第五十六話「ランチまでに見つけろ、ドキドキかくれんぼ!」・4
後半少々変態度が増します。
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今より約四年前の七月二十一日。事件は起こった。その影響で後遺症を負った響史は、四年間後遺症という枷を嵌められた状態で生活する事となった。だが、それは苦痛というもの。
しかも、影響は響史だけに留まらず、彼の周囲の人間にも及んだ。各々が自分の心を、想い出を守るために手段を講じた。
ある者達は逃げ、ある者達は自分に嘘を吐いて自分を変え、ある者達は極力避けるようになった。
だが、それが響史には悪影響だった。別段天涯孤独となった訳でもないのに、家に帰っても誰も迎えてくれない、辛い時間。
それが、四年もの間響史の心を苦しめた。いっそのこと楽になろうかとも思った。
しかし、それでも自分を支えてくれる人がいたから頑張れた。幼馴染という立場から、面倒を見てくれたのだ。
今でも過去の記憶などが曖昧ではあるものの、雛下琴音の事は分かっているつもりだ。自分に対してどう振舞っているか、どういう人物像なのか。
ただ、納得がいかなかったのが家族だった。一番身近であるはずの彼らは、揃いも揃って支えるどころか逃げ出したのだ。思い出深い家を捨て、子供を捨てて逃げ出す。
確かにどれほど辛い選択だったかは分かる。だが、それは同時に響史にも辛い現実を突きつけるものとなる。
まず、食事だ。この時、小学六年生で十二歳であった響史は、料理経験など皆無で大変なものだった。包丁の持ち方から、調理法。何もかもが分からない。
学ぶために幾度も図書館を利用したものである。無論、いくらか琴音にも協力してもらいはした。
そうして今の技術を手に入れたのである。同時に、インスタント食品ばかりを摂取していた時期からも脱出した。
そんな中、家族の方もいろいろあった。
まずは両親。母親の唯奏は職に就いている訳ではないので、問題はない。だが、職に就いている響祐はどうだろう。
仕事を見つけなければならない。だが、そこは自分の家の会社があったので問題なかった。
三つの区で出来た光影都市。その三つの内の一つ、黎明区――大都市へ引っ越した響史の両親は、そこで四年間過ごすことになった。
響史の姉――唯は、当時高校一年生で光影学園に通っていたため、離れるに離れられず、せめてということで近場の一軒家に住む事にした。ただし、響史には男と一緒に生活していると言っていた。
彼氏と一緒ならば、響史も気まずくてそれ以上の詮索はしないと考えた、とのこと。この頃から既に響史と唯の距離は開きつつあった。
学園で会う確率も減って行き、ついには唯が卒業するまでまともな会話は出来なかった。
響史の弟――亮祐は、当時まだ綺羅星幼稚園の年長組に通う六歳。両親と共に大都市へと行き、小学校をそこで過ごすと言う方法もあった。
が、しかし、その案は却下された。理由は至って単純、新たに友達を作らなければならないという事と、四年間通ってまた元の場所へ戻ってくる事と、いろいろ手間がかかるからだ。
何よりも、綺羅星幼稚園でせっかく出来た友達と離れるのは、亮祐本人としても嫌だったらしく、その結果講じられた考えが、一番仲の良かった雛下健太の家にホームステイみたいな感じで居候させてもらう事だった。
雛下家の人達も優しいものだ。
そうして四年の月日が経過しようとして今に至る、というわけだ。
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父さんの説明が終わり、俺は腕組みをして納得していた。合点は行っている……別段父さんが嘘を吐いているという訳でもなさそうだ。疑うのはよくないが、一度は俺を騙しているからな。こちらも一度くらい疑ってもいいだろう。
時間は午後五時。大分話していたみたいだ。説明するためにずっと喋り続けていた父さんは、乾いた喉を潤そうとコップに注がれたお茶をグビグビ飲んでいく。
空っぽになったコップをテーブルに置き、父さんは一息つくと俺に声をかけた。
「響史、他に訊きたいことはないのか?」
父さんとしては、俺がまだ腑に落ちない点があるのではと思っているのだろう。だが、俺としてはそこまで訊きたい事柄は特にない。
ただ一つ、明日からの事が気になった。
まだ俺には四年前の事件とそれ以前の記憶を取り戻す必要がある。つまり、明日と明後日を使う事になるわけだが、果たしてこの二日間で説明が終わるかどうか。まぁ、かいつまんで話せば問題はないだろうが。
「う~ん、特にないかな。それよりもさ、明日の件なんだけど……」
俺が少し遠慮気味に話題を持ち上げると、父さんと母さんが顔を見合わせる。
「響史に説明しとく必要があるな」
何やら表情が深刻そうだ。何かあったのか?
「……明日、茜、姫歌、燈、奈緒の四人が家に来る」
「な、何ッ!? そ、そんなの聞いてないぞ!?」
「当たり前だ、今言ったからな」
何故かドヤ顔の父さんに、俺は呆れ果ててそれ以上言えなかった。しかし、こいつはますますヤバい。
ただでさえ両親や亮祐がいるのに、その上茜従姉ちゃん達まで来たら魔界の少女の事がバレる!
俺は困り果てた。隠そうにも雫がいないから隣のアパートは無理。屋根裏部屋(現在はルナーの研究室)は、結構散らかってるし厄介な事案でも発生したらマズイ。
こうなったら、魔界の少女には俺の部屋で大人しくしていてもらうしかないな。
俺は二階の自室にいた。見渡す限り少女。それも、明らかに日本人の成りをしていない。だって、髪の毛の色が明らかに黒髪や茶髪などではないからだ。まぁ、それを言ってしまうと俺も銀髪で日本人扱いされない事になるのだが。
「響史、これはどーゆーことなの?」
瑠璃の質問だ。その表情は少しムスッとしていて可愛い――って、そうじゃない。
「実はな……」
「別にいいわ」
「え?」
人がせっかく話そうとしたのに、麗魅が華麗に拒否した。これじゃ説明が出来ない。
「もぉー麗魅? 響史がなんで七日間も家に帰ってこなかったのか、気にならないの?」
「べ―――――――――――――――っつに!」
そこまで溜めなくてもよくないか? それとも、それほど怒っているということか?
俺が困惑して閉口していると、霊が声をかけてきた。
「そんなことより、ネコ缶がなくなってたんだけど、買い置きは?」
「いや、買い物行ってないんだからあるわけないだろ」
霊の問いに、俺は当然の答えを返す。当たり前だ、俺は病院で七日間もの間寝ていたのだ。それに、帰宅していないんだから家の事情も知らない。そんな状況で、何を予知したら猫缶を買って帰る事になるんだ。
「ぶーぶー! ひっどい、響史っ! 私が死んでもいいのー?」
唇を尖らせてブーイングする霊。すると、それに便乗するように霰が声を発する。
「そうですわ! 可愛い可愛いお姉さまの頼みが聞けないんですの!?」
いや、そう言われてもな。
「ああ、分かった分かった。明日買ってくるから」
この場を治めるために、俺は手で霊を抑止させながらそう言った。
「ホント? 絶対だよ?」
「ああ、絶対だ」
指切りまではしないが、俺は霊と軽い約束を交わした。
「そんで、アタシ達いつになったら降りれんの?」
それは霙の質問だった。当然だよな……ずっと俺の部屋にいるのは、居心地が悪いのかもしれない。いや、毎日のように俺の部屋で朝を迎えているこいつらが、そんなことを思っているかどうかは定かではないが。
「悪いな、多分母さんと父さんと亮祐がいる間は、当分一階は利用できない」
「そんなぁ~! それじゃあ、もう二度と私の可愛い可愛い妹達の裸体を拝む事は出来ないのっ!?」
悲痛な叫びをあげるのは、姉妹をこよなく溺愛する露さんだった。
「そうですね。ていうか、例え出来たとしても二度としないでください」
「酷い、鬼畜よ、響史くんっ! それはこの私に、溢れんばかりの性欲を溜めっぱなしにして発散するなって言ってるようなもんよ!?」
「いちいち卑猥な言い方に変えなきゃいけないんですか!?」
この人が俺よりも年上だというのが、未だに信じられない。精神年齢は明らかに小学生低学年レベルだ。
「仕方ない……今夜は霞お姉ちゃんの体で満足させてもらう事にするわ」
「さよか。ほな、ウチが慰めたったるわ――って、そないな事出来るかいなっ!!」
一つ下の変態妹――露さんの発言に、霞さんがノリツッコミをかましながら顔を紅潮させる。
「うむ……それでは、本日の風呂は無し……ということか?」
綺麗に正座し、斬空刀を放さないように肩に立てかけるようにしながら、霄が言う。
「そうだな……悪いけど」
『えええええええええええええええええええっ!?』
俺が人差し指で頬をポリポリかきながら謝罪すると、多くの少女が驚愕と反論の声をあげた。まぁ、当然の反応。問題は、異論がなかった人物がいる事だ。
「……露さん」
「な、何よ」
半眼で相手を見ると、少し警戒するような動きで露さんが身構える。めちゃくちゃ挙動不審だ。
「まだ何もしてませんよ?」
「まだってことは、これからするんでしょ? 何をするの? 今日はお風呂に入れないっぽいから、私の体臭をうんと嗅ぐつもりね? そうでしょ? そうなのよね? そうだって言いなさい!」
「何で俺を変態に仕立てようとしてるんです!? 第一、俺にはそんな趣味ありませんよ!!」
無論嘘ではない。第一、他人の臭いを嗅いで何がいいのだ。というか、仮に可愛い子の体臭がめちゃくちゃ臭かった場合、どんなリアクションすればいいんだよ! 嘘でもいいから、良い匂いだねとかいうのか? けど、それはそれでアレだし……。
とか俺が考えていると、その間に露さんが霞さんの手で制裁を受けていた。霞さん、グッジョブです!
「……風呂に入りたいの?」
そう問うたのは、きょとんとした表情を浮かべるルナーだった。白衣のポケットに手を突っ込み、俺の勉強机の椅子に足を組んで座っている。
「そりゃそうよ! だって、今の季節は夏よ? ただでさえ汗かいてるのに、その上寝汗とかかこうものなら次の日は最悪よ!?」
麗魅が必死に叔母のルナーに説明するが、彼女はふ~んというそっけない返し。こいつ、女としてそこらへんどうなの?
と、少々ルナーの女としての立場を心配してしまう俺。
「はぁ……それって、何か問題あるの?」
「ありまくりよ! だって、今日はこいつの部屋で寝ないといけないんでしょ!?」
「いや待て、別に俺の部屋で寝なければならないとは限らないぞ? だって、お前らには部屋をいくつか与えただろ? それなのに、わざわざ俺の部屋で朝を迎えやがって……」
はっきり言って夏場は勘弁してほしい。俺としても異性に体臭を嗅がれるのは辛い。何よりも、その上「クサッ!」とか言われようものなら、俺の精神は崩壊の危機に陥るだろう。
「ふんっ、私はただお姉さまがいつもあんたの所に行くから、襲われないかと思って心配で来てるだけだから!」
などと、麗魅が腕組みして若干頬を赤らめながら何か言っているが、苦し紛れの言い訳にしか聞こえないぞ。
「とにかく、私はお風呂に入りたいのっ!」
「はぁ、それなら俺が見張っててやろうか?」
「え?」
嘆息して俺がそう提案すると、麗魅があっけらかんとした顔つきになる。
「どうした? そんなに風呂に入りたいなら、俺が見張っててやるって言ってるんだよ」
やれやれという口調で言うと、麗魅が俺をぶん殴った。
ボゴッ!
「変態っ! あんたの考えてる事は分かってるのよ! どうせ、私がお風呂に入っている間に脱ぎ立ての下着を盗んで、臭いを嗅ぐつもりなんでしょ!?」
「ほ、ホントなの響史っ!?」
「んなわけあるかぁぁぁぁぁッ!!」
麗魅の根も葉もない言いがかりに、俺は叫びをあげる。しかも、天然思考をお持ちの瑠璃が妹の口から出まかせを信じたために、びっくりした表情を浮かべている。
おまけに――。
「そ、そんな……響史くんが私と同じコトを考えていたなんて!?」
と、若干一名が麗魅の出まかせを実際に実行しようとしていた事を知ってしまい、皆から冷たい視線を向けられていた。まぁ、自業自得だ。
しかし、それにも拘わらず……。
「あはぁん♪ そんなに見ないでよ……興奮しちゃう」
最早この人の暴走は止まらないようだ。
結局、この日の夜は、各自俺が与えた部屋で就寝する事になった。
興奮状態持続中の露さんは、何をしでかすか分からないので、霞さんの協力の元縛り付けて身動きが出来ない状態にし、口に布を噛ませてベッドに放った。
去り際に――。
「ふーっ! ふーっ! ふーっ♪ んっ♪」
と、何やら頬を赤らめて身じろぎ、鼻息を荒くして悶絶していたので、少々心配だ。
いろんな意味で……。
とにかく、これで枕を高くして眠る事が出来る…………多分。
俺は自室のベッドに仰向けになり、天井を見ていた。照明を消してあるので真っ暗だが、暗闇に視界が慣れてきたためにボヤ~ッといろんな物が見える。
明日はいろいろと大変そうだ。どうなるかは分からないが、必ず記憶を取り戻してみせる! 俺自身のためにも……皆のためにもッ!!
そう決意して、俺は瞼を閉じ眠りの世界に誘われるのであった……。
というわけで、四部の前半は神童家の過去の話を少しやりました。
中盤からは魔界の少女達との会話です。どうしても彼女達と会話すると変態性が増すのは何故? おまけに、一階に家族がいるのでお風呂に入れないという事案が発生。女性陣の一部がブーイング。最終的には露さんが拘束されて興奮して終わりです。いろんな意味で終わってますね。
さて、次回予告……新章突入。内容は無論、過去編です。とうとう明らかになる全て。夏休みの本編はその後を予定してます。更新は、今月中に一、二回を目指します。それではまた次回。




