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魔界の少女  作者: YossiDragon
第一章:四月~五月 護衛役『現れし青髪の脅威(前)』編
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第二十三話「姉妹」・1

二話構成です

 時刻は既に昼を過ぎ、午後二時を示そうとしている。

 現在、家にいるのは、俺、霄、霊、霰、零、瑠璃の六人と、魔界から来たという麗魅と澪の二人だ。

 ただ、来訪者というか襲撃者である澪は、大魔王の仕掛けた毒に侵されダウン。俺と霄はその看病みたいな状況だ。霊と霰は相も変わらずじゃれあい、姉がピンチだというのに零は庭で呑気にひなたぼっこ。そして、麗魅と瑠璃の二人は戦闘中という有様だ。

 俺は、時計とにらめっこをしながら瑠璃の心配をしていた。確かに、相手は双子の妹。まさか殺すなんてことはしないと思うが、念のため用心しておいた方がいいだろう……。

 そんな事を考えつつ俺は再び澪の看病に努めた。




――☆★☆――




「はぁはぁ……流石はお姉様。こんな平和ボケしそうな人間界にいても、ここまで強いなんて。なかなかね……」


「ふんっ! べつに平和ボケなんてしてないよ!!」


 麗魅の失礼極まりない言葉に、瑠璃は頬を膨らませてプイッとそっぽを向いた。そんな双子の姉の反応を見て、麗魅はくすりと笑って口を開いた。


「ふふっ……でも、所詮この程度の力……私には勝てないわ!!」


「どういう意味?」


 瑠璃は不思議そうな顔で首を傾げる。


「修行を積んだ私は、新たな技を編み出したの……。これはお姉様の全く知らない技……。今までの技は、せいぜい勉強でいう所の基本問題のような物。そして、これからお姉様に見せる技は、少し変化を加えた応用問題のような物よ! さぁて、お姉様は私の応用問題を解けるのかしら?」


 まだ披露もしていないというのに、既に勝ち誇ったような笑みを浮かべて麗魅は威張り散らした。

 しかし、その威勢に気圧されてしまったのか、瑠璃は少し不安気な表情を浮かべる。


「たしかに、人間界に来て少しは腕が落ちてるかもしれない……それは認めるよ。でも、だからってそうとも限らないよ?」


「あっそ。じゃあ、それを私に証明してっ!!」


 そう言って麗魅は、ポーチの様なバッグから小刀を二、三本取り出すと、その場に高くジャンプしてあらゆる方向に投げてきた。その攻撃は、瑠璃が避けるまでもなく、勝手に彼女のいる場所からあらぬ方向へ飛んで行った。それを見た瑠璃は、一瞬呆気に取られてクスクスと失笑した。


「何やってるの麗魅? もしかして、これがあなたの言った修行の成果なんて言わないよね?」


「ふふっ……バカねお姉様。こんな初歩的な罠にひっかかるなんて……やっぱり平和ボケしてるんだわ!!」


「何を――」


 麗魅の言葉に瑠璃が言い返そうとした刹那。足元に何かが引っかかり、前に勢いよく倒れた。まるで何か細い紐――いや、どちらかというと、木の根っこに足を引っかけたという方が分かりやすいかもしれない。咄嗟に後ろを振り返り、一体何に引っかかったのか確かめようとした。しかし、不思議な事にそこには何もなかった。


「あれ? どうなってるの?」


 思わず頭上に疑問符を浮かべる瑠璃。そんな情けない姉の無様な姿を目にして、堪らず麗魅も驚愕する。


「うっそ……まさかお姉様、視力まで低下したの? 信じられない……。こんな細い糸も見えないなんて。これはワイヤ―線よ?」


「わ、ワイヤー線!?」


 説明を聞いて瑠璃は驚いた。目を擦りもう一度よく見てみると、確かに照明の明かりが当たり、それが反射して透明な糸がキラリと光って見えた。


「どう? まだ自分の置かれた状況が理解できない?」


「なに言ってるの? 今のは少し油断しただけ。それに、他の小刀とかは全く私に当たってないよ?」


 罠に引っかかりはしたが、攻撃自体には当たっていないと強気な姿勢に出る瑠璃。

 それを見て、麗魅は大きく肩を落として溜息を吐いた。


「はぁ……。やっぱりボケてるわね……まぁいいわ。その内、嫌でも理解できるようになるから……」


 俯けていた顔を上げ、何かを企んでいるかのような笑みを見せる。檸檬色の双眸が少し暗く見えた。


「そんなのどうだっていい!! とにかく、わたしは魔界には帰らない!!」


 武器を握った瑠璃が大きな声を張り上げ、麗魅に向かって攻撃しようとしたその時、何かがその動きを妨げた。


「な……なにっ!?」


「まんまとかかったわね。まさか、こんな低レベルな罠に二度も引っかかるなんて……。双子の妹として情けない限りだわ……」


 麗魅は左手の指を軽く額に当て、首をゆっくりと左右に振った。合わせて瑠璃に聞こえる音量で、盛大にため息を吐いた。


「うっ、うるさいなぁ~! そんなのどうだっていいでしょ!?」


 恥ずかしさと怒りの入り混じった顔つきで声を荒げ、無理やり前に進もうと、瑠璃が足を一歩前に出した直後だった。彼女の手足や頬に、シュッと鎌鼬に遭ったような切り傷が出来た。


「痛っ……!?」


「まだ分からないの? 一番最初に放った小刀は、お姉様を狙ってたんじゃなくて、このワイヤー線を張るためのものだったのよ!」


「そ、そんな……」


 完全に相手の術中に嵌まった事を痛感し、瑠璃は絶望に打ちひしがれて、力尽きたようにその場にペタンと座り込んだ。


「どうしたの? まさか、もう諦めたなんて言わないわよね?」


「くっ……あ、あたりまえだよ!! そんなの、姉としてみっともないじゃんっ!!」


 瑠璃はゆっくりと立ち上がり目を瞑ると、ふぅ~と深呼吸をして目を開いた。キリッと真剣な表情で武器を構え、それを勢いよく回転させ始める。


「うりゃぁあああ!!!」


 回転させた武器の刃によってワイヤー線が次々と切れていき、一気に瑠璃の行動範囲が広がった。そんな彼女の機転の利いた行動に、麗魅は少し驚くと同時に感心していた。


「や、やるわね!!」


「ふふん! これくらい朝飯前だよ♪」


 双子の妹に褒められた気がして、瑠璃は気分を良くして鼻高々だ。

 と、その時。



ぐぅ~~~っ!



 と、怪物の唸り声のような音が周囲に木霊した。

 思わず何事かと周囲を警戒する麗魅。直後、瑠璃が再びその場に座り込んでお腹を押さえるようにして蹲った。


「うぅ~~っ!! そういえば、まだ昼ごはん食べてない~~」


 どうやら先程の大きな異音は、怪物の唸り声などではなく、瑠璃の腹の虫が空腹を訴える音だったようだ。咄嗟に警戒態勢を取っていた麗魅は、一気に馬鹿馬鹿しくなって呆れ返った。


「お姉様……。本当にやる気あるの?」


「あ、あるよ!!」


 麗魅に心底呆れられてしまい、少し焦りながら瑠璃はムキになって言い返す。


「だったら真面目に戦ってくれないかしら?」


「う、うるさいなぁ!! わかってるよ!」


 文句を言われて渋々立ち上がった瑠璃は、フラフラの状態で戦いを続行した。


「そんなに無理しないでもいいのよ? 諦めて私と一緒に魔界へ帰れば……ね?」


「ぜったいイヤっ!!」


「くっ! 往生際が悪いわよ!?」


 麗魅は聞き分けのない双子の姉に対して溜まりに溜まっていく苛立ちに、耐え切れずにいた。


「……分かった。そこまで言うのなら、半殺しにしてでも連れて行く!」


 このままではいつまで経っても埒が明かないだろう。そう考えた麗魅は、とうとう強硬手段に打って出た。

 ポーチから大量の小型ナイフを取り出し、それを指と指の間に挟むと、四方八方に投げた。


「きゃぁああ!!」


 悲鳴をあげた瑠璃は反射的に身を屈めて、その攻撃を(かわ)した。廊下のあちこちに小型ナイフが突き刺さり、僅かに揺れる。


「くっ! ここじゃ狭くてまともに戦えやしないわ……ったく、狭い家ね」


 嫌味を言うかのように口走ると、麗魅は玄関ドアを蹴破って外に飛び出した。それから瑠璃の方を見やって一言。


「どうしたのお姉様? こっちに来なさいよ」


「言われなくても、わかってるよ!」


 瑠璃はまんまと麗魅の挑発に乗り、後を追うように外へ飛び出した。

 その音に気付いた響史は、澪の看病を霄一人に任せ、瑠璃と麗魅の二人の行方を追った。




――☆★☆――




「待てよ! お前らどこへ行く気だ!!?」


「き、響史!? どうして着いてきたの?」


 瑠璃が麗魅の後を追いかけながら、顔だけ後ろで走っている俺に向けて訊いてきた。


「お前らが何かしでかさないか見張りに来たんだよ!」


「ここは人間界だから、麗魅もそこまで力を使いこなせやしないよ!」


「そんなの分からねぇだろ? 相手は修行を積んだって言うじゃねぇか。どんな攻撃してくるか分からないんだぞ?」


 俺は、瑠璃に警告の意味も含めてそう言った。

 暫し麗魅を追いかけていた俺と瑠璃は、光影都市黄昏区にある中央公園にやってきた。

 これで何度目だろうか? 以前にもここへ来て様々なアクシデントに巻き込まれたが、まさかまたしても何かしらのアクシデントに見舞われる羽目になるのだろうか?

 そんなことを頭の中で考えながら、はぁはぁと息を乱して汗をかく麗魅を見ていた。


「……ここなら少しくらい暴れても大丈夫そうね」


 辺りを見回して、麗魅がぼそり呟く。


「何するつもりだ!?」


 何やら企んでいる様子に気づいた俺は、周囲への被害を危険視して声を張り上げた。


「あんたに関係ないでしょ?」


 俺の問に、声を荒げて麗魅は解答を突っぱねた。


「てめぇ……」


「さっきは狭かったから上手くいかなかったけど、今度は十分なスペースもある。これなら、少しは本気を出せそうね」


 麗魅は家で使った小型ナイフの倍のナイフを手に持つと、腕を交差させて構えを取った。

 対し、俺は左足を後ろに一歩下げてその足に体重を乗せると、腕を顔近くに持っていき防御態勢に入った。別に篭手を腕に着けているわけでもないし、それなら腕に鉛でも入れているのかと言われると、そうでもない。そう、防御するための物など何もなしに防御態勢を取っているのだ。周りから見ればバカなやつにしか見えないだろうが、この時の俺はこうするしか方法がなかったのだ。

 最初から家を出る時に武器か何かを持ってくるんだったなと思うのは、もう少し後の事である……。


「くらえ!! 千手斬刀(せんじゅざんとう)!!!」


 麗魅はさっきよりも高くジャンプし、その手に持った大量のナイフを物凄いスピードで一気に放ってきた。しかも360°全範囲にだ。普通なら難しいかもしれないが、彼女はそれを見事に成し遂げてみせた。これが、彼女の言う修行の成果なのだろうか?

 その大量のナイフは、無論公園の地面だけではなく俺と瑠璃の体にも刺さった。


「うぐぅあ!?」


「ぐっ!?」


 俺と瑠璃はとりあえず顔の防御には成功したが、その他の場所は全く防御することが出来なかった。腕や足はもちろん、腹にも刺さっていた。しかも、それが一か所ではなく何か所も。

 酷い激痛が全身を駆け巡る。赤い血が滴り落ち、踏ん張っていた俺の足を僅かに滑らせる。


「くそっ……! 瑠璃、何か武器持ってないのか?」


「ごめん。わたしほとんど戦うことがないから、そういうの持ってないんだ」


「っぁ、そうか……。仕方ねぇ、このナイフを、利用するしかないか……」


 瑠璃の説明を聞き、俺は自分の二の腕に突き刺さっている小型ナイフを抜き取った。傷口から赤い血が溢れ出る。さらに、そのナイフを抜き取ると同時に、凄まじい激痛が俺の体を苦しめた。


「っがあぁ!!?」


 その痛みに、堪らず俺は呻いた。


「だ、だいじょうぶ、響史?」


「あ、ああ……。このくらい、なんてことはない」


 心配そうにこちらを見上げてくる瑠璃の声に、俺は頑張って笑顔を取り繕い、彼女を安心させる言葉をかけてやる。

 と、そこに麗魅の声が聞こえてきた。


「まったく、人間のクセにしぶといわね!」


「はんっ! 生憎と、俺はそういうやつだからな。そう簡単には死なないぜ?」


「……どうやらそうみたいね。でも、こっちとしてもその方が()りがいがあっていいけどね♪」


――随分と余裕だな。セリフに“♪”をつけてくるなんて、俺もナメられたもんだぜ……。



 唇を噛み締め、相手をどうやったら倒せるか考えた。

 と、その時、ふと麗魅の首から提げている首飾りに目がいった。俺は、何故かそれがどうしても気になり瑠璃に訊ねた。


「なぁ瑠璃、麗魅のあの首飾りって……何なんだ?」


「あー。あれは昔、わたしたちが幼い頃にお母様がくれたものだよ。わたしも持ってるけど、今は響史の家にあるよ?」


 その説明を聞いて、俺はある作戦を閃きつつ、さらに訊ねる。


「……大事な物なのか?」


「そりゃあ、お母様からもらった初めてのプレゼントだからね。でも最近、お母様に会ってないから……早く会いたいな、お母様に……」


 それを聞いて、俺は早くこいつを母親に会わせてやりたいなと思った。

 しかし、そのためには太陽系の守護者から指輪をもらわなければならない。この地道な任務は少しばかり辛い上に、肝心なその守護者がなかなか見つからない。しかも、相手は案外強いから面倒だ。だが、これを成し遂げなければ天界に行くための道が開かないという。近頃はパソコンなどを使えば、ビデオなどをわざわざ店に行かずとも借りれるというのに、何故、天界に行くためにこんな面倒な手段を取らなければならないんだ?

 色々と考えている内、段々と愚痴めいたものになってきていた。

 そこに、瑠璃が名前を呼ぶ声が聞こえてきた。


「…………し? ……ねぇ、だいじょうぶ、響史? 何かずいぶんと考え込んでいるみたいだけど?」


「あ、あぁ、いや大丈夫だ……」


 俺は相手の首飾りに狙いを定めると、片足を強く踏み込みダッシュで麗魅との距離を詰めた。


「くっ……! 丸腰での強行突破なんて、あんたみたいな人間の考えそうなことね。だけど、そんな方法で私に勝てると思ってるの? 何をするつもりか知らないけど、無駄なことはやめなさい!」


 麗魅はそう言って、今まで使った武器とは異なる少し長い剣を取り出し、俺に向かって剣を構えた。


「そのまま突っ込んで、この剣の餌食となるがいいわ!」


「ふっ……甘いな!」


「な、何!?」


 一瞬、何が起きたのか理解出来ていない様子の麗魅。それはそうだろう、彼女の持つ剣が真ん中辺りからポッキリと折れて、刀身の先が宙を舞い、地面に突き刺さったのだ。

 その折れた刀身を見て、麗魅はブルブルと震えている。麻痺でも起こしているのか? その麻痺は、どうやら俺の攻撃によって引き起こしたようだ。相手に相当な衝撃を与えたのが原因かもしれない。麻痺というよりも痙攣に近いか? とにかく今がチャンスだ。

 俺は相手の首元近くを狙い、剣を軽く振るった。その攻撃は誰にも見えていないようだったが、風が巻き起こる感覚はあった。俺が剣を鞘に納めると、麗魅が首から提げていた首飾りが地面に落下した。

 その事に気づき、麗魅が目を見開いて慌てて足元を見やる。


「あっ、首飾りが……!?」


 俺は、麗魅が拾うよりも先にその首飾りを拾い上げた。それを天に掲げ、太陽光を反射させたりしてその輝きをしかと確かめる。


「どうやら瑠璃の言っていた通り、大事な物らしいな」


 まるでこちらが悪役であるかのような口ぶりで、俺はしたり顔をしてみせた。それが酷く癪に障ったのだろう。


「それを返しなさい! 今すぐっ!!」


 麗魅は今までにないような大音量で、声を張り上げ叫んだ。その強い言い方に、思わず一瞬ビクッとしてしまったが、それでも俺は首飾りを返さなかった。すると彼女は、大きく項垂れるように急に頭を下げて(うつむ)くと、不気味なオーラを放出し始めた。その異変に、俺は目を丸くして口を開く。


「な、何だ!?」


「ま、まさか麗魅……ここで"アレ"をするつもりなの!?」


「"アレ"!? "アレ"ってなんなんだ!?」


 何が何だか訳が分からなかった俺は、何か知っている様子の瑠璃に、焦った状態で訊いた。


「わたしは今力を封じ込めてるからこんな格好をしてるけど、実はもう一つの姿が存在するの……」


「もう一つの姿?」


 怪訝な面持ちで俺は首を傾げた。

 瑠璃は頷いて続ける。


「うん……それは麗魅にもあって、多分王族の悪魔とかは皆あるんじゃないかな……」


「み、みんな!?」


 俺は驚愕の声をあげた。

 と、急にさっきまで梅雨の時期特有のジメジメとした生温い風だったのが、一瞬にして冷たくカラッとした乾いた風に変わった。その風はまるで、麗魅の体から吹き出ているようだった。しかも、時が経つにつれて、段々と雲行きが怪しくなり始め、彼女の蜜柑色の髪の毛が、徐々に頭から髪の毛の毛先にかけて、赤い紅色に変化していった。


「ま、まさか封印している力って、悪魔の力のことか!?」


「うん、その通り。本来、わたしたちは別世界で力を使うことはできないんだけど、わたしたちはその決まりを破ることのできる、特別なアクセサリーを持ってるの」


「特別なアクセサリー?」


 俺は瑠璃の服装や髪型など何日も見続けてきたが、今までそのアクセサリーなどを見たことがなかったため、気になって訊ねてみた。


「そんな物どこにあるんだ?」


「あー……ここだよ?」


 そう言って懐からそのアクセサリーを取り出した。


「そんなとこに入れてたのか……ていうか、首から提げてないと意味なくないか?」


「あっ、そっか!!」


 俺の指摘にハッとして、まるで今気付いたかのような反応を示す瑠璃。


――こいつ、本当に麗魅の姉なのか?



 なるほど麗魅の言い分も分からないではないかもしれない。ふと、そんな事を思いながら、相手の様子を窺う。

 麗魅はすっかり変化を遂げ、不気味なオーラを体から漂わせていた。邪悪な魔力が風に乗って俺の体に触れる。もうそろそろ夏だというのに、何故か寒気を感じた。恐らく、相手のあの不気味なオーラがそうさせているのだろう。

 俺は麗魅から奪った首飾りを片手に持ったまま強く拳を握った。


「私を怒らせるとどうなるか、その身に味わわせてあげるわ!!」


 言うや否や赤い瞳を輝かせて空高く飛び上がり、麗魅が悪魔のような黒い羽根を広げた。羽根は彼女の体格よりも一回り大きく、黒い尻尾は太いコードのようにくねくねと曲がり、その先端部分は鋭利に尖っていた。あんなもので串刺しにされたらひとたまりもないだろう。

 ふと麗魅のいる頭上を見上げようとしたが、生憎と今日は快晴のため、太陽の眩い日差しが邪魔して見ることが出来なかった。慌てて腕で顔を覆い、日差しを遮る。


――それにしても暑い……。何なんだこの異常な暑さは。俺を殺す気か?



 細目で太陽を睨みつけ、内心文句を言う。まぁ、文句を言った所で太陽が「ごめんね? 温度を低くするから許してね☆」なんて茶目っ気な口調で謝罪の言葉を言うわけではない。

 と、そんな他愛もないことを考えていると、いつの間にか空中にいたはずの麗魅が俺の眼前に迫っていた。


「余裕ぶっこいてんじゃないわよ!!」


 麗魅は俺がどこか上の空だったのに勘づいたのだろう。指を真っ直ぐに伸ばし、その手自体を鋭利な武器のようにして俺の腹を突き刺した。



ズブシュッ!! ブシュゥゥゥゥゥゥウウウウッ!!!



「う゛っ、ぐはぁッ!!?」


 驚愕した。まさか手で人の腹を貫けるとは思ってもみなかったのだ。まぁ、目の前の敵は一見人間のような外見をしているが、実際は人間ではないのだが。

 俺は口から血を流しながら、視線を下におろした。麗魅の真っ白な手が俺の腹に突き刺さり、その手に返り血が付いているのが見える。そう、これは冗談なんかじゃない、現実なのだ。傍から見れば、麗魅の手は俺の腹を突き抜け、背中側から彼女の手と指先が見えるだろう。それも真っ赤な血がべっとりついた手が。

 ほくそ笑んだ麗魅が口を開く。


「……これで分かったでしょ? あんたと私の力の差って物が……」


「う゛ぅッ……ぐっ……!」


 言い返してやろうと震える口を動かすが、痛みが強すぎてそれどころではなかった。


「さぁ、早く首飾りを返しなさい!」


 突き刺している手とは反対の手の平を俺に突き出し、返却の催促をしてくる麗魅。

 俺ははぁはぁと荒い息遣いで睨みつけた。精いっぱいの抵抗だった。

 と、ふと麗魅の口元に視線が移った。勝利を確信したかのような笑みを浮かべるその歯の中に、鋭く尖った牙が見えた。


「さぁ、覚悟しなさい! これで終わりよ!!」


 そう言って俺の腹から手を抜き取ると、血の付いた状態の手で頭を鷲掴みにしてきた。


「あぁ、ぐぅうぅあぁああ!!!!」


 俺は堪らず激痛に叫び声をあげた。その小柄な体躯のどこにこんな力があるのかという程の凄まじい握力。頭蓋骨が割れてしまうのではないかという危機感を抱いてしまうくらい、とてつもない物理的な頭痛が俺を襲う。


「きょ、響史!!」


 瑠璃が俺に駆け寄ろうとするが、それに気付いた麗魅が尻尾を巧みに利用して行く手を阻んだ。


「ふふふっ……お姉様には邪魔されたくないからねぇ~。しばらくそこで大人しくしていてもらおうかしら?」


「くっ!!」


 瑠璃は悔しそうに下唇を噛み締めた。

 俺は朦朧とする意識と頭に走る激痛でいっぱいだった。しかし、こうしている間にも、麗魅は女とは思えないほどの握力を用いて、俺の頭のこめかみ付近を強く押さえつけてくる。さっきとは桁違いの激痛が走った。


「うぐっ! う、ぐぅううぅうあああああッ!!!!」


「響史ぃぃぃぃぃっ!!!」


 瑠璃が叫んだその瞬間、奇跡とも思えるような出来事が起こった。まるで彼女の声に呼応したかのように俺の剣が光り輝き、物凄い衝撃波を放ったのだ。しかもそれは麗魅だけを対象としていたようで、彼女だけを遠くへ吹き飛ばした。あまりにも突然の事で防御態勢を取る事も出来ず、麗魅はそのまま公園の遊具に背中を強く打ちつけた。


「ぐはっ!!」


「やった!?」


 思わず瑠璃が歓喜の声をあげるが、そう簡単には倒れてはくれないようで、麗魅が動き出す。


「くっ、油断した……。まさか、まだそんな技を隠し持っていたなんて……」


 歳をとった老婆のように背中をさすり、麗魅はゆっくり立ち上がった。


「だけど、そっちがその気なら、こっちだって!」


 そう言って右手と左手の間に僅かな隙間を開け、麗魅がそこに気を溜め始める。その大きさはあっという間にこの公園の敷地の半分くらいになった。


「な、ななな……何なんだ!!? この大きさは!?」


 そのあまりの大きさに圧倒され、俺は数歩後ろへ後ずさった。


「麗魅、やめて!! この街を吹き飛ばす気!?」


「こんなくだらない争いで私が人間に負けるくらいなら、全てを破壊して終わりにする方がマシよ!!!!」


 麗魅はあまりに無茶苦茶な理論を叫び、瑠璃が止めるのも無視して超圧縮エネルギー弾を一気にこちらへ向けて発射してきた。

 凄まじいパワーを持ったその高エネルギー弾は、俺に近づくにつれてどんどんそのスピードと威力を高めている。


「くっ!」


 俺は聖剣を構え、エネルギー弾に対抗した。聖剣でエネルギー弾を受け止めるが、腹部に穴が空いてるせいで上手く踏ん張る事が出来ない。このままでは腕を持ってかれるどころか、五体満足ではいられないだろう。

 だが、ここで諦める訳にはいかない。歯を食いしばり、まるで野球選手が打つホームランのように、聖剣の力をふんだんに使用してエネルギー弾を跳ね返し、恐らく俺の負ける瞬間を上空で見届けようとしていたであろう麗魅に直撃させた。



ドッガァァァァァァァァァアアアアアン!!!!!!!!!!!!!!!!



「っぐがぁああ!!!」



ドサッ!!



 麗魅は宙を回転しながら墜落した。その様子はまるで、ジェット機が操作不能になって墜落するようだった。その黒い翼は、爆発の影響により燃えていた。赤い炎が不気味に揺らめき、彼女が横たわっている周りにも、何か所か焼け焦げた跡が残っていた。

 と、その時、ピクッと指が動き、麗魅が動き始めた。驚いたな、まだ動けるのか。


「うっ……、まさかこの私が自分の技にやられるなんて……。誤算だったわ……」


「残念だったな。今度こそ覚悟を決めて負けを認めてもらおうか?」


「くっ、お断りよ! そんなことするくらいなら……っくう!」


 麗魅は何かを考え付いたのか、足をガクガク震わせながらその場にゆっくりと立ち上がると、傍に落ちていた木の棒を杖代わりにして側の蛍川(ほたるがわ)に近寄り、川を背にしてこっちを向いた。


「な、何をするつもりだ!?」


 俺は嫌な予感がして、麗魅に近づこうと一歩踏み出した。途端、大きな声で麗魅が叫んだ。


「来ないで!!」


「な、何だよ……」


 俺は少しビクッとして委縮し、ついつい小声になってしまった。


「もう、これ以上……私の邪魔をしないで……好きにさせてよ。私だって、本当はお姉様の邪魔なんてしたくないのよ。……だけど、お父様の言う事を聞かないと、私が殺される……」


「まさか……お前も澪みたいに何か刺青(いれずみ)入れられてるのか?」


「――っ!?」


 俺の言葉に、麗魅は絶句して目を見開いた。


「ど、どうしてあんたが知ってるの!?」


「澪の胸に刻まれてたんだよ、蠍の紋(スコーピオン・スペル)っていう死の刻印がな……」


「……そう。でも、例えそうだったとしても、一度つけられれば無意味だからね……そうなれば、死ぬしか道はない……」


 麗魅はそう言って剣を両手で持ち、刃先を自身の喉元に突き付けた。それを見た瑠璃が察したように叫んだ。


「やめて麗魅! まさか、あなた死ぬ気!?」


「なんだと!?」


 焦燥感に駆られた様子で、緊迫したような表情を浮かべる瑠璃。いつにないその顔つきに冗談ではないのだと、彼女に向けていた視線を改めて麗魅へと戻す。


「ふふっ……これ以上、苦しむぐらいなら……楽になる方がいいわ。それに、ここで死ねば……お姉様の邪魔をする奴はいなくなるわよ? ……嬉しい、でしょ……?」


「そ、そんなことない! 妹が死ぬのを放っておけるわけないじゃん!! ねぇ! 響史からもなにか言ってよ!!」


 瑠璃に腕を強く揺さぶられ、何か麗魅を止めるような言葉をかけようとしたが、その言葉が俺の喉を通って口に出ることはなかった。何故か、口にしようとする言葉が口に出る前にどこかへ消えてしまうのだ。しかし、それでも俺は頑張ってその言葉を紡ぎ出した。


「……お、お前の本当にしたいことは……何なんだ?」


「……えっ?」


 たどたどしい俺の台詞を耳にして、麗魅が俯けていた顔をあげた。その目には涙を浮かべていて、拍子抜けのような顔をしている。直後、頬や鼻を真っ赤にして、俺に何かを訴えかけるような目をしてきた。それを見た俺は、一瞬目線を下に逸らしてしまった。

 麗魅が口を開いた。


「そうね……。お姉様みたいに……好きなこと、やりたかったな……。こんな風に、明るい陽の下で……元気に友達と遊び回りたかった、わよ……。だけど、今更そんなこと……できない。一度受けた呪いは、決して消えることは、ない……」


 俺は口をぎゅっと閉じて俯いた。さっきよりもさらに強く拳を握りしめ、頭の中であることを考える。


――大魔王……。お前は、例え自分の娘だろうとこんなことをするのか!? くっ……!



 考え事をする中で、人間に生まれてよかったなと思った。そう、自分を瑠璃達の立場に置き換えて考えたのだ。しかし、そんなことをしている間に何かが吹っ切れたのだろう。麗魅は剣の照準を自分の喉ではなく腹に変え、両手で持ったその剣で勢いよく刺し貫いた。


「うっ!!!?」


 剣を刺した瞬間、魔力を失ったのか、一気に髪の毛の色が紅色から蜜柑色に戻り、瞳も元の色に戻っていく。


「……さよなら、お姉様。……今度、生まれ変わる時には……人間……に、なっ……て――」


 眼尻から一筋の涙を流した麗魅は、よろめいてクルリと方向を変えると、バランスを崩して蛍川に落ちた。



バシャーン!!



 水柱があがり、水の波紋が綺麗な円を描いて水面に広がった。少し遅れて、少し淀んだ赤い血が水中から水面へとあがりながら広がっていく。


「麗魅ぃぃぃぃぃぃっ!!!」


 麗魅が落下した地点近くに駆け付け、瑠璃は必死に双子の妹の名前を叫んだ。俺もすぐさま傍に駆け寄るが、麗魅の姿はない。


「くっ!?」


「響史! ねぇ、まだ間に合うよ! 麗魅を、麗魅を助けて! お願い!!!」


 瑠璃の悲痛な訴え。例え敵対していたとしても、血を分けた姉妹だ。そりゃあ必死にもなろうというものだ。俺にだって姉弟がいる。彼女の気持ちは痛いほど分かる。


「分かった……」


 俺はこくりと頷くと、ストレッチをして準備を整えた。もちろん時間はないので、少し短縮気味に。

 不思議な物で、身体の中心に穴が空いているにもかかわらず、俺は意識を保てていた。痛みはあるが、アドレナリンのおかげだろうか、今はそれよりも瑠璃の必死なお願いを叶えてあげたい気持ちの方が強かった。

 と、俺は麗魅を川から引き上げた時の事を考えて、瑠璃に言った。


「そうだ、念のために霊達呼んできてくれ!!」


「うん、わかった! 待ってて!」


 瑠璃は眉毛をキリッと上げ、真剣な面持ちで返事をした。腕をグーにして首を大きく縦に振ると、俺の家に走って行った。その姿を見届けた俺は、ふ~っと深呼吸をして川へと飛び込んだ。



ザッパァァァンッ!!



「……ぷは~っ!! ……くっ、あいつ……どこにいるんだ!?」


 す~っと深く息を吸って口に酸素を大量に含み、潜水を開始する。この川は普通の川とは違い案外底が深く、何年も前に二才くらいの幼児が溺れ死んだという報告も受けている。すると、キラリと何かが光るのが見えた。そう、麗魅の着けている腕輪だ。どうやら瑠璃と同じように腕輪をしていたようだ。そのおかげで、俺は案外早く見つけることが出来た。もしも天気が曇っていたりして陽の光が差し込んでなかったら、ここまで早く見つけることは容易ではなかっただろう。こればかりは天気が快晴で良かったと、太陽に感謝だ。

 バタ足をしながら手で水をかき分け、麗魅に近づく。お腹からは、俺同様大量の血が溢れだしていた。ただ出血量は、穴が空いている俺と違って刺さっている状態のため、麗魅の方が少なかった。


――おい、麗魅! しっかりしろ!!!



 聞こえる訳はないが、念を送るように麗魅の体を優しく揺さぶった。しかし、完全に意識を失っている麗魅は、固く目を瞑ったまま一向に目を覚まさない。


――どうする?



 俺はすっかり参ってしまった。




――☆★☆――




 その頃、麗魅の心の中……。

 水の中を浮遊し、プカプカと浮かんでいる麗魅の体。蜜柑色の髪の毛がユラユラと揺れ、肌を太陽の光が明るく照らす。


――あれ? ここは、どこだろう……。私、死んだの? だけどそうなると、ここは……地獄かな?

天国かな? あれ? でも、悪魔って死んだらどうなるんだろう……。



 目を閉じたまま、麗魅はそんなことを考えていた。


――だけど、そんなこともうどうでもいいか……。元々生まれ変わりたくて死んだんだし……。死んだなら死んだで、別に後悔することも……。



 瞬間、麗魅の脳内を走馬灯が駆け巡った。様々な記憶が想起され、麗魅の決心を揺らがせる。


――お姉様……。私は……私は昔からそうだった。お姉様が好きな事をやって、私はいつもそれを指を咥えて羨ましそうに眺めているだけ……。だから私は、あなたがすごく憧れの人だった。でも、そんなあなたがある日消えた。そう、修行に出ていて私が目を離した隙に……。それも、私が夢見ていた人間界に……。だから私は、お父様にお姉様を連れ帰ると嘘を吐いて人間界に来た。本当は少し下見するだけで終わらせるはずだった。そのはずだったのに……。私はいつの間にかここにずっといたいって思うようになってた。どうして? どうして、こんな感情が出てくるの? 私は修行してこんな気持ちを全て捨ててきたはずなのに! どうして、お姉様と戦ってたの? 戦おうだなんて、思ってなかったのに。気づいたら、感情が支配されてて……。



 麗魅は心の中で全てを暴露した。一人ぼっちのこの寂しい空間で。




 響史は麗魅の体を抱え上げ、そのまま水面に飛び出した。コンクリートで固められた堤防の壁に近寄り、そこにしがみつく。後は、瑠璃が他の護衛役を連れてくるのを待つだけだ。


「瑠璃~! まだか~!!」


 ここからでは上の様子が窺えない。響史は思わず待ちきれずに名前を叫んだ。


(あれ、何だろう? 何か声がする。そういえば、さっきまで聞こえていた水の音がなくなった。なんだか、耳元で何かが聞こえる。これは、あいつの声?)


 朧気な感覚の中、微睡に揺られながら麗魅は響史の声を耳にしていた。


「響史~!! ごめん、遅れちゃった!! 今、ロープ投げるから!!」


 ようやく、瑠璃が霊を含めた護衛役を連れて戻ってきた。


「おう、サンキュー!!」


 上から降ってきたロープの縄をしっかり受け取り、お礼の言葉を口にする。

 それから響史は、自分と麗魅の体にロープを結びつけた。


「掴まった?」


 瑠璃の確認の声が聞こえる。


「ああ! 引き上げてくれ!!」


 そう言ってロープをギュッギュッと引っ張って合図を送る。


「おっけ~! じゃあいくよ! 引いて!!!」


『うおおぉおりゃあ!!!』


 瑠璃と護衛役は、全員で力を合わせて響史と麗魅の二人を引き上げた。


――女だけなのに、凄い力だな。



 響史は改めて魔界の少女達の強さを再認識した。


「はぁはぁ……」


 護衛役や瑠璃のおかげで何とか蛍川から這い上がることに成功した響史は、草の生えた地面に手をつき呼吸を整えた。銀色の髪の毛からスタスタと水の滴が落ちる。


「あれ?」


 何かに気づいた様子の瑠璃の声に、響史がふと振り返る。


「どうかしたのか?」


「れ、麗魅が息をしてない!!」


「何!?」


 それを聞いた響史は、急いで麗魅に駆け寄り、脈を測ったり心臓の鼓動音を確認した。


――確かに聞こえない。まさか手遅れだったのか? いや、そんなはずない! いや、信じたくなかっただけなのかもしれない。



 悲しそうにこちらを見る瑠璃に、何とかしてやろうという気持ちが沸き起こった響史は、麗魅の心臓辺りに両手を重ねて置き、心臓マッサージをした。


「ちょ、ちょっと響史! 何やってるの!?」


「心臓マッサージ! 麗魅を死なせたくないんだろ!?」


「う、うん!」


 瑠璃は少し涙目で頷いた。響史は自分の少々荒い息遣いに合わせて心臓マッサージを繰り返した。それから麗魅の顎に手を当て、少し頭を上げるようにして人工呼吸をした。


「響史!? 貴様何をしてるのだ!?」


 瑠璃に続いて、今度は霄が驚いた様子で声をあげる。しかし、それも無理はない。確かに、意識のない魔界の姫君に突然口づけなど、何も知らない人間が見たら慌てふためいてもおかしくはない。


「人工呼吸だよ! 体内に酸素を送り込むんだ!」


 一応後で色々とやかく言われても面倒なので、ここで弁明するように響史は説明した。

 と、響史は霄の少し後ろで不安そうに胸元に手を添えてこちらを見守っている霊に視線が行った。


「……そうだ! 霊、麗魅の傷を治してくれないか? あ、あとついでに俺の傷も治してもらえると助かる」


「わ、わかった!!」


 目が合ったかと思えばいきなり大役を任せられた霊は、突然の事に少し焦りながらも返事をした。

 それから、霊が二人の傷口を塞いでいる間に、響史は人工呼吸を続けた。


(何? 体が揺さぶられている……。静かにしてよ……もう。もう自由にさせてよ……何なの? さっきからうるさいわね……これじゃあ、ろくに死ねないじゃな、ぃ――)


 麗魅の微睡む意識が段々とはっきりしていき、たゆたっていた体に自由が戻ってくる。そして、ようやく意識が覚醒した。ただ――。


「――……うっ。うぅっ………ん?」


 響史は思った。よりにもよってこのタイミングで起きるとは、最悪だと。


「んぐっ!?」


「うぅっ!!?」


 そう、丁度響史が人工呼吸をするために、麗魅の口に酸素を送り込んでいる最中に目を覚ましたのだ。


「……う、うぅう、いぃいいぃっいいややぁああああ!!!!!!」



バシンッ!!!



「うぶべらっ!!!」


 響史は麗魅に思いっきり頬を叩かれた。


「……いってえな!! 何すんだよ!!」


挿絵(By みてみん)


「それはこっちのセリフよ!! 人が気絶してるのに何キスしてるわけ!? マジ信じらんない!! ありえないんだけど!!!」


「てめぇ、助けてやったのにその言い方はねぇだろ!?」


 目を覚ました途端この剣幕である。頑張って助けたというのに、この仕打ち。流石の響史もこればかりは怒りを露わにして文句を言わずにはいられなかった。

 しかし、それに対してさらに怒りを強めて麗魅は叫び声をあげた。


「ふざけないで! 人のファーストキス奪っといて何言ってんの!?」


 血管が切れるのではないかという程顔を真っ赤にして、麗魅は響史に強め寄った。そんな怪我人二人に割り入って、瑠璃が宥めるように声をあげた。


「まぁまぁふたりとも落ち着いて? それに響史だって、一生懸命麗魅を助けようとしてくれんだよ? ありがとうってお礼くらい言わないと……」


「お姉様……相変わらず甘いわ。そんなんじゃ、こういう変態にいつ騙されるかわかったもんじゃない! ……もういい! 私、死ぬのやめた。なんだかアホらしくなったもん……。それに、お姉様の事も心配だし。だから私、あんたの家に居候させてもらうわね!」


「……えっ!? ……え、えええええええええええええええ!!!!!?」


 響史はいつの間にか話に流されていた。確かに今までもこのような流れで魔界の人間を居候させてきた。しかし、今回は少しばかり勝手が違う。そう、護衛役ではなく魔界の姫君なのだ。それも二人目。こんなことあってはならない。姫が一人ならまだしも、二人。信じられない。普通の人間なら大喜びするはずだが、生憎と相手は人間ではなく天使と悪魔のハーフ。まぁ、見た目は人間みたいだが。


「……何よ、ダメなの?」


 不服そうな顔で響史を睨めつける麗魅。


「い、いや……別にそんなことはないが……」


 人差し指で右の頬を掻いた響史は、麗魅に視線を合わせないようにした。

 と、麗魅がふと自分の胸元を見た。


「……あれ? 私の胸についてたあの刻印は?」


「あれか? あれなら取ったさ……」


「と、取ったって……普通取れないんじゃないの!?」


 あまりにあっけらかんと響史が当たり前のように口にするため、麗魅は驚いて目を丸くした。


「ふっ!」


 響史は得意気に鼻で笑い、聖剣を麗魅の目の前に見せつけた。


「この聖剣は特別でな、これで貫けば刻印を取り除くことが出来るのさ!」


「うそーーーっ!!? その剣って、そんな力が秘められてたの!?」


 麗魅は信じられないという顔をした。聖剣自体は知っていたようだが、その力の全容までは知らなかったようだ。


「とにかく、詳しいことは家で話そうぜ?」


「そうね……」


 響史の一言に麗魅が頷き、一行は神童家へと戻るのだった。




――☆★☆――

というわけで、今回は少し長めの話になったので二話構成にしました。今回は前回に引き続き、魔界からやってきた澪と麗魅との戦闘の続きで麗魅との戦いです。にしても、何度も戦いの舞台になってしまう光影中央公園。意外にも子供達が遊んでいないのが不思議です。

とまぁそんなわけで、内なる感情を吐き出しさらには自殺まで行ってしまう麗魅。

しかし、そこはなんとか響史達のおかげで助かりました。そして、ついには二人目の姫君までもが響史の家に居候することとなってしまいました。果てさてここから先どうなっていくのか……。

次回は食べ逃した昼ごはんのメニューをそのまま晩御飯のメニューに変え、みんなで協力して作る話です。バトルはこのページで終了です。

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