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魔界の少女  作者: YossiDragon
第四章:七月 現在『欠けた一部と空白の四年間の記憶』編
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第五十五話「目醒めの時」・2

「はぁ……やっぱり駄目なのかな」


「ん? どうかした、琴音ちゃん?」


 隣にいた妹がいきなり溜息をついているので、少し不思議に思った姉の優歌はそう質問した。すると、琴音は姉に潤んだ眼差しで訊いた。


「お姉ちゃん、私……やっぱり駄目だよ」


「ふふ、何の事かと思ったらそのことね? だいじょぶだよ、琴音ちゃん♪ 自信持って? 今は忘れてるかもしれないけど、あの日を迎えれば思い出してくれるんだから。そしたら、伝えるんでしょ? ……気持ち」


 優歌にそう言われ、琴音は顔を赤らめて俯きつつ、コクリ首肯した。


「ふふ、いいこいいこ♪ ホント琴音ちゃんの反応はカワイイなぁ♪」


 そう言って実の妹の頭を愛でる様に撫でる優歌。

 一方、響祐が自宅に戻る準備を始めていた。


「響史、トイレは鍵之助に付き添ってもらえ。父さんは母さんと家に戻る準備をしておく」


「あ、分かった。サンキュー」


「坊ちゃんの世話は、私めにお任せください」


 紳士の様に振る舞い、鍵之助は響史の元へ歩み寄る。


「では参りましょうか、坊ちゃん」


「あ、はい!」


 響史は執事長管野鍵之助に肩を貸してもらい、一緒にトイレまで向かった。無論、ポケットに携帯を忍ばせている。トイレで電話をかけるためだ。

 確かにバレた場合、鍵之助にも電話内容を聞かれる可能性があるが、彼ならば響祐よりも少し距離を置くタイプなので大丈夫だろうと踏んだ。




 病室に残された面々は、各々の気持ちを吐露していた。


「成功……したみたいだな。だが、まだ油断は出来ない。あの日まで後七日……。俺達に猶予は残されていないんだ。何としてでも響史の記憶を完全復活させる。そのためにも皆、後七日……頑張るぞ!」


『おおっ!』


 響祐の言葉に、皆が頷き声を張り上げる。その後、医師に病院では静かにしてくださいと注意されたが。


「結局、めーちゃんは帰っちゃったみたいね」


 唯奏が病室の扉越しに院内の廊下を見やる。が、どこにもめいらしき人影は見受けられない。


「無理もないよ、だって響史にあんな事言われたらなぁ」


 燈が同情するように腕組みをして頷きながら言う。


「それほどまでに、めいさんは響ちゃんが好きということでしょうね。うふふふ、全く……人気者過ぎて困ったものですこと」


 茜が自身の頬に手を添えて笑みを浮かべる。すると、姫歌が片目を瞑った状態で声をあげた。


「そういえば、結局めーちゃんさんが四年前の再現の事を知っていたのはどうしてですの? 私、そこがずっと気になって仕方ないのですけれど? どうにかしてくださいません?」


 気になり出すと、解決するまでどうしてももやもやする性質(たち)らしい姫歌は、困惑顔で訊いた。


「さぁ、私にもさすがに分かりかねますわね。もしかすると、何か秘密があるのかもしれませんけど、女の子の一つのスパイスとでもお考えになればよろしいのでは?」


「はぁ、そんなバカげた考えできませんわ! もっと納得の行く答えが欲しいんですの! それくらいも思いつきませんの!?」


 茜が考えあぐねて参ったな、という顔をして答えてくれないので、姫歌は嘆息して毒を吐いた。

 すると、その発言が頂けなかったのだろう。茜が片眉をピクリとヒクつかせ、微笑を浮かべたまま顔の陰を濃くして口を開いた。


「うふふふ、あら? 聞き捨てなりませんね……今の発言は。まさかとは思いますが、今それくらいも思いつかないと(おっしゃ)いました? あらあら、一体どこの誰のどの口がそのような事を? 自分で何も考えられない低能のクセに……」


 毒に対して更なる毒を吐き返す茜。おまけに、基本丁寧なお姉さん口調なので尚更インパクトが強い。

 それにより、茜の猛毒は姫歌の心の奥を深くエグった。


「ぐっは!? ……そ、そこまで仰らなくてもよろしいんじゃなくて? 私は別に、茜さんをバカにしているワケではありませんし……」


 あまり深く言葉を選んで言ったわけではなかったので、茜の異様な威圧感に姫歌は面食らって若干しどろもどろになり、それからしばらくは、姫歌が茜のご機嫌取りをしばらく続けることになった。


――☆★☆――


 俺――神童響史は、爺ちゃんの神童豪佑が社長をやっているバブルドリームカンパニーの執事長を務める菅野鍵之助さんに肩を貸してもらい、病院の男子トイレへとやってきていた。


「坊ちゃん、何かあればすぐにお声をおかけください。私は、ここでお待ちしておりますので」


「あ、はい」


 トイレ前で待機というのは、他の利用者にちょっと威圧感を与えそうな気がしたが、なにぶん七日間も寝ていては溜まる物は溜まるのでさっさと用を足したいという使命感に似た感情が先行して俺はトイレの個室に駆け込んだ。


「……ふぅ。さて、電話しないとな。ええと、家の電話番号はっと……」


 携帯電話を開いて電話帳の中から自宅の電話番号を探し出し、電話をかける。

 これで電話に出れば、魔界の少女(あいつら)が家にいる事が分かる。出なければ、家にいない事が分かる。

 だが、そうなるとどこにいるのだという話になる。まぁ、隣のアパートの雫の部屋にいるのかもしれないが。

 プルルル、という音が鳴り響き俺は相手が電話に出るのを静かに待つ。

 病院の男子トイレの個室で洋式便座に座って自宅に電話をかけている男子高校生という妙な絵面だが、別段誰かに見られている訳でもないので問題ない。

 そして――。


 ガチャ。


 誰かが電話に出てくれた。これであいつらが家にいたことが分かった。

 とそこで、考えたくはないもしもの可能性を、俺は思案してしまう。


――この電話、相手が瑠璃達とは限らないんじゃないか? だって、あいつらは家の鍵を持っていない。その上、七日間も家を留守にしていたんだ。家の明かりだって防犯上の為に点けた覚えないし、そうなると……空き巣とやらに侵入されている可能性も――無きにしも非ず。



 何でそうネガティブに考えるかは自分でも分からないが、そこで俺は一つの妄想が出来上がる。


『あ、もしもし?』


『……もしもし』


『ん? あれ、あのぅ……どちら様ですか?』


『……え、あ……あき――』


『あき?』


『あ……「(あき) 好太(すきた)」です』


『秋好太さんですか。それはどうも――って、それ空き巣来たってことじゃねぇか!! お前空き巣かよッ!! てめぇ、何人様の家に上がり込んでんだこのヤロー!!』


『あ、すみません。お邪魔してますぅ』


『ああいえ、これはご丁寧に――って、挨拶してもダメだよッ!! とっとと出てけぇえええええ』


 とかなんとか、こんな妄想を脳裏に思い浮かべてしまう。


〈――し、もしも~し? ちょっと、もしもしつってんでしょ!? 返事しなさいよバカっ!!〉


 と、受話器越しに俺をバカ呼ばわりされて現実に引き戻される。そうだった、電話をかけていたんだった。


「あ、悪い。えっと、その声って……ルナーか?」


〈そうよ! ったく……誰も電話に出ないから、作業中なのに一時中断して降りて電話に出てあげたってのに……感謝の一つもないワケ?〉


「あ、サンキュー。って、何で俺がお礼を言わなきゃいけないんだよッ!! あっ、でも……姉ちゃんが感謝しとけって言ってたな」


 俺は、ふと姉ちゃんがルナーに対して言ってた言葉を思い出す。


〈は? あんたの姉ちゃんって――ハッ!? ま、まさか……また私に何かしようっての!? ご、ごめんなさい! お願いだからもうあんなのはゴメンよっ!!〉


 別に何も言っていないのだが、先に謝られる。どうやら、相当姉ちゃんからの攻撃が効いているらしい。


「あっ、それよりも……どうして家の中にいるんだ? 鍵、俺が持ってるんだけど?」


 ちょっと話の本筋からズレてしまったので、慌てて軌道修正をする。


〈あぁ、ちょっと瑠璃がね?〉


「ん? 瑠璃がどうかしたのか?」


 何やら声のトーンが低いので、何かあったのかと気になってしまう。


〈……尿意を催しちゃって。家に入りたくても鍵が無くて入れないから、困っててね? だから、私が鏡界の力を使って家の中に入って鍵を開けたげたの〉


「そうか。その様子だと間に合ったみたいだな」


〈……それはどうかしら?〉


「――え」


 いきなりそんなことを言ってきたので、俺は素で硬直状態に陥った。


――それってつまり……。



「まさか、漏らしたのか?」


〈ご想像にお任せするわ〉


――ええええええええええええええええええええええ!? いやいやいやいやいや、お姫様のプライドとしてそれはどうなの!? やばい、メッチャ気になるんだけど!! いや、そんなこと追究するなんて変態鬼畜野郎だけども!



「……ま、まぁ詳細は家に帰ってからでいいや。と、とりあえず今は一大事なんだ! 話を聞いてくれ!!」


〈な、何? その感じだと、結構ヤバそうだけど?〉


「じ、実は――」


ブツッ!


 何かが途切れた音。俺は何事かと思った。


「あれ? もしもし? おい、ルナー?」


 相手の応答を待つが、一向に返事がない。ただの屍の――というのは置いといて、これは……まさか。

 俺はふと耳に当てていた携帯画面を確認する。そこには、何も映らぬ漆黒のみ。

 そして全ての原因が分かった。


――で、電池切れてるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?



 そう、通話の最中に電源が切れてしまったのだ。こんなことならば、しっかり残量を確認しておけばよかったと後悔する。が、今更そんなことしたところで手遅れた。

 それよりも、これからどうすればいい。連絡の手段を失った今、ルナーに情報を伝える事が出来ない。このトイレから出てしまったら菅野さんに連れられて病室に帰還し、そのまま帰宅だし。


――何か、何かないか!? 考えろ、考えるんだ!!



 必死に思考回路をフル回転させるが、全くと言っていいほど脳内は真っ白だ。何も思いつかない。

 と、その時だった。


「はぁ、ホントあんたはいっつもいっつもバカみたいな事してるわね……」


 その声は、個室トイレの扉の向こうからした。それも、女の子の声。ここは男子トイレだ。普通ならばそんなことありえない。

 そして、俺はこの声に聴き覚えがある。

 そう、それは――。


「る、ルナー!?」


「あんたが随分気になる切り方してくるから、来ちゃったじゃない!」


 個室の扉を開くと、そこには相変わらずいつもの格好をしているルナーが、腰に手を添えて威張った様子で仁王立ちしていた。

 同時、菅野さんの声が聞こえてくる。


「ぼ、坊ちゃん!? いかが致しました? 何やら騒がしいご様子ですが――」


 と、突然菅野さんがトイレ内に侵入してきだしたではないか。

 これはマズイ。何よりも、男子トイレに女子がいる事が一番マズイ。このままでは何かと問題が起こる。この場合の選択は――。


 一つ……「コイツ、男なんです!」いや、無理があるだろ!!

 一つ……「個室に連れ込み、菅野さんを上手くやり過ごす」ううん、少し難しそう。

 一つ……「菅野さんを個室に連れ込む!」おい、最早どういうことだよッ!!


――くっ、あれ? この中だと一つしか回避法なくね? ええい、なるようになりやがれってんだッ!!



「ルナー、こっちだ!」


「へ――」


 ガタンッ!


「坊ちゃん? 大丈夫でございますか? 何やら騒がしいご様子ですが、どなたかと会話でも?」


「あ、す、すみません菅野さん! ちょっと独り言してて……。まだ七日間のインターバルで頭がおかしいみたいです」


 と、即興の言い訳を口にする。我ながらこのアドリブは素晴らしい。


「左様ですか。何かございましたら、すぐにお声をおかけください?」


「すみません、ありがとうございます……」


 俺がそう一言告げると、菅野さんはトイレから退出した。


「ふぅ……助かっ――ぐえッ!?」


「ちょっと! どういうつもり!? この私をこんな狭苦しい場所に連れ込んだ上に抱きしめてッ! しかも、前回は女子トイレに連れ込んだかと思ったら今度は男子トイレ!? 後、なんか当たってんのよ!! いい加減にして……くれ、な……イっ!?」


 ルナーが俺の胸ぐらを掴んで小声で叫んでいたかと思うと、急に声の速度を落としてそれと同時進行して徐々に視線を下へ……。

 と、そこで俺は現在の格好を思い出す。


――そうだ! お、俺今さっきまで用を足してて、そのまま下穿くの忘れてた!! る、ルナーにまで見られた!?



「きゃあ――むぐっ!?」


「た、頼む! 大声を出さないでくれ! さすがに二度も言い訳は出来ない!」


 そう言って俺は、悲鳴をあげそうになるルナーの口を慌てて塞いだ。すると、ルナーが顔面蒼白になって俺の手を振り払うと、小声で声をあげた。


「ちょっと! あ、あんた……個室にいたってことは……その手、うん――大腸菌塗れなんじゃないでしょうね!?」


「あっ、いや……その――」


 俺が申し訳なく視線を逸らして頬をかくと、ルナーがどこから取り出したのか枕を両手に持ってそこに顔を押し付けると、くぐもった声で叫んだ。


「んもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 これが声になって出ていたらどうなっていただろうと思うと、本当に助かったと思う。


「……ほんっと信じらんない! 何なのあんた! 普通、人を呼び出すのにトイレはないんじゃないの!?」


「い、いや……まず俺呼んでないし……。それに、ルナーが勝手に来たんだろ?」


「うっ、せ、正論ね。で、でも……あんただって私が来ないと困ったんじゃないの?」


 ルナーに言われて俺も口ごもる。実質、その通りなのだ。彼女にここに来てもらわなければ、連絡出来なかった。こればかりは本当に感謝しなければならない。


「さ、サンキュー、ルナー……」


「ふ、ふんっ! そ、それで? 私に一体何の用なワケ?」


 用件が気になったルナーは、片目を開けてこちらを見やる。俺は彼女にかいつまんで現在の状況を伝えた。


「……そう。それは大変な事になったわね。でも、その前にあんたにおめでとうと言ってあげるわ」


「は? 何で急にお礼なんだ? 別に、この件を伝えた事にお礼なんていらないだろ?」


「はぁ、そうじゃないわ! ほんっとあんたは理解力が乏しいわね。私が言ってるのは、あんたが七日間大舞台を経て目覚めた事を言ってるの!」


「な、七日間大舞台? それって……父さんや母さんや、姉ちゃん達が俺のためにやってたっていう……ん? 待て! 何でそれをルナーが知ってるんだよ!!」


「……いろいろあんのよ。あんたには伝えないといけないことがいろいろあるの! とにかく、それよりもまずは目の前の危機を回避することが先決よ! あんたの両親が帰ってくるんでしょ? それを回避するには、あの子達をどこかに隠すしかない」


 顎に手をやり、何かを思案し始めるルナー。そこに、俺はある質問を投げかける。

というわけで、菅野さんに付き添ってもらってトイレに連れてってもらうことになった響史。一方で、響祐は来るあの日まで後七日だと闘志を燃やします。ちなみに、描写されているようにめいちゃん帰っちゃいました。ホント、可哀想。まぁ、彼女へのスポットライトは今後当たる予定です。眩しいとか言われそうですがw

さらに、徐々に判明する茜と姫歌のキャラ。お嬢様口調である姫歌は何かと霰と被るんですが、主に彼女との比較は、変態であるかそうでないかと、強気であるか弱気であるかの違いです。

場所は変わってトイレ。七日間も何も出さなかったらそりゃ溜まるものは溜まってる訳で、個室に駆け込んでトゥットゥルー♪ 電話をかけていると、その最中に妄想に……そして、謎の登場人物「秋好太」←誰だよ

とまぁ、妄想の中でもツッコミを繰り出しつつ現実に戻ると相手はルナーでした。と、そこからはルナーと響史の会話のやり取り。

そして、通話が……。さらに、そこへやってくるルナー。にしても、彼女は結構トイレへの出現率が高いですね。まさか、ホントは鏡界ではなくトイレの支配者なのでは!? とか。

とまぁ、そんなわけでいろいろガヤガヤしながら三部へ。

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