第十七話「編入テスト」・2
新キャラ五人ほど登場です。
「……大丈夫だ、安心しろ零。……すぐに馴染めるさ」
「……そ、そうですね」
零も少し気が楽になったのか、少し頬を緩ませた。
だんだん空気も和んできたところで、俺はそろそろ寝ようかと思った。
と、その時、いきなり俺の服の裾を、ルリがくいくいっと引っ張った。
「ん、どうした?」
「その……大丈夫かな?」
あれだけ勉強していたとはいえ、やはり不安な面もあるのだろう。俺はやれるだけの事はやったんだと、優しくルリの肩に手を置き激励の言葉を送った。
「大丈夫さ、自分に自信を持てって!」
「そ、そうだよね……」
ルリは少し胸を撫で下ろしながら床にペタンと座った。
俺は改めて時間を確認し、明日は早く起きるために早めに寝ようと、皆に言った。
「なぁ、俺そろそろ寝るけど、お前ら寝ないのか?」
「ん~! 確かに、そろそろ寝た方がいいかもね~」
霊が大きく伸びをした後、少し眠たそうに眼をトロンとさせながら言った。
「お姉様が寝るなら、私も寝ますわ!!」
相変わらず霊が大好きな霰。全く世話の焼ける奴だ。霊も俺と同じで、苦労人なんだな……。
「じゃあ、テレビ消してくれ!」
「しょうがありませんわね!」
テレビに一番近い場所にいた霰が、膝を突いて四つんばいの状態で歩き、テレビの電源を消すと、ゆっくり立ち上がった。
「じゃ、先に上がってるから、パジャマに着替えて後で来いよ?」
「分かった」
俺は四人の護衛役と一人の悪魔のお姫様をリビングに残し、先に洗面所に行ってパジャマを手に取ると、それに着替えてから二階の階段を一段一段確かめるように踏みしめて、ゆっくり上がっていった。
時刻は夜の九時。良い子はもう寝る時間帯だ。だが、今日の俺達もまた、早めに寝る。別に俺がテストを受けたわけでもないのに、何故か胸が張り裂けそうなくらい緊張して胸がドキドキしている。
心臓の鼓動が早くなるのが聞こえる。そのせいもあるのか、はたまた五人の悪魔の美少女に囲まれているせいなのか、凄く体が熱い。すると、俺の体に密着していたルリが、少しクスクス笑いながら俺に言った。
「響史……凄くドクドク聞こえるよ? 緊張……してるの?」
「……まぁな。おかしいよな、別に自分がどうなるって訳でもないのに……」
「ううん、そんなことないよ。皆の事が心配なんだよね? 優しいね、響史は……」
ルリの言葉に、俺は少し照れくさそうに鼻を指で触った。
次の日の朝。早めに寝たおかげか、今日はいつもよりも寝覚めがいい。
腕を上に上げピンと伸ばす。両側には、いつものようにルリ達悪魔が寝ている。周りからすれば、ただの女の子が寝ているだけのように見えるが、こいつらは一応悪魔だ。
全く、いつもの俺ならば、この大きな枕も、このふかふかのベッドも贅沢に独り占めできるのに、今では俺と五人――合計で六人が、この一人用のベッドで一緒に寝ているもんだからたまらない。どうしたもんか……。
こいつらには、よく弟や姉ちゃんのベッドで寝るように言っているのだが、どうしても言うことを聞いてくれない。
そんなにも俺のベッドがいいのか……?
よく、夜に動く生き物は日差しをあまり好まないというが、こいつらは日差しに当たっても至って平気でいる。
天使と悪魔の子供だからか? だがそうなると、水連寺一族の霄達はどうなるんだ? とまぁ、そんなことは今はどうでもいい。
時刻は朝の七時。いつもなら、七時半に起きてルリ達を叩き起こすか、自分が起こされるかしてリビングに行き、行儀が悪い事は承知の上で食パンを口に咥え、カバンを肩に背負って走って学校に登校するのだが、今日はそんな慌しい行動は取らなくても平気だ。
よく話に聞く“早起きは三文の徳”とはこのことだ。だが、今の俺にはまだ一つしかいいことがない。
これから残り二つが来るのだろうか?
気付くと、時刻は七時十分。
少し考え事が長すぎたか? そろそろルリ達を起こし始めないと、また間に合わなくなるな……。
俺はとりあえず、一番起こすのに手間のかからなそうなルリから起こすことにし、彼女の肩を優しく揺さぶった。
「んんっ……」
少し眉毛を動かし不機嫌そうな声を上げる。しかし、そんなことを言われたって、急がないといけないのは変わらない。俺は強行手段に移った。さっきよりも少し強く揺さぶる。すると、顔に似合わずの馬鹿力を用い、俺を突き飛ばしてきた。
「うわぁぁああああっ!!」
ドンっ!!
「イテテテ……」
部屋が狭いため、思わず俺は押入れの扉に腰をぶつけてしまい、腰の辺りを擦りながら手をついて体を支えるハメになった。
「……ったく、何すんだよ!」
鈍い痛みに堪らず文句の声が出る。すると、先ほどの衝突音に目が覚めたのか、ようやく皆が目覚めた。まったく、苦労人も大変だ。
「さぁ、お前ら早く起きろよ? 急がないと、また昨日みたいにギリギリになるぞ?」
「う~ん……」
まだ眠そうに目を擦る面々。
下に降りてリビングに行くと、俺は朝一番の牛乳を飲もうと冷蔵庫のある台所に向かった。しかし、その途中で俺は嫌な物を見てしまった。食器を洗ったりするシンクの洗い場が、大量の汚れた皿の山で溢れ返っていたのだ。
「こいつは……。ここ最近忙しくて皿洗いを後回しにしてたからなぁ。仕方がない、今度の休みに全部まとめて洗うか……」
ったく、どうせならこいつらも手伝ってくれたらいいのに……。
そんなことを思いながら、俺はルリ達を見た。まだ眠たそうに眼を瞑ったまま椅子に座って、テーブルの上に置かれた皿の上にある美味しそうなパンを食べている。
俺は牛乳を透明のコップに注ぐと、それを片手に、空いている席の椅子に座って牛乳をゴクゴク飲んだ。
「プハ~ッ! やっぱり朝一の牛乳は格別だなぁ~!」
俺がテーブルにコップを強く叩きつけるように置いて言っていると、そんな俺の様子をじ~っと眺める零の姿があった。
「な、何だよ……。何か俺の顔についてるか?」
「いえ、何でもありません……ただ――」
「ただ?」
首を傾げ聞き返すと、零は俺と眼を合わせながら色白な指で自分の上唇辺りを指した。
「ここ……牛乳特有の白い膜がついてますよ?」
「あっ、ヤベッ!!」
零にそう指摘され、俺は咄嗟に腕で拭った。
「サンキュウ、零。おかげで学園で恥をかかずにすんだよ……」
「いえ……」
「全く、本当に優しいな零は。私なら、そのままほったらかしにして学園で恥をかかせてやったのに……」
霄が、既にバターが塗られて焼かれた状態の食パンを食べながら言った。
その時のバリバリッ!という、何とも食パンの耳ならではの独特の音が、何とも言えない食欲をそそる。
「あのな……たまにはお前も零みたいに俺に気を遣えないのか?」
「響史に気を遣う必要など――無いっ!」
「あっ、そうですか……」
語気を強めてハッキリキッパリ言い放つ霄に、俺は少し悲しくなってガックリと肩を落としながら言った。
時刻はそろそろ七時三十分。
「じゃ、腹もいっぱいになったことだし、そろそろ学園に行くか。テストの答案用紙はちゃんと持ったか?」
大丈夫だろうが、一応皆に確認しておく。
「もっちろん……ちゃんと持ってるよ?」
「落とさずにな」
俺はリビングを出て玄関に向かった。鍵を片手に持ち、革靴を履く。
基本光影学園に靴の指定は無いが、俺は両親に言われ、仕方なく革靴を履いていくことにしている。
未だに壊れたままの玄関ドアを開けると、明るいを超えて眩しいくらいの日差しが、一瞬俺の視界を奪った。
「眩しッ!?」
目を瞑り、腕で日差しを遮る。
俺は全員が家の中から出たことを確認すると、玄関扉を閉め鍵をかける。ここで、少しばかり鍵をかけるためにコツがいる。何しろ、姉の唯が少し前に玄関扉を壊してしまったため、鍵穴が歪んでしまったようなのだ。玄関扉を直すにしても、二階の屋根(俺の部屋のみ)を直すにしても金がいる。全く、手痛い出費だ……。
「そういえば響史……」
ルリが急に俺の名前を呼んだ。
「ん、どうかしたのか?」
「いや……その、あの校長が出してた条件の一つ目でお金の話なんだけど、ちゃんと用意出来たの?」
「ああ、その件なら大丈夫だ……」
「えっ?」
驚くのも無理ない。俺の家は、見た感じボロいとも豪華とも言えない、ごく普通の家だからというのもあるが、何よりも両親が出稼ぎに行っていたり、壊れた場所をそのまま放置という理由もある。
だが、俺にはお金を用意する方法があるのだ。まだ紹介していなかったが、俺には爺ちゃんがいる。名前は『神童 豪佑』……。この光影都市では凄く有名な、五つのテーマパークを作り出したという『バブルドリームカンパニー』の社長だ。そう、要するに俺は、その社長の孫ということだ。ちなみに、俺の父親『神童 響祐』がその息子。本当は、爺ちゃんが俺の家のローンも全額負担してくれるという、まさに鶴の一声を言ってくれていたのだが、俺の両親が迷惑かけるわけにはいかないと言って、全てを自分達で負担したのだ。
だが、実際にはそれも今ではもう限界に達している。しかも、少し前にその爺ちゃんから
「もしも困ったことがあったり、金がなくなったりした時には、わしに言ってくれ!」
と言っていた。
まさに、今がその時――。
俺はさっそくスマホをカバンから取り出し、電話をかけた。
――☆★☆――
ここは、光影都市黄昏区にあるバブルドリームカンパニーの最上階。その部屋は凄く広く、壁の色は黒一色だった。豪華な装飾をされたシャンデリアが、天井からぶら下がっている。地面は交互に色が異なる大理石のタイルがずら~っと敷き詰められていた。
その部屋の窓側に置かれた、デスクと高級そうな黒い椅子。そこには、一人の白髪頭の老人が片目にメガネをかけ、腕置きの部分に腕を置き何かをしている。
そう、彼こそが響史の祖父『神童 豪佑』だ。また、その両隣にいる四人の少女は、響史の従姉妹で、端から一番年上で赤っぽい茶髪が特徴の女性が『東條 茜』。その隣にいる、髪の毛が少し紺に近い黒髪の少女が『西城 燈』。反対側に回って、後ろ側にいる背の一番低い子供が『南篠 奈緒』。その手前にいる、毛先にウェーブをかけて縦ロールにしている少女が『北条 姫歌』。
この四人が、響史の従姉妹だ。
では何故豪佑と一緒にいるのかというと、豪佑が一人は寂しいということ、とある理由により四人が休学していること、また、豪佑があまりにも子供っぽく、ゲームが大の好き……。そのため、こうして毎日会社を訪れては豪佑とゲームをしているのである。
と、そこへ一本の電話……。
〈もしもし?〉
「おお~、響史じゃないか……久しぶりじゃな。今日はどうかしたのか?」
豪佑が真っ白な顎鬚をいじりながら用件を訊ねる。
「お爺ちゃん、誰?」
響史の従姉妹の中で最年少である奈緒が首を傾げて豪佑に訊くと、彼はにっこり笑みを浮かべて答えた。
「ああ、響史じゃよ!」
〈どうかしたのか?〉
「いや、こっちの話じゃ! それで、用件は何じゃ?」
〈ああ……実は、金が急に必要になって〉
響史は少し遠回りに言った。
「金って……あんたまさか、何かヤバいことに首突っ込んでるんじゃないでしょうね?」
急に声が老人から若い少女の声に変わったため、響史は慌ててツッコむ。
〈んなわけあるか! っていうか、何で燈が喋ってるんだよ!!〉
「仕方ないでしょ? 今、爺ちゃん姉ちゃんと一緒にゲームしてんだから!!」
指で自分の横髪をクルクルといじりながら、響史に言い返す燈。
〈おいおい勘弁してくれよ! 大事な用があるのに……〉
「……そんなに大事な用なら、私が聞くけど?」
気を利かしてくれたのか、燈は響史にそう訊ねた。
〈……まぁ、燈でいいか〉
「なっ、どういう意味よ!? 失礼ね! 今すぐにでもこの電話を壊してもいいのよ!?」
電話越しの響史の言葉に怒りを覚えた燈は、思わず力んで受話器を握った。
「いや、壊されるのは困るんじゃが……」
ゲームをしながら困り顔の豪佑。
「いいから、爺ちゃんはさっさとそのゲーム終わらせて!!」
「ガ~ン!! ぬぉぉぉおおお~ん、茜~! 燈がわしを苛めるぅ~!」
「もうっ、燈ちゃん。お爺ちゃん苛めたらダメでしょう?」
茜が、人差し指でメッと従妹の燈を諭した。
「ご、ごめんなさい……」
ショボンとなる燈。すると、響史がすかさず言う。
〈ヘヘッ、怒られてやんの!!〉
「あんた、今すぐこっちに来なさい! あの世送りにしてあげるから!!」
完全にブチ切れた燈が、怒りのオーラを体に纏わせて受話器に向かって叫ぶ。
〈冗談だよ、冗談。じゃあ、用件言うから……〉
響史はこれ以上冗談を言っていると、本当に燈にあの世送りにされるかもと思い、さっさと用件を話した。
「……うん、……うん。……分かった」
響史からの用件を確認し終えた燈は、通話を切って受話器を元の場所に戻した。
その動作で電話が終わったのだと思った茜が、おんおん泣きじゃくっていた豪佑を膝枕して頭を撫でてあやしながら口を開く。
「きょ~ちゃん何て?」
「よく分かんないけど、お金がいるんだって……。二百万程――」
「二百万じゃと!? ………何じゃそんなもんか。それぐらいなら、すぐに用意出来るぞ? ちとタイムじゃ!!」
最初は驚愕する豪佑だったが、金額が幾らかを頭の中で反芻して急に冷静になった。
それからゲームのスタートボタンを押してゲームを一時停止すると、自分の肖像画が描かれた額縁を取り外し、側に置いて執事を呼んだ。
「はっ、何か御用でしょうか?」
「うむ、すまんが肩車してくれぬか?」
「は、はぁ……かしこまりました」
訝しげに了承した執事は、豪佑を肩車した。高さがあがり、そのまま奥の壁をタッチする。
すると、今度は壁が少しずつ縦横にスライドし、少しばかり大きな金庫が姿を現した。その金庫の鍵を一つ一つ丁寧に外していく豪佑と、それをじ~っと眺める従姉妹達。
と、その時、イタズラ好きな茜が、豪佑が一時停止していたゲームのコントローラーをこっそり触って一時停止を解除した。
「あっ、茜お姉ちゃん。それ、じいちゃんが一時停止してたから触っちゃ――ムグッ!?」
「し~っ……!」
――まったく、貴女方は何をやってるんです?
茜と奈緒の少し遠慮がちに小突きあっている姿を、馬鹿馬鹿しいといった表情で見つめる姫歌。
そんなことをしている間に、豪佑はさっさと金庫を開け目的の二百万を取り出し終えて、金庫に鍵をかけている状態だった。
「もう終わったの?」
奈緒が少し驚いた様な口調で聞いた。
「ああ……もう終わったとも。後は、この金を響史に届けるだけなんじゃが、誰に行かせようか……」
「はいはい、奈緒行く奈緒行く!! 」
「うぅ~む、奈緒に任せたいのは山々なんじゃが、何しろここ最近は物騒じゃからな……」
天真爛漫な笑顔を向けられ思わず表情が緩む豪佑だが、すんでのところで思い留まり顎髭を撫でて渋った。
「だったら私が行くわ!」
思案を巡らす豪佑の下へ歩み寄り名乗りを上げたのは、強気な性格が印象的な燈だった。その額には、少々年季の入った鉢巻をしている。
「お~行ってくれるか! すまんの~。ほれ、お駄賃を上げよう!」
豪佑はポケットから軽くクシャクシャとシワが出来ている一万円札を取り出し、彼女の手に握らせた。
と、そこで待ったをかける人物が一人……姫歌だ。
「いけませんわ、お爺様! 燈をそのように甘やかしては!」
「し、しかし……せっかく行ってくれると言うとるから…」
「そうよ、姫歌? ここは私に任せて、あんたは爺ちゃんの相手でもしてなさい!」
燈が軽く上から目線で偉そうに言った。
「んなっ!? 貴女、きちんとお姉様とおっしゃい! 言っておきますけれど、わたくしの方が年上なんですのよ?」
「ふんっ、年上って言っても、たったの一歳年が離れてるだけじゃない! そんなの、別にどうでもいいし」
そう言って姫歌を軽くあしらった燈は、さっさと扉を開けて出て行ってしまった。
「きぃぃぃっ!! 燈さん……帰ってきたら覚えていらっしゃ~いっ!!」
ハンカチを噛んでぐいっと引っ張り叫ぶ姫歌の叫び声は、虚しく社長室に響き渡るのだった……。
――☆★☆――
「全く、どうでもいいでしょ、そんなこと……。それよりも、まさか響史にこの二百万を届けるだけでお駄賃がもらえるなんて、今日の私ツイてるかも! しかも、本当の目的はそれだけじゃなくてあの響史にこの拳を一発くらわせるためなんだもんね~!! ……ふふふっ、覚悟しておきなさい響史。私を怒らせるとどうなるか、その身に味わわせてあげるわ~!!」
不気味な笑みを浮かべ、拳をゴキゴキ鳴らす燈は、アタッシュケース片手に響史の学園へ行くための通学路に向かった。
果たして、響史の運命は……。
というわけで響史の祖父と四人の従姉妹の登場です。響史の祖父が社長というのも驚きですが、祖父――豪佑との金銭感覚の違いが驚きです。二百万を、そんなものかというのはやはりお金持ちである所以でしょうか?
おまけに明らかに響史の姉――唯と酷似するかの如く超絶パワーを持つ燈が、響史の元へ二百万を届けるワケです。これはもう大事件が起きること間違いなし(笑)
次回は響史の従姉妹――燈と、ルリ達の受けたテストの結果についての話です。




