第十四話「太陽の男」
次の日の朝……。俺が自然に目覚めると、目の前に護衛役の一人――霄がいた。どうやら俺は、横向きに寝ているようだ。と、なんとはなしに聴覚に意識を向けてみると、霄がなにやらムニャムニャと寝言を呟いていた。
さらによ~く耳を澄ませてみると――
「お、おにぎり……」
え……。
どうやら霄は、おにぎりの夢を見ているようだ。
にしても、どんだけおにぎりが好きなんだ?
そんなことを思いながら俺は寝返りを打って反対に体を向ける。目の前には零がいた。
すると、またしても寝言が聞こえてきた。
「お――」
ま、まさか、またおにぎりなんて言うんじゃないだろうな?
「――オムライZZZzzz……」
ええぇえええ!? そこはちゃんとオムライスって言おうぜ? ていうか、どうしてこの二人は「お」から始まる食べ物しか言わないんだ? しかも、共通している!? ていうか、和風と洋風ってどんだけ~!!? まぁいいや。あれ? っていうか、さっきから体が重い……。どういうことだ?
俺はそんなことを思いながらふと掛け布団を持ち上げてみた。すると、俺の上に少女が乗っかって眠っていた。
えっ!? ちょっと待って? 青い髪の毛……そんな馬鹿な! だって、一、二、三……既に三人いるよな? ――っていうことは新しい護衛役!?
慌てて掛け布団を戻す俺。バサッ!という布団の音。
しばし間を置いてゴクリと息を飲み、もう一度慎重に掛け布団を持ち上げた。
……やっぱり髪の毛が青い――っていうことは、護衛役だよな。
念のための再確認を終えた俺は、思い切って話し掛けた。
「あの~もしもし……?」
俺の体に顔を擦り付けているため顔が窺えないが、どうやらその体躯から少女であることは間違いないようだ。
その時、俺の声に気づいたか少女が顔を上げて眼を擦りながらこちらを見つめた。思わず寝起きの少女と視線が合ってしまう。
「ふぁ~あ。……ん、おはようございますですわ」
「あっ、おはよう……」
「あれ~、私どうしてここで寝ているんでしょう……?」
少女は右目を擦りながら周囲を見回した。すると、近くにいた霊を見るや否や、突然半開きの眼を全開にして霊に抱きついた。
「お姉様ぁああああっ!!」
「きゃあ!? な、何? えっ!? ど、どうしてあなたがここにいるの!?」
「いやですわ~。お姉様に会いに来たんですのよ?」
少女は霊の首に腕を回し、笑顔で彼女に抱きついていた。俺は目の前の少女が護衛役ということしか把握できておらず、少し遠慮がちに霊に訊ねた。
「な、なぁ……霊。その子誰なんだよ?」
俺が問うと、霊ではなくその少女の方が口を開いた。
「あら、自己紹介が遅れてしまいましたわ。私は姫様の護衛役で、霊お姉様の妹の『水連寺 霰』と申します……これからお世話になりますわ」
霰と名乗る少女の“お世話になります”という言葉がどうも俺は気がかりでならず、小さな欠伸をしながら訊いた。
「……ていうか、護衛役なんだから俺の命を狙いに来たんじゃないのか?」
「あっ、私はそういうものに全く興味が無いんですの。私が好きなのは、お姉様だけですから……」
溜息混じりに手を振りながら否定の言葉を口にすると、霰は熱い視線を霊へと注ぎ、すかさず再度抱き着きにかかる。
「だからくっつかないでよ~」
それに対し、霊はさっきから霰を拒みっぱなし。俺を殺しに来たという訳ではないようだが、だとしたら何をしに来たのだろう? 本当に霊に会いに来ただけ?
俺には何が何なのか分からなかった。
すると、二人のじゃれあいの声に他の皆が目を覚ました。
「な~に? こんな朝早くに……眠いんだから、もう少し寝かせてよ~」
ルリが掛け布団に体を包み込み、体を丸くする。霄はいうと、寝覚めが悪いのか思いっきりムスッとした表情を浮かべ、まだ眠いのかコックリコックリ船を漕ぎながら霊と霰の様子を呆然と見ていた。
零は、寝ても起きても相変わらず無表情で無言のままだった。しかし、霰を見た瞬間、彼女は俺の肩をツンツンと人差し指でつついて、俺を呼んだ。
「どうかしたのか?」
「どうして、霰姉様がいるんですか?」
「さあな。何でも霊に会いに来たとか……」
「姉上にですか?」
「ああ……」
俺が説明すると、零は二人を見ながらフッと少し小さな声で笑った。その顔が印象的だった。何せこの表情を見たのは、初めて零に会って戦った時以来だったからだ。
「なぁ、どうして霰はあんなにも霊のことが好きなんだ?」
二人の姉妹である零なら、あの様子の原因も知っているかもと思い質問してみる。
すると、この質問がよっぽど意外だったのか、そんなの当たり前でしょ? みたいな感じの表情を向けてきたため、少しビクッとして身構えてしまった。
「な、何だよ……」
「いえ、てっきり知っているのかと思っていました。いいですか? 霰姉様は、猫が大好きなんです」
「猫が? でも、霊は――」
俺は霊の方を見た。ピコピコ動く猫耳、クネクネ動く尻尾。
ああ、なるほど。
その出で立ちを見て、思わず納得してしまった。
霰が霊を本物の猫と思ってしまうのも無理はない。それに、現に霊は三毛猫に変身できるからな……。
そんなことを思いながら俺はさらに零に質問した。
「でも、猫が好きにしては、あまりにも反応がオーバーじゃないか?」
「はぁ~。これだから、あなたは……」
えっ、なに? その俺はまるでダメだな……みたいなその溜息は!?
あまりに解せぬ反応に、一言物申そうと口を開きかけるが、その寸前で零が先に口を開く。
「いいですか? 霰姉様があんなにも霊姉様のことが好きなのには、勿論他に理由があるんです」
「理由?」
「はい。姉上は以前、魔界で事故に遭いかけたんです……」
「事故?」
俺の言葉に、零はコクリと頷き続けた。
「そして、霊姉様がその事故から霰姉様を助けたんです。それが霊姉様の悪夢の始まり……。それ以来、霰姉様は霊姉様のことを恩人の様に慕い続け、最終的には好意を寄せてしまったんです。ただでさえ猫が好きなのに、その上恩人ともなれば姉上が黙っているわけもなく……。それから霰姉様は、誠心誠意霊姉様に恩を返し続けました。主に、嫌がらせばかりですが……」
その内容は、俺にもなんとなく想像出来た。
「でも、肝心の姉上がそれを覚えていないんです……」
「覚えていない? どうして?」
「恐らく、あんなにも面倒な嫌がらせばかりされて、忘れてしまったんでしょう。そのせいもあってか、だんだんと霊姉様は『霰姉様恐怖症』にかかってしまったんです」
「霰恐怖症?」
「はい。主な症状としては、姉上の声を聞いただけで身の毛がよだったり寒気がしたりなど――とにかく、姉上に近づきたくなくなっていったんです」
「それって、あまりにもかわいそうじゃないか?」
「やっぱりそう思いますか。でも、私的にはどっちもどっちといった感じなんですよね……」
俺は零の説明を聞いて納得していた。
昔話を聞いている間も、霊は霰の行為を嫌がり、霰は霰で霊によかれと思った行為をしている。それが霊にとっての嫌がらせとも知らずに――
……哀れだ。
俺はそう思った。
「もうやめて! どうしてこんなに嫌がらせばっかりするの? そんなに私が嫌いなの?」
耐え切れなくなったのか、霊がついに怒気を含めた言葉を発した。
「ええっ!? ち、違うんですのよ、お姉様。私はただ……お姉様に喜んで欲しかっただけで――」
「それが迷惑なんだよ……っ!」
その最後の一言で、霰は相当なショックを受けたのだろう。一気に表情が暗くなり、俯いてしまう。それを見た俺は、同情の気持ちから霊に言った。
「お、おい……あまりにもそれは言い過ぎなんじゃ……」
「でも……」
霊も冷静になって少し霰に悪いと思ったのか、罪悪感を感じているようだった。
と、俺が振り返ると、先ほどまでいた霰の姿がなかった。
「あれっ? お、おい、霰は何処に行った?」
「霰なら外に出ていったぞ?」
ようやく完全に目を覚ました霄に言われ、俺は慌てて部屋の扉を開けて階段を駆け下りた。途中でコケそうになったが、そんなのお構い無しで階段を降りきると、玄関ドアに向かった。
その時、霰の悲鳴が聞こえてきた。
「きゃぁあ!!」
「なっ、おい!!」
彼女の声を聞き、すぐに玄関ドアを開けた。すると、謎の黒い車がエンジンを蒸かせて排気ガスをはきだしながら路地裏を曲がっていくのが見えた。
「な、何だあれ……何で霰を――」
と、ふと視線を足元に向けると、一枚の手紙が落ちていた。
それを拾い上げ、少し焦りながら震えた手つきで手紙を開けると、中身を取り出した。そこには少し特徴的な文字が書かれていた。
「ねぇ、今の悲鳴って霰だよね!?」
手紙を読んでいる所に、霊が後ろから駆けつけた。それから、俺が手に持っていた手紙に気がついたのか、急に俺に近づいて肩に手を置くと、手紙の内容を確認するかのように覗き込んだ。
「何て書かれてるの?」
「えっ? ちょっと待ってくれ。え~と、お前の仲間はわしらが預かった。返してほしければ、わしのアジトまで来い。場所は手紙の中に同封されている地図を使え。陽河組のボス『陽河 太』……だってさ」
ありきたりな名前だな~、なとどいう突っ込みの前に、俺はとりあえず同封されているという地図を確認しようとした。しかし、肝心な地図が無い。
どういうことだ?
思い切って封筒をビリビリに破ったが、やはり地図などどこにもない。
どうなってるんだ? 嫌がらせか? ていうか、地図が無いとアジトにいけないんだけど……!?
早くも手詰まりかと俺は霊を見た。霊は首を傾げながら俺を見つめている。
「な、なぁ……どうしよう。同封されてるっていう地図がないから、助けようにも助けられないんだけど」
「ええ~っ? どうして地図が無いの?」
「……分からない。でも、そうなると――」
「あっ、そうだ。確か、陽河組のアジトだったよね?」
「ああ」
「だったら以前行ったことがあるから、私に任せて!」
霊の言葉に、俺はぱぁ~っと明るくなった。この際、何で霊がそんな所に行ったことがあるのかは不問だ。
「そうとなったら、準備して行くぞ!」
「うん!」
思えば、俺達二人ともパジャマ姿のままだ。俺達は急ぎ部屋に戻り、着替えの洋服を用意することにした。
そういえば、あいつらの服ないんだった……。くそ、仕方ねぇ。もう一度姉ちゃんの部屋探して見つけよう。ったく、こんなことしてる暇ねぇのに。
湧き上がる苛立ちを心の奥底に押し込め、俺は握り拳を作って姉ちゃんの部屋へと向かった。
この間はメイド服などと面倒なことに巻き込まれそうな服があったが、次はもっとマシな服があることに期待したい……。
そう心の中で願いながら、姉ちゃんの部屋を開けた。
部屋の奥のクローゼットの扉を開け、中を漁る。
そして十分くらい経って、ようやく良さ気な洋服を見つけた。組み合わせはどうであれ、サイズ的にこれくらいしかない。
自分の部屋に戻ると、霄が大好物のおにぎりを食べながら頬にご飯粒をつけてこちらを一瞥した。
「……響史、どうしたんだその服?」
霄が頬張っていたおにぎりを飲みこんで俺に問う。
「ああ、お前達のとりあえずの服だ。てか、そのおにぎりどうしたんだ?」
さっきから霄が食べているおにぎりに目がいった俺は、気になって彼女に訊ねた。
「ああ、これか? これはな……私がこの間、コンビニとかいう場所に行っておにぎりをたくさん買おうと思って、店の人間に頼んだんだ」
「えっ!? 霄、金持って無いだろ?」
「――当たり前だ」
「じゃあ、どうしたんだよ?」
ふと嫌な予感がしたが、俺は質問を続けた。
「勿論――
≪お会計500円になります……あ、あのお金は?≫
≪お金? そんなものない!≫
≪えっ、でも、お金がないと買えませんよ?≫
≪何――っ!?≫
≪ひぃいぃい……っ!? あ、あの、その……お金――≫
≪タダにしろ!≫
≪えっ、そ……それは――≫
≪さもなくば、お前の首がなくなるぞ?≫
≪わ、分かりました……≫
――というふうにしたら、普通に店員が泣きながら私におにぎりを差し出したぞ?」
「それ軽く脅しだよね? ていうか、万引きっつって立派な犯罪に等しいし!!」
想像してた通りの結果になり、何というか少し悲しくなった。とりあえず、後でそのコンビニには詫びを入れて料金を支払うとして、俺は今まで何をやっていたのかを改めて思い出した。
「そうだった、こんなことをしてる場合じゃなかった」
「どうかしたのか?」
霄が全てのおにぎりを食べ終わり、ゆっくりその場に立ち上がる。
「ああ。霰が、陽河組とかいう集団に攫われた」
「何!? 皿が割れただと?」
「そんなダジャレは――普段ならツッコんでやりたいところだが、今はそんな暇はない! おい、霊行くぞ!」
「うん!」
霊は少し用意に手間取っていたようだったので、俺は先に階段を降りて靴を履いていた。すると、俺が靴を履き終わった頃に、霊が階段を降りてきた。
「おい、急げよ?」
「分かってるよ……」
少し急かされ、霊は苛立っているようだった。
とにかく、ようやく全ての準備が終わり、俺達は外に出た。
そういえば今日学校じゃん……ったく、明日学校に行ったら何か言われそうだな。
そんなことを思いながら、俺は霊の案内の下、陽河組のアジトへと向かった……。
ここは陽河組のアジト。少し荒れ放題になっているが、それでも建物はまだ丈夫そうだった。俺達は入口から中に入ると、広間らしき場所を見つけそこまで走っていった。
そして、ようやく広間に到着した俺達は、陽河組のボスらしき人物を見つけた。
「ようやく来たか……。待ちくたびれたぞ?」
ボスの声に、俺は少し走り疲れて息を切らしながら言った。
「はぁ……はぁ、お前達のせいだぞ?」
「何?」
怪訝そうに眉を動かし、ボスの低い声が聞こえてくる。
「お前達が……一緒に同封しているとか言って……はぁ、はぁ、実際には地図が入ってなかったんだ……っ!」
「何だと!? あれほど地図を同封しておけと言っただろうがッ!!」
俺の話を聞き、ボスが手下達を怒鳴り散らした。
「す、すみませんボス……」
飛んでくる怒号に体をビクつかせ、委縮した手下達が頭を下げる。
俺は、ようやく呼吸が落ち着いてきたところでゆっくり顔を上げた。目の前に、羽織物を羽織ったガタイのいい男性が、少し高そうな椅子に座っている姿が映る。しかし、俺が一番印象に残ったのは彼のその頭だった。
ハゲている。いや、坊主……髪の毛はないしスキンヘッドか? いや、ていうかこの艶めいているキラキラ……これはもう、ツルツルの域を越してトゥルットゥルッだ!!
そう思った。すると、すぐ隣にいた霊のクスクス笑う声が聞こえてきた。
「お、おい霊、お前何笑ってるんだ?」
「だって、あの人……ふふっ。ハゲてるんだもん……」
「おい、相手に失礼だろ? あの人だって、ハゲたくてハゲたんじゃないんだから……」
俺の声にヒソヒソ声で返す霊に、同じように小声で返していると、それが聞こえていたのだろう。
陽河組の一人が、声を荒げて叫んだ。
「お前等、さっきから聞いてればハゲ、ハゲって、ボスに失礼だろうが!! ボスはハゲてるんじゃねぇ!! 髪の毛がないだけだ!!」
ドガッ!!
周囲に響き渡る重い一撃。
「テメェが一番失礼なんだよッ!!」
ボスが椅子に座ったまま手前に立っていた手下を蹴り飛ばしていた。
「す、すみませんボス……」
手下が腰をさすりながら傾いたサングラスを調える。
「ところで本題に入るが、お前達に今日は用があったんだ」
「用?」
「そうだ」
「そんなことより、霰はどうした!?」
「霰? ああ、あの娘か……」
声を張り上げる俺に対し、ボスは至って冷静に落ち着き払った様子で言葉を返す。
「あの娘なら、向こうの部屋にいる。今、桔梗が見張っているはずだ。無論返すが、タダというわけにはいかん」
「何?」
俺は少しムキになってしまった。勝手に攫っておいて、どんだけ図々しいんだと思ったのだ。
「まぁ落ち着け。……お前達はしばらく席を外してくれ」
『へい……』
陽河組の手下達はボスの言葉に従い、広間から姿を消した。
それから完全に俺達だけになった事を確認したボスが、話の続きを始めた。
「お前は既に太陽系の守護者について、話は聞いたはずだ」
「なぜ、そのことを!?」
「ふふふ……わしがその太陽系の守護者の一人だからだ」
「お、お前が?」
「そうだ……。そして、これが例の指輪だ」
ボスが左手を目の前にサッと出して大きな手のひらを開くと、その中に小さな指輪があった。それを見た俺は、思わず「あっ」と声を出してしまった。すると相手は、俺の表情を見て少しニヤッと笑うと言った。
「これを渡してもいいが、その代わり……わしの出す条件をクリアしてみろ!」
「じょ、条件……?」
息を呑み、俺は少し緊張して身構える。
太陽系の守護者と言っていたが、一体どんな条件を出してくるのだろうか?
そんな思いが、頭の中を駆け巡る。
「その条件とは――」
「条件とは……?」
「――今日から一週間、わしらのために料理を作ってもらう!」
「……」
しばし沈黙の時間が流れた。
「…………は?」
俺はてっきりもっと無茶苦茶なことを言ってくるのかと思ったが、まさかこんなどうでもいいような条件を出してくるとは。
確かに一週間は少し長いと思うが、料理を作りさえすれば、あの指輪が手に入るのだ。そう思えば安いもんだ。
そう思った。しかし、どうやらことはそう簡単なものではなさそうだった。
「――まぁ、わしを含めた審査員が星三つを出せばの話だがな?」
「星三つ?」
「そうだ。わしを含めた五人の審査員を用意する。彼らに料理を振る舞うのだ。そして審査してもらい星をもらう。ちなみに一人星三つだから、合計十五個の星がもらえる。その内、十個もらえればまぁよしとしよう……」
「そ、そんなの、あまりにも無茶じゃないか?」
「な~に、簡単なことだろう? 何せ、料理を作って星を十個もらえればいいだけのこと……。いいな? さもなくば、お前の仲間は返さぬぞ?」
「わ、分かった。でも……霰は開放してくれ」
その俺の言葉に、ボスはしばらく腕組をして考えこんだが、迷った末――。
「……いいだろう」
と、許しを出した。手下を呼びつけ霰を連れてくるように言うと、手下は少し足早に奥の部屋に行き、少し経って奥から霰が姿を現した。
「お姉様ぁあああ! う、ううぅ……」
最初は霰のすすり泣く声を聞いて、よほど怖かったんだろうな、と思った。
しかし、次に発言した霰の言葉で考えを改めた。
「もう、サングラスのお兄様と競争出来ないだなんてぇぇぇ!!」
えぇっ!?
俺は訳が分からなかった。
「なぁ、霰。お前、一体向こうの部屋で何やってたんだ?」
「えっ? ただ、あのお兄様と一緒にゲームをして遊んでただけですわよ?」
「えっ?」
そう口にする霰の指差す方を向いた。すると、奥からサングラスをかけた黒髪の男が姿を現した。彼は俺達の視線に気づいたのか、キッとこっちを睨み付けた。
「また、遊びましょーね~!」
「くっ、あんにゃろ~……さっさと帰れッ!!」
一体何をしたんだ? こいつ。
相手の異様に怒った顔を見て、俺は霰が何をしたのか少し気になった。
「じゃあ私、霰連れて先に家に帰ってるから……」
「あ、ああ……」
考え事をしている最中に霊に話しかけられ、少しビクッとしてしまった。
俺の曖昧な返事を聞いた霊は、まるで母親の様に霰の手を繋ぎ、少し文句を言いながら広間から出て行った。文句の内容は上手く聞き取れなかったが、文句を言いつつも霊の表情はどこか安堵している様子だった。なんだかんだでやっぱり妹の霰が心配だったんだな。
二人が見えなくなると、俺は真後ろに体を向けた。すると、ボス達が俺をじ~っと見ていた。
「な、何だ?」
「いや……お前があんなにもたくさんの女を引き連れているのがあまりにも意外でな……」
「悪かったな……」
俺は少しムッとした。
「では、さっそく料理を作ってもらおうか?」
「ああ」
こうして、俺のむさ苦しいばかりの男集団――しかもヤクザの料理当番を一週間続ける事になった。
俺は何故か常備していたエプロンを身に着け、紐を背中に回して蝶々結びをしながら家に帰ったであろう霊達のことを考えた。
そういえば、あいつら料理なんて出来るのか?
ふとそんな思いが脳内を駆け巡った。いつも俺が料理の担当をしていて、他の奴らが料理を作ったことなど一度も無い。それに、台所にも立ったことないはずだ。まぁ、魚料理限定なら霊が出来るだろうけど。
一体、料理どうするつもりなんだろう。
そう思うと、少し心配になってきた。しかし、今更家に戻る訳にもいかない。
俺は仕方なく目の前に並んでいる食材に手をつけた。
包丁を手に取り、食材を切り刻んでいく。
と、その時ハッと思った。
あっ、学校どうしよう……。
それが一番の気がかりだった……。
というわけで新たな護衛役――霰と、さっそく一人目の太陽系の守護者が出てきました。守護するのは名前にもあるように“太陽”です。守護者から指輪を受け取るにはそれぞれ条件を満たさなければならないのですが、今回の条件は料理を作るという条件でした。不良達は毎日おいしい料理にありつけていないのでしょうか?(笑)
次回は、響史が恐れていたことが起こり大変なことになります。




