイチゴのケーキがどどんと置かれる。そして、霖が笑顔で言った。


「じゃあ、雫お兄ちゃんと響史お兄ちゃんの誕生日を祝って……歌お~!!」


「ちょっと待った!」


 雫が手を前に突き出しマッタをかける。


「えっ、何?」


 霖は少し拍子抜けな顔をしていた。


「ロウソク、刺さってないだろう」


「あっ、そうだった……ロウソクは、えっと……」


「それなら私、持ってるわよ?」


 露さんがまた何かを企んでいるかのような顔を浮かべているのを見て、俺はその動きに少し警戒した。すると、懐から取り出したのは通常使われるロウソクではなく、真っ赤で血のような色をした太いロウソクだった。


「これよ!」


「えっ、ロウソクってこんなに太かったっけ……?」


「い、いや……これ明らかに――」


 俺は途中で口篭った。最後まで言っていいものかどうか躊躇ったからだ。しかし、露さんはそんなことお構いなしに何も知らない無垢な少女の目の前で言った。


「苛めるのが好きな人が苛められるのが好きな人に与える行為に使う代物よ!」


「そ、それって……」


 瑠璃が顔を真っ赤にして頬に手を当てる。麗魅もその隣で恥ずかしそうにしていた。しかも俺と目が合うと、さっと視線を逸らした。


「ま、とにかくロウソクなら何でもいいか……」


「いや、よくないだろ!! ちょっと待ってろ……今、ロウソク持ってくっから」


 雫がキラキラ期待している感満載のその双眸で見てくる露さんの手からロウソクを取ろうとしているのを慌てて止めた俺は、その場に立ちあがって台所に向かい、微かな記憶を頼りにロウソクのしまわれている場所を突き止めると、そこからロウソクの入った袋を持ってリビングに戻った。


「ほら、あったぞ」


「おお、これがロウソク……随分と細いんだな」


「そのロウソクが異常にぶっといだけだよ!」


「そうなのか」


「そうなんだよ! とにかく刺すからな」


「刺すってどこにっ!?」


 さらにキラキラオーラを放つ露さんに、俺は脳天チョップを炸裂させる。


「あうっ! あ~ん、ひっど~い響史くん。私はただどこに刺すのかを訊いただけなのに……」


「だからですよ! まったく……」


 俺は半眼で露さんに文句をある程度言いながら、袋から取り出したロウソクを順番に刺していく。そして、ロウソクを刺し終えたところで手をケーキから遠ざけると、雫が急に騒ぎ出した。


「おい、何やってんだ! ロウソクの本数が足らないじゃないか!」


「なっ、そんなわけねぇだろ……だって、俺は今年で十六なんだから本数合ってるだろ?」


 俺はケーキに刺さっているロウソクの本数を一本一本丁寧に数えながら雫に言った。しかし、向こうはこう言い返す。


「俺は今年で十八だぞ?」


「えっ……」


「だから、俺は今年で十八だ」


「そんなこと言ったってケーキは一つしかねぇし……」


 頭をかいて参ったなぁという顔をする俺に、雫は腕組をして考えると指をパチンと鳴らして俺から残ったロウソクを強引に奪い取ると、


「じゃ、ここは年長者に譲って十八本っと」


 と、二本ロウソクを追加した。


「おい! 何勝手に本数増やしてんだよ! んなことしたら無駄に俺が年食うじゃねぇか!!」


 雫が勝手にロウソクの本数を増やすのを見て俺は慌てて手を押さえた。すると、霊が口の周りに魚の脂をベットリつけて言った。


「大丈夫だよ! 響史は十分年食ってるから!」


 その満面の笑みで言われた言葉に俺は物凄いショックを受けた。


「お、俺……そんなに老けてるように見えるのか」


「あっ、ち……違うよ! べ、別に響史の髪の毛の色が銀髪じゃなくて白髪に見えるってワケじゃ――」


「うぐッ!!」


 俺はさらに心に深い傷を負った。霊は本当に能天気な顔をして恐ろしい言葉をホイホイと突き刺してくるから恐ろしい。


「さてと、じゃあ……まぁ十八本もう刺しちまったことだし、このまま始めようぜ?」


「はぁ、もういいよ。好きにやってくれ……」


「本数なんて関係ないよ! 要は気持ちの問題なんだから!」


 瑠璃が珍しく良い事を言ったことに少し驚き、さらにその言葉に俺は少し感動してしまった。そして、ケーキに刺した十八本のロウソクに火を灯され準備が完了した。

 電気を誕生日.Verの薄暗い淡い色を出す明かりに変え、三角帽子を各々被 る。

 俺と雫の二人がケーキの真正面に正座で座り、その向かい側の席に女子達が柔かに微笑みながらクラッカーを構える。それからカウントダウンを始め、零の数字を声に出したと同時にクラッカーの紐をグイッと引っ張った。

 パンパンパン…!!

 本日鳴り響く二度目のクラッカー音。

 そして、


『お誕生日おめでとう!!』


 と、皆からの祝いの言葉が捧げられた。俺達は二人して顔を見合わせ、喜んで一斉にロウソクの火を消した。全部消えたロウソクから何とも言えない臭いを出す煙がモワモワと舞い上がる。また、それと同時にパチパチと手を叩く音が聞こえてきた。


「これで響史も晴れて十六歳だね~!」


「ああ、そうだな」


「さてさて、じゃあここからはお待ちかねの誕生日プレゼントタ~イム!」


 パーティを取り仕切るかのように瑠璃が声を張り上げて言う。すると、それを合図に誕生日プレゼント係に任命されていた霙が少し俯き気味にこちらに歩み寄ってきた。その変な歩き方に俺は疑問を抱き、どうかしたのかと訊いた。


「ううん……何でもない。それよりも、いいか? よ~く耳を澄まして聞いといてくれ!」


「わ、分かった……」


 霙の真剣な顔で言う姿に思わず俺まで緊張してしまう。


「ふぅ~……」


――何故に深呼吸を!?



 ただ誕生日プレゼントを渡すだけなのに、一体どうして深呼吸する必要があるのかと俺は疑問を抱いた。しかし、次の瞬間俺は思わずめったに見せない霙の姿に思わずドキリとしてしまうのだった。


「そ、その……今日は、その……誕生日……おめでとう、響史……兄貴。た、誕生日プレゼントなんだけど、何も思いつかなかったから代わりと言っちゃなんだけど、私の……を、あ・げ・る!」


挿絵(By みてみん)


『ぐはっ!!!』


 俺達二人はその凄まじい衝撃の言葉に思わず鼻血と同時に吐血してしまった。それほどまでに、霙のその女の子っぽい姿が印象的だったのだ。おまけに珍しく髪の毛をツインテールにしていて、どことなく霰に似た雰囲気を感じた。いつもの男勝りな雰囲気が消えて女の子っぽい雰囲気が表に出ると、こんなにも霰に似た感じになるのかと、この時俺は思った。


「うっ……い、今のはズルいだろ。つ~か、そんな技を一体どこで習得してきやがった……ッ!」


「さ、さすがは俺の妹……まさかそんな隠し技を持っていたとは。水連寺雫、一生の不覚ッ!!」


 雫は悔しそうに握り拳を作り唇を噛み締めた。


「じょ、冗談だって! これが誕生日プレゼントなわけないだろ!! ちゃんとあるから」


 そう言って霙は俺達に手の平を差し出すように言うので言われるがままにそうすると、その手の平の上に手を置き何かを置いた。これが、誕生日プレゼントなんだろうか。しかし、何だろう。手に乗るサイズ……キーホルダーか何かか? にしても重さを全く感じないとはこれ如何に。そして、霙が手をどけたところで俺達二人は同時に自分の掌を見つめた。だが、そこには何もない。


「ん? 何もないぞ?」


「お前もか。霙、これはどういうことだ?」


「見えないのか? これはアタシの武器をモデルにした超ミニマムサイズのハンマーの形をした水晶だ!」


「そんな物わざわざ作ったのか? ていうか全然見えないし、すぐに失くしそうだな……」


「うっ、うるさいなぁ~。何を用意すればいいのか分からなかったんだよ!」


 霙は顔を赤くして俺に文句を言った。


「何で俺が怒られないといけないんだよ!!」


「だ、だったら……最後の手段だ!」


「さ、最後の手段?」


 俺が疑問に思い霙に質問しようとした瞬間、突然俺にぎゅうっと抱きついてきた。


「な、なにを……ッ!?」


「お、男は女の人にハグされると嬉しいんだろ?」


「そ、そそそれは……!」


 顔中真っ赤にする俺。呂律が回らず頭の中もパニック状態に陥っている。それにしても、こっちに来たばかりの霙がどうしてこんなすごいテクニック?を持っているのかが分からない。誰かに教えてもらったのだろうか? 俺は謎だらけだった。だが、今はそれよりもこの現状だ。さっきから胸が俺の体に当たってて……心臓の鼓動がすごく早くなっているのを感じる。しかし、密着しているせいだろうか。霙の鼓動も微かにだが感じ取ることが出来る。その鼓動の速さから向こうもどうやら恥ずかしいようだ。まぁ、無理もないだろう。今まであまり女の子っぽいことをした経験の少なそうな霙にとっていきなり異性にハグはあまりにも過酷だからだ。


「大丈夫か?」


「あ……ああ、アタシにはこれくらいしか出来ないからな」


「も、もういいぞ? 十分誕生日プレゼントはもらったし。そもそも、この誕生日パーティを出来た時点で既に誕生日プレゼントをもらったみたいなもんだしな」


 俺はそう言って霙の肩を優しく掴んで引き離した。

 霙はすっかり息が上がって呼吸を乱している。小さい頃の発表会本番に一人で出演する時みたいだ。しかし、その表情は少し妖艶でいつもの強気な表情はどこへやら、眉を八の字に垂れさせて潤んだ瞳でこちらを見ていた。




 それからも瑠璃や麗魅、護衛役の女の子達から色んな誕生日プレゼント――誕プレをもらった。こんなにもたくさんの誕プレをもらったのは人生の中でこれが初めてだろう。すると、その状況を見て雫が鼻で笑って口を開く。


「羨ましい男だな、お前も」


「な、何がだ?」


 雫にいきなり背中をバシッと叩かれ、その叩かれた場所をさすりながら訊いた。


「こんなに可愛い美少女達に囲まれて一つ屋根の下で暮らせるんだからな」


「でも、相手は悪魔だぞ?」


「悪魔でも女は女だ……そうだろ? 現にさっきだって霙に抱き着かれて正直のところ嬉しかっただろ?」


「ま、まぁ……嬉しくないと言えば嘘になるな」


「そ、そうなのか?」


 雫との会話をしている最中にハグの感想を霙に聞かれてしまい、俺は少し調子が狂う様に


「あ、ああ…まぁな」


 と、霙から目を逸らし頬をポリポリとかいた。


「もうそろそろ誕生日パーティもお開きだね」


「そうだな。皆、今日はその……ありがとうな。おかげで一生で一番の宝物になったよ。これからもよろしくな!」


「改めてそんなこと言われたらこっちまで照れちゃうよ」


 後ろ手で組んで上半身を少し前に傾けて瑠璃がその可愛い満面の笑みを見せながら言う。

 そんなこんなで俺の誕生日パーティは最終段階……霖がケーキを切り分け皆の目の前に切り分けたケーキを置く。皆は膨れたお腹をさすりながらゆっくりそのケーキを口に運んだ。


――う、うまい! ……だが、何故だ? 素直に美味しいと口に出せない。美味しいのに苦しいなんて、こんなに辛い事はあるだろうか。



 俺はそんなことを心の中で呟きながらケーキを口いっぱいに頬張りケーキの味を噛み締めた。その時食べたケーキは最初は甘かったが、後から何故だかしょっぱく感じた。しかし、そのしょっぱさは今までのしょっぱさとは違ったしょっぱさだった。

 こうして俺は、誕生日の一夜を悪魔の少女達と共に楽しく過ごしたのだった……。

というわけで、ようやく始まった誕生日パーティ。霖と響史が作った料理で空腹を満たす皆。そして、プレゼントをもらうシーン。どこかで聞いたことのあるフレーズがまさかの霙の口から登場。全くあの不良は何を教えてんですかね。また、ロウソクのシーン。露さんはホントにただの悪魔じゃありませんね。早くしないとホントに大変な事になりそうで怖いです。

とまぁ、何はともあれお誕生日おめでとう。

次回は体験入部の話をやります。響史と関わりのある人物と久しぶりの守護者の登場です。

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