第四話「洗髪」
注!)今回の話は、おそらく髪を洗うだけで終わります(笑)
皆さんこんばんは。俺の名前は神童響史。この物語の主人公です……。
時刻は、真夜中の午前四時半をまわったところ。
「ちょっと待っててね? 服脱ぐから……」
え~今までの話を伝えると、実はいつも平凡な暮らしをしていた俺の家に、何故かよく分からないが、魔界から悪魔の少女がやってきたのだ。えと、ちなみにここにいるのがその少女で、名前を「ルリ」という。
「あれ? ボタンが取れない! ねぇ、響史とって!!」
「えっ!? 俺見えないし……」
「ここだよ!」
ルリが俺の手首を掴んで、ボタンの位置を教えてくれる。
「ああ、これか?」
「うん……」
「ほら、取れたぞ?」
「ありがとう♪」
この通り、自分が大魔王の娘だという自覚のないルリだが、その彼女が何故ここにいるのかというと、家出をしてきたらしいのだ。そのため俺の家の二階には、今、ルリの後を追ってきた護衛役の霄がいる。
ちなみに、その霄もまた、魔界からやってきた人間――悪魔だ。
――見た目はすごく人間っぽいのだが。
「準備出来たよ?」
「ああ。じゃあとりあえず、俺を浴場に連れて行ってくれ!」
「うん!」
ルリが俺の手を引っ張った途端、俺の足が何かに引っかかってコケそうになった。
「うわっ!」
「えっ? ……きゃあ!」
俺は何が起こったのかよく分からなかった。
ぷにっ……。
――えっ、今何か触った?
一体俺は何を触ったのか、俺は今どこにいるのか、全く分からない状態だった。これなんだろう。
そう思って指を少し動かす。
ふにゅん。
「んひゃっ!?」
――ん? 気のせいだろうか、今どっかで聞き覚えのある女の子の小さな悲鳴が聞こえた気がしたが……。うん、とりあえず目隠しを外そう。
「ダメ、取らないで!!」
ルリの必死の言葉に、俺は思わず手を止めてしまった。
「る、ルリ? 今、何処にいるんだ?」
「す、すぐ近くにいるけど……とりあえず、立ってくれる?」
「えっ、あ……ああ」
俺は言われるがままその場に立ち上がった。裸足だったため、足の裏の感覚が直に伝わってくる。
――この感触からして、タイルだろう。ということは、ここは浴場か。
「んで、もう大丈夫なのか?」
「う、うん……。それで、これからどうすればいいの?」
「え、ああ……。じゃあ、とりあえず髪洗うから、風呂の蓋開けろ」
「う、うん」
視界は遮られているため聴覚で確認するしかないのだが、一応ルリは俺の言うとおり風呂の蓋を開けているようだった。
「きゃ!」
「どうした!?」
俺は何事かと声をあげた。
「この水、何だか凄く熱いよ?」
「……当たり前だろ? 風呂なんだから」
「どうして水が熱いの?」
ちんぷんかんぷんのまま、俺は彼女に質問する。
「魔界には風呂はないのか?」
「うん。熱い水なんて聞いたことないよ? あっ、でも……おじさんが使ってる!」
「おじさん?」
「うん、私の伯父のエンマおじさん!」
「エンマおじさん!?」
俺は一瞬、よく話でも聞いたりする閻魔大王のことかと思った。
「それって誰なんだ?」
「本当は閻魔大王っていうんだけど、凄く面白いんだ♪ いつも風呂に入る時は、地獄のマグマの熱で暖められた1000℃の温度の湯に入るんだって!!」
「――ッ!? 1000℃!!?」
俺は想像しただけでも逆に寒気がした。
「そんな風呂、人間だったら死ぬだろ?」
「ううん、私でもあの温度の水に入ったら死んじゃうよ!!」
俺の言葉に、ルリがとんでもないといわんばかりに声をあげる。
それから気を取り直して、俺は髪の毛を洗う準備をした。
「……じゃあ、髪洗うから眼つぶってろよ?」
「うん」
見えないからルリがちゃんと眼をつぶっているのかは分からないが、俺はルリのことを信じて頭に風呂のお湯を優しくかけてあげた。
「うわぁ~、この水ちょーどいい温度だね?」
「あ、ああ。じゃあ、これからシャンプーで地肌洗うからな」
俺は手探りでシャンプーを探しなんとか位置を確認すると、手にシャンプー液をかけ、それを擦り合わせて泡立てた。
――ちなみにシャンプーとリンス、ともにメ○ットを使っている。理由は泡立ちがいいから。
とまぁ、それは置いといて……。それをルリの蜜柑色の髪の毛に乗せると、指を猫の様にして、爪を立てずに指先の腹で地肌を擦るようにして髪を洗ってあげた。
ルリはくすぐったいのか、少しクスクスと笑っていた。
俺は、今までで姉に髪の毛を洗ってもらったことはあるが、逆の立場はなかったため、最初女の子の髪の毛をどうやって洗えばいいのか分からなかった。
しかし、実際にやってみると男とあまり変わらず、ただ髪の毛が長いか短いかの違いだけだった。
普段はツインテールにしているルリの髪の毛は、結ばないと肩甲骨辺りまであるようだ。
そして、髪の毛全体を洗い終わると、一旦お湯をかけてシャンプーの泡を全て落とし、次にリンスを手に取った。
リンスを手に広げ、先程同様手の平全体に広げると、それを髪の毛に浸透させるようにして洗い、さ~っと髪の毛についた泡を洗い流した。
洗髪を始めてから数分が経過し、ようやく俺はルリの髪の毛を洗い終えた……。
「よ~し、終わったぞ!」
俺は目隠しをしたまま、腕で額の汗を拭う。
「ありがとう響史! すっごくスッキリしたよ。髪の毛も前より艶めいてるし、お礼にこれあげる♪」
嬉しそうな声をあげるルリから、俺は謎の物体を貰った。
「何だ、コレ?」
まだ目隠しをしている状態のため、手探りでそれに触れ、訝し気にルリに訊ねる。
「それは私の腕輪。記念にあげる♪ 絶対に失くさないでね?」
「あ、ああ……。ありがとう」
貰ったのだから、その時点で失くそうが失くすまいが俺の勝手ではなかろうかとも思ったものの、一応軽く返事をしてお礼を口にする。
「うん! じゃあ私、体洗い終わったら上がるから、さっきの部屋で待ってて!」
ルリに言われ、俺は再度「ああ……」と返事をし、腕輪を手に握り締めて二階へ上がった……。
というわけで、なんとか髪の毛を洗い終えた響史。お礼としてルリに腕輪を貰うわけですが、これが後々役に立つことに……。
次回はのんびりと話を進めていきたいと思います。