第五十三話「七日間大舞台準備」・2
今回は三部構成です。
※注)変態成分多し。
「あれぇ~? 今、霖が私の事呼んだよね?」
「あぁ、もう……霊お姉ちゃん、よだれ垂れてるよ?」
姉としてだらしないという風に霖が困り果てた顔をする。すると、露が突然を目を妖しく光らせたかと思うと、ペロリと舌なめずりして霊の両頬に手を添えた。
本来ならば、ここで霊も反応を示して抵抗することだろう。が、生憎と寝起きでボ~ッとしているためか、霊は半眼のトロンとした表情のままだった。
「えへへ、隙あり♪」
と、それを好機と言わんばかりに妹の口元から垂れる涎を、露が舌でペロッと舐めとった。
「ひにゃっ!?」
それによる衝撃で、霊の目が完全に醒める。同時、顔を真っ赤にして露を押しのけると、ザザザッと一気に後退した。
それを目撃した姉妹全員が驚愕して硬直する。無論、ルナーと麗魅も同様だ。霄に至っては、素振りしていた斬空刀を落としてしまうほどだ。
「な、なななな……っ、何やってるのお姉ちゃんっ!!」
そう言って声を張り上げたのは、霖だった。顔を真っ赤にして料理を乗せたお盆を震わせている。料理を落としてお皿を割らなかったのが奇跡的くらいだ。それに続いて零も半眼で口を開く。
「霖の言うとおり。露姉様、それはいけません」
「あれ~? でも、すっごく甘いよ~?」
「いにゃあ~!? い、言わないでぇ~!!」
露が笑顔で言う言葉に、霊が一層顔を真っ赤にさせる。すると、露の背後から殺気が漂った。見ればそこには、憤怒と嫉妬に塗れた霰の姿があった。
「お、お姉様の唾液を舐めとるだなんて! 許せませんわっ!!」
珍しく正当な意見を述べる霰に、霊は思わず感動する。
「霰~……そーだよね、やっぱり――」
「お姉様の唾液は私だけの物ですわっ!!」
「――え?」
少しでも妹を信じた自分がバカだったと、この時霊は思った。
「おっと、それは失敬失敬! んじゃあ、おすそ分け♪」
「えっ? んむっ!?」
あまりにも一瞬だった。事態を飲み込まれる前に、露は霰の唇に自身のそれを触れさせた。同時、自身の舌を油断している相手の唇の中に差し込み、内部に霊の唾液を送り込んだ。
「はいっ、パ~ス! これで万事解け――ツッ!?」
「お前はホンマに何しくさっとんねんっ!! ここにはお前みたいな変態ばっかと違うんやぞ!? まだ純粋で無垢な霖と雪がおるんや! それやのに、お前がそんなふしだらなもん見せたら、腐ってしまうやろがボケっ!!」
露の変態行動があまりにも度が過ぎていたので、霞は倍の威力で手刀をかましてツッコんだ。
「痛い痛い、やめて霞お姉ちゃん! 痛いってば! あっ、でもいいかも……? あっ、やっぱ痛いっ!!」
それに対し、露は一瞬暴力の停止を訴えたが、少し何かの扉を開きかけた。しかし、手刀からこめかみグリグリへと攻撃パターンを変えられた瞬間、やはり痛がり始めた。
と、そこへ瑠璃が戻って来た。
「ふぅ、スッキリしたぁ~。危なかったよ、後少し遅れてたらしょんべん漏れちゃってたもん」
「ちょっ、お姉さま! 自分の立場を弁えて喋ってよ! そんな下品な言葉、ダメ!」
双子の姉が登場早々にお姫様らしからぬ下品な言葉を発したので、双子の妹である麗魅は、顔を真っ赤にして言い直しを要求した。すると、困り果てたような顔をして瑠璃が口を開いた。
「じゃあ……おしっこ?」
「うっ、やめて! やっぱもう言わないでっ!! お姉さまの妹というだけじゃなく、双子っていうのが余計に恥ずかしくなるっ!!」
ただでさえ、こんなポワポワしてて能天気なのが姉なのに、その上双子というから最悪だった。双子ということは、一緒に産まれて一緒に育ったということなのだから。どこでどう道を踏み間違えればこうなってしまうのか、双子の妹である麗魅としては不可解でならなかった。
「瑠璃、麗魅が可哀想だからその辺にしておいてあげて? さっ、霖と零が晩御飯作ってくれたみたいだし、早く食べましょう? ほら、そこの変態二人もいつまでも唾液なんかで興奮してないで、座りなさい!」
いつの間にかこの場を仕切り出すルナー。だが、鏡界の支配者であることが必然的にそうさせるのか、気づけば瑠璃と麗魅や護衛役も大人しく従っていた。一応、この中で最年長なのは水連寺一族次女の霞なのだが。
こうして、なんとか丸テーブルと普通の長方形のテーブルを利用して料理を置き、少女達だけの晩御飯が開始された。それが始まる頃には、時刻は午後十一時を回っていた。
――ふぅ、これを食べたら……さっさと風呂に入って、それから布団に入って寝て明日に備えましょう。
心の中でそう計画立てると、ルナーはご飯を口の中に放った。
時刻は午後十一時半……。
「お姉さま、あいつ……どうしてると思う?」
「ん~? 響史のこと?」
「え、ええそうよ。結局家に帰って来なかったじゃない? 家の主がいなくて居候という立場の私達だけって、正直どうなのかしら?」
瑠璃と麗魅は、仲睦まじく一緒にお風呂に入っていた。浴槽に肩まで浸かり疲れを取っている。
互いに似たような顔立ちのため、客観的な立場で見たとしたら不思議な感覚を覚えるかもしれない。そして、普段はそう言った理由から髪型を変えることで判断をつけているのだが、現在は髪の毛を下しているため、見分けがつかない状態だった。
別段、髪型で見分けずともある体の一部分を見れば差は明らかなので必要ないのだが、後ろから見ると背丈は変わらぬために分かりにくい。
以上の事から、先程言った通り瑠璃はツインテール、麗魅は髪の毛を結ばないという方法を取っているということだ。
「まぁ、いーんじゃない? 響史は優しいから大丈夫だよ、きっと」
「そうじゃないわ……私が言いたいのは家のことじゃない。あいつ自身のことよ」
「響史がどうして家に帰って来ないのか、ってこと?」
小首を傾げて質問の内容の正誤を確認する瑠璃。その質問に、コクリと麗魅は頷いた。
「そう、あいつはあの日雨に打たれてた。もしかしたら風邪を引いたのかもしれない……だとしたら、保健室で寝ているのかもと思って行ってみたけど、美川先生は見ていないって言ってた。つまり、保健室には行ってないってこと。で、あの時金髪の女性と赤に近い黒髪の女性が響史をどこかに連れて行く姿を見たって目撃者が言ってたじゃない? もしかすると、あの二人がいる所にいるのかもって……そう考えてたんだけど」
麗魅の言葉に、瑠璃は完全にきょとんとして目を丸くしていた。それに気づいた麗魅が、少し警戒して訊く。
「な、何……?」
「い、いや……ビックリしたよ。麗魅って、響史の事悪く言ってる割には結構気にかけてるんだな~って」
「なっ!? ち、違うわよ! そんなんじゃないんだからっ! ほ、ホントよ!? た、ただ私は、あいつには借りがあるからってだけで……」
頬を染めてそっぽを向きゴニョりだす麗魅に、瑠璃は面白おかしそうにクスッと笑った。
「な、何で笑うのよ!」
「ううん、何でもない。麗魅、顔赤いよ?」
笑顔で首を横に振ると、瑠璃は急に小悪魔っぽい笑みを浮かべ、口元に手を添え妹にそう告げる。
「お、お風呂のせいよっ!! もういいっ、あがる!」
「あっ、わ、私も――」
「ちょっ、急に立ち上がったら――きゃっ!?」
「ふぇっ!?」
その場に立ちあがった麗魅に合わせるように立ち上がった瑠璃。それのせいで、足を絡め取られた麗魅は体勢を崩し、半ば倒れ掛かるように瑠璃にしなだれかかった。
そして――。
むにゅぅん。
「ひゃっ!?」
「なっ――」
思わず双子の姉の豊満な胸を鷲掴みにしてしまっていた。同時、激しい苛立ちが起こる。自分が持っていない物を持っているという嫉妬と、劣等感。それは、自身の胸元を見れば一目瞭然だった。
「れ、麗魅……どうかした? あ、あの、出来れば放してほしいんだけど……」
「……で」
「え?」
上手く聞き取れなかったため、瑠璃は疑問符を浮かべて訊きかえす。
「何で双子なのにこんなに違うのよっ!」
「な、何が?」
いまいち理解できていない様子の瑠璃に、歯噛みして麗魅は言った。
「ねぇ、お姉さま。私達って双子よね? 一緒に産まれて、遊んで、食べて、寝て、育ってきたよね? なのに、なのに何で……こんなに違うのよ!」
そう言って鷲掴みにしていた胸を強く握った。
「あっ、んっ! ちょっと、どーしちゃったの麗魅?」
「お姉さまには分からないわよっ! 人の気も知らないで~っ!! うわぁあああああんっ!!!」
双子の姉に向かって捨て台詞を吐くと、麗魅はそのまま泣き喚いて浴室から飛び出していった。
「あっ……! う~ん……こんなに、違う? もしかして……これのことかな?」
そう言って瑠璃は、疑問符を頭上に浮かべながら自分の豊満な胸を下からよいしょっと持ち上げた。
「う~ん、これはあげたくてもあげられないからな~……」
少し途方に暮れながら、瑠璃は放心して再び肩まで浴槽に浸かるのだった……。
七月七日の午後零時半。
朝陽は天高く昇り、燦々と陽の光を地上へと注いでいる。七月にもなると暑さは尋常じゃないもので、ジリジリとアスファルトを熱し、モワモワと熱気が漂う。それは、その上を歩く通行人にも伝わり、酷い汗を浮かび上がらせていた。
道行く人々が片手にハンカチやタオルを持ち、吹き出る汗を拭う。
麦わら帽子を被った小さな子供達は、虫取り網を持って路地を走り去り、二十代風の女性は日傘を差して片手には棒状のアイスを持って舐めている。
電柱には蝉がとまり、せわしなくみんみんと鳴いている。その喧しい鳴き声までもが、道行く人々を苛立たせて余計に汗を拭き出させている気がする。
「はぁ、暑い……。何でこうも七月っていうのは暑いのかな~。六月でも結構暑かったけど、これは尋常じゃないわ。やっぱ帰りがけにアイス買ってて正解だった……。ったく、じゃんけんで負けたとはいえ、どうして私が見舞いの花を買いにいかなきゃいけないワケ? 普通、あの日の再現なんだから唯奏おばさんが買いに行くべきでしょ」
などと愚痴をこぼしながら、アイスを舐めている少女。
袖のないノースリーブ状の服に短パンを穿いて、頭には帽子を被ったその少女は、アイスを持っている手とは逆の方で買い物袋を提げていた。その袋からはいろんな種類の花がひょっこり顔を出している。
「……あっちぃ~。ったく、響史のやつ……起きたらゼッタイ後悔させてやるんだから!」
青に近い黒髪をポニーテールに結び、後ろの帽子の隙間から馬の尻尾の様なふさふさの房を垂らした少女は、明らかに不機嫌そうにある場所を目指していた。
「やっば、もう十二時半じゃん! 急がないと、私の分のごはん取られるかもしんない!」
少女の親戚には少しばかり食い意地の張った従姉がいるため、その事を恐れた彼女は急ぎ足で目的地へと向かった。
「たっ、ただいまっ!! はぁ、はぁ……」
「ど、どうしたんですの燈? そんなに息を荒げて入ってきて……ここは病院ですのよ? そのこと、分かっていまして?」
お嬢様口調の少女の声に、息を荒げながら少女――燈は言った。
「あ、あんたが私のお昼まで食べるかもしんないと思ったから、急いで戻って来たんでしょ!? はぁ、はぁ……それで、ちゃんと私の分あるんでしょうね?」
膝に手をつき、肩で息をする燈はそう目の前の少女に訊いた。
巻き髪に肩甲骨辺りまで伸ばした金色の髪。そして、やや釣り目のその少女は片手を腰に添え、もう片方の手で自身の髪の毛をなびかせてふんぞり返り言った。
「当たり前ですわ! 私はあなたと違って大食いではありませんの! あなたの分くらい、残してありましてよ?」
「ふぅん……。いつもなら私の分まで食べちゃうくせに。さすがに公の場だと気が引けるってワケ?」
そう言って挑発的な視線を送る燈に、巻き髪少女が憤慨する。
「な、なんですってぇ!? わ、私が大食いだとでもおっしゃりたいんですの!? 私は気品あふれる身ゆえ、常日頃から食事の量には気を遣っていますのよ? どこかのガサツな方と違って……」
「んなっ!? そ、それってまさか……私のコト言ってるんじゃないでしょうね!?」
「あら? 私は誰もあなたとは言っていませんわよ? もしかして、ご自分でも御理解なさっているんですの? だとしたら、良い事ですわ。何事も自覚は大事ですもの……オホホホホ!」
「きぃ~っ! 姫歌、ちょっと顔貸しな! 引っかき回してやるっ!!」
高らかに笑う少女――姫歌にそう告げる燈は、人差し指を彼女に向けた。
「あら、お猿さんの真似事かしら? お生憎様、私は類人猿とは関わりを持ちたくありませんの♪」
完全なる作り笑顔でそう軽く拒絶を示す姫歌に、コケにされた燈はますますヒートアップした。そのせいで、周囲にいた院内の患者やナースが観衆になり、やがてはどこからか騒ぎを聞きつけた医師がやってきて、二人の熱はようやく冷めた。
「本当に申し訳ないのぅ……」
「いいえ、以後気を付けてください?」
そう言うと、医師は軽く会釈をして病室から出て行った。
「まったく、あなた達二人は何をやっているの? 病院では静かにしていないとダメでしょう?」
柔らかい笑みを浮かべ、人差し指を目の前の二人――燈と姫歌に向ける、赤に近い黒髪を背中辺りまで伸ばした少女――茜。
優しく注意をされている燈と姫歌は、少し不機嫌そうな顔をしながら互いに睨み合っている。すると、それに気づいた茜がズイッと正座している二人に顔を近づけた。
「まだ懲りていないのかしら~?」
笑みを浮かべつつも明らかに顔に影を落としている茜に何を感じたのか、燈と姫歌はゾッと悪寒を感じて顔面蒼白となり手と首を激しく振った。
「ま、まっさか~! じゅうぶん懲りたって~!」
「そ、そうですわ! 私は別に騒ぎ立てるつもりはありませんでしたのよ!? ただ、燈がいきなり私に向かってお昼を食べるかもしれないだなんて、根も葉もない事を言い出すからでして――ひ、ひだいひだいっ!? ひだいですわあかにぇひゃんっ!!」
姫歌がほっぺたをつねられ目尻に涙を浮かべて降参の声をあげる。しかし、茜はずっと笑みを絶やさずに姫歌の頬をつねり続けた。
そして、ようやく放す。
「わ、私の頬が……」
「これに懲りたら、もう二度と院内で騒ぎ立てるのはお止めなさいね?」
頬に片手を当て優しく告げる茜に畏怖し、燈と姫歌はコクコクと何度も頷いた。
「いやはや、やはり茜には姫歌も燈も頭があがらんのぅ」
片眼鏡をした低身長の老人――豪佑が、顎に蓄えた髭を撫でながら言う。
「あら、お祖父さま……そんなに褒めても何もあげませんよ?」
「ほほほ……、まぁそれはともかく燈も戻って来たことじゃし、お昼にするとしようかのぅ」
そう言って豪佑は室内に置いてあった丸椅子に座る。片手で突いていた杖を壁に立てかけ、一息をつく。
「はい、お義父さんお茶です」
そこへ、一人の女性がお茶を片手に歩み寄って来た。ふわふわの髪の毛を肩まで伸ばし、それをシュシュで結って片方の肩から垂らしている栗毛髪の女性は、柔和な笑みで豪佑にお茶を差し出す。
「おぉ、すまんのぅ唯奏ちゃん。全く、主の様な可愛い子に響祐の様な変態は似合わんかろうて」
「んなっ、おい親父!」
「うふっ、そんな事ないですよ。毎日、楽しく暮らしてます」
夫の父親の言葉に、口元に手を運んで小さく笑うと再び笑みを浮かべる女性。
「おい、唯奏。親父にそんな世話焼かなくていいって! それよりも、俺の分の飲み物は?」
女性――唯奏の夫である響祐が少し面白くないという風に言い、その姿にくすっと笑った唯奏は、子供の様に拗ねている響祐にある物を差し出した。
というわけで、前半は魔界の少女達の絡み(いろんな意味で)
後半は親族の会話とか準備です。にしても、相も変わらず露さんが暴走しまくりですね。
しかも、男がいないので全員女という。まあ、雫が来たとしても霖と雪を見て暴走でしょうが。
あれ、やっぱ魔界のやつらにまともなのがいない?
で、瑠璃と麗魅はお風呂で会話後、ちょっとした絡み。麗魅がすごく可哀想な感じに。
そして、燈は完全にパシリみたいになってますね。
てなわけで、次の三部めで五十三話の準備は終わりです。




