第二十九話「俺の誕生日(後編)」・1
「まったく、ここの店員は役に立つ奴が一人もいないのか? 使えない人間だな……」
青髪ポニーテールの少女――水連寺霄はぶつぶつ文句を言いながらどこかにマシな店員はいないか目で探していた。
と、その時、少し年配の男性が少し偉そうにしながら他の店員に指図しているのを見つけた。
「うむ……あいつならば、どのイチゴを買えばいいのかも答えてくれるだろう」
そう決心した霄は、歩幅を大きくして少し足早にその男の元に近づいた。
「おいお前!」
「はい、何でしょう?」
「答えろ!」
「ひぃッ!!?」
質問されているのに質問の内容を言わずに答えを要求し、さらに妖刀『斬空刀』の剣先を男に向けて脅す霄。男が驚くのも無理はない。
男性は真っ直ぐ腕を上に上げ顔を真っ青にして声を震わせもう一度言った。
「お、お客様……落ち着いてください。何のご用でしょうか? 何か店内で問題でも?」
「少し着いて来てもらおうか」
少女のその言葉に男は心の中で思った。
――私は一体何をしたのだろうか……身に覚えがない。ついてこい? まさか、ヤクザと関係が!? そういえば先日、通りですれ違ったヤクザっぽい男にぶつかったんだよな……まさか、それのところが私の情報を手に入れて殺しに来たとか? いやいやそんな、少しぶつかっただけで殺されるなんてないだろう!! しかし分からない。だが、それくらいしか身に覚えが……。
そんなことを心の中で唸りながら考えていると少女が突然立ち止まった。
「どうかされましたか?」
「これだ」
指さす方を見ると、そこにはズラ~ッと並べられたイチゴがたくさんあった。
「イチゴがどうかされましたか?」
「見て分からんか? このイチゴの中からどのイチゴが一番良いのか選べと言っているのだ!」
「何だそんなことかぁ~」
「ん? どうかしたか?」
「いえいえ……」
店員の反応に少々違和感を感じた霄が怪しい者を見る様な眼差しで店員を凝視する。それに対し、店員は両手と首を同時に振りながら相手が腕組みをしてこちらの様子を伺っている事を再度確認した。
「そ、そう……ですね。やはりこのイチゴなんかいいんじゃないでしょうか?」
「ほう、このイチゴは何がいいのだ?」
その質問に店長は、
「やはりなんと言っても味ですかねぇ……まぁ値段は少々張りますが」
と手を重ねてごまをすりながら悪徳会社の社員の様な仕草を取り相手の反応を見た。
「う~む、ならば仕方がない……これで足りるか?」
少女の所有している不気味な雰囲気を醸し出す剣を見ながら、店長は掌に乗っている所持金を見た。
「え~と、あぁ……ちょっと足りないですねぇ」
柔和な笑みを浮かべて店長がそう答える。すると、霄は嘆息して言った。
「そうか、ならば仕方がない……」
「ではおやめに――」
「安くしろ!」
「ええええええ!? い、いや……そのようなことは、私には」
「店長ならばそのようなことも可能だろ?」
そう言って少女は剣先を店長に突き付けた。
「うっ、くっ……わ、分かりました」
店長は堕ちた。完全に、悪魔に負けたのだ。まぁ剣を突き付けられれば無理もない。むしろ、ここまで耐えられるのもすごいものだ。
「ではレジへどうぞ」
「案内しろ!」
再び突きつけられる剣先。恐らく、この店長は今日だけで相当寿命が縮んでいるに違いない。
「……分かりました、こちらです」
店長は内心ブツブツ文句を言いながらも、逆らえばあの剣で何をされるか分かったものではないため仕方なく少女を案内した。
「ここがレジです」
「うむ」
「いらっしゃいませ~、ポイントカードはお持ちですか?」
明るく振舞う若いレジの女性店員。
「いや持っていない」
「新たにお作りしましょうか?」
ポイントカードをまず理解していない霄は疑問符を浮かべながらそう答え、その返答に女性が霄に作成するかどうか尋ねる。
「別に構わん。どうしても作らないといけないものではないのだろう?」
そう言って霄はキッとレジの女性店員を睨み付けた。
「ひっ! は、はいっ! べ、別に構いません! 申し訳ありません! で、では……え、えと……いちごが一パックですね? ……り、りょ……料金は三百二十円です」
「何!?」
「えっ、どうかなさいましたか?」
「高くはないか?」
「で、でも……値段はこちらで間違いございません」
女性店員は困っているような顔をしている。
「訳が分からん……店長は先程このイチゴを安くすると言っていたぞ?」
「えっ、そうなんですか店長?」
「あ、ああ。まぁ……な」
「分かりました……えと、では料金を変更して……二百九十円です」
「うむ。では三百円から頼む」
「は、はい……えっ、300円お預かりします……レシートはどうなさいますか?」
「では一応もらっておこう」
「十円のおつりです……あ、ありがとうございました」
女性店員は顔を真っ青にしてお辞儀をした。店長も随分と顔色が悪い。
霄はその二人を不思議な顔をしながら一瞥すると、目的を果たしたため、さっさとその場から姿を消した。
作り笑顔を作っていた二人ははぁ~と全身から脱力して地面に座り込んだ。
「た、助かった~」
「大丈夫ですか店長!?」
「ああ……君こそ大丈夫かね?」
「はい、私は大丈夫です。しかし、さっきの女の子誰だったんでしょう?」
「分からん……しかし、今後はああいうお客様には要注意だ!」
「はいっ!!」
そう言って店長と店員は自分の持ち場に戻って行った。
――☆★☆――
「ねぇ、お兄ちゃん……。これでいいの?」
「ん? おお、大丈夫だ! よく出来たな、霖」
俺は霖の頭を優しく撫でてあげた。
「えへへ……お兄ちゃんに褒められちゃった!」
嬉しそうに頬を赤らめる霖。これまた、この仕草がかわいいからたまったもんじゃない。
こんな姿、亮太郎に見せたら大変なことになりそうだな……。
『ぐへへ……霖ちゅわ~ん、次、この格好してもらえないかな~』
『そ、そんな……そんな格好できないよぉ~!!』
『そんな遠慮しないでさ~……ほらほら』
『い、……いやぁあああ』
「ダメだああああああああ!!!」
「ど、どうしたのお兄ちゃん?」
突然叫びだした俺を心配してか、霖が少々拍子抜けな顔をして訊く。
「い、いや……ちょっと」
――危ない危ない、もうやめよう。こんなことさすがにダメだろ……。
俺は自分の心にそう言い聞かせケーキ作りに集中した。
クリームも完成したところでとうとうケーキ作りも終盤戦。
「じゃあ、クリーム塗りたくるか……。どうだ霖、やってみるか?」
「えっ、いいの?」
嬉しそうに霖は笑顔で俺に訊いた。
「ああ、お前がよければ」
「うん、じゃあやる!!」
「じゃあ、これヘラな……」
そう言って俺はヘラを霖に手渡した。すると、受け取った霖はすぐさま作業に取り掛かった。しかも、それが俺の不安やらなんのその、霖は手際よくそれをこなしていく。
「うんしょ! これをこうやって……」
「へぇ~、なかなか手つきがいいなぁ。やったことあんのか?」
「ううん、初めて……だよ? でも、なんていうのかな……雰囲気的な?」
「そんなんで上手く出来るもんなのか?」
霖の言葉を聴いて俺は少し不思議に思った。一度もやったことのない初めてのことをこんなにも上手にやりこなしてしまう……。全く、悪魔とは末恐ろしい生き物だ。こんなこと、常人の俺達人間には恐らく不可能に近いだろう。
「簡単だよ。コツさえ掴めればこのくらい……」
「す、すごいな」
「えへへ……あっ、そうだ。これ出来たらどうするの?」
霖が俺の顔を覗き込みながらボウルに入った生クリームを見つめる。
「そうだな。とりあえずパン生地に盛り付けて、それからこの袋に入れてトッピングとかするかな」
収納棚から生クリームを入れるための袋を取り出す。その先には、銀色をしたギザギザ口の開いた物がついている。
「分かった! じゃあ、これから盛り付けていい?」
「そうだな、時間も結構押してるし」
そう言って俺は霖にその袋を手渡した。
――そういえば霙のやつ、誕生日プレゼントちゃんと用意できたかな。
と、ふと心に思った俺は物思いに耽った表情で外を見つめた。
――☆★☆――
その頃、当の本人はというと……。
「はぁ~ダメだ、どうしても思いつかない!! そもそも、どうしてアタシが誕生日プレゼント用意する係になってんだ? 兄貴はともかく、どうしてあいつまで……」
霙はブツブツと文句を言いながら通りの角を曲がった。
ゴツン!!
「いてッ!!」
「うわっ!!」
俯いて道路をボ~ッと眺めながら道を歩いていたため、思わず目の前にいた通行人にぶつかってしまった。
「ったく……、どうして俺はこう何度も何度も誰かとぶつかるかねェ~……メンドくせェ」
「なっ!! お前はあん時のっ!?」
「て、てめェは……いつぞやの怪力娘!!」
見知らぬ人にぶつかった霙が指さしている相手は、ほんの数日前に人間界にやって来た際に襲われかけた不良のリーダーだった。
「なんでこんなとこに……」
「ふんッ、俺がどこにいようと俺の勝手だろーが!!」
そっぽを向いて強気な口調で言う不良。すると、今度はその不良リーダーが霙に尋ねてきた。
「そっちこそ、何やってんだよ」
「それは……アタシの勝手だろ!!」
「そうかよ! まぁいい……てっきり、誕生日プレゼントを買って来いと頼まれたはいいが、何を買いに行けばいいのか分からず路頭に迷ってるのかと思ったんだがな」
「――っ!?」
霙は全く持って図星の事を言われて面食らった顔をしていた。まさにその通りだったのである。しかし、驚くのも無理はない。何の事情も知るはずがない不良のリーダーがこんなことを知ってるとは到底思いもしなかったからだ。
「まさか、当たったのか?」
「……うっ」
「ガッハッハッハッハ!! やはり当たったみてェだなァ。何だ、そんなことだったら俺様に任せとけ!! そういうのはな、簡単なんだよ。特にプレゼントする側が女でされる側が男ってのがベストだ!!」
「どういうことだ?」
霙は一応参考ばかりに聞いておくことにした。すると、不良は道端じゃなんだと、光影中央公園へと霙を連れて行った。そして、公園のベンチに腰かけた所で再び話を始めた。
「そうだな、まずは……だ。そのムスッとした表情を何とかしねェとなァ~」
「顔はプレゼントと関係ないだろ」
ぷいっと腕組をしてそっぽを向く霙に、青筋を立てた不良が声を荒げる。
「んなわけねェだろ! プレゼントする時にそんな顔してたら相手が気分悪くすッかもしれねェだろーが!!」
そう言って不良は霙の顔を鷲掴みにし、無理やり口元をグイッと上にあげた。
「ちょっ、やめろよ!!」
相手の大きな手を振り払い自分の顔を優しく撫でる霙。その表情は、さっきよりも引きつったというか強ばった感じが拭われマシな顔になっていた。
「まァ、とりあえず第一段階は終了ということで次……第二段階行くぜ!」
「ま、まだあるのか?」
「当たりめェだ! こんなんで終わりなワケねェだろーが!! いいか? まずは後ろを向け!」
「えっ?」
「んで……もう一回こっちを向け!」
「一体何がしたいんだよ!」
「それはこれを見ろ……」
手に握らされたのは一枚の紙だった。
「いいか? そこに書いてある通りに読むんだ、いいな?」
「わ、分かった……」
「よし! じゃあ始めるぞ! TAKE1!」
不良はベンチに座ったまま大股開きになり、映画の監督の様に膝に片手を突き言った。
「お、お誕生日おめでとう! 誕生日プレゼントあげるね……あ、アタシのか・ら……って言えるかああぁあああぁああ!!!」
「なんでだよ……結構良かったぜ? 初めてにしては上出来じャねェか!」
「うるせぇ、こんなのやってられるか!! 第一、何でアタシ自身がプレゼントされなきゃなんねぇんだ!」
「そりゃお前のし――」
ボカッ!!
「それ以上は何か危険なにおいがするからやめろっ!!」
「いッてェな……仕方ねェ。じゃあ次、第三段階だ」
「まだあるのか~?」
霙のダルそうな言い方に、腰に手を当てて答える不良リーダー。
「そういえばアタシ、あんたの名前聞いてなかったな。あんた、名前何て言うんだ?」
その質問に、不良は少し間が開いたがしばらくして答えた。
「俺の名前は『鷲田 泰三』だ!」
鷲田はそう答えた。
「ワシダか。それで、次のレッスンは何なんだ?」
急に霙は乗り気になった。
「お、おう……そうだな。次はやはりプレゼントだな。相手の欲しい物とか分かんねェのか?」
「ああ。あんまし気にしたことなかったからな。よく分かんない」
「そうか。うぅ~ん、どうしたもんかな。仕方ねェ……まぁ、てめェは顔立ちがいいから大丈夫だろう……」
「な、何を――」
霙の言葉を遮り鷲田は突然背後に回り込み、霙の青く透き通った綺麗な髪の毛に触れた。
「ちょっ、何触ってんだよ!」
「前々から思ってたが、てめェ……案外綺麗な髪の毛してんじャねェか」
「なっ、何恥ずかしいこと言ってんだよ!」
霙は少し嬉しかったのか、照れくさそうに頬を赤らめながらそっぽを向いた。
「とりあえず、これをこうして……」
文句を言う霙の言葉など完全無視で髪の毛を触り続けていた鷲田は、髪の毛を持ち上げ、こっちに向くよう指示した。
「……よしッ! なかなか様になってんじャねェか」
満足そうに頷く鷲田。そんな相手の顔を霙は見ることが出来ずにいる。恥ずかしくて上を見上げる事が出来ないのだ。
「何で俯くんだよ……十分カワイイじゃねぇか、ん?」
「私はこういうのは苦手なんだよ!」
鷲田に言われて霙は思わず上を見上げてしまった。
「ようやく、顔上げたな……」
「なっ……うぅ」
ニヤッと笑みを浮かべる鷲田に、霙はさらに顔を赤らめた。すると、ポケットから何かを取り出す鷲田。それは、二つの黒いゴムだった。
「何であんたがそんなの持ってんだよ!」
「そんなのはどーでもいいだろ」
――どうでもいい……のか?
霙は少し疑問に思いながら本人がどうでもいいと言っているのだからどうでもいいだろう、と考え、そのままその話はスルーすることにした。
と、その時、ある事に気付いた。そう、気が付くと既に自身の髪の毛は鷲田の手によってツインテールにされていたのだ。
というわけで二ヶ月ぶりです。前編と後編が二ヶ月もあいて話が分からなくなっているかもしれませんが、前回の続きです。いちごを買いにスーパーへやってきた霄と、ケーキを作っている響史と霖、そして誕生日プレゼントを買いに行った霙。とりあえずいちごは買い終えましたが、プレゼントは――。
果たして霙はちゃんとプレゼントを買うことができるのか?




