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魔界の少女  作者: YossiDragon
第五章:七月 過去『封印されし記憶の解放』編
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第五十八話「東西南北・過去(後編)」・1

三部構成でお送りします。

「――やはり、あの時の事を思い出すというのはいささか……来ますね」


 事件の本筋――四年前の事よりも、これらの発端となった五年前の事を話していた茜は、片手で胸元を押さえ、もう片方の手を額にやりながら言った。


「大丈夫か、従姉ちゃん?」


「ええ、問題ありません……」


 響史が心配の言葉を口にすると、茜は心配させまいとしてか、苦悶の表情を浮かべながら作り笑顔を向けた。


「次は、私が話す」


 そう口火を切ったのは、響史と同い年の燈だった。本格的に響史が事件に巻き込まれる事になった原因も、言い方は悪いが燈のせいである。


「燈さん、さすがにそれは……」


 事情を知っている茜は、額に脂汗を滲ませながら燈の方を見た。その辛そうな表情を見て、燈は唇をキュッと一文字に結んだ。それから傍に置いてあったコップを手に取り、水を飲む。


「ごくっ……ぷはーっ。大丈夫だって、茜。私だってあの時からめいっぱい特訓したんだ。こうして力も得たし……」


 そう言うと、響史の方を向いて語り始めた……。




――☆★☆――




 燈は我慢の限界だった。毎日毎日指示を出される度にビクビクする生活。自由時間を削られて、その上自分のお小遣いが消えていく喪失感。買いたい物が買えないなど、お金持ちの家系に生まれた人間としておかしいものだ。だが、まさかこんな事になるとは露ほども思わなかったのだ。

 だからこそ、誰かに助けを求めたかった。早く自由になって昔の様に楽しい生活を送りたい。そのためなら、多少の危険は顧みない……そのつもりだった。それがまさか、あんな事態を引き起こすなんて、誰が思っただろうか? ましてや当時の燈は小学五年生。難しい事は全て年上に任せっきりだった少女は、後悔の念に苛まれた。




「うわぁああああんっ、お兄ちゃぁあああん!」


 泣きじゃくる燈は、当惑顔の響史の腕の中で声をあげていた。どうしていいか分からず、助けを求める少女に、響史も何とかしてあげようと考えていた。なので、彼は燈の頭に手を置き優しく撫でてあげると口を開いた。


「顔をあげるんだ、燈」


「ぐすっ……お兄ちゃん?」


 一体どんな解決策を講じてくれるのか、燈は目尻の涙を手のひらで拭いながら耳をそばだてる。


「爺ちゃんに、相談しよう!」


 まだ幼く経験が浅い響史の、精一杯の考えだった。困った時には大人に相談。経験豊富な大人なら、それも家族ならば何かいい解決策を講じてくれるだろうと考えたのだろう。

 頼りになる従兄の言葉に、燈はぱぁっと表情を明るくさせた。


「これで……いいかな?」


 頬をかきながら響史が燈を見下ろす。見上げる形になっていた燈は、大きく頷いてうんと元気な声をあげた。その声に、響史は少し安堵のため息をついて電話がある廊下へ向かう。

 それから祖父――神童豪佑の電話番号をプッシュしていく。

 プルルルル……という音が受話器から鳴り響き、響史がしばし待つ。

 そして――


〈もしもし、どちら様かのぅ?〉


 この時は、受話器を持つ響史も、それに必死に耳を近づけていた燈も、豪佑の声が天使が差し伸べる救いの手の様に感じた。


〈ん? 聞こえぬのか? もしも~し〉


 少し放心状態になっていた二人は、慌てて我に返る。


「もしもし、爺ちゃん?」


〈おお、その声は響史か?〉


 大切な孫の声に、豪佑が反応して孫の名前を口にする。


「うん、実はさ……爺ちゃんに相談したい事があるんだけど」


〈……何やら、深刻そうじゃのぅ。話してみよ〉


 口調はともかく、孫の言葉を真摯に受け止め相談に乗ってくれる豪佑。そして、五分程かけて説明した頃だろうか。豪佑の声色が少し変化していた。


〈響史、燈はそこにおるのか?〉


「え? うん、いるけど……」


 少し覇気が込めてあるためか、若干怯んでしまった響史は、燈を見下ろして彼女に受話器を手渡した。


〈もしもし、燈か?〉


「うん、……おじいちゃん、私――」



〈ヴワァカモン! なぜ早くわしに相談せんかった!! 両親が共働きでおらぬからわしがおるのじゃろう!? 側にいて、何かあった時にすぐ対処できるよう!! これではわしがおる意味がないじゃろう!!〉


「ちょっと爺ちゃん! そんな言い方ないだろ!? 燈だってどうしていいか分からなかったんだ! 言うなって脅されてたんだし、仕方ないよ!」


 受話器から少し離れてはいたが、豪佑の声量たっぷりの声が漏れていたため、即座に燈から受話器を取って言い返す。

 すると、言い終えて冷静になったか、豪佑が少し勢いを落として口を開いた。


〈そ、そうじゃったな……すまん。つい、ムキになってしもうたわい。燈、すまん〉


「燈、爺ちゃんがゴメンってさ」


「ううん、いいよ……。私ももっと早くおじいちゃんに相談してればよかったんだし……」


 豪佑の謝罪の旨を響史が代弁し、それを聞いた燈が気にしていないという風に首を振った。すると、豪佑がまたも口を開く。


〈して、首謀者の顔は分かるのかのぅ?〉


 再び燈に受話器を手渡す響史。燈は祖父から聞かれた質問にコクコク頷きながら解答していった。




 次の日、事態は変化していた。燈が話した犯人の特徴と、犯人から送られてきたメールから場所を割り出し、逮捕されたのだ。場所は、光影都市にある蛍河の河川敷近くの廃倉庫で、茜、姫歌、燈の三人が拉致られた場所もここだったらしい。

 ただ一つ、腑に落ちない事がある。


〈続いてのニュースです。本日朝十時に、光影都市黄昏区の蛍河河川敷近くの廃倉庫で、金銭を目的とした犯人が逮捕されました。被告人は『殴頭(おうがしら) 狂次郎(きょうじろう)』氏(31)で、多数の学生を暴行病院送りにした他、三人の学生を誘拐、脅迫して多額の金銭を要求して指示した場所に運ばせていたとの事で――〉


 お気づきいただけただろうか? 逮捕された人数は一名……しかし、犯行に及んでいたのは二名なのだ。つまり、後一名捕まっていない。もしかすると、どこかに潜伏しているのかもしれない。となると、ますます燈達が危ない。

 警察が動いたと言う事は燈達がバラしたのだと、バカでもない限り分かる。そうなると、見つかった時がマズイのだ。下手をすると、殺される可能性だってあり得る。もし彼らが何か裏の組織とかで繫がっていた場合、そのメンバーに()られる事も考慮しなければならない。よりにもよってマズイ事態になったと、燈は思った。

 この日、燈は茜と姫歌と一緒に病院へ向かった。理由は友達の見舞いである。あれからずっと面会拒否をくらい続けていたが、それでもめげずに通い続けていたのだ。花束のみを看護婦さんに渡して帰る事の繰り返し。

 だが、犯人の片割れが逮捕された今日だけは対応が異なった。


「どうぞ」


「え? いいんですか?」


「はい、面会は許可されていますよ?」


 看護婦さんの言葉が少し信じられなかった。茜は左右にいる姫歌と燈と目配せしてから、もう一度看護婦さんを見る。しかし、看護婦さんはただただ笑顔を浮かべているだけだった。どうやら嘘ではないらしい。

 三人は各々の病室へ向かった。

 燈は友達のいる病室の札の名前を確認し、戸を叩いた。


『どうぞ』


 少し篭った声が室内から聞こえた。恐る恐る燈は戸に手をかけ扉を開けた。そこには、紛れもない親友の姿があった。まだ包帯全てが取れたわけではないが、痛々しかった切り傷や打撲痕はすっかり引いていた。確かにあれから六か月程経っているのだから、それも当然といえばそうかもしれない。

 燈は病室の扉を閉めると、恐れ多いという様に親友の顔色を窺った。親友はベッドにいるものの寝てはおらず、上半身を起こした状態で顔を外に向けていた。


「あの……ぅ」


 弱々しい声音で声をかける燈。すると、ビクッと若干親友の肩が振るえて頭が動く。思わず顔を背けようとしたが、それは何だか失礼な感じがして気が引けた。そのまま耐え、燈は親友の顔を見た。頬に湿布を貼り、額に包帯を巻いているものの、目元の腫れはすっかり引いていた。


「ご、ごめんなさいっ!!」


 燈の第一声はそれだった。罵声を浴びせられる前に今一度謝っておこうと思ったのだ。これから返される言葉はきっと、「何で来たの?」とか「あんたとは一切喋らない」だろうが、それでも会えるだけで嬉しかった。無事な姿が見られただけで安堵出来るのだ。

 親友の女の子は、花束を両手で抱える燈を見ると、唇をキュッと一文字に結んだ。やはり怒っているのだろう。

 そして、女の子が口を開く。


――来るっ!!



 そう身構えた瞬間だった。


「ごめんなさいっ!!!」


「え?」


 返された言葉は、予想に反するものだった。燈が想像していたのはこんな謝罪の言葉ではない。もっと心を抉るような酷い罵詈雑言だ。こんな傷付いた心を癒す慰めの言葉ではない。


「どうして、謝るの?」


 思わずそんな言葉を紡いでいた。


「こうしろって……言われたの。ごめん、燈ちゃん。わたし、ほんとは燈ちゃんが悪いなんて、少しも思ってないんだよ! ただ怖くて……、お金渡されて……言う事聞けば殺しはしないって言われて、燈ちゃん……だますような事して……ぐすっ、ほんと……ごめっ――ひぐっ! ごめ、なざい……うぅ、うわああああぁあんっ!!!」


 ついには幼い心が耐えられず、とめどなく涙を溢れさせて、幼き少女は泣き出してしまった。拭っても拭っても涙が溢れる様子は、まるで壊れた水道管から水が噴き出すかのようだ。

 例えはともかく、燈は慌ててポケットからハンカチを取り出した。


「大丈夫? これで拭いて?」


 あれほどまでに罵詈雑言を吐かれておいて、燈は親友に優しく接した。それがどれほどに暖かく、傷ついた親友を包み込んだかしれない。ただ彼女は燈に抱き着いて泣きじゃくった。

 それから三十分が経過した頃だろうか。大分落ち着いてきた少女は、全てを燈に説明した。

 全容はこうだ。

 ある日、燈の親友の少女は帰路に着いていた。帰りがけ、友達と分かれて近くのコンビニでお菓子を買って帰っていると、変な男とすれ違ったそうだ。家に着いてランドセルを降ろし、中に入っている教科書やノートなどを取り出し明日の準備をしていた時の事だ。教科書とノートの間に紙切れが挟まっていた。そこにはこう書かれていた。


『両親が寝て深夜一時になったら、光影中央公園近くのコンビニへ来い。守らなかったらお前の大事な友達を殺す』


 さらに、ランドセルの中には、札束が入っていた。

 あまりにも恐ろしくなった彼女は、早めに寝てあらかじめセットしておいた目覚ましで目覚めた。音はなるべく小さくしていたため両親にはバレず、彼女は深夜の住宅街を徘徊してコンビニへ向かった。

 しかし、その道中で背後からいきなり口を塞がれ、目隠しまでされた挙句に体を猛回転。完全に視界と平衡感覚を失った少女は、されるがままに暴行を受け続けたという。

 また、その暴行の最中にいろいろな脅迫もされたらしい。

 最後辺りは意識がはっきりしておらず、ただ恐怖で震えていたそうだ。

 その全貌を聞いた燈は、信じられないという気持ちと親友をこんな目に遭わせてしまった自分の不甲斐なさと申し訳なさでいっぱいだった。


「ごめん」


 こんな一言で謝罪の気持ちが伝わるとも思えないが、小学生の燈にはこれくらいしか言葉が思いつかなかった。丁寧にごめんなさいと言っても文字数が増えただけで気持ちに変わりはない。

 しかし、親友の少女は首を振って言った。


「ううん、いいよ。私こそごめんね? 口封じされて事前に燈ちゃんに教えられなかったの。お金は怖くてけいさつの人に渡した……ほんと、ごめん」


「……私達、これからどうする? 友達のままで、いてくれる?」


「それは……」


 そこで言葉が途切れた。無理もない。このまま友達でいれば、また襲われるかもしれない。その点、友達関係をやめれば襲われないかもしれない。だが、あくまでもかもしれないだ。一度友達をしていたからには、相手の情報を少なからず持っているという理由で狙われる可能性だって大いにありうるのだ。

 だがしかし、当時小学六年生の彼女達に、そこまで考える力はなかった。その結果――。


「……話す分には構わないと思うけど、遊ぶのは……遠慮しようか」


「そ、そう……だね」


 自分から持ち出しておいて、燈は少し悲しい気分だった。だが、これでいいのだ。あまり関係を持ちすぎると、また巻き込まれる。それなら最初から関係を築かなければいいのだと、燈はそう自覚した。


「それじゃあ、お花はここにおいとくね?」


「うん、ありがと」


「じゃあ……ばいばい」


「ばいばい」


 その別れの言葉が、本当に最期になるとは、燈は思っていなかった。結局その後も関係が修復されることはなく、会話しようにもきっかけが作れずに、だんだんお互い距離を置く様になって、最終的には親友の少女の方が耐えれず転校してしまう形になった。また、茜と姫歌の親友も似たような経緯を辿った。

 その日の晩、燈は自室のベッドで枕に顔を押し付け大声で泣いた。涙が涸れ、喉が潰れてしまうくらい泣き腫らした。その翌日は、眼が赤く腫れあがって学校に行けなかった事は、言うまでもない。

 そのまた翌日、燈は一つの決意を胸にある人物を訪ねていた。


「あの……相談があるんですけど」


「はい、何でございましょうか、燈お嬢様?」


 幼く可愛らしい声に反して、渋みのあるダンディな声を響かせるのは、執事長の菅野鍵之助だった。バブルドリームカンパニーの社長である神童豪佑が呼べば、颯爽と姿を現す彼だが、燈が何故自分に声をかけてくるのかが謎だった。

 すると、手招きしてその場にしゃがむように燈が指示した。されるがままその場にしゃがむと、燈が口元に手を運びひそひそと事情を説明した。それをふんふんと相槌を打ちながら聴いていた鍵之助は、驚愕した。思わず体勢を崩して転倒してしまいそうになる程だ。慌てて体勢を整えると、鍵之助はその場に立ち上がり胸元に片手を添えて大仰にお辞儀した。


「かしこまりました、不肖菅野鍵之助……燈お嬢様の決意に、感動いたしました! この菅野に出来る事ならば、ご協力は厭いません!! すぐに手配いたします!」


「ありがとう、菅野さん!」


「いえいえ、礼には及びません」


 身長の高い鍵之助と身長の低い燈は、傍から見ると大袈裟に例えて巨人と小人というファンタジー世界の住人の様だった。

 しばらくして、鍵之助は一人の黒服を連れてきた。


「こちらはバブルドリームカンパニーの警備についていらっしゃる『豪田(ごうだ)権蔵(ごんぞう)』さんです。権蔵さん、こちらは社長の孫にあたる西城燈お嬢様です」


「こりゃどうも、お前さんかい? 儂に修行をつけてもらいてぇってのは」


「はいっ!」


 権蔵と名乗る、還暦を迎えていそうなご老人は、年齢にそぐわない程立派な筋肉をしており、所謂巨漢だった。ムキムキとした筋肉の形が、服の上からでもはっきり分かるほど浮いている。最早一種のスーパーマンだ。


「いい返事じゃねぇか、嬢ちゃん。まずは、お前さんの力量から測らせてもらうぜ? 最初に言っとく、儂の辞書に容赦って文字はねぇ。その事をしかとその貧相な胸に抱いときな!!」


「きゃっ!?」


 いきなりセクハラ発言されて、燈は顔を真っ赤にして胸を庇った。そもそも、貧相も何も成長期に入っていないのだから無理ない。大きくなるのはこれからだ……多分。

 とにかく、強くならなければならない。襲われても自身を守れるように。

 そう、燈の決意というのは自身を守れる術――即ち護身術を学ぶというものだ。もちろんそれだけではない。彼女は武術を(たしな)む事にしたのだ。元々小さい時からそういう番組をよく見ていて興味は少々あった。ただきっかけがなかっただけなのだ。この機会を逃す手はない。どうせなら護身術も兼ねて武術を学ぼうと思ったのだ。しかし、誰に学ぶかそこが問題だった。あまり人と接した事がない燈は、なるべく身近な人物を選びたかったのだ。そこで鍵之助に話を持ちかけたところ、感動されてこの権蔵を紹介されたという事だ。

 それからしばらく、燈は毎日護身術を学んだ。また、その事を知った茜が楽しそうだからという理由で参加した。そこからは、二人で一緒に護身術を学び続けた……。

というわけで、今月中に投稿できました。後編です。前編で茜視点をやったので、後編は他の三人視点でお送りします。一部めは燈視点ですね。まだ彼女が怪力少女じゃなかった頃の話です。まだこの時期は女の子って感じですが、事件をきっかけに変わります。燈が今みたいになった原因は、バブルドリームカンパニーの警備員の権蔵さんのせいなんです。まぁ大元の原因はどこかの従兄さんですけど。

てな感じで二部に続きます。

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