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魔界の少女  作者: YossiDragon
第四章:七月 現在『欠けた一部と空白の四年間の記憶』編
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第五十四話「七日間大舞台」・4




 七月十一日。時刻は午前十一時半。天気は晴れ。

 響史が病院に運び込まれて四日が過ぎた。七月十四日まで後三日だ。予定では三日後――十四日の午前七時には響史が目覚める事になっているのだが、本当に大丈夫なのだろうかと、親族及び雛下姉妹は心配していた。

 問題は、それだけではない。もう一つ、彼らを悩ませる事があった。


「それで、めーちゃんとの連絡は?」


「それが、何度もメールしてるんですけど、返事がなくて……」


 響祐の問いに琴音が答える。現在、彼らは響史の病室のある病棟の端の踊り場っぽい所にいた。そこにはベンチが設置されていて、何人かはそこに着席している。


「もしかして、メアドが変わってんじゃない?」


「その可能性は十分考えられるわね。でも、それだと手元にメール本文が返ってくるはずだわ。それがないとなると、相手に届いてはいるけれど相手がそれに気づいていないか、敢えて無視していると考えるのが妥当……かしら」


 燈が腕組みして片眉を吊り上げ、茜が原因となる事柄を口にする。


「……まあ、あの方は所謂自宅警備員(ニート)ですから。まぁ、自部屋管理人ヒッキーとも言いますかしら?」


「でもさ……なんで、あんなに引っ込み思案なワケ?」


 めーちゃんと呼ばれる人物の例えをあげる姫歌に、燈も不思議そうな顔をする。


「さぁ? めーちゃんの引っ込み思案の理由を知ってるのは、響史だけなのよ。確か、めーちゃんにはお姉さんが二人いるって言ってたけど、その二人も理由を知らないって言ってたし……」


 唯奏は首を傾げて、めーちゃんという人物が身内にも引っ込み事案である理由を明かしていないと言う事を。この場にいる面々に伝えた。


「ねぇ、四年前はどうやってめーちゃんを呼んだの?」


 唯の質問だ。その方法が気になったのか、雛下姉妹も身を乗り出して興味津々という顔つきになる。


「えっと……あなた、どうだったかしら?」


「ん? 確か、響史が大変だとメールを送ったらいきなり電話がかかってきて、今日から二日後の同じ時間に来ると言ったんだ」


 その言葉に皆が黙りこんだ。話した当人も何事かと疑問符を浮かべる。


「どうした?」


「二日後……って、十四日よね?」


「ああ、そうだな」


「ちょっと、待つんじゃ響祐。確か、台本には――」


 突然、慌てて自身の台本を開く豪佑に、響祐は不思議そうな顔をする。


「何やってんだ? 親父の役はまだだろ?」


「違うわい! そうではない……わしが言うとるのは、そのめーちゃんのことじゃ。確か、台本によれば彼女のセリフは十四日しかないんじゃ」


「そうだな。で?」


「十四日の午前七時には目覚めるんじゃぞ? そして、映像じゃ」


「あっ、思い出した! 私も昨日ビデオで最終確認してたけど、めーちゃんのいた時間、夜中だったよ!?」


「てことは――はっ! 今の時間は何時だ!?」


「えと、午前十一時四十分……ね」


 何かを思い出したのか、響祐が急かすように妻の唯奏に確認させ、現在の時刻を伝える。すると、響祐は唯に声をかけた。


「唯、十二時を過ぎてからめーちゃんにメールしてくれ」


「え? さっきまで繋がらなかったのに?」


 訝しげな顔をして父親に尋ねると、響祐は腕を組んで説明した。


「恐らく、めーちゃんは引っ込み思案な性格の理由を知っている響史には心を開いているはずだ。血縁関係にある姉には話さず、赤の他人である響史に話しているのが何よりの証拠。ならば、そんな響史がピンチだという文を送れば、恐らく何事かと電話してくるはずだ。そこで今回の説明を行う!」


 父親の説明で合点がいった唯は、大きく頷いて琴音に十二時にメールを送る様に指示した。


「ふぅ、茜やことりんは?」


「うむ、今は響史の所で演技に徹しておる。そろそろ、弦鐘と入れ違いに菅野が行くはずじゃ」


「そうか」


 父親の説明に、コクリ首肯する響祐。すっかり彼がこの場を取り仕切る指揮官の様になっていた。


「これからどうするの、おじちゃん?」


 奈緒の質問だ。母親の律奈に抱っこされながら小首を傾げている。


「とりあえず、十二時になってめーちゃんに連絡を入れなければならない。彼女がちゃんとメールに反応して、本文まで見てくれればいいが……」


「確かに。下手したら本文見らずにシカトって可能性もあるし、もっと下手すれば電源切られるかもしんない」


 響祐に次いで、燈ももしもの可能性を示唆する。だが、マイナス方向に思考しても仕方がない。ただでさえ、響史の事で賭けが生じているのに、その上めーちゃんという人物が来るかでも賭けが生じる事になった。しかも、この大舞台はめーちゃんが来なければ意味が無いのだ。




 真っ暗な部屋。そこには、一つのこたつが置いてある。周囲には衣服や毛布が散乱し、こたつの上には漫画や飲み物、パソコンも置かれてあった。

 部屋の周囲にはクローゼットやタンス、他にも様々な家具やテレビも設置されていて、天井にはLEDの照明が取り付けられているのだが、今現在はその役目を果たしていない。

 まだまだこの部屋にはいろんな物がある……が、今は割愛する。


「……すぅ……すぅ」


 この、明らかに働きたくなかったり引きこもりたい人が創りそうな空間に、一人の人物が気持ちよさそうに寝息を立てて寝ていた。こたつの中に体を潜り込ませ、頭部をちょこんとだけ出しているその人物は、何やら部屋の入口付近からの物音を察知して寝息を止めた。

 そして、もぞもぞと体を動かし始める。

 刹那――。


コンコン。


「お嬢様? あの、お昼をお持ちしました。よろしければ、ドアを開けて頂けませんか? 奥様もご心配なさって――」


ドンッ!!


 何やら軽くも少々重そうな音が扉越しに聞こえてくる。その音にメイド姿の女性はビクッとなって、それから嘆息する。


「……お嬢様、今日もお昼は召し上がらないんですね?」


『さっさとどっか行って!』


 ドアの向こうから響き渡る少し幼げな声。しかしどこか気怠そうで弱々しい声が聞こえてくると、メイドは再び嘆息して扉の手前に料理を置いた。


「ここに置いておきますね? では、たまには顔をお見せになってくださいね?」


 そう言うと、メイドは少し悲しそうな表情を浮かべて扉の前から遠ざかって行った。


――☆★☆――


 真っ暗な空間。そこに、めいはいた。

 めいの一人称は「めい」という。もうずっと昔からそうだ。他人からもよくその名前で呼ばれているが、めいを呼ぶ人の中に、めいをお嬢様と呼ぶのもいる。

 そんなめいは、少しムスッとして扉を見据えていた。そこには少し大きなクマのぬいぐるみが扉に投げつけられた後のような姿になっている。

 そう、先程メイドが扉越しに聞いたであろう音の正体は、コレだったのだ。


「……ままは、心配なんてしてないもん。めいの事を分かってくれるのは、心配してくれるのは……キー様だけだもん! はぁ……キー様。また、めいを見つけてくれないかな?」


 今自分の表情を鏡で見れば、そこには物憂げな顔をしているめいが映るだろう。

 めいは、幼少期に助けてくれたある人物の事を想った。

 と、その時、携帯のバイブ音が聞こえてくる。


「え? メール? おかしいな……めいに友達なんていないし、メアドも教えて――」


 ぶつぶつとネガティブな発言をしながら携帯を開く。真っ暗な空間に淡く白い光が出現する。その光はめいの顔を照らし、暗闇に目が慣れているせいで目を(しばた)かせる。と言っても、パソコンがついているので暗闇にばかり目が慣れるわけでもない。第一、照明をつければいいだけなのだから。

 ただ、一つ心配なのは電球を久しく変えていないので、もしかするとLED電球が切れているかもしれないということだ。


「……え? 響史が重傷で病院に入院……? ど、どういう事? あの人が、重傷!? そ、そんな……だ、ダメ……っ!!」


 メールの本文を見ためいは、その内容に慌ててメールの送り主が何者であるかを調べる。

 そういえば、さっきから何件もメールが送られてきていた。寝ていたので全く気付かなかったのである。

 送り主は全員同じ人物だった。


「……神童、唯」


 確かキー様のお姉様だったはず。となると、たちの悪いイタズラとは考えにくい。だとすれば、これは真実であり一大事だ。


「えと……電話番号は……」


 弱々しくも慌ただしくめいは電話番号を知っている人物を探す。そして、知っている電話番号の大半が身内で、それ以外に電話番号を知っている人物が殆どいないことが分かって項垂れた。


「うぅ……。やっぱめいはボッチだよぅ……」


 悲しくなっためいは、目じりに涙を浮かべつつ電話番号を打った。無論かけている人物はあの人だ。


――☆★☆――


 時刻は十二時十分。

 突如病室に、携帯電話の着信音が鳴り響いた。


「これって……響史の携帯?」


 そう言って携帯を手に取ったのは唯だった。彼女はその携帯の画面を見て驚愕する。


「……めーちゃんだ」


「何、本当かッ!?」


 唯の口にした人物名に響祐を含め、親族及び雛下姉妹も驚きを露わにする。


「うん、でも……どうして響史の携帯に? メールを送ったのは私なのに?」


「とにかく、出てみましょ?」


 疑問符を浮かべる唯に、唯奏がとりあえずと電話に出る事を促す。


「……もしもし?」


 恐る恐ると言った感じで相手に声を掛けると、しばらくして声が聞こえてきた。


〈は、ハロー! ひぁっ!? えと、めいは……めいと言いまして! うぅ……キー様大丈夫ですか!? しっかりしてください、傷は浅いですよぅっ!〉


 明らかに動揺しまくりの相手。その、聞いた感じ子供っぽいロリボイスで慌てふためいている相手に、唯は半眼で確信する。


「めーちゃん? ていうか、確認せずとも分かるんだけど……今、大丈夫?」


〈ひゃ、ひゃいっ! あ、あれ? あ、あのぅ……キー様ではないのでございますか?〉


「う、うん。ごめんね? にしても、すごい動揺のしようだね……もしかして、響史が出ると思った? ごめん、今響史は出られる状態じゃないんだ……」


 凄く申し訳なさそうな顔で謝る唯に、いえいえと言うめい。


「……それで、来れそう? 響史がもう限界なの」


〈は、はい。え、行っていいんでござりますか?〉


「う、うん……とりあえず、落ち着こう? その丁寧語? みたいなの、間違えてると思うからさ……」


 唯がやんわりとめいの口調について指摘する。


〈す、すみません、ごめんなさいっ!〉


「一応、確認したいんだけど……今すぐ来れるかな?」


 これも一応台本に書かれてある台詞だ。驚いたのは、相手が望み通りのセリフを返してくれることだった。別に相手に事情を説明したわけではない。なので、唯を始め親族及び雛下姉妹は驚きを隠せなかった。


〈うぅ……今すぐ、ですかぁ? そ、それはちょっと……あっ! 二日後の同じ時間に、来ますっ!〉


 そう言うと、いきなり電話は切れた。突如電話をかけてきたかと思えば、急に電話が切れる。本当に不思議な子だ。だが、彼女が要を握っていると言っても過言ではない。

 なぜならば、最終日……十三日の夜から十四日の朝七時にかけては、ほぼ先刻の電話相手のセリフがメインだからだ。

 しかし、このままだと台本を渡す事が出来ない。そうなると、どうやって相手に四年前と同じセリフを話させればいいのだろうか?

 新たな課題に頭を悩まされる面々。

 とりあえず、演技通りに病室を後にすると、先程の場所に集まって緊急会議を始めた。


「……どうすんの? めいちゃんに台本渡さないといけないんだよね? でも、彼女が来るのは二日後の同じ時間……。台本通りなら、十四日の午前零時十分に来るってことになるけど」


 あごに指をかけて、肘をもう片方の手で支えるようにして考える人の様に唸る燈。


「まぁ、いざとなればこちらがカンペなどを出して指示するしかない」


「大丈夫ですかね? 同じ行動をしなきゃ……いけないんですよ?」


 響祐の半ば無理やりに作り出した案に、不安感を拭えない様子の箏鈴。だが、時間はない。さっきから何度も電話をかけなおしてはいるものの、留守電にかかるだけで応答はなかった。


「はぁ、めいちゃんは時と場所は正確な子だったから、恐らく二日後の同じ時間と言ったら必ずその時間に来るわ」


 嘆息して唯奏が頬に手を添える。


「心配事は他にもありますわ。台本によれば、二日後の同じ時間にめいさんはこの場所に現れるとなっています……」


 茜が台本のあるセリフの位置に指を指し示す。それを見て、琴音が声をあげる。


「そんなのダメですっ! こ、こんな……羨ま――もとい、不健全な行為許せませんっ!!」


「お、落ち着いて琴音ちゃん? 第一、この行為は四年前もやってるんだよ?」


「四年前はまだ小学生です! 今は花も恥じらう高校一年生ですよ? そんなのズル――ダメです!」


 顔を真っ赤にさせて首を左右に激しく振り異を唱える琴音に、姉の優歌はまぁまぁとじたばたする妹を(なだ)める。


「まぁまぁ……こっとんが響ちゃんLOVEなのは分かったから、そんなにあからさまなジェラシーしなさんな♪」


「……っ!! じぇ、じぇらしーなんかじゃありませんっ! わ、私はただ単に……そ、そう! クラスの委員長として指摘してるだけです!!」


 律奈に図星の事を言われ、さらに顔を真っ赤にさせた琴音は、今にも沸騰しそうな程頭から湯気をあげていた。

 そうこうして、緊急会議は何やらドタバタした感じに終わりを告げた。

 果たして、彼らの七日間に渡る戦いは努力という名の実を結んで、成功へと繋がるのか?




 七月十四日。時刻は零時十分を回ったところ。天気は曇り。

 月明かりの届かないこの真っ暗な真夜中に、高層ビルのあちこちからはポツポツと光が漏れている。どうやら、こんな真夜中でも仕事をしている人がいるようだ。

 ここは、光影都市の中でも一番大きな病院。

 そこのとある病室に、一人の少年――神童響史は意識不明の状態で寝かされていた。だが、意識不明の彼の布団は、何故かもぞもぞと動いていた。理由は単純だ。掛け布団は明らかに一人とは思えない盛り上がりを示している。これが何を意味するのか……そう、もう一人誰かがいて、その何者かが響史のベッドに潜りこんでいるという事だ。

 その人物は、頭部からピョコンとアホ毛を伸ばしており、その先端が響史の鼻頭をつついている状態にあった。

 また、掛け布団を顔まで深く被っているためか、頭頂部の部分以外見えておらずその正体が掴めない。

 が、この後、その正体はバレることになる。


「……はぁ、キー様。この匂い、懐かしい……。あぁ、相変わらず(かぐわ)しい限りでございます。あ、あの……もしよろしければ、こんな友達もいないボッチなめいの……体臭を嗅いでくださいませっ!!」


 憧れの対象? である響史の匂いをたんまりと嗅ぎ終えると、少年と同じか少し大きいくらいの身長の少女は、響史の体を抱き枕でも抱くかのように抱きしめた。響史の顔面は少女の胸元に押し付けられる。

 と、その時だった。


「……むぐ」


 少女はその声を確かに耳にして抱擁を停止する。そして、自分の胸元にある響史の顔を見据える。そして、彼が表情一つ変えていない事を確認して気落ちする。


「はぁ……キー様。やはり、お目覚めになってはくれないのですね? やはり、こ、ここは……めいが魔法をかけるしか。でも、恥ずかしいよぅ……いくらなんでも、寝ているキー様に不意打ちを仕掛けるのは……あぁでも……ほっぺなら、許してくれるかな? うぅ、悪い子のめいを許してください、キー様っ!!」


 ほぼ自分で自虐しながら、少女――めいはその濡れて潤う唇を少し突き出し、点滴による栄養補給のみで痩せこけた響史の頬に己のそれを触れさせた。

 同時、ちゅっ! という音が響き、瞬間病室の扉が開け放たれる。


「ああーっ!!? 何やってるの、めーちゃん!」


 扉が開け放たれるのと、叫び声はほぼ同時だった。

 めーちゃんと呼ばれたその少女は、唇を放して顔をそっとあげると目の前の少女の姿を視界に捉えた。そこに立っていたのは、目じりに涙を溜めプルプルと悔しさと嫉妬に震えている雛下琴音の姿があった。

というわけで、四部目。

四部目でまさかの新キャラ。まぁ、話題としては少し前から出てましたけどね。

そう、琴音同様幼稚園時代からの付き合いである「めーちゃん」です。

え、本名はって? 今は、伏せておきます。何故か……今後、分かります。

キャラ的にはまぁ見て分かる通りです。後、お嬢様です。

結構四部からはめいの独壇場ですね。次の五部からは、琴音も入って二人の無双の予定。

にしても、人気者やのぅ響史くん……。

ちなみに、めいの属性は作者(生みの親)である自分もナゾです。まぁ、ナゾキャラということで。確定すれば、確定した時に。

では、次の五部を引き続きお楽しみに。

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