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魔界の少女  作者: YossiDragon
第五章:七月 過去『封印されし記憶の解放』編
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第六十話「運命の日、なつい事件」・1

 あいつ――神童響史に初めて会ったのは、今から遡る事約四年前。あいつがまだ小学六年生の時だった。

 何も知らない無垢な少年……というわけではないが、それでもあらゆる経験と知識不足であいつはいろいろ生活に苦労していた。理由は、家族が一人もいないからだ。別段死んだわけじゃない、各々別居しているのだ。

 そんなあいつは、嘆きの声を、鏡に映る自分を話し相手にして愚痴っていた。それを鏡越しに聞いて、私はほんの興味本位であいつの過去を調べてみた……。

 その結果が、アレだ。全く持って可哀想でならない……とことん不幸な目に遭う様な体質なのか、あいつはいろんな事に巻き込まれる。

 私も、どうして興味が湧いたのだろう。今となっては不思議だ。別段、容姿が優れている訳でも何でもない、平凡な顔立ち。ただ少し異なる点と言えば、髪の毛が銀髪である事くらいだろうか?

 なのに、私は彼の過去が気になった。どうしてそこまで悲しそうなのか。どうして、そんなに辛そうで悔しそうなのか。理由がどうしても気になったのだ。

 だから私は、タイムマシンで過去へと遡る事にした。

 やってきたのは、あいつが産まれた年。彼は一人の姉と三人の従姉妹、そして両親や祖父や関係者に囲まれて幸せそうに生活を送っていた。一人寂しく静寂の空間――鏡界にいる私からしてみれば、とても羨ましい。

 この時代にはまだそこまで大きな事件は起きていない。

 そうやって時代を現代に近づけていくと、ようやく判明した。今から遡る事四年前……この年、あいつは大怪我を負う事になるのだ。

 あいつの家族――神童家の人間や、その関係者である幼馴染の二人は、運命の日――七月二十一日をこう呼んでいる……『なつい事件』と。

 何故、なついと言うのか……それは、七月二十一日を数字だけにして並べ、七を「な」、二を「つ」、一を「い」と呼んだからだ。

 もしかすると、思い出したくはないが、懐かしいという意味も込めてそう呼んでいるのかもしれない。

 その運命の日より七日前の七月十四日、私はタイムマシンでこの日へ飛んできてあいつの動向を探っていた。

 玄関ドアが開き、中から姿を現したのはあいつの姉――唯の四年前の姿だった。当時高校一年生である彼女は、制服姿で何処かへ向かっていた。

 一体何処へ向かおうというのか。目的地を探ろうと後をつけようとしたその時、再び玄関ドアが開いたので私は慌てて近くの電柱の陰に隠れた。

 そっと顔を覗かせてその人物を視認すると、そこにいたのは当時小学六年生のあいつ――響史だった。

 あのバカ、唯のヤツを追う気ね? あんただけに任せておけるワケないじゃない!

 私は急いで二人の後をつけた。

 しばらくしてやってきたのは、蛍河近くの廃倉庫。何故こんな所に来る事になったのか……理由は単純だ。唯の馬鹿が敵に捕まったのだ。狙われているのは分かり切っているのに、外になんて出るからいけないのだ。唯一人ならば、以前の件などの私事で無視していただろう。だが、今この場には彼女だけではなかった。

 そう、響史がいたのだ。私と一緒に後をつけていた彼は、廃倉庫の中で姉を息を殺して見守っていた。しかし、武器を持っていない。まさか大切な姉が今日敵に攫われるなんて思っていなかったのだろう。全く、常に警戒していないと駄目でしょ? と、ダメだしはともかく何とかしなければ。下手をすれば、響史が見つかってしまう可能性がある。

 と、私が考え事をしていると、響史が姿を消していた。どうやら、タイミングを見計らって逃げ出したらしい。もしかすると、家族にこの旨を伝えるつもりなのかも。

 私も急いでこの場から逃げようと思い、出口へ体を向けた刹那――私はふとある言葉を耳にした。


「――神童響史に伝えとけェ。必ずお前の命を奪ったるってなァ」


 即座に背筋が凍るような感覚を感じた。敵の声には尋常ならない殺気が込められている。それが気迫、言葉となって空気を震わせて私に伝わったのだ。

 そんな馬鹿げた話、ちゃんちゃらおかしいが、そんな風な表現しか出来ない。私はふと自身の手を見た。己のそれは、じっとりと汗ばみ、僅かながらに震えていた。

 私は、急いでこの場から離れなければならないという危機感に似た何かに急かされて、一目散に駆け出した。


「はぁ、はぁ……ひ、久しぶりに走ったら、……んっ、すんごく……疲れたわ。はぁ……はぁ」


 電柱に片手をつき、もう片方の手を膝について呼吸を整える。肩で息をしていた私は、ようやく落ち着いてきたと前傾姿勢を元に戻す。


「そうだ、あいつは帰ってきてるのかしら?」


 玄関ドアを慎重に開けて家の中へ。何だか、すごく犯罪的な事をしてる気がするけど、気のせいよね?(気のせいじゃない)

 私は話し声が聞こえた方に歩いて行った。と、慌てて私は身を隠す。リビングルームでは、あいつの両親がいた。そこにはあいつの姿もある。


「響史、どうかしたのか?」


「何かあったの?」


 父親と母親があいつの顔を覗き込むようにして訊ねた。あいつは少し躊躇っている様子だったけど、意を決して口を開いた。先程の件を話すのだろう、私はそう思った。

 刹那――プルルルル、と廊下に置いてある固定電話の着信音が鳴り響く。


「僕が出るよ」


 そう言ってあいつが廊下の方へ――マズイ、どこかに隠れないと!

 私は慌てて周囲を見渡し、トイレの中へ。無論、音は立てないように扉を閉めた。


ガチャ。


「もしもし?」


 あいつが恐る恐るというように受話器を取って応答する。すると、彼の顔がみるみるうちに蒼白になった。反応から察するに、間違いない……敵――殴頭凶哉だ。


「……分かった」


 そう一言答えると、あいつは受話器を置き、通話を切った。話は終わったらしい。けど、どこか浮かない顔だ。先程両親に例の件を伝えようとしていた時よりも、重く苦しく辛そうに見える。

 まさか……!?

 私が一つの可能性に至った時には、既にあいつはリビングルームに戻っていた。私は急いで確信を得ようと、リビングルームへ繋がる扉の付近の壁に身を潜めた。夏場ということもあって、扉は開放されたままなので声を聞き取れない事はない。


「響史、何か言おうとしてたようだが?」


「え? あ、うん…………何でも、ないよ」


 そんな……どうやら、本当だったようだ。私が考えたのは、凶哉に脅されたのではないかという可能性だったのだが、どうやら当たっていたらしい。これはあくまで予想だが、「両親に話せば姉や従姉妹を殺す」とでも言われたのかもしれない。

 このままでは、完全に凶哉の思うがままになってしまう。それだけは何としてでも避けなければならない。しかし、そのためには一体どうすればいいのだろう?

 そう考えるうちに、時は来てしまった。

 運命の日、七月二十一日だ。

 私は、上から落ちてきたぬいぐるみで目を覚ました。ここ数日間、私は屋根裏部屋で寝ていた。無論、他の場所でも良かったのだが、神童の人間に見つからず一番安全なのがここしかなかったから、ここで就寝した。

 時刻を確認すると、既に昼の十二時を優に過ぎて一時を切ろうとしていた。

 私は急ぎあいつの部屋へ向かった。しかし、どこにも彼の姿はなかった。そして気付いた。押入れの戸が開いている。見れば、そこにあるはずのものがなかった。


「……あんの、バカ」


 私は一階に降りてリビングへ入った。どうやら両親は買い物か何かに出掛けたらしい。とにかく行方を追わなければ。あまりにもそう慌て過ぎていたせいだろう。ゴツンと、テーブルの角に足をぶつけてしまった。


「いっつぅ~!!?」


 鈍くも鋭い痛みに、私は涙目で自身の(すね)を撫でさすった。と、視界に一枚のメモを捉えた。テーブルの上に置いてあるそれは、まるで書置きのように見えて――いや、そのものだった。


「えーと、『姉ちゃんを悪い悪魔から助けに向かいます! 場所は、蛍河河川敷近くの廃倉庫です。もし僕がピンチに陥ったら、助けに来てください』……って、何考えてんのアイツ……どこまでバカなのよ。小六が偉そうに丁寧語なんか使っちゃって……ふっ、生意気なんだけど」


 気付けば、いつの間にか足の痛みは消えていた。私はその場に立ち上がり、意を決して廃倉庫へ向かった。

 しかし、足で行けば少し時間がかかるだろう。あまり多用したくはないが、能力を使う事にした。洗面所へ向かい、そこにある様々な入れ物の扉に備え付けられた姿見の前に立つ。


「ふぅ……」


私は瞑目して深呼吸を一つする。


繋げよ(コンタクト)鏡面空間(ミラージュ)】!


 そう口にした途端、姿見が淡白い光を放つ。


「待ってなさい!」


 別に、過去を変えようとか、そんなんじゃない。第一、過去に干渉すれば私が大目玉をくらう。五界を統べる一人として、それだけは勘弁願いたい。だけど、行かなければならない……見届けなければならない気がした。

 だから行くんだ。

 目を開けると、そこには静寂が待ち受けていた。何もない、いや、在るのは在る。ただ、動き一つ無い静止の世界なのだ。宙には様々な鏡が浮き、世界の半分を明るく、もう半分を暗く照らしている。太陽と月が同時に存在する不可思議な空間。そこが私の世界……私の治める――統べる世界、鏡界だった。

 ここには様々な鏡が存在する。鏡面さえ存在すれば、あらゆる場所と繋げる(コンタクト)することが出来る。川の流れがあまりなかったり、水溜りなどが存在した場合などに有効だ。

 ふと、私は一枚の鏡の前に立った。ここは人間界のカーブミラーに繋がっている。交差点で、運転手や歩行者などいろんな人が見るために使用するものだ。ちなみに、私が響史と初めて会った際に使ったカーブミラーでもある。

 私は蛍河河川敷近くの廃倉庫に一番近い鏡を探そうと、その場から移動しかけた。と、そこで私は立ち止まる。

 理由は至って単純、例の敵を見つけたからだ。厳密的には、敵の兄――狂次郎だ。彼は、幾人もの仲間を率いて四人の少女を襲っていた。当時の私は知らなかったが、彼女達はあいつの従姉妹だ。そんな事も知らない私は、見知らぬ少女達が襲われているとしか考えなかった。それでも助けなければならないという思いはあったので、どうしようかと悩んだ。

 けれど、私が手を貸す訳にはいかない。それが支配者たる者の掟……守らなければならない。


「くっ、あいつは一体どこにいるの!?」


 周囲の鏡を自分の周りに円を描く様に並べてチェックする。すると、唯の姿を見つけた。場所は既に廃倉庫の中。私は、廃倉庫の水溜まりを通してそれを見た。恐らく、壊れた天井から雨が降り注ぎ、溜まったのだろう。だが、今はそんなことどうでもいい。重要なのは、彼女が無事であるか否かだ。

 それに、響史の姿がどこにもない。まだ到着していないのか……。


「あいつ、書置きなんかしてる暇あったら、とっとと姉を助けに行きなさいよね!」


 私は親指の爪を噛みながらあいつに駄目出しした。それから再び目で鏡をチェックする。と、ようやく居場所を特定した。


「あの場所は……廃倉庫の近くね」


 よかった、既にすぐ側まで接近していたらしい。手には唯からもらったという木刀が握られている。でも、あれが武器だというのは少し心もとない。相手は仮にも大人だ。どんな武器を持っていてもおかしくはない。下手をすれば、こちらがやられる可能性だってなくはない。

 だとしたら、万全な準備が必要だ。けれど、そんな事をしている時間はなかった。その結果がこれだ。既に護る対象が敵地に入り込み、護られ続けてきた人物がそこへ向かう状況にある。このままでは確実に敵の思うツボだ。


「くっ、何か手はないの? このままじゃ、あいつらがやられちゃう! しっかりしなさい、ルナー=アルメニア=ベリリウム! 私は天才発明家でしょ!? だったら、ちゃんとやるべき事を成し遂げなさいよ!!」


 ネガティブ思考になりかけていた私は、己を鼓舞した。頬を軽く叩き、気合を入れ直す。こうなったら考えるよりも、まず行動に出た方が速い。

 私は廃倉庫近くのカーブミラーから人間界に出た。無論目撃者はいない。いたらそいつの記憶を消すだけだけど。


「こっちね……」


 一度行っているから場所は分かっている。ただ、今回は一人や二人なんかじゃない……大勢だ。それに対し、こちらは両手の指で足りる程度の人数。勝てるかどうか……いけない、またネガティブになっている。

 廃倉庫へやってきた。入口付近には、漆黒のバンが停まっている。敵が使っている車だ。敵は間違いなくここにいる。

 入口は既に開いていた。まるで招いているような感覚さえ感じる……いいだろう、招かれてやろうではないか。

 私はそう強く意気込んで突入した。時刻は三時近く。あれからもう二時間も経過するのか? 少し時間が経つのが早すぎる気がする。神童家からここまでは二時間もかかる距離ではない。となると、どこかで道草を食っていた事になる。唯も家から直接ここへ、という訳ではなさそうだ。

 私は能力で手元に小型の鏡を形成すると、鏡面を響史を監視している鏡の鏡面と接続(リンク)させた。これであいつの動きを逐一モニタリングしている事になる。現在の居場所は、この廃倉庫の裏側。どうやら裏口から侵入する作戦らしい。確かに、あの大人数に対して正面突破というのは、あまりにも無謀な挑戦過ぎる。そのくらいがちょうどいいかもしれない。ただ、少し心配なのが相手にそれを読まれている可能性だ。

 人数は結構いる……十、二十人くらいだろうか?

 問題は、あの従姉妹達……どこにいるのかしら? 襲われてたし、誘拐されてどこかに監禁されてるかもしれない。

 はぁ、どこまでも世話を焼かせるわね。

 私は小さく嘆息して、瞑目した。集中力を高めて力を込める。すると、私を囲むように十二個の白銀色のブロックが顕現する。


「いい? この廃倉庫の全部を監視(チェック)よ。あいつの従姉妹を見つけ次第報告!漏れがあったら、許さないから! ……散りなさい!」


 そう命令するや否や、ブロックは各々周囲に飛び散り姿を消した。これで大丈夫、もし従姉妹が見つかれば私に通知が来る。その間に私はあいつらを監視よ。

 と、拘束されている唯の方へ再び視線を戻す。すると、気を失っていた唯がようやく目を覚ました。


「おォ、お目覚めかいな唯ちゃん?」


「あ、あんた……。――っ!? こ、これ……!? ちょ、放しなさいよ、どういうつもり!?」


「どういうつもりやとォ? 分かってへんのかいな……これは復讐やァ。お前んとこの弟君……えらいアカンことしてもうたさかい、落とし前つけたらなアカンのや。……賢い唯ちゃんなら、分かるやろォ?」


「くっ……」


 凶哉は、サングラス越しに唯の目を見て言った。周囲にいる仲間も下劣な笑みを浮かべて妖しく笑っている。


「キヒィ……何でそないな事になっとるか、分かるかァ?」


「?」


 いまいち理由が分からないというように、唯が困惑顔を作る。


「……唯ちゃんはなァ、所謂囮や。弟君――神童響史を釣るためのなァ。あんのクソガキ懲らしめたるために、あんたを利用したんや。どえらいあんたの事心配しとるみたいやしなァ、感心したわ。七日前……十四日の時の事やけどな、唯ちゃんの弟君……来とったんやでェ?」


「えっ!?」


 凶哉の言葉に、唯は驚愕した。まさかあの時この場にあいつがいるとは思わなかったのだろう。けれど、いたのだ。私と一緒に……。にしても、気づかれていたなんて。やっぱり、この間の電話の相手はこいつだったのね!


「また邪魔される訳にはいかんかったから、ちょいとばかし口封じさせてもろたわ」


「なっ、響史に何をしたの!?」


「そない怒らんといてや唯ちゃん……何も殺しはしとらんわァ。第一、メインディッシュはちゃんとした場所でもらわんとォ……美味(うま)ないやろ? せやからちゃんと舞台用意したったんやないか。ちょいと味付けしてやったんよ……もしもサツにチクったら、姉と従姉殺したる言うてなァ? ごっついビビっとったでェ? ありゃあ、もしかすっと自宅でチビとったんやないのォ? キィハハハハハハハハハ!!!」


 勝手な憶測で唯の弟を嘲笑する凶哉に、唯はもちろん私も怒りを覚えていた。思わず握っていた拳の力が強まる。許せない……あんな子供に脅しをかけるだなんて。どこまで汚い男なの?

だから、尚の事あいつを助けたくなった。


「響史を馬鹿にしないでっ!! 絶対に許さない……あんただけはっ!!」


「ハンッ、今のお前に何が出来るん? 拘束されて椅子に縛り付けられとる状態で、身動きなんぞ殆ど取れへんでェ? 悪あがきせんと、お兄さん達に奉仕でもしたらどうや……そしたら、ちぃとばかしは気分変わるかもしれんで?」


「ふんっ、冗談はやめてくれない? あんたらなんかに奉仕なんて、まっぴら御免だわ! 死んでもお断りよ!!」


「なんやと……ゴルァアッ!!! てめぇ、あんまナメとったら痛い目見んのは分かってんねやろ!? せやったら、大人しくわいの言う事聞いとけやァッ!!」


「あんたみたいな腐った大人の言う事なんて、聴きたくないわ!! そもそも、響ちゃんはこんなトコに来ないわよっ!! 諦めて解放なさい!!」


 激しい口論。大きな声が廃倉庫内で木霊し、少し離れた位置にいる私の所にまでちゃんと聞こえてくる。

 と、その時、口論の激しさが凶哉を興奮させたのかついに手が出た。


「こんのアマァアアアアアアアア!!!」


 そう言って身動きのできない唯に向かって凶哉が拳を振るった。が、その寸前――。


バンッ!!


「待てェッ!!」


 激しく扉が開くと同時、一人の少年の声がした。

 凶哉が振るった拳は、ギリギリ唯の鼻先で停止していた。俗にいう寸止めのような感じだ。


「誰や……わいの邪魔をしおってからにィ」


「ね、姉ちゃんから離れろ、ぼ、僕が相手だ!!」


 震えながらも懸命に声を振り絞る少年の方に、私を含めてこの場にいる全員が視線を向けた。

 そこにいたのは、声と同様両足――というか、体全体を小鹿の様に震わせている銀髪少年だった。そう、あいつ――神童響史だ。

 手には木刀を構えて戦闘態勢にある。しかし、剣先は震えていてしっかり照準が定まっていない。


「ぷっ、アッハハハハハハハハハハハ!!! なんや、その震えは!! 傑作やわ、こないなトコに一人で来たんは褒めたるけど、そない震えとったら戦えへんでェ?」


「ふ、震えてるんじゃない、お前らが高揚感に酔いしれて酔っぱらっているから、震えているように見えるだけだ!」


「キィヒヒヒ、オモロイ事言うやないかァ……そないな難しい言葉よう覚えてとんな~。まぁ、語彙が豊富なんはええコトや。せやけど、今はどうでもええ。やい、神童響史ッ!! よくも、よくもわいの兄貴を冷たい鉄格子ん中閉じ込めくれたな!! この落とし前、今こそつけたるでェ!! 野郎ども、いてこませ!!」


『ヘイッ!!』


 凶哉の言葉に部下の十数人が、一気に響史を取り囲む。くっ、卑怯者! 相手は小六一人よ? それに対して大人大勢だなんて……こんなの、響史が絶対に不利じゃない!

 私は手助けしたくとも出来ない自分の立場が歯痒かった。下唇を噛み締めて拳を地面に打ち付ける。


「~~~~っ!!」


 鈍痛が拳から痛覚神経を通って私の頭に届いた。

 そんな一方で、響史は必死に相手を蹴散らしていた。木刀を構え、胴や籠手を打つ。ただ、面は難しいようだ。まぁ、ムリもない。あの身長さだ。だけど、相手が身長の低い響史を捕まえようとする際には体を屈めることになるので、それを上手く躱した隙に面を何本かお見舞いした。

 大勢いた部下は、竹刀ではなく木刀の攻撃で次々と倒れて行った。これはもしかすると……もしかするかもしれないと、少しだけ希望が見えてきた……気がした。

 強いと言っても体力に限界がある。それに、まだまだ子供のあいつはそこまで体力があるわけではない。すぐにバテてしまっていた。

というわけで、過去編もようやく佳境に差し掛かってきました。三部構成でお送りします。ついに運命の日を迎えた響史。その命運や如何に……まぁ、結果は既に知っているでしょう。過去編ですからね。

 で、今回の視点はルナーでお送りしています。やはり関係者視点だとそのシーンの最中他の人物が何をしていたのか分からないですから、第三者がいるということで。

 そして、この過去編で結構ルナーの力が使われてたりします。さすがは五人の支配者の一人。単なるバカじゃないんです。てなわけで引き続き二部をお送りします。

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