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魔界の少女  作者: YossiDragon
第五章:七月 過去『封印されし記憶の解放』編
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第五十七話「東西南北・過去(前編)」・3

しょっぱなから冷ややかな一言で始まります。

「……帰って」


 それがどれほど心に刺さっただろう。傷だらけの心を、さらに抉るように深く刺さる言葉の刃。

 握っていた拳をより強く握って、茜は耐えた。しかし、そこに追い打ちをかけるかの如く、少女は言葉を発する。


「帰れ……帰れよ! もうあんたの顔なんて二度と見たくないんだよっ!!」


「すみません」


「謝んなっ!! 悪いと思ってんなら何であんな目に遭わせんだよっ!! あんたが誰かに恨まれるようなコトすっからだろ!? それに赤の他人巻き込むんじゃねぇよ!! あんたのせいで私が大怪我したんだよ!! どうすんだよ、この顔が戻らなかったらゼッテー彼氏なんて出来ねぇよ……。そん時、私はどうすりゃいいんだ? もしもんなコトなったら、私はあんたをゼッテー許さねぇかんな!!」


 最早完全に不良だった。今の茜ならばそんな言葉にも屈さないだろう。だが、当時の茜はまだ心が弱く、脆かった。そのため、物凄い剣幕で親友から汚い言葉が飛んでくるのには、耐えれなかった。

 茜はすっかり縮こまってずっと頭を下げていた。目を合わせられないのだ。

 そうして、ようやく言葉が止んだ頃合いを見計らって、茜はまたも謝罪の言葉を口にする。


「……本当に、ごめんなさい」


 その言葉が親友である少女の逆鱗に触れたのだろう。彼女は目を血走らせて傍にあった花瓶を手に取った。


「くっ!! 出てけぇ、クソ(アマ)ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 ズキッ!! パリンッ!!


 親友の口から飛び出た言葉。それが自分へ向けられたものだと気付くのに、然程時間は要さなかった。そして、理解する頃には、投げられた花瓶が病室の床にぶち当たり、粉々に粉砕されていた。同時、自分の傷ついた心も砕け散っていた。

 床にぶち当たった拍子に砕けた花瓶の破片が、茜を襲う。


「きゃっ!?」


 反射的に目を瞑り、顔を守ろうと防御態勢に出る。


「……はぁ、はぁ」


 少女は、疲れ切った表情をしていた。チラッと親友の少女を一瞥した茜は、そこでハッとなる。

 彼女は、眼から涙を流していた。それは、大好きな親友に酷い言葉や暴力を振るってしまった事から来るものだろうと、茜は勝手に推測した。そうであってほしいと、思ったのだろう。


「失礼、します」


「……ぁ」


 何かを言おうとしたのだろう、しかし茜は病室を後にしてしまった。だが、実の所その声は彼女に聞こえていた。聞こえた上で出て行ったのだ。恐らく、ここで応答してしまえば、また親友を激高させてしまうと思ったのだろう。

 結局、何者にやられたのかは分からず仕舞い。それでも親友の無事な姿は確認できたので、茜は少し安堵していた。

 病室から離れてしばらくしてだろうか、T字の通路で姫歌に会った。


「あら、奇遇ですわね。茜さんもお戻りですの?」


「ええ、追い返されてしまいました」


 少し肩を落として茜が言うと、同じように姫歌が声をあげる。


「私も……ですわ」


 二人はそのまま黙りこくると、並んで歩き出した。


「……怪我の具合は、如何でしたの?」


 姫歌の質問だ。黙ったままというのも、気まずかったのだろう。


「重傷でした。何ヶ所か骨折もしているみたいでした」


「どうやら私の親友と同じ犯人のようですわね。私の親友は、(あばら)を何本かやられていましたわ。か弱い乙女にも容赦ない仕打ち……相手はなかなかのゲス野郎ですわ」


「え、犯人は男なんですか?」


 姫歌の言い方に、思わず茜が不思議そうな顔をする。


「あら、知らないんですの? 私の親友から殴られはしましたけれど、その際に情報を僅かながらに得ましたわ。暗がりでよくは見えなかったそうですが、声が男だったと……」


「なるほど、姫歌さんの頬が腫れているのはそういう事でしたか」


先程から気になっていた事柄の謎が解明され、少々気分がよくなる。


「そういえば、私も気になる事が」


 そう言って茜が姫歌の方を向く。


「……確か、犯人は複数犯のはずです」


「複数犯……なかなか面倒な事になってきましたわね」


 姫歌が顎に手をやりながら思案する。

 そうしてしばらく歩いていると、ベンチに一人の少女がいた。……燈だ。


「うぅ、ぐすっ」


 鼻をすするような音がして歩み寄ってみれば、燈は泣いていた。


「ど、どうしたんですか燈?」


「そうですわ、何があったんですの?」


「うぅ、私の友達が……もう、一緒に遊ばない……ってぇ。ぐすっ、うわぁあああああんっ!! なんで、何でなの茜おねーちゃん、私なんにも悪いこと……ひぐっ、してない……のに。うぅぅ」


 燈は大粒の涙を流しながら茜に抱き着いた。茜は泣きじゃくる従妹の頭を優しく撫でてあげると、言った。


「心配ありません、燈。お友達は少し混乱しているんです……突然襲われたから、パニック状態になっているのでしょう。だから、落ち着いてください。しばらく間を空けてみましょう? そうすれば、少しは相手の対応も変わるかもしれません」


 実際本当にそうなるかは解らない。ただ、そう切に願う……今日は七夕なのだ。このくらいの願いなら叶えてくれるだろうと、当時の茜は思った。ただし、短冊に書いてはいないが。


「時間がありませんわ。すぐにこの事をお爺様に――」


「いいえ、これは私達だけで片付けます」


『――っ!?』


 茜の衝撃発言に、姫歌と燈の二名は絶句して目を見開く。


「あ、茜さんどういう事ですの!? これを私達だけで解決するなど、出来るはずありませんわ!!」


 驚愕に染まった表情でそう決めつける姫歌に、茜は真剣な面持ちで口を開いた。


「いいえ、犯人の大体の狙いは掴めました。ここからは私の予測ですが、敵は二人組でしょう」


「どうして?」


 燈の質問だ。複数犯だとは言っていたが、いきなり二名だけとは限らないと思ったのだろう。


「あまりにも大人数では目撃者が出る可能性があります。病院に運ばれたのが今日の朝……襲われた正確な時間は分かりませんが、恐らく昨晩か夜明けくらいでしょう」


「そう言えば、犯人はどうやって私達の親友を襲ったんですの? 学校帰りだとしても、帰りが遅すぎると親にすぐバレるはずですわ」


「ええ、これも予想ですが……犯人は恐らく、何か用事があるとでも言って呼び出したんでしょう。少しこの辺りは情報が少なくて曖昧ですが、三人を病院送りにするくらいですから、それ相応の人数が必須。この場合、二名なら運ぶのも楽ですし襲いやすいです」


「何だか、実際に実行したことがあるみたいな口ぶりなのは、気のせいですの?」


「嫌ですねー、気のせいですよ」


 訝しむ姫歌に、茜が頬に手を添えてニコニコ笑顔を向ける。


「それで、犯人の狙いですが……私達です」


『え?』


 茜の言葉に疑問の声をあげる姫歌と燈。


「今回の暴行事件、犯人は私達の親友を手にかけました。ただの鬱憤晴らしにしては、あまりにも私達に関する共通点が多すぎると思いませんか?」


「確かに、言われてみれば……」


 ふぅむと、顎に手を添えて考え込む姫歌。燈も真似するように同じポーズを取る。


「ですが、私達を狙って何をしたいんですの?」


 どうしてもそこが分からないと言うように、姫歌が音を上げる。


「……目的は、まだ分かりません」


 何かを言い掛けて止めてしまう茜。まだ確信が持てないという感じだ。


「何か心当たりでもあるんですの?」


「いえ……」


 とにかくいつまでも病院にいても仕方がないと、病院を後にする三人。表には豪佑と鍵之助が待っていた。


「おお、大丈夫か? ぬおッ、茜……頬が切れておるぞ!?」


 その指摘に、茜はふと自分の頬に人差し指と中指を添える。それから手元を見ると、二本の指に血が付着していた。本当だ、恐らく飛来した花瓶の破片で切ったのだろう。


「大丈夫です、お祖父様」


 祖父の気遣いに対し、茜は柔和な笑顔で返した。

 茜、姫歌、燈の三人は、鍵之助の運転する車で帰宅し自室へ戻った。

 それから数日間、三人は親友のお見舞いのために何度も病院に赴いた。しかし、その度に面会拒否だった。

 そんなある日、三人が毎度の如くお見舞いに向かう道中、突如真っ黒なバンが三人の道を塞いだ。

 刹那――扉から現れたのは、強面の二人組。どちらも真っ黒なサングラスをかけ、耳には金色のピアスをしている。柄の悪い出で立ちで、明らかに悪い人という雰囲気が醸し出されていた。


「キヒッ、兄貴……こいつらやァ」


「ほぅ、確かにあの小娘どもが言うとった通りや。まぁ、あんだけ遊んでやったんや……それ相応の対価(はろ)うて貰わんとな」


 二人組の男……そして、明らかに自分達を狙っている。間違いない、彼らが大事な親友を傷つけたんだと、三人はすぐに察した。


「何やァ、その表情(かお)……気に入らんなァ。メンチ切っとぅつもりかいなァ? アカンアカン、そんなんじゃワイらは怯まへんでェ?」


「おう、お嬢ちゃん達よ、ちょいとお兄さん達に付き()うてくれや。こん辺りはあんま詳しゅうないんや。せやから仰山(ぎょうさん)教えてくれや」


 そう言うと、怪しい目つきをした二人組の男は、手慣れた動きで三人を車に放り込んだ。俗に言う、誘拐だ。


「ちょっと、やめてください!」


 茜が異議申し立てようと声をあげる。だが、それを良しとしない二人組の片割れがサングラスを不気味に光らせた。


「ああん!? じゃぁかしぃわボケぇぇえ!! おのれ、何様のつもりやァ!! あんまナメとったらアカンでェ!」


 サングラスの隙間から覗く眼光は物凄く鋭く、獲物を射殺すかのようなものだった。その対応の変貌っぷりには、茜も口を噤んで黙りこくるしかない。


「……うぅ、ぐすっ、おねーちゃん……怖いよぉ、ひぐっ、うわぁあん」


「チッ、黙れ言うとんのが分からへんのかァ!? 黙れ言うたら黙らんかいカスがァ!! ここでとっとと用済ませて、泣けへんよう喉掻っ捌いてもええんやでェ!?」


 恐怖のあまり泣きじゃくる燈に対し、男はさらに激高して刃を喉笛に突き付ける。


「ひぅっ、ご、ごめ――ごめん、な……ざいっ!!」


 当時小学五年生でこんな目に遭った経験などない燈は、しゃっくりでもしているかのように、しどろもどろに謝る。


「燈にらんぼうしないでくださいなっ!!」


 大切な従妹が殺されそうになっている事に我慢出来なくなったのか、姫歌が声を張り上げる。


「おい、あんま面倒事を引き起こさんといてや? ワイらの場合、捕まったら一巻の終わりやさかい……慎重に事を運ばんと」


「せ、せやった……危ない危ない。もうちびっとで取り返しのつかん事してまうとこやったわ」


 ひゅうと、額に滲む汗を拭いながらサングラスの男が刃を下げる。

 そうこうしてバンで運ばれる事数分。

 茜、姫歌、燈の三人は、よく分からない暗がりの倉庫らしき場所に連れてこられた。


「この場所バレる訳にはアカンさかい、ちっとばかし目ェ隠させてもらうでェ?」


 そう言うと、三人に有無を言わせずに目隠しをする。生地が厚いのか、全く外の景色が見れない。

 そのまま背中を押されてやって来た場所は、凄くジメジメした場所だった。少しホコリっぽく、日も差さない。

 すると、目隠しが取り外された。


「うっ」


 少し呻いてから目を開けると、茜達三人の目の前に広がったのはたくさんの段ボール箱だった。

 バンを運転していた男は、その段ボール箱から一、二本ペットボトルを取り出すと、別の段ボール箱から少し汚れたコップを手に取り水を()いだ。


「……っぷはぁ~! あぁ、ほんまウマいわ……やっぱり水はええで」


 口の端から垂れる水滴を腕で拭い、男がドカッと地面に胡坐をかく。


「ほれ、おのれらも飲めや」


 そう言ってツルツルのスキンヘッド男がコップを突きだす。


「この状態で飲める訳ないじゃありませんか」


 茜が言うのもご最もだった。というのも、彼女達三人が逃げられないように、両手首を背中側に向けた状態でロープに縛られているのだ。

 しかし、縛った当人はそれが気に入らなかったのか、少し片眉をひくつかせると、ノソッと立ち上がって茜の前に進み出た。

 物凄い体格差だ。動物に例えるならば、獰猛な熊と言った所だろう。

 その巨躯の熊は、ゴツゴツした拳で茜を殴り――はしなかったが、胸ぐらを掴みあげた。中学一年生の茜の体は、男の片手によって軽く浮かび上がる。


「うぐっ、く……苦しいっ!!」


「お、お止めなさいっ!!」


 姫歌が必死に言葉での説得を試みるが、男は意に介さない。そしてそのまま締め上げると、茜の表情が苦悶からぐったりとした表情に一変する。

 それを確認すると、男は口を開いた。


「ワイが用意したモンが飲めへんたぁ、とことん調子に乗っとるな……」


 そう言って男は胸ぐらを掴んでいた手をパッと放す。浮かび上がっていた茜の体は、重力に引っ張られて冷たい地面に激突した。


「ぐっ!?」


 軽い痛みが走り呻いた茜は、キッと男を睨んだ。


「なんや、その()ぇは……まさかとは思うけど、許さへんとでも言いたいんか?」


 メンチを切るように目を見開きながら男が言うと、それからヤンキーのようにその場に大股開きでしゃがみ、茜を見下ろす。


「あんなぁ、東條茜はん……おのれ、何か勘違いしとらんか?」


「――っ!?」


 茜は驚愕した。名前まで知られているとは思わなかったのだ。だが、よくよく考えれば、親友を襲ったのだからその際に携帯か何かで個人情報を得る事は出来たはずだ。なので、名前を知られていても実際は不思議ではない。


「……ワイらの目的が何か、知っとるか?」


「私達……ですよね」


 あくまでも敵意を向けた視線はやめずに茜が答えると、熊のような男は嗤って言った。


「ええ答えや……せやけど、残念ながらそないなもんどうでもええ。女やったらもっと成熟した時にでも手に入れるさかい。今回はちゃうねん……女やのうて、金や。金が欲しいねん」


 欲しい物を口に出すと同時、茜達三人は納得の表情を浮かべた。


「知ってんねんで? 嬢ちゃん達が、あの神童家の御子息、御息女の子供やっちゅう事はな」


 そこまで知っているのならば、何故わざわざ親友を傷つけるような真似をしたのだろうか。


「おぉ? なんや、その顔…………あっ、当てたろか? 分かったでぇ、嬢ちゃん達のダチが何であんな大怪我負っとんのか……っちゅうことやろ? 分かる、分かるでぇ、その気持ち。まぁ、ワイらがやったんやけどな? ヒッハハハハハハハハハ!!!」


 完全に馬鹿にしきった嘲笑をする男に、茜と姫歌は下唇を噛み締めた。


「何で、あそこまでする必要があったんですの!?」


「そうだよ、そのせいで私達の友達は……」


 姫歌に続くように燈も不満の声を洩らす。すると、熊の様な男が芝居がかった表情で言った。

というわけで、三部です。今回は心理描写が多めかもしれません。大怪我を負った親友から浴びせられる罵詈雑言。今の茜達ならば耐えられるでしょうが、当時は無理だったみたいです。燈も今とは全然違いますね。まぁ、小学六年生の時からあんなに凶暴だったら、それはそれでヤバイですが。

そしてついに登場今回の重要人物二人組。名前は今後出ます。

四部へ続きます。

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