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魔界の少女  作者: YossiDragon
第四章:七月 現在『欠けた一部と空白の四年間の記憶』編
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第五十二話「関係者の賭け」・1

 ピッ、ピッ、ピッ……。

 純白の空間。殺風景でいて、それでいて趣のあるようなこの空間に一人の少年が寝ていた。LEDライトのに照明に照らされ光り輝く銀髪、少し具合が悪そうに青白い肌。その口元には今、透明のマスクが装着されていて、そこに取り付けられたチューブが機材に取り付けられている。

 少年――神童響史は現在大変危険な状態にあった。

 現在、七月六日午後六時七分。

 太陽は沈み、欠けた月が太陽の光によって光り輝き夜の街を淡く照らし出す時間帯に、響史は病院の集中治療室にて意識不明の状態にあった。


「はぁ……はぁ……」


 少し息苦しそうにしながら呼吸を続ける響史だが、その吐息は少々乱れていた。それをガラス越しに見る二人の人物。

 右にいる人物は老人で、片眼鏡をしており杖をついている。しかも、その身長は隣にいる人物よりもすごく低く、ようやく頭がガラスに届くというくらいだった。

 左にいる人物は女性で、金髪を腰辺りまで伸ばし前髪を数本のピンで留めていた。

 二人共凄く深刻そうな表情で目の前で()せっている響史を見つめていた。

 右方、響史の祖父――神童豪佑。

 左方、響史の実姉――神童唯。

 この二人は体育祭後、意識不明になった響史を見守るためにずっとこの場にいた。かれこれ、二時間は経過している。

 先刻、ある理由から腰を痛めて先に現在いる病院へ来た豪佑も、響史の一大事に即座に駆け付けていた。痛みもすっかり吹っ飛んでしまったらしい。

 唯は、響史が倒れるまでの一部始終を見ていた数少ない目撃者の一人で、何よりも、大切な弟が間近で倒れたことから来るショックが一番大きかった。

 だが、嘆いている訳にもいかないと、この場にやってきていた。


従姉(ねえ)さん、お祖父(じい)さまもそろそろベンチに座りませんか? 心配なのは分かりますが、お二人の体が持ちませんよ?」


 そう言ってある人物が声をかけてくる。二時間もその場から動かず、まるで地面に根っこを張っているかのような二人を心配して来たのだ。

 赤に近い黒髪を背中辺りまで伸ばし、目元に黒子のある少し大人びた雰囲気をした少女。

 彼女の名前は東條茜。響史の従姉で、響史と同じ光影学園に通う高等部三年生だ。

 茜もまた、唯と同様響史の意識不明に至るまでの一部始終を見ていた目撃者の一人である。


「わしらの事は気にせんでいい。響史がこんな目に遭っておるのじゃ。呑気に腰が痛いなどとは言っておれんわい」


「で、ですが……」


「よいと申しておる……それよりも茜、姫歌と燈と奈緒はどうした?」


「はい、執事長の菅野さんと秘書の弦鐘さんが面倒を見ています。どうやら、奈緒がなかなか泣き止まないらしくて……」


「分かっておる、ここまで聞こえてくるからのぅ……。はぁ、全く……よりにもよってこんな時に。せっかく後もう少しじゃったというのに……」


 豪佑の言葉に茜も黙り込むしかなかった。すると、唯が声をあげた。


「お爺ちゃん、私……」


「唯、お主が自分を責めてどうする。響史もそんなことは望んでおらん……それはお主自身が一番分かっておるのではないか?」


 狙ってではないのだが、偶然にも自分の方が孫の唯よりも背が低いため、俯いている彼女の素顔が嫌でもはっきりと分かってしまう。

 唯は――泣いていた。涙をポタポタと零し、眼を充血させていた。いつもはちゃんと梳いている髪の毛も、どうやら自分でボサボサにかき乱したらしくいつもの彼女らしくなかった。


「……ここはお主にはあまりにも毒じゃ。唯、響祐と唯奏ちゃんを呼んで来とくれ」


「でも――」


「早く行くんじゃッ!!」


 祖父にしては珍しく声を荒げたので、唯は小動物のようにビクッと体を震わせ、同時に驚きによって涙を止めた。


「……すまん、茜……連れて行っとくれ」


「分かりました。さぁ、従姉さん」


 そう言って茜は唯の肩に手を置き招くように一緒に歩いて行った。


「……これも全てはあやつのせい。何の因果なのかのぅ、これも宿命(さだめ)というやつか……。弾姫(はじき)、お主はこれについてどう思うとるんじゃろうなぁ……。まぁ、今となっては訊くことも出来ぬか……」


 豪佑は暗がりの天井を眺め、まるで悟りを開いたかのような哀しそうな目つきをして独りごちった。




「……もしもし、お父さん?」


〈え? もしもし詐欺!? すまんが、父さんそんな金は持っていなくてな~〉


「……」


〈――あれ? もしも~し……おかしいな、反応がない〉


「……ぐすっ、もう……こんな時までふざけないでよっ! 響史が大変な事になってるのにっ! どうしてこんな冗談してられるの!?」


〈何ッ!? 響史に何かあったのか! おいッ、何があったんだ唯ッ!!〉


「……四年前のアレが」


〈まさか、戻ったのか!?〉


「ううん……その逆」


〈じゃあ、失敗したのか!?〉


「……分からない、起きてもらわないことには」


〈寝たままだということか!? だが、それはあの時と同じ……分かった、すぐに戻る! 母さんと一緒にすぐに戻るからなッ!!〉


 ブツッ! ツーツーッ!


「……叔父さま、どうでした?」


「飛んでくるって」


「あら、いつの間に羽が生えたんでしょうね」


「冗談言ってるの……? あまりふざけないで。私今、虫の居所悪いから……身内でも当たり散らすかもしれない」


 後ろで冗談めいた言葉を口にしていた茜が癪に障ったのか、唯はまるで獰猛な獣のような鋭い目つきで茜を睨み言った。


「そ、それは遠慮したいですね」


 そう言って茜は黙りこくった。茜としては少しでも気を紛らわせてあげようという善意からだったのだが、唯にはそれを悪意と受け取られてしまったようだ。

 唯は茜の横を通り過ぎると、そのまま無言で何処かへ行こうとした。


「……どこに行くんですか?」


「外の空気吸ってくる」


 茜に呼び止められてその場に立ち止まった唯は、顔を向けることなく一言そう告げると、その場から去った。


「はぁ……響ちゃん、あなたは随分従姉さんに可愛がられていたようですね。まぁ、それは私も同じ……ですか。こうやって怒っていないふりをするのもだんだん疲れてきましたし、限界も近い。早く目覚めてもらわないと困ります。目覚めたら……たっぷり可愛がってあげますね、いろんな意味で♪ うふふふふ……」


 何やら怪しい事を目論む茜は、踵を返すと「奈緒を泣き止ませにでも行こうかしら」と言って従姉妹達のいる待合室へと向かった。




「……くっ、急がなければ!」


「どうかしたの、あなた?」


「唯奏、大変だ。響史が倒れたらしい! すぐに光影都市に向かうぞッ!!」


「響史が!? でも、あの日までまだ時間があるのよ?」


「どうやら何か原因があるらしい。アレに関わる何かに近い物でも感じたんだろう。とにかく、急いで戻るッ!!」


「ええ!」


 響史の両親――響祐と唯奏は、荷物をホテルに預けてヘリコプターで光影都市の大型病院へと向かった。




「いい加減泣き止んでくださいな。もうこれ以上は限界ですわ!」


「ほら奈緒~、お前の大好きなぬいぐるみだぞ~?」


「うぇえ~ん、そんなのいらない~! うぇ、ぐすっ! お兄たぁぁああんっ!!」


「うっ、くっそ! おい姫歌、あんたが響史の事を教えるからこうなったんだかんね!?」


「な、何ですってぇ~!? あなたこそ、響史の事を聞いた瞬間一番取り乱していたじゃありませんの!!」


「バッ――あ、あれは!」


「うわぁあああぁんっ!!!」


「姫歌様も燈様も落ち着いてください。今は奈緒様をあやすことが第一かと」


 そう言って執事長の菅野鍵之助が奈緒をおんぶしたり抱っこしたりしてあやしているが、いっこうに奈緒は泣き止む素振りも見せない。


「はぁ、どうしたものか……あっ! もしかすると、奈緒様はお乳をご所望なのかもしれません! 弦鐘、あなたが奈緒様にお乳を――」


「そ、そうですね! ――って、んなワケないでしょ!! 奈緒様はもう十歳ですよ? もうミルクの時代は卒業してるんです! いつまで乳児の話してるんですか!!」


「そ、そうでした! 私としたことが、つい焦っているあまり――」


 たかいたかいをしていた奈緒をおろし、それから胸ポケットにしまってあった布を取り出し汗を拭う執事長、管野。


「もしかすると、母性を求めているのかも……奈緒様はあまりお母様とふれあいをしていませんでしたから」


 人差し指を一本立てた弦鐘は、その場にペタンと座り込んで未だに泣き続けている奈緒を抱き上げると、よしよしとやはり赤ん坊をあやすように背中を優しく叩いてあげた。


「はぁ、結局管野も弦鐘も同じじゃありませんの」


 奈緒に対する二人の行う行動がどちらも赤ん坊の扱いと大差ないので、それを見ていた姫歌は嘆息して額に手を添え、呆れ返った。

 と、そこへカツカツと何者かの足音が聞こえてきた。


「やぁやぁ諸君、おひさー♪ 元気してたかなぁ? りっつんだよ~ん!」


 突然頭のネジが外れたような口調で声を発した人物に、その場にいた全員が振り返った。そして、一番その人物に身近な奈緒がいの一番に口を開いた。


「――ママっ!」


 そう言って弦鐘箏鈴の抱っこを拒絶してその場に着地すると、テテテと無邪気にママと呼ばれる人物の元へ一直線に駆けて行った。それを相手も受け止めるように両手を広げて待ち構える。

 そして――。


「はぁ~い、ナイスキャ~ッチ♪ どったの、奈緒ぉ? ずいぶん泣いてたねぇ~。もしかしてぇ、りっつんが恋しかったのかなぁ?」


「ぐすっ、だってぇ……お兄たんが、お兄たんがぁ~……」


 見た目は二十代、中身は小学生とも呼べるような彼女にそう訊かれ、奈緒は再びぐずりだす。


「おとと、ここは病院だからねぇ~。泣くのはナッシンだよぉ~?」


 そう言うと、ショルダーバッグから何かを取り出した。


「ほぉ~ら、ガラガラだよ~ん。ガラガラ~♪」


 やはり彼女もまた、銀之助や箏鈴と同じ行動をするのだった。全員、奈緒を赤ん坊と同様に扱っている。


『お、お帰りなさいませ! ……律奈お嬢様!』


 突然現れた謎の人物――りっつんに一瞬放心状態に陥っていたが、ようやく正気を取り戻したらしく、唐突に声を同時に発する銀之助と箏鈴。

 それに対し、りっつん――律奈は気まずそうな顔つきで言った。


「あぁ~いいからいいから、そーゆー堅苦しいのはさぁ~? りっつんとしては、もっとこう……ふわっとした感じで接してもらいたいワケなんだよねぇ~、分かるぅ?」


 彼女――『神童(しんどう) 律奈(りつな)』は、紛れもないお嬢様である。即ち、それが何を意味するか――響史の叔母だということだ。ただし、律奈はまだ二十六歳で、他の兄妹とはすごく年が離れていた。五人兄弟の最年長である『神童(しんどう) 詩乃(うたの)』が今の律奈くらいの年齢の時、律奈は産まれた。そのため、他の四人とはすごく年が離れているのだ。だが、五人の中で子供を産むのは彼女が一番早かった。

 そうして、現在愛しの愛娘――奈緒がいるのである。

 つまり、奈緒は律奈の娘ということだ。


「叔母様……どうしてここにいらっしゃるんですの?」


「やだなぁ~姫っち、おばさまだなんて……りっつんそんなに老けてないよぉ~? ほらほら、りっつんって呼んでみ?」


「い、いえ……さすがに目上の相手をそんな風にお呼びする訳には」


 幼少期から何故かお嬢様風な育てられ方をしてきた姫歌にとって、律奈の様な能天気でふわふわ系との対話は、燈よりも苦手だった。なので、彼女は昔から律奈を天敵としていた。その天敵が緊急事態とも呼べるこの状況でやってきたのだ。最悪である。


「てか、どうして叔母さんがいんの?」


 燈がベンチに座って足を組み、ふんぞり返って訊いた。


「だ~か~ら~、おばさんはやめてよぉ~。なんでみんなそう呼ぶのぉ~? いじめ? いじめなのかなぁ~。だとしたら、りっつん泣いちゃうぞぉ? ぐすん」


 目元に手を運び、泣いてるフリをする律奈。そんな彼女の姿には、年上としての威厳は微塵も感じられず、明らかに奈緒と大差ない精神年齢だった。


「あぁ、もういいから、で……結局どうして来たの?」


「あぁ~んも~ぅ……つれないなぁ、あかりんは。そんなの決まってるじゃな~い! 響ちゃんが大、大、大ピ~ンチ――だってゆ~から来たのにぃ~」


「え? そんなこと言ったっけ? てか、あかりんやめぃっ!」


 律奈の言う呼ばれたから来たというセリフを聞いて、燈はあだ名に対して文句を言いつつ姫歌を一瞥した。


「この方を呼ぶだなんて愚かしいことをしでかすのは、あの人しかいませんわね」


「だね……ったく、何でよりにもよってこの人なんだろ」


「あらあら、それはただ単についでですよ……。丁度通りがかったので、お呼びしたんです。奈緒も泣いていましたし、彼女を泣き止ますには、やはり母親が一番かと思ったので……」


 そう言って燈や姫歌たちの前に姿を現したのは、茜だった。お淑やかな雰囲気を醸し出しながら、悠然と振る舞い笑みを浮かべている茜の姿を見て、燈と姫歌は言った。


「ちょっと茜、ちゃんとこうなること見越してこの人呼んだの?」


「そうですわ! 私達がこの方の事をどう思っているかはご存じですわよね?」


「ええ、もちろん知っていますよ? ですが、関係者は全て……この場に集める必要があると判断しましたので」


「関係者……全て?」


 燈が疑問混じりにそう口にすると、病院の外へと繋がる扉が勢いよく開け放たれ何者かが入ってきた。


「響史、響史は何処だッ!!」


 そう、響史の父――『神童(しんどう) 響祐(きょうすけ)』である。


「あっ、叔父さん! 響史が!」


「響史は何処だ!?」


「それなら、集中治療室にいますわ。お祖父様もそこに……」


「分かっ――」


「お・に・い・たぁ~ん♪ あ~ん、会いたかったぁ、好き好き大好きぃ~! えへへ~……まさかこんなトコで会えるだなんて思ってもみなかったよぉ~。りっつん、ちょ~ツイてる♪」


「んなッ、律奈!? 何故お前がここに――」


「ねぇ~りっつんのコト好き~?」


「い、今はそれどころじゃない! というか、俺にはもう既に妻がいる!!」


 そう言って突然抱き着いてきた妹律奈を引き剥がす響祐。が、律奈はまるで強力なネオジム磁石の様に剥がれなかった。性別の違いがある上に歳の差も結構あるはずだが、それでも小柄な体躯をした律奈の腕力に敵わない響祐。


「妻ぁ~? そんなの関係ないよ~ん♪ ほらほらぁ、なんてゆーの? 妊婦多大星?」


「そんな星がどこにあるんだ。もしかしなくてもだが、一夫多妻制と言いたいのか?」


「ピンポンピンポ~ン♪ さっすがお兄たん、やっぱりっつんとお兄たんはカナちゃんの鮮血で染め上げた血みどろの赤い糸で繫がってるんだねぇ~♪」


「おい、勝手に人の妻を殺すな。あと、繋がっているのは血縁だけだ」


「正解したお兄たんにはぁ~、もれなくプレゼントということでりっつんを差し上げま~す! ねぇ~、もらってぇ~?」


 やけにハイテンションな調子で、更に強く響祐に密着する律奈。完全に響祐の言葉などガン無視である。

というわけで、新年を迎えたので新章に突入しました。五十二話からは、みなさんお待ちかね?の夏休み編をやります。その中で、事件の話をします。

また、今回五十二話冒頭から響史は意識不明の重体です。ちなみに、豪佑が腰を痛めて病院へ行きましたが、その病院もここです。そして、今回またもや新キャラの登場です。響史の両親もたくさん喋るのはここでしょうね。

今回は四部構成でお送りします。

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