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魔界の少女  作者: YossiDragon
第五章:七月 過去『封印されし記憶の解放』編
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第五十七話「東西南北・過去(前編)」・1

四部構成でお送りします。

 七月十五日。運命のあの日まで後六日。変に緊張してくる。今日は四人の従姉妹がやってくる日だ。別にそれだけならそこまで問題ない。まぁ、彼女達の場合来たら来たで問題が起こりそうだが。

 と、冗談はさておき……時刻は朝の七時。そろそろ目覚めてもいい頃合いだ。

 しかし、ふと体温を感じて首を横へ。

 おやおや、やっぱりだ。暑苦しい夏場の時期に、何故こうも俺のベッドに来たがるのだろう? まさか、マーキングか何かか? なんかこう……縄張り的な? でも、それは動物に限られる場合だ。居候組でそれが(まか)り通るのは、霊のみ。ところが、俺の体にしがみつくようにして寝ているのは、あろうことか双子の姫君の片割れだ。

 麗魅が抱き着くなどまずありえないので、瑠璃だろうと推測。

 にしても、この密着具合……俺の鼻が彼女の首筋に触れてしまいそうだ。


「ん?」


 と、そこで俺が呼吸する際に鼻からも酸素を取り込むと、何だか(かぐわ)しい物を嗅ぎ取ってしまった。独特の臭気……どこか柑橘系のようで、それでいて甘ったるい不思議な香り。

 ん、そういえば昨日って……。

 そうしてようやく俺は理解する。思い出した、昨晩こいつらは風呂に入ってないんだった!

 俺は慌てて息を止めようとするが、それは不可能に近い。手で塞ごうとも考えたが、生憎上に乗っかられていて動かせない。いや待て、片方は瑠璃に乗っかられているから動かせないのは分かる。だが、もう片方も動かせないのは一体全体どういう了見だ?

 不思議に思った俺は、少し強引に首を半回転。右に向けていた首を左に向ける。

 そして、不可思議な現象に遭遇する。


「あれ、瑠璃?」


 そう、首を左に回してみると、そこには気持ちよさそうに寝息を立てている瑠璃の姿が。おまけに、暑いのかヘソ出しと来てる。う~ん、そこんとこお姫様としてどうなの?


「ちょっと待て、瑠璃がこっちって事は……こっちの瑠璃って――」


 最悪の事態を予想する。だが、蜜柑色の髪の毛なんて俺が知る限り二人しかいない。そして片方が瑠璃で左にいるということは……右にいるのは――。

 俺は、恐る恐る頭を右へ回す。またしても首筋に顔が来る。何でこいつは妙に頭が上の位置にあるんだよ。おかげさまで、顎を俺の頭に乗っける形になり、その頭に彼女の腕が纏わりつく形になっている。ほんとに遠慮気味に発達している胸に至っては、俺の肩に密着という状態。こいつは、もしかしなくても俺……死亡確定じゃね?

 と、その時……。


「んっ、う~ん……」


 俺の鼻息が首に吹きかかりでもしたのだろう、僅かに麗魅が身じろぐ。くっそぉ、どうやっても状況を回避できないッ!! 起こしたら即BAD END直行だし……瑠璃を起こして引き剥がしてもらうとか?

 つ~か、何でこいつ、昨日あれほど風呂に入ってないからどうたらこうたら言ってたのに、ここに来てんの? あっ、そう言えば瑠璃が俺の所に来るから、俺が何かしないか心配で来てるとか言ってたな……。いや、だったら普通、俺の隣じゃなくて瑠璃の隣に行くだろ……。


「……くそ、身動きが取れない。せめて手が動かせれば……あれ? 何だ、このふにふにした柔らかさ……凄くスベスベしてて、気持ちいい?」


 謎の感触を手に感じる。凄く温かくて、挟まれていても気持ちいいと感じてしまうが、それではいけない。早くこの状況から抜け出さなければ俺の命が危ないのだ。


「うっく……!」


 どうにか頭だけを起こそうとするが、麗魅が纏わりついているのでなかなかそれが敵わない。それどころか――。


「ふぁ……んっ、くすぐったい……でしょ」


 と、寝言かどうかも怪しい言葉を口にする始末。どうやら、俺のあちこちにハネた銀髪が、麗魅の鼻をこちょこちょしてしまったのだろう。マズイな……あまり頭を動かす訳にもいかない。

 だが、何とか確認は出来た。なんてこった……よりにもよって麗魅の太ももに挟まれてやがる。


「くっそ……どうすればいいんだ? そうだ、瑠璃の方にある手は何に動きを封じられているんだ?」


 ふとそんな事を思いそちらを見ると、俺の手は瑠璃の体の下敷きになっていた。


「よし、これなら瑠璃を起こせばなんとか……おい、起きろ瑠璃!」


 俺は麗魅を起こさないように細心の注意を払いながら、瑠璃に声をかける。すると、瑠璃が眠気眼で檸檬色の双眸を見せる。


「ふぁ? ……はれ? きょーし? ……んにゃ、どしたのー? わたしぃ、まだ眠いんだけど~」


 むにゃむにゃと呂律の回らない状態で口を動かしながら、俺に自身の心境を告げる瑠璃。そんな事を言われると、ついつい寝かせてしまいたくなる衝動に駆られるが、それではいっこうに事態が好転しない。


「悪い、俺の手がお前の下敷きになってるんだよ。一旦起きてくれないか?」


「ふぇ? ふぁ~い、わかっら~」


 まるで酔っ払いのように怪しい呂律で瑠璃が返事をすると、ゆっくりと体を起こそうとする。


「よし、これで――」


 と、思った矢先……。


「でも眠い~」


 そう言って瑠璃がうつ伏せになって二度寝し出す。問題はそれだけじゃない。俺の手を引き抜く前にそんな暴挙に出られたので、俺は再び手を下敷きにされるハメになったのだ。おまけに、うつ伏せに寝ているのでその巨乳が俺の手に密着しているのだ。

 これは何という嬉しい誤算――もとい、そんなことをしている暇はない。下手をすれば、両親が俺を起こしに二階に来る可能性だってあり得る。


「おい、頼む……起きてくれ瑠璃ッ!!」


 唯一動かせる足で瑠璃の足を揺さぶるが、返答なし。むしろ体を揺さぶる事で、胸の感触が余計に俺の手に伝わってしまう始末。いかん、左手は胸に挟まれ、右手は太ももに挟まれている。

 おかしい、本来なら嬉しくて美味しいシチュのはずだ。これだけでご飯軽く十杯はいけるッ!! そう言うだろう――


「――亮太郎ならな」


 と、軽く悪友の考えそうな事を口にしつつ、俺は次の作戦を考える。だが、時間なんてない。こうなったら無理やりだ。

 俺は、半ば強引に左手を動かした。


「んっ、あぅ……やぁ、らめぇ……だよぉ……そんな、ところ……やんっ、くすぐったいってぇ……」


 と、俺が手を押したり引いたりしていると、瑠璃がそのような色っぽい声をあげる。マジで勘弁してほしい。俺の集中力と理性を削りまくる瑠璃の声に、いつの間にか変な汗をかいてしまう。

 そうして二分が経過した頃だろうか。ようやく瑠璃の胸とベッドに僅かな隙間が開き、その間に挟まれていた俺の手が抜けるくらいの間隔を確保した。


「よ――っしゃッ!!」


「ふぁぁぁああんっ!」


 手を引きぬくと同時に、溜めていた声を発する。これで左手は確保した。何やら変な声も聞こえた気がしたが、無視無視。

 後は太ももに挟まれている右手を確保するのみ。

 と、俺が内心呟き、頭をやや右に動かしたその時だった。


「あんた……ついに本性を現したわね?」


「え?」


 聞き覚えのある声。それが俺の頭の上から聞こえてくる。そう、お目覚めになられたのだ。殺人鬼――もとい、麗魅が。


「あんた、今私のコト、殺人鬼だとか思わなかった?」


「え――お、思ってない思ってないッ!!」


 やばい、こいつ……俺の思考が読めるのかッ!?

 思わず身震いしてしまう。


「……よくも、よくもお姉さまの寝込みを……。死ぬ覚悟は出来てるんでしょうね?」


「ち、違うんだって! これはただ、挟まれてる俺の左手を救出しようと――」


「ふぅん……左手を救出、ねぇ。なら普通、お姉さまがあんな声をあげるわけないでしょ?」


 ご最も……俺もまさか、瑠璃があんな声を出すとは思いもしなかった。


「だから、あれは瑠璃が勝手に――」


「はぁ!? じゃあ何? お姉さまは、あんたが左手を抜く際に触れていた胸が擦れて、その……へ、変な声をあげたとでも、い、言うつもりっ!?」


 顔を真っ赤にしてそう言う麗魅。いや、俺とて分からないが、もしかしたら胸が極端に弱いのかもしれないじゃないか。


「と、とりあえずさ……俺の右手も解放してほしいって言うか……?」


 もうこの状況だ。どちらにせよ殺されるかもしれない。ならば、先に報告しておいた方が幾分かマシかもしれないと思い、俺は麗魅に告げる。すると、俺の右手の先がどこにあるかに気付いた麗魅が、これ以上ないくらい顔を真っ赤に染め上げた。あれは怒りと羞恥が入り混じった極限状態に違いない。あれが暴発でもしたら、終わりだ。それこそ、初めて麗魅が俺の所に来た時と同じ事をしでかすかもしれない。


「や……え、……あ、う……」


 完全にパニックに陥っている。あわわわ、と唇を震わせて、今にも大泣きし出しそうなくらい大粒の涙を目尻に溜めている。いかん、こんな所を護衛役に見られでもしたら殺される。


「ま、待て泣くなッ!!」


 ここで泣かれたら両親も来そうなので、俺は慌てて麗魅を落ち着かせる。同時、彼女の太ももに挟まれていた右手を救出する。

 刹那――。


「ひぅんんっ!!」


 え?


「ふぁ……あぁう……んっ――はぁ、はぁ、ああぁ………絶対に、殺すっ!!」


「いや、これはその……いつまでも挟まれている訳にはいかないと思って――」


 どういう事だ? まさか、麗魅の場合は太ももが弱いとか? いや、にしてはやけに顔が真っ赤な気が……。


「覚悟は、出来てるんでしょうねぇ!?」


 ボキボキと手の関節を鳴らし、怒気を含んだ声音で尋ねる麗魅に、俺は手を前に突き出す。


「ま、待てッ!! 悪かった、俺が悪かったって! 一体、何処に触れたんだ!?」


 自分でも何を訊いているのだろうと思ったが、今更撤回は出来ない。


「ふぇ!? そ、そんなコト……お、教えられる訳ないでしょうがっ!!」


 そう言って身構える麗魅に、俺は変な違和感を覚えた。


「わ、悪かったって。でも、俺の手を太ももに挟んでたのはお前なんだし……太ももが弱いなら、挟むなよな」


「え? 太ももが弱い……?」


 俺の発言に、きょとんとした表情を浮かべる麗魅。


「? 太ももを擦っちまったから、変な声あげちまったんだろ?」


「え? えと……そ、そうよ! その通りっ! わ、分かったら、次からは私の太ももに、手なんか挟まないでよねっ!! 今回はゆ、許してあげるけど……次は命ないからっ!!」


 最終通告みたいな感じで、麗魅が俺の鼻先に人差し指を突き付ける。おおう、こいつは麗魅の太ももには気を付けないとな。てか、ホントこれ、俺が挟んだんじゃないんだが……。

 とりあえず、今は命を取り留めた事に安堵しておこう。


「ところで、その……質問なんだけど、あんた……嗅がなかったでしょうね?」


「ん、何の事だ?」


「だ、だから! その……に、臭いよ。わ、私達……昨日お風呂に入ってないでしょ? それなのに、朝起きたらあんたがいて……」


 麗魅の言い方だと、まるで俺が麗魅達のベッドに潜りこんだみたいな言い分になってしまう。それでは誤解を生む事間違いなしだ。

 なので、俺は内心慌てつつも冷静に、ツッコむようにして麗魅に半眼の眼差しを向け言う。


「おい、それはこっちのセリフだ。朝起きたら、お前らが俺のベッドにいたんだろが」


「うっ……そ、それはそうだけど。と、とにかく、嗅いだの? 嗅がなかったの!?」


 おいおい、勘弁してくれよ。あれは呼吸するために仕方なくだな……。どうする、正直に答えるか? でも、嗅いだって言ったら完全に殴られるか殺されるよな。

 だったら――。


「か、嗅がなかったよ」


「ホントかしら……少し声が震えてる感じが怪しいわね」


「ホントだって!!」


 少しムキになって俺は返す。すると、やや気圧されたのか、麗魅は口をへの字にしてから口を開く。


「そう……何だ、嗅がなかったのね」


「ん? どうした?」


「な、何でもないわよっ!!」


 いやいや、何で急に怒るんだよ。ただ、最後辺りの声が小さすぎて聞こえなかったから訊いただけなのに……理不尽だ。


「あ~、お腹すいた。ちょっとあんた、さっさと朝ごはん持ってきてよ」


「は? 何で俺が……」


「あんたの親、いるんでしょ?」


 半眼で俺を睨む麗魅。そっちの性癖をお持ちなら興奮ものだろうが、生憎と俺はそっちの人ではないので無理だ。


「そうだったな。分かった、朝ごはんは昨日と同じ方法で渡すよ」


 朝ごはんをどうするかを説明すると、麗魅は納得の頷きを見せた。


「分かったわ……それじゃ、私着替えるから出てって」


「え? でも、ここ俺の部屋――」


「いいからっ!!」


 そう言って半ば強引に、俺は部屋を追い出された。ちょっと待て、あいつらには自分の部屋を与えただろうが。

 とにかく、時間は八時。そろそろ朝ごはんを食べないと。

 空腹を訴える腹の音を耳にしつつ、俺は腹部をさすりながら階段を下りた。




 軽く朝食を済ませた俺は、四人が来るまでの間に最寄りのスーパーへと出かけ、猫缶とその他の食べ物を買い、ビニール袋片手に帰宅した。目的は、霊を含めた魔界の少女(あいつら)に与える――もとい、食べさせるためだ。

 居候なんだから当たり前だとも思うが、こんな事態になってしまったのも俺が原因のようなものなので、仕方ないと自分に言い聞かせる。

 二階へとあがり自室の扉を開けると、ネボスケなメンバーが何人か俺のベッドで寝ていた――って、ちょっと待て。朝、俺の部屋には瑠璃と麗魅しかいなかったはずだろ!!


「おい、何でこいつらは俺のベッドで寝てるんだ?」


 俺がイライラをなんとか抑えつつ霊と霰の事について尋ねると、買ってきたおにぎり(無論、ツナマヨ味)を頬張りながら、霄が答えた。


「うむ、もぐもぐ……起きて来たは起きて来たのだが、もぐもぐ……その後また眠くなったと言ってな……寝てしまった、もぐもぐ……わけだ」


「いい加減、食べ物を口にしたまま喋るのをやめろ。お前、一応剣士なんだろ?」


「致し方あるまい、腹が減っているのだ。早く何か胃に放り込まなければ、空腹で死んでしまう。餓死というやつになってしまうぞ?」


「いや、人は普通、一日食べなかったくらいで死なないから。あっ、でもお前らは悪魔だっけ」


 俺が手を振りながらないないという動作をし、それから自分達とは違う種族なんだという事を思いだす。すると、霄が驚愕に染まった表情を浮かべて質問した。


「何っ!? 人間は一日食わずとも死なんのか!? なんと……これは驚きだ。人間など、朝昼晩しっかり食べなければ死んでしまうと思っていたぞ」


「人間弱ッ!?」


 霄が思い描く人間の脆弱っぷりには、思わず俺もツッコんでしまった。第一、俺でさえたまに朝ごはん食べないのに……。まぁ、健康に気を付ける人は規則正しい生活送ってそうだけどな。


「てか、そもそも俺自身七日間眠ったままだったんだから、何も飲まず食わずだったんだぜ?」


 ふと俺の最近の出来事を口にすると、全員がこちらを見た。


「嘘、それホントなの!?」


 信じられないと言わんばかりの表情で、麗魅が言う。


「ああ、体育祭のあった日から昨日まで……な」


 頬をポリポリとかきながら、俺は視線を少し逸らす。なぜなら、彼女達が何やら心配そうな眼差しでこちらを見てきたからだ。おいおい、勘弁してくれよ。どちらかと言えば、お前らは俺を殺す側だろうに……。


「とりあえず、霊を起こさないとな。でないと、何の為に俺が買い物に行ったんだか分からなくなる」


 少し軽くぼやいてから、霊が眠っている俺のベッドへと向かう。


「おい、起きろ。お前な……人に猫缶買ってくるよう頼んでおきながら、人様のベッドで寝るとは何事だ!」


 そう言って軽く霊の体を揺する。しかし、う~んと軽く唸るだけで起きる気配なし。いかん、思わず乱暴な行動に出てしまいそうになる。が、ここで手をあげれば間違いなく動物愛護術をくらうことになる。何せ、霊の隣には今も尚、寄り添うようにして眠っている霰がいるのだから。

 ったく、寝ているのに殺気を常に放ち続けているとは、どういう体の作りしてんだ?

というわけで、今月中に更新できました。一部めはいきなり過去編に入る前に魔界の少女との絡みです。昨日の夜の話題からちょっと繋がってます。にしても、相も変わらず大人気の響史のベッド。

そして、霄の発言には驚きですね、三食ちゃんと食べないと死んでしまう人間……。区切りがちょっと悪いですが、二部へ続きます。

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