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魔界の少女  作者: YossiDragon
第一章:四月~五月 護衛役『現れし青髪の脅威(前)』編
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第二十六話「二人の守護者」・2

――☆★☆――


 俺は無線から霰と霊の反応が消えたことに関して少し不安を感じていた。


「まさか…あの二人…やられたのか?」


 そんな縁起でもないことを呟いていると、後ろから誰かが走る足音が聞こえてきた。


「誰だ!?」


「おっと待て待て…私だ、霄だ!」


「なんだ霄か…」


「むっ、その言い方は少し気に食わんな……」


「ごめんごめん!」


 俺は、霄が腰に(たずさ)えている剣の(つば)に手をかけるのを見て慌てて謝った。霄は、少し機嫌悪そうに刀から手を離した。そして腕を組むと、俺の目を見てこう言った。


「霊と霰がやられた」


 その一言に、勘が当たり少し嬉しいと内心で思いながらも、霄に少し悲しげな表情で


「そうか…どうやら相手も相当なやり手のようだな…」


 と言って、周囲に敵の二人がいないかどうか探した。

 俺達二人は、とりあえずその場から移動しようと歩き出した。


「そういえば姫はどうしたのだ?」


「あ~、一回会ったきりまだ会ってないな…だが、それがどうかしたのか?」


「ん? いや、さっきから姫からの連絡がないのでな…少し心配になっただけだ…」


 霄は護衛役であるため、普段からひ――瑠璃のことを心配しておかなければならないのだ。

 全く、一時も気を抜くことが出来ないのでは俺なら参ってしまいそうなところだが、それにメゲないのが霄のいいところでもある。それにしても、他の護衛役たちは一体どこをほっつき歩いているのだろうか。さっきから、無線を繋げているものの誰の声も聞こえない。


「誰も声をかけてきたりとかしないんだな…」


「まさか全員やられたのでは?」


「そ…そんなことねぇだろ!? だ、だって…魔界で最強の護衛役なんだろ? 太陽系の守護者だからと言って所詮は人間の体なんだから、そうそうやられやしないはずじゃねぇのか?」


 口ではそう言いながらも、俺は心の底ではもしもの事態を考えてしまっていた。


「だが、万が一という可能性も考えられるだろ?」


「う~ん確かに…実力がすごいと言っても見た目があんなんじゃなぁ~」


「なっ、それは私達をバカにしているのか?」


「そうじゃねぇけど…だって考えてもみろよ…。護衛役でマシなのってそうそういないぞ? だって、長女の澪は仕事に対してマジメそうだが案外ドジだったし、三女の露さんはかわいい女子が好きな変態さんだし、長男の雫だって妹のこととなったらすぐに怒る変な奴だし、お前はまぁアレ(料理が下手)だとして…――」


「ちょっと待て響史…今、心の中で何か呟かなかったか?」


「そ、そそそそんなことねぇよ…。え~と五女の霊はまぁ猫だし、現金だし…六女の霙は、すぐに暴走してハンマー振るうし、七女の霰は霊にメロメロだし、八女の零はちょっと肩叩いただけで剣取り出して斬りつけてくるし……マシなヤツ一人もいねぇじゃねぇか!!」


「ま、まぁ落ち着け…確かに言われてみればそうかもしれないが、それでも一応マジメにやってるのはやってるんだ…心配することはない!」


「そうか? まぁいいや…。それよりも、あの二人どこに消えたんだ?」


 真っ暗な学校を捜索してずいぶん経つがなかなか見つからない。すると、俺の前を歩いていた霄が急に止まった。


「いてっ…! どうしたんだよ急に止まっ…――」


「シッ! 静かに……あそこ」


「ん?」


 霄が指さした方を見てみると、そこには後姿の高地先輩がいた。


「あれは…間違いない先輩だ! よ~し…」


「待て…ここは私に任せてくれないか? お前にあんなことを言われたままではさすがに一族の恥…。名誉挽回をさせてくれ!!」


 俺は、せっかくの機会だということと、自分では戦いたくないという理由でやる気まんまんの霄に戦わせることにした。


「分かった…行って来い!」


「うむ…」


 霄は高地先輩の背後に回り込み、いきなり切りつけようとした。しかし先輩は一瞬にしてそれを(かわ)し、逆に霄の後ろを取った。


「すまないッスけど終わりにさせてもらうッス!」


「霄!!」


 俺が叫んだ時には一足遅かった。かのように思われたが、ギリギリのところで救いの手が入った。(みぞれ)がハンマーを巨大化させて高地先輩に攻撃したのだ。あんな巨大なハンマーに攻撃されて、ペシャンコにされて死んでしまったんじゃないかと一瞬俺は焦ったが、それどころか先輩は無傷の状態だった。そう、霙のあの巨大なハンマーを片手で受け止めていたのだ。


「なっ、アタシのハンマーを受け止めた!?」


 霙は今までにないことに驚きを隠せずにいた。高地先輩はそのままハンマーを霙から奪い、それを霙に向かって放り投げた。


「し、しまっ――!?」



ドゴォォォォォォォンッ!!



 あまりにもの衝撃に俺は目をつぶり、しばらくしてから目を開けると、霙がハンマーの下敷きになって動けない状態になっていた。


「くっ、アタシとしたことが…くそっ、ぬ…抜けないぃぃぃぃ!!」


「霙っ!」


「姉貴……、アタシのことはいいから早くそいつを捕まえてくれ!!」


「任せろ…妹の仇は必ず取る!」


「いや…、アタシまだ死んでないけど……」


 霙は勝手に霄の中で殺されてしまっていた。俺は、高地先輩のその人間とは思えない戦いに腰を抜かしていた。




 霄と先輩の戦いが始まって30分…。周りの被害は尋常ではなかった。


「諦めの悪いお嬢さんッスね……。僕に勝つことは不可能ッスよ?」


「ほう、随分自信があるんだな…」


「僕には必殺技があるッスから…」


 そう言って高地先輩は手をかざした。


「なるほどな…。ではその必殺技とやらを見せてもらおうか?」


「いいんスか? そんなカッコいいこと言って、本気を出すとあっさり敗北…なんて逆にカッコ悪いッスよ?」


 先輩は足を肩幅に開き唸り声を出すと、力を込め始めた。すると、廊下の床からボコッと大きな岩を取り出し、それを思いっきり霄に向けて放り投げた。しかも、その勢いが尋常ではなくそのまま霄の体にぶつかった。


「ぐぅっ!!」


「そ、霄!!」


「来るな…うわぁ!!」


 霄は斬空刀で巨大岩を受け止めたが、霄の刀にぶつかっても巨岩は勢いを止めることはなく、むしろさらにスピードを上げていき、霄の体は巨岩と廊下の壁に挟まれサンドイッチ状態になった。しかも、霄の体は巨岩に隠れて姿が見えない状態だった。

 俺は慌ててその場に駆け寄った。すると、暗がりでよく見えないが巨岩と壁の隙間から血がたら~っと垂れてきた。


「そ、霄!? くそっ…まさか…殺られたのか…? くぅっ、てめぇ…よくも霄を……ッ!!」


 下唇を噛み締めた俺は、高地先輩をキッと睨みつけた。


「怖いッスよ…神童君、それに僕は彼女に勧められて技を出したんスから…責任は彼女にあるッス…」


 高地先輩の言うのも一理ある。確かに霄は彼に向かって必殺技を出せと(あお)った。それは認める…。だが、こう狭い場所では霄にとってはあまりにも()が悪すぎる。霄はある程度の広さがある場所でないと力を発揮できないのだ。

 と、その時、階段から(れい)が姿を現した。


「あ、姉上!?」


「あっ…、零……!! こ、これは…その」


「くっ、…あなたですか? 姉上を()ったのは…!」


「そう……ッスけど?」


「許しません! 壱の型『流血祭(りゅうけっさい)』!」


 零が放った攻撃。それは、随分前俺が零と初めて会って戦った時に出た技だった。


「うわわっ! 危ないじゃないッスか!」


「おとなしく死んでください!!」


「そういうわけにはいかないッスね…それに、既に君のお姉さん達は僕が殺っちゃったッスから…」


「まさか、霊姉様や霰姉様まで?」


「もちろんッス…」


 その言葉についに怒りが頂点に達したのか、零はストッパーなど無視して魔力を膨大に上げ始めた。


「そんなことして…後でどうなっても知らないッスよ?」


 高地先輩は、まるで零達がなぜ力を抑え込まれているのか理由を知っているかのように言った。

 一際大きな岩を手も触れず持ち上げた高地先輩は、それを勢いよく零にぶつけた。しかし、零はその岩を瞬時に切り刻み、バラバラに粉砕した。


「そんな小賢(こざか)しいマネ…私には通用しません! これで終わりです…」


「ふふっ、それは果たしてどっちッスかね?」


「!?」



ドシャッ!!



 突然先輩の手の動きと連動して天井の岩が彼女の頭上めがけて落下した。零の小さな体はペシャンコになり、今度こそ殺られてしまったかと思われたが、零はギリギリでその落石を受け止めていた。

 零の小さな体のどこにこれほどの力があるのかは不明だが、今はそんなことははっきり言ってどうでもよかった。それよりも、問題は先輩のあの能力だ。地球の守護者とは言っていたが一体どういう能力なのだろうか。今までは太陽や水星など名前から属性やどんな攻撃方法なのかもはっきり理解出来ていたが今回は違う。何せ、相手は地球の守護者。どんな攻撃をするのか皆目(かいもく)見当もつかないからだ。

 すると、そのことを察したのか先輩が口を開き説明した。


「そうッスね…この技がどういう仕組みなのか…理解できていない人も多いみたいッスから、軽く説明してやるッス! 僕の能力…、それは地球の重力を全面的、部分的に操ることが出来ることッス! つまり…、僕が重力を駆使して地面を地球の中心へ引くベクトルを逆にして重力を逆にすれば、地面は無論浮き上がるッスよね? けど、全てを浮き上がらせるのはさすがの僕も体力の限界になるッス…。そこで僕は地面の一部のみ重力のベクトルを逆にして持ち上げることを考えついたんス…」


 その説明を聴いて、俺はあっという間に理解し高地先輩に言った。


「じゃあ、まさか…今の天井からの落石や霄に向かって真っすぐ飛んで行ったあの巨石も……」


「そう、全ては重力操作によるものッス…どうッスか? これでもまだ戦う気があるッスか?」


 先輩が俺に少しずつ近づきながら言った。すると、落石を破壊した零が体をよろめかせながらその場に立ち上がり高地先輩に言った。


「当たり前です…重力操作だろうがなんだろうが…倒してしまえば同じこと…」


「すごいッスねその精神力。それは褒めてあげるッス…しかし、本当に勝てるかどうか…そこが問題ッス!」


 そう言って高地先輩は、廊下の窓ガラスを重力操作によって取り外しそれを物凄いスピードで飛ばしてきた。それに対し、零は素早い反射神経でその窓ガラスを全て躱した。しかし次の瞬間、零の目の前に高地先輩がいた。


「僕は何も物質だけを操れるとは言ってないッスよ? 物体などありとあらゆるもの…つまり、人間や動物も可能ッス!」



ドゴンッ!!



 その力は尋常ではなかった。スピードもほとんど零と変わらなかった。


「これでもう四人ッスね…本当に護衛役と言ってもただの少女ッスね…。それでも本当に悪魔なんスか? これじゃあ瞳さんの方がよっぽど悪魔に相応(ふさわ)しいッス!」


 遠くの方を見ながら高地先輩はニヤッと笑った。霄も零もやられ、ついに俺と霙のみとなった。しかし、霙の体にはハンマーがのしかかっており、さらにそのハンマーに膨大な重力がかかっていて、その重みで霙はなかなか脱出することが出来なかった。


「さぁて、ボ~ッとしているッスけど、どうかしたんスか? まさか戦意喪失してやる気なくなったんじゃないッスよね?」


 高地先輩の言葉を聞きながら俺はふと思った。


――あれ? そう言えば、どうして鬼ごっこだったはずなのに鬼が逃げている奴にやられてんだ? これじゃもうある意味下剋上じゃねぇか!



 そう思いながら俺は夜月刀を取り出し、何の作戦も立てずに突っ込んだ。すると、高地先輩は苦笑して言った。


「人の話聞いてたッスか? 僕は物質などありとあらゆるものの重力を変化させることが可能なんス…。というわけで神童君…君の動き止めさせてもらうッスよ? …重力操作!」


 その瞬間、俺はてっきり動きが止まると思っていた。しかし、なぜか俺の動きは止まらなかった。


「なっ、なぜ止まらないんスか!?」


「終わりだ!! とぅおりゃぁぁぁぁぁぁあああああ!!」


「ぐはぁぁぁぁああ!!」



ドサッ!



 高地先輩は、そのまま廊下の地面に叩きつけられた。


「ぐぅっ…! ば、バカな…。どうして僕の重力操作が効かなかったんスか? ……確かに技を発動したはず…なのに、…はっ! その武器…それは夜月刀!? どんな攻撃も無効化することが可能だという…」


「そ、そんなすごい力もあったのか?」


「まさかそれを知らずに使用してたんスか? さすが…数人の悪魔の少女を手なずけるだけのことはあるッスね…」


――あれっ!? 何だかスゴイ誤解をされてるぅぅぅぅぅ!?



「ちょっ、ちょっと待て! 俺は別にあいつらを手なずけてるわけじゃ…」


「違うんスか?」


「あ、あいつらはただの居候です…」


 俺は、少し頬をかきながら照れ隠しの動作のようにして言った。


「ふっ…そうッスか…。それと安心するッス…」


「えっ?」


「彼女達は死んでなんかいないッス…。確かに瀕死状態にまで追い込んだッスけど…」


 そう言うと、高地先輩は全ての重力を元に戻した。すると、壁と巨大岩に挟まれ死んだと思われていた霄が姿を現した。


「すまない響史、負けてしまった」


「いいさ別に……。それに、一応先輩一人は捕まえたんだ…残りは金城先輩のみ…。だからそっちで挽回してくれればそれでいいさ!」


「ふっ、響史は相変わらず甘いな…。そんなんじゃ、悪いことしてもすぐに許したりしそうだな…」


「そんなことねぇよ…」


 俺はちょっと心外だった。すると先輩は、廊下に大の字になったまま俺達に言った。


「瞳さんの強さには気を付けた方がいいッスよ? 彼女…相当な力の持ち主ッスから…」


 そう言って先輩はゆっくりその場に立ちあがると、


「じゃあこれ渡しとくッスね?」


 と、俺に守護者の証を手渡した。


「僕は牢屋(運動場の朝礼台)にいるッスから…」


 (いさぎよ)く負けを認めた高地先輩は、そのままその場から姿を消した。俺は霙の体の上に乗っかったハンマーをどけた。


「大丈夫か霙?」


「ああ、うん…それよりもタマとか助けに行かなくていいのか?」


「そうだったな…えっと確か体育館だっけ? ていうか、もはや鬼ごっこって言えないんだけど…」


「響史、それを言ったら終わりだろ?」


 と、俺達は他愛ない話をし、零も無事助け出したところで体育館へと向かった。


――☆★☆――


 その頃、生徒会美化委員長女子の金城瞳は、体育館のステージで暁に気絶させられた霊と瞳が気絶させた霰を見ていた。


「他の人達…随分と遅いわね…。誰も来ないのかしら…」


 瞳は、退屈そうにステージの(ふち)から足をブラ~ッと投げ出した。しかし、相変わらずの状況の変化のなさにさすがの瞳も飽きてきたのか、気絶している霊と霰を使って何かしてやろうかと考えた。


「ふふっ、いいこと思いついた…。この子達、少しばかり利用させてもらおうかしら…」


 不気味な笑みを浮かべて瞳がそう呟いたその時、突然背後から声が聞こえた。


「待ちなさい! あなた……今二人に何をしようとしていたの?」


 そこにいたのは、霊と霰の姉である(つゆ)だった。


「ふふっ、見ての通り暇だったから殺して遊ぼうかなと思って…」


 その言葉で一気に露の怒りのパラメーターは跳ね上がり最高点に達した。そして、ふっきれた露はその場から俊足で移動し瞳の頭を鷲掴みにすると、体育館の床めがけて押し込んだ。

 床にはバキバキッと亀裂が入り凄まじい攻撃力を誇っていることを物語っていた。


「許さない…。妹に手を出したあなただけは……絶対にっ!」


 怒りの矛先が少し違っているような気もするが今はそんなことは関係ない。


「いったた、いきなりなんて…酷いわね。私じゃなかったら、死んでたか(あばら)の何本か持ってかれてたわよ?」


 そう言って瞳は制服に着いた汚れを払い落とした。砂埃がパラパラと床に落ちる。

瞳は、指を金色の髪の毛の毛先に沿って()いた。


「じゃあ、…次は確実に殺してあげるわ!」


 露は瞬時に武器の槍を取り出し構えを取った。槍を激しく回し自分の力量を思い知らせる。

 しかし、相手も負けじと魔力を放出していた。


「ただの人間ではないとは思っていたけど予想は的中のようね…太陽系の守護者の力、(あなど)ってはいけないみたい…」


 相手の魔力を見た露は、苦虫を噛み潰したような顔でそう言った。だが、これ以上瞳を好き勝手させていると霊達以外の妹もやられてしまう…。それだけは避けなければならない。そう考えた露は、大きく深呼吸して一呼吸おくと、槍を回転させ地面に突き立てた。その瞬間、水のない体育館になぜか水柱が出現し、その水柱が衝撃波と一緒に瞳へ襲い掛かった。


「きゃあ! くっ、やったわねぇ~!!」


 瞳は拳を握りしめ力を込めた。すると、拳が急に金属化し硬くなった。


「なっ、それは一体!?」


「私の守護するものは…金星。つまり、私は体の一部を金属化させることが可能なの…。ちなみに、私に触れた物質ならばそれを金属化させることも可能よ? つまり、私に触れた水…。これもまた、金属化が可能……」


 そう瞳が呟いた瞬間、触れていた液体の水が突然金属化した。


「くっ…!?」


「これで終わりよ!」



シュンシュンッ! ブスッ!!



「ぐぅぅぅぅっ!!?」


 露は、一瞬自分の体に何が起こったのか理解できずにいた。しかし、瞳が攻撃したということだけは理解できた。


「ふん…こんなものかしら? だったら次は私からいかせてもらうわよ?」


 武器を振り回し、露は連続突きを繰り出した。


「そんなもの…、当たらなければ怖くなんかないのよ!!」


 そう言って瞳は露の連続突き攻撃を全て躱しきり、上空へと飛び上がって思いっきり重力に身を任せ拳を振るった。だが、瞳が殴った場所は露ではなく地面だった。そう、ギリギリのところで躱されていたのだ。


「ちぃっ! ちょこまかと逃げてぇ~。もうっ頭きた! 百戦錬磨のパンチをくらいなさい!!」


 なかなか攻撃が当たらないことにイライラしていたせいだろうか、瞳は完全にトサカに来て防御ではなく攻撃に専念してばかりいた。そのせいで瞳は、あろうことか露に後ろを取られてしまった。


「し、しまっ…――」


「これで終わりよ!」


 その時、露はこれで勝負がつくものだろうと思っていた。だが、事態はそううまくもいかなかった。瞳にとどめをさそうとしたその時、体育館の入口から霄達の声がしたのだ。


「霄ちゃん!?」


 霄の声に完全に惑わされた露は、思わずとどめをさすことを忘れていた。


「スキあり!」


「ぐはっ! うぐぅっ…!! 油断した…」


「ふふふっ、ちっちっち…油断は禁物よ~変態女さん?」


「変態女じゃなくて露よ! つ・ゆ!! 人の名前ちゃんと覚えてよね、金髪バカさん?」


「金髪バカじゃなくて…瞳ですっ! ひ・と・み!!」


 二人は互いに言い争いを始めてしまった。


――☆★☆――


 金城先輩と露さんの言い争いを体育館入口付近で見ていた俺と霄達は呆れた顔でその光景を見ていた。俺は、嘆息しつつ何をやっているのだろうかと二人に訊いた。


「何やってるんですか二人とも…」


「響史くん…丁度いいとこに来たわ! あれを!」


挿絵(By みてみん)


 露さんの指をさす方をみると、そこには手足を拘束された霊と霰が背中合わせになるような形で柱にくくりつけられていた。それを見た俺は、急いでそこへ向かおうとした。しかし、金城先輩にその行く手を(はば)まれた。


「言っておくけど、ここから先に行きたいならこの私を倒してからにすることね!」


「ていうか先輩…これってもう鬼ごっこじゃないですよね?」


「ふふっ、今頃気付いたの? 神童君…、はなから勝負は鬼ごっこに見せかけたものだったってわけよ!」


 金城先輩は俺をバカにするような顔で見つめた。


「くそっ…どうすれば」


「おとなしくここで私に負ける事ね!!」


 その時、俺は思った。


――しまった、油断した。相手は金属化させる能力を持っている。だとしたら、物理攻撃に特殊攻撃はあまり効果がない…。物理攻撃には物理攻撃で対処するしかない…! だが、露さんの攻撃は主に特殊攻撃ばかりだし、物理攻撃にしてもあの連続突きだけだ! だが、あの攻撃…ほぼ攻撃範囲が狭いから背後を取られたらアウト! …だしなぁ~。



 などと考えていると、金城先輩はその隙をついて次々に攻撃を繰り出してきた。


「躱してばっかりじゃ、私を倒すことなんて無理よ?」


「そんなこと…言われなくたって!! くらえぇぇぇぇぇええええ!」


 俺は、夜月刀を使って金城先輩に攻撃した。しかし、その攻撃はあっさりと躱されてしまった。


「むだむだ…そんな甘い攻撃、誰にも当てられやしないわよ? 本当にやる気あるの? あなたのとこの女子達は全員頑張ってるみたいだけど…。あっ、そうか…あなたがそんなんだから皆が弱くなるのね…」


 さすがの俺も、その言葉にはカチンときた。


「……どういう意味だ」


「そういう意味よ!」


「さすがの先輩でも、そればかりは許せません…!」


「へぇ~許せないなら何? 倒せるの? 強くなれるの? 世の中ね…怒りだけで強くなれるなんて甘く出来てないのよ!!」


 そう言って先輩は、金属化させて硬質化した拳で体育館の地面を殴った。すると、さっきよりも大きな円形の亀裂が入った。その威力は凄まじく、俺は息を呑んだ。時間は既にもう午前4時…。現在季節は夏至(げし)のために陽が昇るのが早い…。そのため少しばかり外が明るくなってきた。


「はぁはぁ…。くそっ、時間も残り少ないし…」


 俺は、汗だくになりながら腕時計を見つめた。俺の願いなどシカトするように時計は時間をどんどん進めていく…。時間は止まらず絶えず進み続けている。失った時間を取り戻すことはできない。

 時間は大切なものだと、俺はこの時深く知らされた。皆の戦力はどんな状態なのか後ろをふっと振り返ったが、皆も俺と同様疲れ切っていた。


「どうかした響史君?」


 露さんが俺の名前を呼ぶ。


「えっ、いや…その皆結構疲れ切ってるみたいで…」


「ふふっ、確かにそうだけど…でもここで根を上げるわけにはいかないでしょ? だって、あいつを倒さないとタマちゃん達を助けられないんだから…」


 冗談半分に言う露さん。だが、この時ばかりは俺もその冗談に付き合っていられなかった。


「さてと、そろそろ終わりにさせてもらおうかしら? 私もさすがに寝不足は困るのよねぇ~。ほら、私綺麗だから…美容には気を使ってるのよ! “あなた達とは違って…”」


 金城先輩のそのバカにするような目は、護衛役である彼女達を本気にさせたのか、疲れ切っているにも関わらずそのスピードを速めた。


「あら? 急にスピードが速くなったわねぇ~! でも、こんなんじゃまだまだ私には勝てないわよ? くらえぇぇぇぇぇえええっ!!」


 そう言って金城先輩は、両手を強く握りしめ拳を振るった。キレのいいパンチが霄を襲った。


「うぐっ! やはり相手のスピードと瞬発力…あれは厄介だな…」


 霄があごから垂れる滴を腕で拭いながら相手のフットワークを睨みつける。

 その時、俺にある名案が(ひらめ)いた。俺は護衛役を集め、ゴニョゴニョと作戦の内容を伝えた。


「なるほど…確かにそれはいい考えかもしれませんね…」


 零が俺の案に賛成する。しかし、霙が(いぶか)しげに訊ねる。


「けど、そんな攻撃本当に通用するのか?」


「大丈夫だよ! 響史を信じよう!!」


 胸の前で握りこぶしを作って真剣な目をする瑠璃に、麗魅が半眼で俺の方を見ながら言う。


「こんなバカ信用しろって言われてもねぇ~……」


「いいから、もう時間がねぇんだ! これに()けるしかねぇだろ!!」


 俺の言葉で皆の意思が固まった。そして、ついに作戦実行の時が訪れた。


「よし! 行くぞ!!」


 という俺の掛け声を合図に作戦が開始された。

 作戦はこうだ…。まず初めに霄と零が金城先輩に攻撃を集中させる。その間に霙は軽い準備運動をして体を良い状態に高めておく。そして、露さんや瑠璃と麗魅は霄達二人のサポートに回した。

 作戦は見事成功だった。金城先輩も所詮は人間の体…。人間為らざる者の力をずっと持っていてはすぐに疲れるに決まっている。そこを突いた巧妙な作戦だった。金城先輩があまりにもの疲労の蓄積で思わず隙を見せたところで、俺が先輩の肩から脇にかけて切りつけた。


「しまっ――…きゃぁぁぁぁああ!!」



ブシャーッ!



 真っ赤な血が飛び散り、金城先輩は利き腕の方の肩を抑えた。血がドクドクと溢れ出し出血が止まらない。先輩は唇を噛み締めながら俺を睨みつけた。


「許せない…。この私を切るなんて……絶対に許さない!」


「おっと、まだこれで終わりじゃないぞ?」


「えっ?」


 金城先輩はふと上を見上げた。そこには、霙が腰に手を当ててこちらを見ている姿があった。


「な、何よ…何をするつもり?」


「な~に、ちょっとしたお返しさ!」


 そう言って霙は彼女の細い足をガッシリと掴み自分の脇に挟んだ。そして、膝裏に手を回してガッシリと固定すると、深呼吸して新鮮な空気をめいっぱい吸い込み思いっきり力任せに振り回した。


「ちょっ、待って…まっ――い、いや…いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!」


 ブンブンと風を切る音が聞こえる。金城先輩は、霙の体を軸として右回りに物凄い勢いで回転した。


「や、やめ…もう…ダメ…許して…私、が…悪かったから! うぷっ、気分わる…っ! お願い…お願いだから離してぇぇぇぇえええええ!!」


「分かった…」


「えっ!? ちょっ!!」



ドゴッ!!



「ぐはっ!!」


 霙は急に回転するのをやめ金城先輩の足から手を放した。その瞬間、先輩は遠心力によって体育館の壁に強く打ちつけられた。


「ぐぅっ! …うっ」


 あまりにもの激痛に、金城先輩はそのまま気絶した。




 それからしばらくして、金城先輩がようやく目を覚ました。

 時刻はもう午前5時…タイムリミットまでもう後一時間しか残っていなかった。


「いい加減、負けを認めてくれませんか?」


 俺は金城先輩にそう言った。すると、先輩は疲れて物も言えないのか、それとも思いっきり回されて気分が悪くなったのか、言葉には出さすにコクリとだけ頷いた。


「じゃあ、守護者の指輪渡してくれませんか?」


「………うん」


 ゆっくり立ち上がって金属化を解いた手から守護者の指輪を取り外した金城先輩は、それを俺に手渡した。また、それと同時に先輩は力を使い果たしたのか寝不足なのか、気絶して俺に倒れ掛かった。


「おっと…大丈夫ですか先輩? 先輩!?」


「…どうやら限界だったみたいッスね…」


 その声に、俺達はふと振り返った。そこにいたのは高地先輩だった。


「お疲れさまッス…約束通り試験はクリアッス…。今回は僕達の負けッス…もう帰って大丈夫ッスよ? 今日はもう疲れたはずッスからゆっくり体を休めるといいッス…。皆ボロボロッスからね…」


 戦いを終えた後の高地先輩は、何故か普通に戻っていた。

 俺は金城先輩を高地先輩に預けた。


「こんなになるまで戦って…負けず嫌いな性格が(たた)ったんスかね…」


「先輩って負けず嫌いなんですか?」


「気付かなかったッスか? もう昔からそうなんス…。だから、今回も恐らく同じ理由だったんじゃないッスかね…。さぁ、学園の修復はこちらでやっておくッスから…心配無用ッス…」


 そう先輩に気を使われ、俺達は霊と霰を連れて家に帰った。


――☆★☆――


「んっ…響史? ここは?」


「俺の家だ…」


「勝負は? 私達、確か…あの生徒会の先輩二人と…」


「終わったんだ…」


「勝ったの?」


 霊は少し心配そうに俺に訊いた。


「ふっ…ああ、大丈夫だ…」


 俺は、霊の心配そうな顔を見てなぜか少し笑ってしまった。すると、背後から思いっきり蹴られた。


「いってぇな…誰だよ!」


 ふと後ろを振り返ると、そこにいたのは鬼の形相で腕を組み仁王立ちして俺を睨みつける霰だった。


「お姉さまに近づこうとは、この変態がぁぁぁぁぁあああああ!」


「訳分からないぞお前! 一体どういう解釈してんだお前は!」


「お黙り! これ以上好き勝手させるわけにはいきませんわ! 今日こそは天誅をくれてやりますの! くらいなさい!!」


 バリバリという電撃に、俺は感電してその場に倒れた。


「てめぇ…それスタンガンか!?」


「ふんっ、その通り…これさえあればお姉さまを守ることが出来ますの! あなたのような変態の傍に置いておけばどんなことをされるかたまったもんじゃありませんからね!」


 そう言って霰は、嫌がる霊を無理やりどこかに連れて行った。すると、露さんが不思議そうにしながら俺のところにやってきた。どうやら、先ほどの一部始終を見ていたようだ。


「全く、たまったもんじゃないわよねあんなことされて…タマちゃんもかわいそうに…」


――あんたが言うか!



 そう俺は突っ込んだ。


「何か言った?」


「いいえ何も……。それよりも、学校では行動をなるべく(ひか)えてくださいね?」


「えぇ~っ、どうして?」


 露さんは眉毛を吊り下げ腕をぶらぶら揺らしながらダダをこねた。


「はぁ~っ、あなたが暴走したらそこらじゅうの可愛い女子に声を掛けて回るでしょうが!」


「そんなことないわよ~! 人聞きわるいわね…」


「じゃあ、可愛い後輩見ても何もしませんね?」


「うっかり声かけちゃうかも…?」


「さっき言ったことと矛盾してますよ露さん!!」


 思わず俺はバンッとテーブルを叩いた。


「いいじゃない少しくらいは…」


「ダメです!」


「うぅ~、響史君のバカァァァァァァァ!!」


 そう言って露さんはリビングから出て行った。いっそのこと本当に帰ってくれ…。

 そう思いながら俺はため息をついた。

 時刻はもう午前6時30分…。

 俺は、重い(まぶた)を擦りながら二階へと上がった。

 ベッドに向かうと、既に何人か寝ている奴らがいた。いい加減、与えてやった部屋で寝てほしいものだ。

 俺の家はそこそこ広いというわけではないが、かといって狭すぎるわけでもなく五人家族だというのに部屋がなぜか十二部屋ある変わった家なのだ。そのため、その十二部屋から両親と俺、姉ちゃん、弟の部屋を除いた七部屋がある。しかし、その七部屋にそれぞれ二人ずつ配置しても十分部屋があまるくらいなのにどうしてこの部屋に毎回やってくるのか、それが俺には理解できなかった。

 とりあえず俺は、寝不足で頭がクラクラするため寝ることにした……。

というわけで、無事に暁と瞳を倒し守護者の指輪を手に入れることに成功した響史。一難去ってまた一難と、来る日も来る日も何かしらの事件に巻き込まれて一息つくまもありません。マジで過労で死ぬんじゃなかろうかとさえ思います。

太陽系の守護者を倒し始めてまだ数日。ここまでで倒したのは太陽、水星、金星、地球の四人の守護者。まだまだ戦いはこれからです。しかも、響史には護衛役から自分の身、及び瑠璃と麗魅を守るという役目もあります。

これからも大変な毎日が続きそうです。

次回は、新たな護衛役が登場です。

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