第十三話「本当の目的」・2
今回は少し長くなったので二ページにしました。
「ところで話は変わるが、ルリ……雫が言ってたんだが、お前に本当の目的があるって本当なのか?」
「えっ!? そう……雫から聞いたんだね? 本当はその時が来たら話すつもりだったんだけど、どうやら今がその時みたいだね。少し早いような気もするけど、話すよ」
ルリの覚悟を決めた表情に、俺は胸の鼓動が早くなるのを感じていた。ゴクリと息を呑み、俺は彼女の話を聞く準備を整えた。
「まずはこの世界の仕組みから話そうか。結構話長いから、よ~く聞いててね?」
「ああ……」
コクリと頷く俺を見て、ルリは小さく咳払いをし、ふぅ~と深呼吸をして一息つくと、話し始めた。
「この世界は全部で五つの世界で構成されていて、その一つでも消えてしまえば他の世界もバランスを崩して世界は崩壊すると言われているの。それで、それぞれの世界を守る“要”の役目を果たす守護神が必要となるの……。それがそれぞれの世界にいるんだけど、その五つの世界っていうのは、お母様の住んでいる『天界』、お父様や私達がいる『魔界』、響史達人間が住んでいる『人間界』、人間界と全く真逆の世界で、私のお母様の妹――つまり、私から見たら叔母さんだけが住んでいる『鏡界』、最後にお父様のお兄様――伯父様が住んでいる『冥界』の五つがあるんだけど、その均衡が今崩れようとしているの……」
ルリは話し続けて少し喉が渇いたのか、あらかじめ注いでいたお茶を全て飲み干し、続きを話し始めた。
「……それで、実は元々人間界なんてのは存在しなかったの」
「人間界が存在していなかった!?」
突然知らされる衝撃の事実に、思わず俺はルリの言葉を繰り返した。
「うん、元々ここは人間界なんて場所じゃなくて、理想郷っていう場所だったの。天界の人間や魔界の人間、他にも、冥界の人間も行き来して疲れを休めたりする――正しく私達にとってはとても大事な場所だったの。でも、その美しさに皆魅了されて、ついにはそれを手に入れようと考え出す奴らが現れたの。その一人が、私のお父様……。恐らく、その場所を自分だけの物にしようと思ってたんだろうね……。でも、それを他の奴らが許すはずがない。お父様は、何としてでも理想郷を手に入れようとありとあらゆる手を使ったけど、結局失敗に終わった。でも、それでも何度も何度も同じ事を繰り返すから、ついにその戦いを見兼ねた私のお母様が、魔界や冥界から理想郷を取り上げて天界の物にしてしまったの……。それが、今の人間達で言われている天国の楽しさの理由。天界に理想郷を置いているから、人々が楽しめるものも揃っているんだよ。もちろん、お父様は天界に行こうと思った。でも、天界から降り注ぐ光にはお父様も勝つことが出来ない。何せ、お父様達魔界の人間――つまり悪魔や大魔王には、その光は天敵だから……。しかも、悪魔なら中には平気な奴もいるけど、お父様は大魔王で一番光を苦手としているの。だから、理想郷に手を出すことが出来なかった。さらにお母様は、魔界の人間に厳しい罰を与えた。それが、このストッパー……」
「前から少し気になってたが、何なんだそれ?」
俺は、ルリや護衛役達の首に一瞬見えた、銀色の変わった形をしている首輪について訊ねた。
「これは私達悪魔の力を抑えるために作られたもので、あることをしないと外れないの」
「あることって?」
「それは私達悪魔には教えられていない。そして、これは悪魔だけじゃなくもちろん大魔王であるお父様にもつけられた。無論拒んだけど、流石のお父様もお母様には手を出せなかったみたい」
「どうして?」
「お父様はお母様を愛していたんだろうね。いくらお父様でも、好意を寄せている相手を殺すことは出来なかったみたい。でも、お母様もそこまで意地悪って訳でもなくて、ストッパーの効果が出るのは魔界から出た時だけ。要するに、お父様達は魔界から出なければ思う存分力を使うことが出来るの……」
「じゃあ、他の世界に入らない限りは力を制限されないってことか」
ルリの説明を聞いて、俺は思った事を口にした。
「そういうこと!」
その通りというように、ルリが俺に指をピッと向けた。
「――それでも諦めの悪いお父様は、どうにかして理想郷を手に入れようとした。その頃、天界ではお母様が無の世界と化した元あった理想郷の場所に人間界を作ったの」
「そういえば、人間ってどうやって生まれたんだ?」
「元々人間なんて生き物はこの世界には存在していなかったの。でも、ある研究が行われて人間が生まれた」
「研究?」
俺は、少しその“研究”という言葉に興味を持ち、少し身を乗り出してルリの話を聞いた。
最初はルリの話を聞いていた霊達も、ただ聞いているだけでは飽きてきたのだろう。疲れただのと言って先に寝てしまった。
部屋には俺とルリの二人だけ。辺りは静まり返っていた。
「その研究というのは、天使と悪魔二つをくっつけるという、何とも不思議な実験なの」
「天使と悪魔をくっつける? 一体どうやって……」
「子供を作るの。人は皆子孫を残すでしょ? それと同じ方法で、天使と悪魔の二つの力を持った子供を生み出したの……。それは、いわゆる『天魔』と呼ばれる生き物……」
「天魔?」
俺は初めて聞く言葉に困惑して首を傾げる。
「実を言うと、私もその天魔の一人なの。天使と悪魔のハーフ――それが天魔」
「あっ、そうか……。ルリは大魔王と女神の間に産まれた子供だから――」
「そう。つまり、私と妹は二人とも天魔なの。しばらく研究は続いた。そして、新たな事実が発覚した」
「新たな事実?」
「そう、天魔と天魔をかけあわせると、人間が産まれる事が分かったの!!」
「天魔と天魔をかけあわせると人間が生まれる!?」
あまりにもの驚きに、俺は腰を抜かして体勢を崩してしまった。
「えっ、でも俺の親は天魔なんかじゃないし」
「そりゃそうだよ……天魔と天魔をかけあわせると人間が産まれるけど、人間同士をかけあわせてもまた人間が生まれるだけなんだから」
「じゃあ、俺の先祖の先祖の先祖のも~っと先の先祖は、もしかしたら天魔かもしれないのか?」
「まぁ、そういうことになるかもしれないけど」
顎に人差し指を添えて空を見上げるルリに、俺は思わず呆気に取られてポカンと口を開けてしまった。
「ま、マジかよ……」
「研究はもっと拡大していった。その後、今度は天魔と悪魔をかけあわせると悪魔が生まれ、天魔と天使をかけあわせると天使が生まれることが分かったの。その事実を発見したのが、私の叔母さん――つまり、現在の鏡界を治めている支配者ってこと」
「ルリの叔母さんが?」
「うん。お父様がどうして私を外の世界に出したくないのか、これで分かったでしょ?」
俺はしばらく考え込んだが、さっきのルリの話を思い出して理解した。
「……そうか、ルリとルリの妹は天魔だから、もしも外の世界に出たら他の世界の奴と結婚して、天使や人間が産まれるかもしれないんだ!」
「そういうこと。お父様は跡継ぎを作るためにも、私達を外に出したくないの。お父様にとって、私達はそれだけの存在でしかない。だから私はここに来た。でも、本当の目的はそれだけじゃない。お父様の計画を止めるためでもあるの!!」
ルリの言葉に、俺は公園で雫が言っていた言葉を思い出した。
「雫も言ってたな……。ルリの父親が考えている計画って何なんだ?」
「それは、全ての世界を自分の物にするということ」
「全ての世界を自分の物にする? どうして、そんな大胆な行動に?」
「全ては理想郷を手に入れるためだよ」
「理想郷を手に入れるため? でも、さっき魔界から出たら力が半減するから無理だって……」
「そう、だからお父様は考えた。魔界の領土を広げれば、その分自分の力が半減せずに天界へ近づける――だからお父様は、まず手近な冥界から攻めているの!」
「な――ッ!?」
俺が声を出そうとした瞬間――突然大きな地震が起きた。
ガタガタガタガタ……ッ!!
「何だ!?」
突然の大きな揺れに慌ててテーブルの下に潜り込もうとする俺に対し、ルリは至って冷静に真剣な表情で足元――遥か血の底にあるのだろう冥界を見据えた。
「やっぱり、もう始まってるんだね……」
「どういうことだ?」
「この地震は、お父様の軍が冥界を攻撃している音なの。本来冥界は、死人の霊を審判するところで、それによって死人の霊が天界に行くべきか魔界に行くべきかを審判してもらうんだけど、この戦いのせいで審判することが出来ずに死者の魂が地上に溢れているの。全く、昔はお父様もこんなことをする人じゃなかったのに……どうして」
ルリは暗い表情で俯いていた。そんな彼女をどうにかしてあげたくて、俺は恐る恐る声をかけた。
「お、おい……ルリ。その、それで、お前はどうしたいんだ?」
「うん……お父様を止めるためにも、私はこのことをお母様に報告しないといけない。そのために人間界に来たんだから……」
ルリの言葉に、俺は少し疑問を抱き彼女に質問した。
「でも、どうしてわざわざ人間界から天界に行かないといけないんだ? 直接天界に行けば――」
「他の世界に行くためには、必ず他の世界を行き来しないといけないんだ。それで、その仲介役となっているのがこの人間界ってわけ。まぁ、元々それぞれの世界から理想郷を訪れてて、その時の移動システムが残ってたから、それを再利用してるんだろうね。それで、人間界には天界に行くための通路として『空の裂け目』っていう場所があるんだけど、それが何故か行方不明になってしまったの」
その言葉に俺は思わず取り乱してしまい、テーブルをバンと叩き立ち上がった。
「じゃあ、どうするんだよ!?」
「まぁ、落ち着いて? 別に他に方法がないわけじゃないの。ただ、この方法は少し難しくて――」
「何でも言ってくれ! 俺に出来ることならなんでもするぜ?」
「本当!?」
俺の後先考えない発言を聞き、ルリは表情をパ~ッと明るくして、俺の手を両手で掴むと――
「じゃあ、太陽系の証を手に入れて?」
満面の笑みでそうお願いをしてきた。
「た、太陽系の証?」
またしても初めて聞く言葉に、俺は頭上に疑問符を浮かべる。そんな困惑する俺に、ルリは絶えず笑顔を浮かべたまま説明を始めた。
「うん♪ 天界に行くためには、星の力を授かったとされる十人の太陽系の守護者に、証をもらわないといけないの。そのためには、人間の協力が必要なんだよ……」
「何で人間の協力が?」
「守護者は人間なの。ただ星の力を授かってて一時的に特別な力を持っているけど。それで、守護者は人間相手じゃないと接触してこないんだって。だから協力が必要なの」
「でも、それって何処にいるんだ?」
「――知らない」
えええ~っ!!? 何で? 知ってるんじゃねぇの? 知らないの……?
俺は心の中で叫び、頭を抱えた。
「じゃあ、どうするんだよ?」
「そりゃ~地道に探すしかないよ……当てもないし」
「……」
マジかよ……。
内心ツッコミつつ、絶句する俺。
「協力してくれるんだよね?」
「えっ!? いや、その……」
「えっ、ダメ……なの?」
う゛っ!? そんなウルウルした目で俺を見ないでくれ……。そんなことされたら俺は――
「あー、分かった、協力するからその目を止めてくれ!」
「ありがとう……さすがは響史、とても優しいんだね」
はぁ~。
不意に漏れる大きなため息。俺は今日、あることを学んだ。それは、内容を最後まで聞かずに安易に相手の頼みを請け負わないことだ……。
「そういえば、太陽系の守護者って何なんだ?」
「うん。太陽系の守護者っていうのは、太陽・水星・金星・地球・火星・木星・土星・天王星・海王星・冥王星の十個の惑星の力を持った守護者のことで、この人間界の何処かにいるって言われているの」
「そうなんだ。でも、どうやって証をもらうんだ? それに、人間の協力って……ルリには手に入れられないのか?」
「よく分からないけど、そういう風に言われているんだ。――あっ、もうこんな時間だね?」
ルリに言われて壁にかけてある時計を見ると、ななななんと、時刻は次の日の午前二時になっていた。
どぅううえぇえええ!? やべぇよ、明日学校だよ? 起きれないよ……どうしよう。
俺は迷いに迷った結果――明日の学校は休むことにした。
第一、こんな時間に寝て、次の日に起きても起きれるはずが無い! そう思ったからだ。
「じゃあ、もう遅いしその話はまた明日――っていうか、一度十分に睡眠を取ってからにしような……」
「うん、そうだね」
ルリも俺の意見に賛成し、俺達二人はパジャマに着替えた。
それからリビングの電気を消すと、階段をゆっくり上がっていった。
少し隙間のあいた状態になっている自分の部屋の扉を開くと、暗闇の中手探りで壁にあるスイッチを見つけ出して押した。
二、三回の点滅を繰り返し、照明が点く。今まで暗闇だった部屋がいきなり明るくなり、一瞬視界を奪われる。
しばらくして目もだんだん慣れてきて、視界がよくなってきた。
俺はベッドに進み、視線を下に向けてジト目になった。俺の一人用のベッドがとんでもない状態になっていたのだ。
俺は、少し大きめの枕でないと眠れないため少し大きめの枕を使っているのだが、その枕も護衛役の零や霊達に占領されていた。ベッドスペースの殆どを思いっきり霄が陣取っているため、俺が――もとい俺とルリの寝る場所が殆どなかった。
「おいおい、勘弁してくれよ……ったく、元々このベッドは俺のだっつうの! 一人用のベッドに三人――いや、俺達も合わせたら五人だけどさ、そんなにも入らないって……」
「まぁまぁ、今日は我慢するしかないよ。……ね?」
俺はルリに言われ仕方なく、三人の少女の足を踏まないようにして、少しだけ隙間の開いた敷布団を踏んで自分が寝るためのスペースを作ると、無理矢理自分の体をねじ込むようにして入り込んだ。ルリも同様にして場所を作るとそこに入り込み、俺ははだけた掛け布団をもう一度かけなおし、目を瞑った。
ギシギシ……。
ベッドの軋む嫌な音。未だ壊れたままの屋根から吹き込む冷たい夜風……。
本当にこのベッド、大丈夫だろうか?
俺は四人の少女に囲まれ、そんな不安を覚えつつ就寝した。
というわけでルリの本当の目的が分かった響史。この世界を構成している五つの世界。ルリの父親である大魔王の野望を聞いて、響史はルリがいう太陽系の守護者と闘うことになります。
次回も新キャラ登場です。




