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魔界の少女  作者: YossiDragon
第五章:七月 過去『封印されし記憶の解放』編
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第五十九話「唯の懊悩」・3

「まぁ、あれね……。なんというか、唯もそういう歳になってきたのは解るけど、もう少し先……という訳にはいかないの? それに、相手もそこまで離れていなくても。もう少し……もう少しだけ年齢が近くでもいいじゃない? 例えば……そうね。同い年の男の子とか。光影学園に誰か良さそうな子とか、小学校の頃から一緒だった子とかいないの?」


 ああ、そうなんだ。気づいてしまった。お母さんが遠回しに、私にその男と別れろと言っている事が。私だって別れたい……別れられるものならば。でも、そんなの無理なんだ。あの悪魔は一度契約を交わしたら最後まで付きまとう。悪魔自身を滅ぼさない限り、絶対に。

 それなのに、何も分かっていない。こんなに苦しいのに、まるで他人(ひと)事。こっちの気も知らないで……。

 私は少し自暴自棄になっていた。


「……何よ、二人して。私だって、年上がいいと思ってるわけじゃない。あの人とだって、道端で道を聞かれて、そこから何となくで付きあってただけだし……」


 口から出まかせの嘘を吐いた。いいや、それでは語弊がある……正確には、真実の中にほんの少し……隠し味的な感覚で嘘を混ぜ込んだのだ。決して気付かぬ味と言う名の嘘。

 事実という料理のベースに、ちょっぴりヒントという調味料を加えるだけで味は変わり、嘘は容易く見破られる。下手な事をして隠し味がバレたらその時点で嘘が分かってしまうのだ。


「じゃあどうして……」


 そして私は、失態を犯した。


「彼がしつこく言ってくるから……!」


 私は制服のスカートを強く引っ張っていた。握り拳を作って思いを力に込める。


「どういう事だ?」


 しまった、気づいた時にはもう私の口は動いていた。


「実は……お金、借りてるの」


 言ってしまった。両親に、気づかれてしまった。


「ど、どういうこと!?」


 お母さんは驚愕していた。口元を覆っている手が僅かながらに震えているのが見て取れる。

 でも、驚くのも無理からぬ事だった。何せさっきまで付き合っている彼氏の話題だったのに、その彼からお金を借りたなどと、意味不明な事を言い出したからである。

 そりゃあ訳を要求されるのも道理だと思う。だから私は意を決して説明する事にした。


「私がお母さんに頼まれたお使い行ってた時、誤ってお金を落としちゃって……。それで途方に暮れていた時に、彼が声をかけてきたの。最初は道を訊かれただけだったんだけど、道を訊き終えた後私に悪魔の様な囁きで言ってきたの。お金を貸してやるから俺と付きあえって……」


 一部話をかいつまんで話したけど、言っている事は同じなのでいいだろう。


「そ、そんな……お金落としたなら落としたって、言ってくれればよかったのに」


 お母さんは、私がとった行動が少々理解に苦しんだのか、信じられないと言う顔で言った。


「その時っ! ……その時は、少し頭が混乱してて、受験も近かったからパニック状態だったの! その上、彼からあんな言葉をかけられたせいで頭が真っ白になって。何も考えられなくなった。だから! それで……」


 私は所々語気を強めたり弱めたりして、気持ちを吐露した。すると、お父さんが耐えきれなくなったのかその場に立ち上がった。


「許せん! その男、殺してやるッ!!」


 突然血相を変えて出て行こうとするお父さん。その声の荒げ様に、私は本気だと思って止めにかかる。お母さんもあたふたしながら手伝ってくれた。


「や、やめてあなた。確かにあんまりだけど、殺すまでしてしまったらあなたが……」


「放してくれ、唯奏! 実の可愛い娘が脅されてるんだぞ!? 人生は一つの命で一つしか決める事が出来ない!! その人生を、そんなやつに狂わされる訳にはいかないんだッ!!」


 いつになく覇気が半端じゃないお父さん。こんなお父さんの顔、初めて見る気がする。

 と、その時、ギィィィと扉が開く音がした。その音に急な寒気を覚えた私は、サッと顔だけをそちらに向けた。

 お父さんとお母さんもその音に気付いたのか、閉口して黙ってしまう。

 そして私は、そこにいてはならない人物の存在を視認した。それは、大切な弟であり敵の標的にもなっている響ちゃんだった。

 つまり、響ちゃんは全て聴いてしまっていたのだ。いや、どこから聴いていたかなんてわからない。でも、少なくともお父さんの怒声は聞こえただろう。近くにいて耳の鼓膜を盛大に震わせる程の声量だ。二階にいたかもしれない響ちゃんや亮ちゃんに聞こえていないはずがない。

 それどころか、響ちゃんはすぐそこにいたのだ。扉一枚を隔てた向こう側に……。


「き、響ちゃん……」


「聴いていたのか」


 お父さんからゆっくり離れながら、私は弟の名前を弱々しく口にする。すると、次いでお父さんが失敗したと言わんばかりの表情を浮かべた。


「響史、あなたそんなところで何をやっているの?」


 お母さんの質問だ。確かに、騒ぎ声が聞こえたので降りて来たという理由も考えられるが、それだけではない気がする。

 すると、響ちゃんがすっかり顔色を悪くさせ、体を震わせながら口を開いた。


「りょ、亮祐が……退屈だからゲームしようって。そ、それで……どうせなら、久しぶりにUNIがしたいなって言うから。でも、UNIは下にあるから、それで……取りに、来たら……ご、ごめん、なさい!」


 私達の会話を全て聴いていたとしよう。だとすれば、震えるのも無理ない。お父さんは殺すという恐ろしい言葉を口にしていた。しかも、その語気の強さが半端じゃない。体の表面から殺気が溢れ出ていたかもしれない。

 少なからずそれを響ちゃんが感じたのなら、それも無理からぬ事だと言えよう。

 響ちゃんは完全に涙目で謝っていた。別に悪い事をした訳じゃない。むしろいけないのは私達の方だ。いや、私が悪い。こんな話、まだ小学生の響ちゃん達の耳に届いたらいけなかったんだ。本当に私はいざという所で抜けている。

 そんな事だからあんな悪魔に言いように付け入られるのだ。


「……け、喧嘩はやめてよ?」


 そう言う響ちゃんは、どこか懇願しているようでいて切なる願いを口にしているようだった。別に喧嘩などではない。ただの言い合いだ。いや、言い合いという程でもない気がする。

 そもそも私達の家族内では、このような大声を張り上げて言いあう様な事は殆どない。喧嘩などもってのほかだ。

 だからこそ響ちゃんは、これからもずっと家族団欒の平穏な生活を望んでいるのだろう。

 もし七夕の短冊に願いを(したた)めるのだとしたら、響ちゃんはそれなのかもしれない。

 ならば、私は叶えてあげたい。可愛い弟のせっかくのお願いだ。叶えられないような無理難題な物ではない。やろうと意気込めばやれる程度の事だ。

 似たような事を両親も感じ取ったのか、すっかり落ち着いた二人は椅子に座った。私もそれを見て着席する。

 それからふぅ~と深いため息を吐くと、手を交差させて肘をテーブルに着き、司令官の様な(てい)になって真剣な面持ちになる。

 しばらく考え込むと、お父さんが口を開いた。


「よし、父さんに訊いてみよう」


 そう言った。

 父さん――即ち、お爺ちゃんの事だ。


「お爺ちゃんに?」


私もお母さんも驚きだった。

確かにお爺ちゃんなら力になってくれそうだけど、一体どうするのだろう?


「父さんなら、その男の事も簡単に見つけ出してくれるだろう」


「見つけ出してどうするつもり?」


 お母さんの質問だ。それは私も気になっていた。見つけ出して、それから……。嫌な予感がする。


「もちろん、付きあうなどさせないように圧力をかける。そして、唯に謝らせる。もしもそんな気がないと言った言葉を言った場合、それ相応の覚悟を決めてもらうつもりだ」


 その発言に、この場にいる全員が言葉を失った。すっかり黙り込んでしまい、再びあの沈黙の時間がやってくる。

 すると、お父さんがこちらに視線を向けた。


「どうする唯? これは唯自身の問題だ……。どうするかは、唯が決めなさい! あんな男に人生を狂わされるか、あんな男とは縁を切り、大人になってから恋をしていくのか。どちらか決めるんだ……」


 突如与えられる選択肢。この分岐によって、私の人生は……変わる。確かにそうだろう。けれど、本当に大丈夫なのだろうか? 縁を切るまではいい。けれど、それに気を悪くしたあの悪魔がどんな手に打って出るか分からない。下手をすると、仲間を連れて襲撃しに来るかもしれない。

 それを恐れた私はどうすればいいか、すごく悩んだ。


「……少し考えさせて」


 すぐに結論が出そうになかった私は、お父さんの顔を見れずにそう答えた。威圧感的な何かを感じたのかもしれない。

 そして私は、席を立ってダイニングルームからリビングを経由して廊下に出た。

 廊下に出る間際、ふと響ちゃんと目が合ってしまったがすぐに逸らしてしまった。何だか響ちゃんに今の顔を見られたくなかったのだ。姉として情けない、そんな姿を晒したくなかった。

 私は自室へ向かおうと階段に足をかけた。ゆっくりと、足元を確認するようにしながら一歩ずつ上の段へ。

 と、その時。


「お姉ちゃん」


 背後から誰かに呼び止められた。いや、誰かなんて声を聞けば容易く分かる。響ちゃんだ。

 私は、ゆっくりと後ろを振り返った。今の私はどんな顔をしているだろう。悲壮感に浸っているのだろうか?


「どうするの?」


 そんな問いをされて、私は悩んでいるのがだんだんと馬鹿らしく感じてきた。

 だから思わず自嘲気味にふふっと笑ってしまう。


「……どうしよっか、響ちゃん。私、なんだか分からなくなっちゃった……。でも、今更ほっとくわけにはいかないよね」


 だって、そんな事をすればあの悪魔――凶哉がどんな暴挙に出るか分かったもんじゃない。それに、響ちゃんが襲われそうでとても怖かった。

 だけど――。


「分かれればいいじゃん!!」


 響ちゃんはそう答えた。


「ダメだよ。彼にはお金を借りちゃったし……」


 そうだ。まぁ、どうせ返したところであの男が私を手放すとも限らないけど。


「返せばいいじゃん!!」


 さすがの私も、こればかりは軽く言ってくれるよと苛立ちを覚えた。でも、それが私を心底心配しての事だと思うと、逆にそう思ってしまった自分に苛立った。

 だから、すぐに元の柔かい表情を浮かべて響ちゃんの頭を撫でてあげた。ツンツンしていながらも優しい、芯のある髪質。まるで、響ちゃん自身を体現しているかのようだった。


「ううん。私も一度は返そうとしたよ? でも、そしたらあの人はこう言ったの。こんなはした金いらない。俺がお前に貸した金はもっと高額だったって」


 実際にはもっと方言を含んだ口調だったが、響ちゃんに伝える形になるから少々意訳した。

 響ちゃんはちゃんと私の言葉を真剣に聞いてくれていた。


「私はお使いのお金を借りただけ。ほんの少し、溜めれば返せる値段だった……。なのに、彼が言ったのはとんでもな額の値段だった」


「何円……だったの?」


 恐る恐ると言った風に質問する響ちゃんに、私は感情的になりながら答えた。


「百万四? 百万! そんなの払えるわけないじゃない……! もう、どうすればいいの? 私……。ねえ、教えてよ、響ちゃん……」


 心で、頭で悩んでいた事を、思いを口にして私は限界を迎えた。何かを必死に抱きしめたい衝動に駆られた私は、思わず目の前にいた響ちゃんを強く抱きしめてしまっていた。すごく暖かい、優しい温もり。私と同じシャンプーやリンスを使っているはずなのに、少しだけ違う、独特の匂いがした。ずっとこうしていたい、そうすれば何もかもを忘れられる感じがしたんだ。

 けど、いつまでもこうしてたらダメだ。私が甘やかせば響ちゃんは駄目な人間になってしまう。大事な弟には、立派に強く……優しく成長してもらいたい。だから、いつかは離れなきゃいけない。だけど、それが激しく嫌で、悲しくて、辛くて、そんな感情が涙となって頬を伝った。軽く響ちゃんの頬に己のそれをくっつけて頬ずりしていたので、響ちゃんにも気づかれたと思う。

 そして、私が泣いているのだと理解した途端、響ちゃんは私の両肩に手を置いて離れると、言った。


「な、泣かないでお姉ちゃん!! お姉ちゃんが負けちゃったらダメだよ!! 僕がお姉ちゃんを守るから!!」


 聞き覚えのある言葉。記憶に存在するいつぞやの言葉が、私の脳裏をよぎった。そして私は項垂れていた頭をゆっくりあげて、響ちゃんの顔を見た。


「えっ?」


 思わず気の抜けたような呆けた声が洩れる。それを聞き逃したと勘違いしたのか、響ちゃんはもう一度、はっきりと口にした。


「僕がお姉ちゃんを守る!! お姉ちゃん前に言ったじゃん! 男の子は女の子を守るもんだって!! だったら僕は、お姉ちゃんにもらったあの木刀で、お姉ちゃんを守るッ!!」


 その言葉をどれだけ聞きたかった事だろう。守り続けた私を、誰かに守ってほしくてずっと待ち望んでいた。もうすっかり待ちくたびれて、諦めようとしていた所に、響ちゃんは希望の光を差してくれた。

 私が言った言葉……一部抜けている言葉がありはするものの、前提は間違ってはいない。確かに私は言った。今の時代、そんな言葉は誰もが笑ってまともに取り合いもしないだろうに、響ちゃんは違った。

 嬉しくて、たまらなく嬉しくて、私は両目から先程とは異なる涙を流した。


「き、響ちゃん……。ぐすっ、あ……ありがとう。お姉ちゃん、すごく嬉しいよ!」


「だから、父さんにちゃんと頼もう! 爺ちゃんにその悪い男を倒してもらうんだ!! それでもダメだったら、僕が姉ちゃんをいじめるその男を倒す!!」


 その言葉が、私の心をどれだけ癒し、慰めてくれた事だろう。まだ小学六年生で、私よりも人生経験の少ない響ちゃんが、私にはとてもカッコよく見えた。言うなれば、小さな王子様という所だろうか?

 私は溢れる涙を人差し指で拭いながら、満面の笑みを浮かべて口を開いた。


「……うん! わかった……。響ちゃんは優しいね。私、そういう男の子……大好きだよ?」


 自分で言ってて恥ずかしくなってくるようなセリフ。だけど、この時の私はそんな事少しも気にならなかった。その言葉を聞いたせいか、響ちゃんは顔を真っ赤に染めて恥ずかしそうに私から目を逸らしていた。

 その反応がとても可愛らしくて、思わずクスリと小さく笑ったのを覚えている。

 その後、私は両親と再び話し合い、結論を出した。

 七月八日。この日、凶哉からの連絡は一度もなかった。私は救われたと思った。けど、それは大きな間違いだった。やっぱり悪魔は退かなかった。それどころか、私の予想した通り機嫌を損ねてとんでもない行動に打って出て来たのだ。

 嵐の前の静けさは、ほんの数日が過ぎて終わりを告げる。

 七月十四日。私は近くの図書館で勉強しようと家を出た。しかし、私は出くわしてしまった。あの悪魔に……。


「一日ぶりやのゥ、唯ちゃん? 昨夜はええ夢見れたかァ? まァ、それも一日限りや……これからは悪夢やと思うときィ」


 そう言う凶哉の瞳は、ギラギラと光り輝いていた。

 私は彼に肩を抱かれ、どこかへ連行された。道中何かいろいろ言っていたが、はっきり言って内容など覚えていない。私には、ずっと自身の心臓の激しい動悸しか聞こえていなかった。

 そうして時間が過ぎて、私はある場所に辿り着いた。そこは、蛍河河川敷近くの廃倉庫だった。以前、茜や姫歌や燈が連れ攫われた場所だ。

 まさかよりにもよってこの場所に連れて来られるとは、思ってもみなかった。


「ふゥ……どや、覚えとるやろォ? わいの兄貴が捕まってしもた場所やァ……ここにはいろいろ(ゆかり)があんねん。せやからこの場所にしたった……もォ、分かってんねやろ?」


「な、何が?」


 私はシラを切るつもりでそう返した。すると、凶哉は鼻で笑って口を開く。


「知っとるでェ? 唯ちゃんの弟君……響史言うねやろォ? ほんま、こんな偶然あんねやなァ。運命なんちゅーもんはちィとも信じとらんかったけど、こればかりは信じざるを得んわな」


 肩を竦めて、凶哉は不気味に笑む。


「響ちゃんを……どうするつもり?」


「キヒィ……なんやァ、知っとるやん。唯ちゃんも人が悪いわァ……まァ、わいは寛大やから許したるさかい、気にせんでええよ?」


「だったら……響ちゃんの事も、許してください」


 懸命にそうお願いする。しかし、返って来たのはあまりにも冷たい一言だった。


「それはアカン。わいにも堪忍出来る部分とそうでない部分とあんねや……。残念やけど、唯ちゃんの弟君はアカンもんに手ェ出してもうたんや……しゃーないで」


 片方の肩を揉みほぐしながら腕を回す凶哉。私はもうどうしようもなくて、言葉が出て来なかった。このままじゃ、遅かれ早かれ本当に響ちゃんが危ない!


「お願いっ! 弟には――響ちゃんには手を出さないでっ!! 約束したでしょ!? 本当の目的はお金でも何でもない……響ちゃんの命だって!! だけど、それをやめさせるためにお金を払い続けていたのに……付きあい続けていたのに」


「よう言うわ……唯ちゃん。先に約束破ったんはそっちやでェ? 覚えとらんの? 付きあい続けるんはお互いの条件を呑むための代償……。せやからわいは、唯ちゃんの弟君に手ェ出さんと大人しゅうしとったのに……いきなりジジイなんか召喚しよって」


 ジジイというのは、豪佑お爺ちゃんの事だろう。先日、お父さんがお爺ちゃんに事のあらましを話した事で、彼は私に近づけなかった。


「もう堪忍袋なんちゅーもんはあらへんよ? わいの自由やァ……唯ちゃん、あんたが悪いんやでェ? 大人しゅうわいと付きあって、金払い続けへんから……これはもう契約破棄と取ってええ。こっからはわいの好きにさせてもらうわァ」


「そ、そんなっ!! 響ちゃんは、響ちゃんは関係ないじゃないっ!! 響ちゃんが何をしたってのよ!!」


「んな事も分からへんのかッ!? あいつはなァ、わいの兄貴を冷たい牢獄に閉じ込めおったやつや! 絶対に許さへん……あいつの邪魔さえなかったら、わいらの計画は順調に進んだはずやったのに……例の計画を進めるために」


 例の計画? 一体何のことだろう? しかし、少なくともこの事件の中心人物が響ちゃんなのは間違いない。響ちゃんは恐らく、一年前に茜達を助けるために何かをしたのだ。それがきっかけであのニュースの報道……。それが凶哉の怨恨に繋がったのだろう。

 だけど、悪い事をしたのは自分達なのだから自業自得といえよう。それなのに、響ちゃんを恨んでこんな事をして……。


「わいはもう止まらへん……ええか、弟君――神童響史に伝えとけェ。必ずお前の命を奪ったるってなァ」


 私はその言葉に衝撃を受けて放心状態に陥った。目を見開き、体のあちこちが振るえる。ふと己の手を見れば、指が小刻みに震えているのがよく分かった。

 ああ、私は怖いんだ。弟を失うのが……そんなの誰でも当たり前だ。誰しも肉親を失うのは嫌なはずだ。

 だから、これは当然の反応なんだと私は思う事にした。

 でも、これからどうすればいいんだろう。響ちゃんを守るには…………あれ? おかしいな、響ちゃんは私を守るって言ってくれたのに……私が守っちゃったら、意味ないじゃん。

 だけど、私が守らなきゃ……何も知らない響ちゃんがやられちゃう。相手は大人だ。どんな悪知恵を働かせてやりにくるか、分からない。

 私は家に帰って必死に考えた。考えに考え、その日は一睡も出来なかった。




――☆★☆――




 私――ルナー=アルメニア=ベリリウムは、あの女――唯の話す語りを聴いていた。響史にあらかじめ渡していた物をスピーカーにして、二階の響史の部屋で聴いていたのだ。この場には私を含めて数十人の魔界の人間がいる。私以外のメンバーは、驚愕の表情を浮かべていた。無理もない、あいつにこんな過去があったなんて誰も知らないのだから。

 私は知っていた。あいつの事を調べたから……。

 きっかけは、あいつに出逢った事が始まりだった。そこから興味が湧いてタイムマシンを使って過去に行った。

 運命の日、七月二十一日に。そこで私は知りたくもない過去を、知ってしまうのだった……。

というわけで、三部めです。響史の過去編も残す所二話となりました。次の話が佳境で、その後の話が一話あって過去編終了。その後はようやく本格的に夏休み編に入ります。そこからは、ようやく神童家以外のキャラが出るかと。

てなわけで、次回予告。七月二十一日の内容をします。視点は、ルナーです。魔界の少女達との絡みもあります。更新予定は、なるべく早めの予定です。

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