第五十一話「重なる敗北とそれぞれの追憶」・4
地の文が多い……だと!?
「……罰、ですかぁ。それなら私に言い考えがありますよ、委員長♪」
そう言って沈黙とか湿っぽい話題があまり得意ではない北斗七星の片割れ、七星乙女が手をあげる。
「何かしら、七星さん?」
「うふふ、北斗七星で十幹部のみなさんとボスに七日間償いという名のお・し・お・き――をするというのはどうでしょう?」
「おおっ、それいいな! おれ、それに賛成っ!!」
同じく北斗七星の片割れである丑凱北斗が目をキラキラと輝かせて言う。
「う~ん、そうね。まぁ、罰を与えてほしいと言っていたのだし、いいでしょう」
「え――い、いや……さすがに北斗七星の二人からの罰は――」
「どんな罰も厭わないんじゃ、なかったですかぁ? うっふふふふふ♪」
顔は笑っているが、明らかに目が笑っていない。不気味に目元に影を作り、こちらへにじり寄ってくる乙女は、その手に架空のバラムチを持っているように見えた。衣装も、制服のはずがいつの間にかボンテージを着ているように変態軍団の視界を錯覚させる。
「さぁ、償いの七日間……まさに七つの贖罪、ですねぇ~」
「へへっ、覚悟しろよてめぇら! 俺らに与えた屈辱、何千倍、何万倍にして返してやるぜっ!!」
『ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!』
こうして変態軍団アスメフコーフェッグは、勝利の末に敗北し、七日間の償いという名のお仕置きを、北斗七星の二人から貰い受けることが決定づけられた。
また、それだけでは足りないという乙女からの更なる提案で、彼らには学園女子生徒に対する謝罪の場を設け、そこで許してもらうまでひたすら土下座させ、更に一学期終了まで、女子に対して奴隷――もとい、召使いのような役割を担う事を、半ば強制的に約束させたのだった。
場所は度々変わって正門前――。
「――待ってくれ、姉ちゃんッ!!」
その声に反応して姉――神童唯が振り返った。その隣には、従姉の東條茜もいる。
「はぁ、はぁ……うっ!」
思わずその場に倒れてしまいそうになる響史だが、何とか持ち直す。しかし、そのボロボロの姿を見て、唯と茜は目を見開き動揺し、狼狽した。
「ちょ、響史あんた何して――」
「響ちゃん、あなた……どこか体調でも悪いの?」
明らかに心配しているが、その表情はとても酷いものだった。まるで、今にも自分が死んでしまうのではないかと恐れている、そんな表情だった。
「はぁ、はぁ……聞かせてくれ、なんで……何で俺が中学校にあがった途端、家を出てったん! なんで、高校を卒業してすぐ、俺と連絡を絶ったんだよ!! 迷惑、だったから? それとも、俺が弱いから? はぁ……俺がきら……い、だか――」
刹那、響史はガクンと膝を折り前のめりに倒れ――はしなかった。ふらつき、もう限界間近という彼の倒れる寸前に、反射的に体が動いた。それにより、響史は倒れることはなかった。
そんなボロボロの体を受け止めた姉の唯は、眼から大粒の涙を流しながら弟の頭をかき撫で、抱擁し叫んだ。
「バカっ! なんで俺――私が、あんたを――響ちゃんを嫌いにならないといけないのよっ! 迷惑だなんて思ってないっ! 弱くなんてないっ! 響ちゃんは、私なんかよりずっと強いよ! だって、今もこうして後遺症と戦ってるんだから! 私が、私がいけないのよ! 私が、私が響ちゃんにあんなことを言わなければ……こんな事にならずに済んだのに――何であの時私を庇ったの!? 私が悪いのにっ! うぅっ……ごめん、ごめんね……響ちゃん」
一度声に出したら、もう止まらなかった。いや、止められなかった。胸につっかえていた何かが外れ、とめどなく溢れた想いが全て口から出て行く。でも、辛くて痛くて、口から出ると同時に胸が焼けるように熱くて悲しくて、涙が止まらなかった。しかも、想いを……今までため込んできた全てを吐き出すことで、その辛い気持ちは少しだけ、本当に少しだけ緩和することが出来た。
でも、やはりまだ駄目だ。それに、今はそれどころじゃない。
「従姉さん、申し訳ないのですが……急いで響ちゃんを病院へ連れて行かなければ……それと、ここでは注目の的ですよ?」
「あ、あぁ……いやぁあああああっ!!」
周囲の、光影学園の生徒が何事かと足を止めてこちらを見てくる。最悪だ、全て見られている。泣いている情けない姿も、今までためてきた気持ちも、肝心な弟ではなく赤の他人に知られてしまったかもしれないと思うと、堪らなくなり唯はその場に立ちあがって顔を真っ赤にしてその場から一目散に逃げ出した。
「あっ、従姉さんっ!! ちょっ、響ちゃんどうするんですか!?」
「茜が連れて来て! もう、いやぁあああああああ!!!」
唯はそのまま子供のように泣きじゃくって正門から出て行き姿を消した。その後ろ姿を見ていた茜は、内心で先程までの男勝りな口調と、つい今しがたの完全な女の子の口調のギャップに、変な気持ちを芽生えさせつつ、響史をおぶって正門を後にした。
場所は高等部一年二組の教室。
そこには雨に濡れてしまった体操服から着替え、制服姿になって自前のタオルを使って髪の毛を拭いている生徒がいた。その中に一人、先程から何やら悩みを抱えた乙女のような顔をした女子生徒――雛下琴音がいた。
彼女もまた響史の負った後遺症を知る数少ない関係者の一人である。四年前に起きた事件には、運よく巻き込まれずに済んだが、その事が彼女を少なからず苦しめていた。
あの時、自分にも何かできていたのではないか、と。
だから、後遺症を負った彼を病院で見た時には絶望感に打ちひしがれ、しばらくの間笑顔を浮かべる事が出来なくなってしまった。幼稚園時代、響史と初めて会ったあの日、彼に何気なく浮かべた自然の笑顔がかわいいと言われた、あの笑顔が浮かべられなくなった。それが何故かは、天然っ気のある琴音にもすぐ理解出来た。
喜んでくれる人が、そのことを忘れてしまったのだ。後遺症は一時的な物だと、響史の姉――唯から聞いている。ただし、それには四年を要すると言われた。だから、その間自分が彼を導いてあげないといけない、そう思った。
そこで琴音は必死に頑張って委員長の役目を担う事にした。元々皆を引っ張っていける能力に長けていた彼女には、それが容易に出来た。この委員長の仕事を担うことにしたのには理由がある。
仕事を請け負うことで響史から少し距離を置くことだった。また、それから来る口調の変化……幼稚園時代の頃から、彼と会話する時に用いていたあの喋りを封印することで、少しは響史を楽にさせてあげたかった。
なぜなら、たまに彼が呻くのだ。辛そうに、当時まだ外せていなかった包帯の上から自分の頭を押さえ、本当に辛そうな顔で。そんなの、見ていられなかった。だから、口調を変えた。そう、唯と同じなのだ。距離を少し置いたのも、彼を少し離れた所から見守り、四年という短くも長い時間を過ごす――はずだった。でも、更なる悲劇が琴音を襲った。
想い出を忘れてしまったのだ。いや、厳密的には脳内の奥深く、記憶を管理する場所の記憶の一部にプロテクトがかかり、一時的に封印されてしまったのだ。
ショックのあまり頭がおかしくなりそうだった。
自分の事を覚えていない、忘れている。楽しかった幼少時代を共に過ごしたのに、それが一人で過ごしたことになっている。そんなのない。立場上関係はないが、響史にこんな仕打ちをしたその犯人を殺してやりたかった。例え自分の手を血に染めてもいいから復讐したかった。でも、その相手は分からないし、もういないと伝えられていた。
何も出来なかった。
それからしばらくして、琴音を嬉しく思う出来事が起こった。しばらくの間封印されていた記憶が一部だけ解除されたのか、徐々に琴音の事を思い出してくれたのだ。それだけで幸福だった、幸せだった。全部じゃなくてもいいから、少しずつでいいから思い出してくれるだけで琴音は嬉しかったのだ。
中等部時代、琴音は三年間ずっと響史の面倒を見るために先生に事情を話し、同じクラスにしてもらった。本来ならこんな融通も利かないかもしれないが、この時の琴音は大分あの頃の笑顔を浮かべられるようになってきて、委員長という立場も功を奏して先生達から好印象をもらっていた。
そのおかげで三年間同じクラスという立場をもらった琴音は、同時に責任も感じた。同じクラスになったからにはしっかり響史を世話しなくては。
時折話しかけてくるクラスメイトの名前を忘れてしまう響史に、すぐさま耳打ちで名前を教えてあげたりなど、完璧なアシスト。おかげで、響史は昔に比べると減ったものの友達がゼロになることはなかった。でも、例えゼロになろうとしても、決してゼロにはならない。自分だけはいるから、一人は必ず側にいるから。
気付くと、自分はいつの間にか響史の事で頭がいっぱいで離れなくなってしまっていた。
幼稚園時代からずっといて、さらに世話ばかりしているせいで密接な関係になりすぎてしまったからかとも思ったが、そうじゃない。たまにズキリと胸を――心を痛めるこの気持ちは、もっと別の純粋な……好意、恋だった。
でも、気持ちは伝えられない。もしも伝えてまた忘れられてしまったら、今度こそ自分も壊れてしまう。だからずっと秘密にした。そして、四年経ったら伝えようとそう心に決めた。最近、また琴音の家を忘れたりしていたが、それでも平気だ。
だが、四年経とうとする今年の四月……突如響史に双子の妹が出来た。見たこともない、初めて見る顔だった。しかも、全然似ていない。面影が無い、すぐに直感で理解した。血縁関係がない。いやもしかすると、もっと関係性のない赤の他人ではないかと疑った。でも、話す内、彼女達とも仲良くなった。それからしばらくして、さらに多くの少女たちが響史の周辺に現れ始めた。全員青い髪の毛をしている彼女達は、何でも響史の従姉妹らしい。でも、幼少時代から響史と遊んでいる琴音にはすぐに理解できた。これも嘘だ。本当の従姉妹は、あの四人だ。昔、響史の家に遊びに行った時に会ったことがある。でも、もしかすると他にもいたのかもしれない。そう思うと、その疑問は少し薄れた。時折、見せる響史の笑顔、昔と同じボケに対するツッコミをかまして場を盛り上げるあの言葉……でも、あれは自分に向けてくれていたものだ。なのに、どうして自分ではなくあの子達に向けるのだろう。赤の他人……かもしれないのに。しかし、自分もそうだ。赤の他人だ。
長らく続いた疑問、でもやっぱりこれも、話す内仲良くなってしまって、いつの間にか疑問は消失していた。
「……私、嫉妬深いのかな。早く、早く四年……経ってよ。もう、辛いよ。響史くん、あの時みたいに、また私を……琴音ちゃんって、呼んでよ」
確かに一度彼は私を琴音ちゃんと呼んだ……はずだ。でも、何故か呼んでくれたはずなのに、はっきりとした記憶がない。多分、数回じゃダメなんだ。もっとたくさん、呼んでくれなきゃ、ダメなんだ。
四年前のあの日まで後もう少し。その日まで、琴音の憂鬱は続くのである。
昇降口にて、青髪の女子生徒数人と、蜜柑髪の女子生徒数人が集まっていた。
「ねぇ、響史は?」
「さぁね、急に姿くらまして……どこに行ったのよ、あいつ」
「目撃者の話によれば、何でも金髪の女性と赤に近い黒髪をした女子生徒が、響史を連れて正門から出て行くのを見たと言っていたぞ?」
「それってつまり、誘拐? きゃ~、誘拐された先で何されるのかしら響史くん♪」
「露、お前やないんやから……それはないと思うで?」
「ったく、響史が家の鍵持ってんだよな?」
「うん、お兄ちゃんが防犯上、落としたりしたら危ないから持っとくって」
「ボク達、今日はのじゅく?」
「うにゃ~、そんなことになったら猫缶食べられないにゃ」
「きゃ~、相も変わらず食い意地の張ったお姉様、可愛いですわ~♪」
「姉上、このままではまずいです」
学年は違えど、その顔立ちは全員どこか似ていて、姉妹という感じの九人と、髪型によっては顔のみだと見分けが付かなくなる二人。
瑠璃、麗魅、霄、露、霞、霙、霖、雪、霊、霰、零の十一人は、家主――響史がどこかへ行ってしまって連絡がつかないことに途方に暮れ、探す当てもないままその場に立ち尽くすのだった……。
というわけで、地の文が多かった今回。理由としては、台詞だとかさばるからという理由で一つ。
で、ブレない乙女さんの提案した罰がマジ鬼畜すぎる件。また、正門前にてようやく響史が姉に追いつくと。そして、そこで今までずっと聞きたかったことを告白、同時に倒れる。が、それを受け止めるお姉ちゃんは号泣しながら元の口調に。ギャップが激しい、キャラ濃い~。そして、茜の言葉で衆目に晒されていることに気付いて顔面真っ赤、というか発火、そしてダッシュ。そして、一番響史の身近にいた赤の他人と言えばこの人、琴音ちゃんです。一番想いが強いだけに重いし、地の文多いし、ここで今までの経緯全て晒してます。そして、秘めた思いも密かに晒してます。あざとい、あざといと琴音ちゃん。
で、最後は本作品のメインであるはずの彼女達の会話。雪の通り、今日は野宿か? まぁ、いざとなればホームレスのところに行けば。
てなわけで次回予告、体育祭編これにて終了です。はい、なんとか今年中に終わりました。昨日書きはじめて今日投稿というハードでしたが、成し遂げました。書き進めるとどんどんストーリーが膨らむこの作品はもうしばらく続きそうですね。五十一話の内容から見ても。まぁ、ネタギレしない限り続くでしょう、後は人気次第。
おっと、次回予告を……病院、行きます。野宿、しません。夏休み、始まります。
てなわけで次回、夏休みという名の過去編が――始まりますッ!!!!
更新は不明、か? 早めにはします。今年中に始めるともしかするとなんかアレだとかで、更新はやめて挿絵を更新するかも? ではお楽しみに。




