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魔界の少女  作者: YossiDragon
第三章:六月~七月 体育祭『変態軍団アスメフコーフェッグVS体育祭実行委員会』編
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第五十一話「重なる敗北とそれぞれの追憶」・3

 やはり来ない。ここまで来ると異常だ。何かあったのだろうか。そういえば、ここに来る前に姉にあったのだった。しかも、隣にはかつての変態軍団のボス――江口久熊がいて、思わず警戒態勢を取ってしまったが、彼はまるで牙を抜かれた獣の様に大人しかった。別段、取って食うという事はしないようだ。ではここに何をしにきたのだろうか。確か、姉――叶亞の話では、二人は秘密裏に付き合っていると言っていた。じゃあ、デートだろうか?

 だが、それにしては選んだ場所がおかしい。普通なら、水族館とか、映画館とか、庭園とか、そういったところに行くべきだ。

 しかし、実際は違ったのだ。そう、すべては間違った道を歩み続けていたある人物を教え諭すため。

 これにより、今の変態軍団のボス――藍川亮太郎は、間違っていた自分を正し、本来のあるべき姿を取り戻そうとしていた。




 場所は変わってとある一室。相も変わらず真っ暗なその一室には映写機があり、スクリーンに今回の成果が映って、それが自動的に次の物へ変わっていく。それを鼻の下を伸ばして眺める変態衆。

 七つの贖罪を立案した十幹部のメンバーは、各々の感想を口々に声に出し、それを部下の者達が(はや)し立てるように意見する。

 そんな場所にいる亮太郎は、以前の自分ならば同感したり自分の意見をも口にしていたことだろう。だが、先代に諭された今となっては異なる。

 しばらくは大人しくしていた亮太郎だが、それには理由がある。そう、それは今の現状を改めて見詰め直すためだ。そして、その結果彼は思い知らされた。これほどまでに変わってしまっていたのかと……そう、自覚した。教えられなければ分からなかったであろう真実。

 彼はだんだんと自分に腹が立つと同時、周囲の仲間達にも憤慨した。

 そして、それは膨らみ、耐え切れずに爆発する――。


「黙れぇぇぇぇええええええええええええええッ!!!」


『……』


 一気に静まり返る空間。残ったのは映写機から微かに聞こえてくるジィーという音のみだった。


「い、いかがいたしましたかな、ボ――」


「ぽっくん、俺は黙れって言ったんだ」


「も、申し訳ありませぬぞ」


 そう言って後ろに下がるぽっくん――土田武。一応武の方が高等部三年生で先輩なのだが、この場では亮太郎がボスのため引き下がるしかない。

 亮太郎は玉座から降りると、この部屋の電気を点けた。暗闇に慣れていた目が、一気に明るくなった視界のせいで霞み、皆が呻く。


「お前ら、自分が恥ずかしいとは思わないのかッ!!」


「ど、どうしたんです? ボス」「そうッスよ、いつものボスらしくない」


「それはお前らの方だ。お前達はおかしく思わなかったのか? 前までこんな風に部屋を真っ暗にしてお宝を鑑賞していたか?」


「そういえば……」「確かに、昔は映写機とか使ってなかったな」「いつからだっけ?」「さぁ……?」


 と、皆もだんだんと自分達が最近おかしな行動をとっていたことを自覚しだす。


「俺達は道を誤っていたんだ。間違った道を歩み続けていた。だからこそ……三大行事(ビッグイベント)の一つを終えた今こそ、引き返すべきなのではないだろうか! 分かれ道で俺達は誤った道を選び、進んでしまっていた。それを、俺は教えられた。だからこそ、俺は気づいたんだ。間違っていた、俺達が目指すべき道はこんなものではないと! 俺はまだまだ未熟だ。だからこそ、ここに誓うッ!! もう一度、やり直そうッ! どれほどの歳月がかかるかしれない! だがッ!! それでも変わるんだ!! 忘れたかお前ら、先代――江口久熊先輩に教わった事を――変態道をッ!!」


「そうだ、俺達は変態道を極めて……」「変態の覇者」「最強の称号」「変態紳士に」「なるんだ」


 口々にそう口にする変態軍団。そう、かつて教えられた江口久熊の教え――変態道を極める事。それこそが変態軍団の意味。それを成し遂げるために、女子の割合が多いこの光影学園があった。だからこそ、初代の時代からこの学園では変態が絶えることはなく、それに対抗するための女子の業も格段にあがっていた。なので、必然的に学園を卒業する時には、女子はある程度の護身術は心得てしまうのである。そして、一方の男子は、一部のみ変態紳士の称号を得ることに成功していた。


「……俺達はとんでもない過ちを犯した。今更許してはもらえないかもしれない。だからこそ、俺達は罰を受けなければならない」


「そうだ、償いを……」「本来の我らに」「あるべき姿に!」


「あらゆる少女を」「愛で」「エロい」「変態行為を」「行う」「フェチ英傑の」「軍団」


『変態軍団アスメフコーフェッグを今こそここにッ!!』


 変態軍団の十幹部が口々に呟き、それから十人が声を揃えて叫ぶ。そして、それに応えるように亮太郎が笑む。


「そうだ! アスメフコーフェッグ、万歳ッ!!」


『アスメフコーフェッグ、万歳ッ!!』


 亮太郎が玉座の上に立ち拳を高々と突き上げると、それに合わせる様に野太い声を張り上げて、軍団は一つの塊となって声を張り上げた。

 こうしてここに、本来あるべき姿を取り戻し、本来の機能を再起動しようと意気込む変態集団が立ち上がるのだった。




「フッ、どうやら亮太郎は無事に再起したようだな。それに、正しい道を見つけたようだ」


「あなたの思惑通り?」


「そうだな、少なくとも君の妹が上手く立ち回ってくれたおかげでもある」


「ふふっ、あの時話した想い出が、いい形に事を運んでくれたみたいね。これで、もうここに未練はない?」


「……いや、俺の夢はまだ叶っていない。まぁ、俺だけでなく、先代、先々代……それ以上前から受け継がれてきた皆の夢だ。それを、あいつには叶えてもらわなければならん。俺の眼に狂いはなかった、そう思いたい所だ。さて、雨も止んだことだし、そろそろお暇するか。舞台から降りた人間が、いつまでもここに長居するべきではない」


「そうね、でも……少し名残惜しいんじゃないの?」


「いいや、そうでもない。それに――」


「それに?」


「大切な宝はここにある」


「――っ!? も、もうっ! やめてよ、恥ずかしいっ!」


「まぁまぁ、そう照れるな。それに、キミも狙ってその傘を持ってきたのだろう?」


「き、気づいてたの? てっきり気付かないと思ってた……」


 そう言って叶亞は片手に握った傘を見下ろす。


「当たり前だ……この傘は、俺がキミに貸し、キミが俺に返し、そして俺があげた物……俺達を繋いでくれた物だからな。この傘があるからこそ、今の俺達があるとも言える」


「ふんっ、よくもそんな恥ずかしい言葉がべらべらと出てくるわね」


「恥ずかしい? そんな感情は少しもない。俺はただ、君と一緒にいられるだけで幸せなのだからな」


「もうっ! ほら早く行くわよっ! ……ばか」


 一年前表舞台で争っていたライバルは、互いの想いを表には見せず振る舞い、そして深めていく。

 そんな二人の頭上には、綺麗な虹の橋が架かっていた。




 ここは講堂、この場には今とある二つの勢力がいた。左方、体育祭実行委員会。右方、変態軍団アスメフコーフェッグ。ライバル関係にあるこの二つの勢力は、初代の時代から争ってきて、今もなおそれは継続している。永遠に戦いに終止符が打たれることはない。この戦いが終わっても次なる戦いが彼らを待っているのだ。

 だが、今回ばかりは訳が違った。


「せーの――」


『すいまっせんしたァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』


 全員がその場に綺麗な土下座をした。高等部も中等部も関係なく、己のプライドも何もかもをかなぐり捨てて、彼らは叶愛を始めとする体育祭実行委員会に平伏して謝った。


「え?」「どういうこと?」「私達……負けたのよね?」


 体育祭実行委員会側の生徒達は、疑問符を頭上に浮かべて困惑状態に陥った。当たり前だ、いきなりこんな広い場所に呼び出されたから何をされるのかとハラハラしていた末のこれだ。拍子抜けもいいとこである。


「顔をあげて、藍川亮太郎」


「……だが、我々はしてはいけない行いをした! 禁忌を犯し、これ以上ない罪を犯してしまったんだ!! この罪は大きいッ! 何でもいい、我々に罰を与えてくれッ!! ただ、変態軍団を解散するというのだけは勘弁してくれ! 俺は、俺は先代に使命を与えられたんだ! 来年の体育祭を、今度こそ本当の意味で成功させなければ、俺の未来はないッ!!」


 何を言っているのかは半分理解出来なかったが、もう半分はなんとなくわかった。どうやら、あの時江口久熊に何かを言われたようだ。多分、自分が姉に聞いた想い出と似たようなことなのかもしれない、そう叶愛は思った。


「……後、写真は勘弁してほしい。俺達のせめてもの結晶なんだ。俺達がこれを捨てることは変態道に反する」


「ふっ、相も変わらずの変態ね。でも……なぜかしら、そういう所があなたらしいって思うのは」


 叶愛は、不思議と嫌悪感は抱かなかった。むしろ、嬉しそうに笑みさえ浮かべている。本当の、久しぶりに目にするライバルを目にした気がした。嘗て、まだ姉がこの場にいて、あの男がこの場にいて対立していたあの頃に見た表情と、同じ顔をしている。


「……罰、そうね」


 叶愛は考えた。彼らが立案した七つの贖罪の種目……それが生み出した女子の悲鳴は多い。あまりにも罪深いが、まだギリギリ許されるかもしれない、そうも思えた。


「……みんなは、どうしたい?」


 ふと後ろにいる委員会のメンツに意見を求める叶愛。まさか自分達に意見を求められるとは思いもしなかったのか、委員会の女子生徒は困惑してキョロキョロと互いにボソボソと呟く。


「確かにこいつらは変態だし」「許せない悪だけど」「でも……なんか、あれだよね」「楽しくなかった……わけじゃなかったし」「そうだよね、一応楽しめたと言えば楽しめる部分もあったし」


 そう口々に各々が抱いた気持ちを告げる。


「そんな……俺達があんな犯罪紛いな事をしたってのに、それでも……怒らないのか? もっと詰ってくれていいんだ、思った事をそのまま吐き出してくれていい! 罵倒してくれて構わないッ!! それが本当の罰だとは思わないッ! でも、このままではあまりにもいたたまれないッ!!」


「……藍川亮太郎、あなたはこの子達の言葉が分からないの?」


「――え?」


「許すとは、言ってないわ。ただ、少なくとも罰を与えるまではない……と言ったのよ」


「そんな……罰を与える必要がない? そんなわけない、俺達は罪を償わなくてはいけないんだッ! だから、罰を……罰を与えてくれッ! でないと、俺達が――俺が耐えられねぇッ!!」


 あまりにも胸が苦しくて、亮太郎は涙が零れた。だが、女子の前で涙を流そうがそれでも構わずに彼は叫び続けた。

 そんな亮太郎を体育祭実行委員会のメンツの後ろで見ていた響史は、ふとその歩を進め、叶愛の隣に立つと言った。


「星空先輩……代わりに俺から、いいですか?」


「え? え、ええ……構わないけれど」


 思わず戸惑ってしまうが、別段それほど困るわけでもないので了承する。


「……神童、すまない。お前にも悪い事をしたって思ってる。どんなに謝っても許してはもらえねぇかもしれないが、頼む……許して欲しい。どれだけ酷い事を言われようと構わねぇ! 悪口を言われようが、罵声を浴びせられようが耐えてみせる! だから、頼むから……俺の悪友でいて――」


「亮太郎、お前は俺を利用したな……?」


「ああ、そうだ。俺はお前を利用した。女子との顔も広いお前なら、上手く立ち回ってくれる……そう思って利用した。俺は悪友であるお前を裏切ったんだ。中等部の頃、あんなに俺と仲良くしてくれたってのに、それを俺は壊した。悪い奴だよな、俺」


「なぁ、亮太郎……お前らは変わる――そう言ったよな?」


「ああ、過ちに気付いたんだ。もう同じ轍は踏まない。ちゃんと、正しい道を歩んでみせる! だが、もしかしたら……また誤った道を進みだすかもしれない、だから……その時は、お前が――神童が俺を止めてくれッ!」


「フッ……そうだな。お前は独りじゃ何もできない、昔からそうだった。だからこそ、俺はそんなお前を放っておけなくて手を貸した。だがな――もうそんな悪友関係は断ち切りたいんだ」


「え――」


 あまりにものショックに亮太郎は耳を疑った。信じたくない、嘘だと思いたかった。


「嘘だよな?」


「いや、本気だ。俺は少し心が寛大だったからお前の無茶ぶりにも耐えてた。でもさ、さすがにもう限界なんだよ。こういうの……」


「そんな……た、頼む! もう一回、もう一回だけでいいから俺にチャンスを――」


「甘えるなッ!!」


「な……待ってくれ、罰なら受けるだから――」


「……お前はいつもそうやって他人に頼らないといけないのか? お前は変態軍団のボスだろ? 仲間を引っ張ってかなきゃいけないんだろ? だったら、だったらもっと強くなんねぇと駄目だろ!」


「ダメなんだよ、俺は……一人じゃなんもできねぇ、神童の言うとおりのダメダメくんなんだよ」


「……ああ、そんなこと分かってる。だから――」


 そう言葉を口にしながら、響史は亮太郎の両手、両ひざをついて、奈落の底に落ちたような暗い気持ちになっている彼の肩に救いの手を置いた。


「――親友になってくれ」


「……な、なんて?」


 思わずその言葉に再び耳を疑ってしまう。でも、聞きたくないんじゃない。どちらかといえば、もう一度言ってほしかったのだ。そう、その言葉を。


「……悪友なんて言い方だと悪い風に取られるかもしれないだろ? ちゃんとした呼び方の方がいいだろう、そう思ってな。だから、一度お前と悪友という関係を断ち切り、新しく親友という関係になってこれから学園生活を満喫しようぜ……亮太郎」


 少し辛そうだった。顔が赤く、その双眸も虚ろだった。既に意識が途切れかけている、それは亮太郎からも、その後ろにいた幹部メンバーからも理解出来た。もう、限界が近いのだ。


「神童、お前……どうしたんだ? なんか、様子がおかしいぞ? 熱でもあるのか?」


「えっ、熱? 何言ってんだ? そ、そんな訳――」


 一瞬、意識が離れかける。グラッとふらつきその場に立ちあがりかけてよろめく。


「おいッ!」


「――だ、大丈夫だ。それに……俺は、俺はまだ倒れるわけにはいかない! まだ、会わないといけない人が……話さなきゃいけない相手がいるんだッ!」


 そう言って頭を押さえつつその場に立った響史。その姿を変態軍団と体育祭実行委員会の両メンバーが怪訝そうに見つめる。

 響史の会わなきゃいけない相手――それが分かる人物は、残念ながらこの場にはいなかった。


「神童くん?」


「先輩、後は……よろしくお願いします、俺は行かなくちゃいけないので」


「ま、待って! あなたはもう限界よ! 熱があるのに、そんなに無理したら死んじゃうかもしれないっ!!」


「ふっ……ありがとうございます、星空先輩。でも、どうせ俺は一回死んでたかもしれない身なんで……」


「え? 今、なんて――」


「それじゃ」


 そう言って響史はよろめきながら、千鳥足で講堂を後にした。その場に残された両メンバーは、無言になってしばらくの間黙っているしかなかった。

というわけで、後書きが他の作品よりも長いような気がしますがゆるがない。三部は主に亮太郎の話。ホント、変態軍団はどこまでも変態です。そして、変態軍団のおかげで女子は卒業する時には護身術を会得出来ると言う……なんでやねん。しかも、どっかの宗教団体みたいになっちゃてる変態軍団。そして、久熊と叶亞のリア充会話。マジ天気、場の空気読み過ぎ。

また、体育祭実行委員会へ謝罪し、罰を受けるといっているのに、それでも例の写真だけは譲らないという変態精神。さすがは変態道を極めんとするからには、すごいです。んで、叶愛も半ばあきれてます。そしてそして、亮太郎と響史の会話。響史、熱あるのにすごいです。ホント、今にもぶっ倒れそうなのに。ちょっと、今回男同士の抱擁っぽいのが多いですがお気になさらず。てことで四部をお楽しみに。

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