第五十一話「重なる敗北とそれぞれの追憶」・2
中身濃いです。
「そうだ、あそこで項垂れている初代の息子――彼こそが本来の七つの贖罪を行える、数少ない逸材になるかもしれん。だが、彼は既に一度、俺の誘いを断っていてな。変態軍団の傘下には降らんかった」
そうだったのか、だから頑なにあいつは、悪友――響史は変態軍団に入りたがらなかったのかと、この時亮太郎は初めて理解した。
「なら、誰なら出来るかと画策し、それから導き出された答えが、初代の息子に一番近しい、あまり多くない男友達――お前だったのだ。だから俺は、お前を――亮太郎を立派な変態紳士になるように教育した。いずれ、俺がいなくなった暁には、ボスの座に君臨し、在学している間に正常な七つの贖罪に戻してくれることを切に願ってな……。だが、それは果たされなかった」
「私も、最初はそれを聴いて驚いたわ。まさか、ひーくんにそんな小さくとも大きな夢があった、なんてね。でも、そのおかげで私は七つの贖罪は封印すべきではないと学んだわ。七つの贖罪を封印するのではなく、改革することで本来の――あるべき姿に戻すことが必要だったのよ」
「ちょっ、ちょっと待ってください! どういうことッスか? え? 七つの贖罪のあるべき姿? なんスかそれ、教えてくださいッ! 俺には、何が何だか……訳が分からなくて。俺は、間違えたんスか? 何か、違ったんスか? じゃあ、一体どこが――」
「亮太郎、それは自分で見つけなければ意味が無い。お前は何だ? 何をしている?」
「え……俺は、俺はこの光影学園に通ってて、変態軍団のボスで――」
「変態のあるべき姿とはなんだ?」
「変態の……あるべき姿? ……分からないッス。俺、バカッスから」
「フッ、素材としては十分なのだがな……お前にはまだ変態性質はあっても紳士としての性質が足りん。その点、さすがは初代の息子とも言える……彼はとてもいい性格をしていたよ。だからこそ、変態であろうと女子からの好意をもらえる……俺もそうだった。だからこうして、隣に叶亞がいる」
そう言って久熊は隣にいる叶亞を見つめた。
「ちょっ、もうっ! 不意打ちにも程があるわよ!」
一方の叶亞は、予想だにしていなかったので思わず赤面してそっぽを向いてしまう。
「……ヒントにはなったはずだ。七つの贖罪、それのあるべき姿はどこかに書き記されているはずだ。亮太郎、それを見つけろ。いいか? チャンスは一度きり、後一回だ。来年の体育祭でもしも今回の様な七つの贖罪を行ってみろ、俺はお前にボスとは呼ばせない。そして、二度と俺に話しかけるな」
あまりにも非道な、まるで身分が違う物を見るような冷徹な眼差しで、亮太郎を睨みそう告げる久熊に、亮太郎は激しく動揺した。
「そ、そんな! そりゃないッスよ! 俺は、俺は何も分からないんス! 教えてください! どこに七つの贖罪のあるべき姿が書き記されてるんスか!?」
「それは、自分の手で見つけるのだ。そうすることで、お前は本当のボスになれる。本当の、変態軍団のトップに君臨出来るのだ。……もう分かったな? どうやらお前は、この勝負に勝ったら変態軍団の総力を挙げ、体育祭実行委員会の頭に変態行為を働こうと画策していたようだが、それをした時点でお前の変態道は終わりだ。もう何も残らん……いいか? そんなことをすれば、本当の犯罪だ。変態道を忘れたか? 俺の教えを覚えているのであれば、敗北した体育祭実行委員会に何をすべきか、既に理解しているだろう」
変態道、その言葉に亮太郎は忘れかけていた嘗てのボスの教えを思い出した。そう、七つの贖罪の封印を解き放ちたい、ライバル関係にある体育祭実行委員会を是が非でも潰したいあまり、我を忘れて暴走してしまい、仲間を、幹部達を、そして何よりも、悪友を悪用してしまった。
こんなことは許されない、己が手に入れたい変態道の称号の最骨頂――変態紳士の称号を得んために、自分は今まで辛くて苦しい変態道を極めてきたのではないか。それをここで無にしてしまうのは、あまりにももったいなく、耐え切れなかった。
謝らなければならない。仲間に、悪友に、それから……星空叶愛に。
そして、何よりも今目の前にいる、自分をここまで導いてくれたボス――久熊に。
「申し訳ありませんッしたぁああああああああああああああああああッ!!」
「亮太郎……その言葉は俺ではなく、今自分がいるこの場所にいる人間に言うべきものだ。この舞台から退場した俺には、もうその言葉は不要だ」
「でも――」
「だがな……よく言った。それでこそ、俺の自慢の弟子であり、後継者だッ!!」
「ぼ、ボスぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!」
亮太郎は咽び泣き、師に抱き着いた。それに対して、抱擁し返す久熊。そんな男同志の抱き合う姿を見て、叶亞は暑苦しいと思いながらもしょうがないなという、暖かく見守る親のような眼差しで眺めていた。
こうして、変態軍団のボス――藍川亮太郎は、本来の自分が進むべき道を見つけ、己の変態道を一から磨き上げるべく邁進することになるのであった。
場所は変わって、体育祭実行委員会の集まるとある会議室。
そこには、多くの女子と一人の男子がいた。ただし、その男子は全身ずぶ濡れになってしまっていて、それを見た一人の少女が慌てた様子でタオルを持ってきて頭を拭いてあげている、という状況だった。
「もう、何をしているの……神童くん」
何も言葉を返してこない響史を訝しみつつ、金色のウェーブがかった髪の毛をなびかせている少女――星空叶愛は、せっせと響史の髪の毛を優しく拭いてあげていた。自分も響史ほど酷くはないものの、多少濡れているために風邪をひいてしまうかもしれないのに、そんなことも気にせずに。
一心不乱に拭き続ける叶愛の眼は真剣そのもので、傍目から見ると、まるで雨の中外で野球していた弟を叱りながらも、優しく髪の毛を拭いてあげるという、世話好きの姉みたいな関係に見えた。
パイプ椅子に座っていた響史は、完全に放心状態だった。はっきり言ってどうして自分がここにいるかも分からないという感じだ。
実際、彼は無意識でここまで来たのである。
扉を開けた時、濡れた体操服から制服に着替えていた体育祭実行委員会の女子が、悲鳴をあげて自分の若い柔肌を覆い隠しこちらを睨みつけてきたが、当然響史は放心状態のために、視界にすら入っていなかった。
それを見て、さすがに何事かと怪訝そうな表情を浮かべる女子。そんな彼女達の中で、唯一響史と一番面識のあった叶愛が、仕方なしと言った感じにパイプ椅子に座らせ、今に至るのである。
響史は懐かしい気持ちに包まれていた。頭を拭いてくれる叶愛の姿を見て、ふとある人物が脳裏をよぎる。長い金髪に、あの豊満な胸。そして、優しく世話をしてくれた大好きな姉。
「……ごめん、お姉ちゃん。守ってあげられなくて」
「え?」
髪の毛を拭いている最中に、ボソッと独り言を零した響史の言葉を耳にした叶愛は、彼の口から出て来た信じられない単語にその動きを止めた。
「……お、お姉ちゃん?」
謎だった。確かに響史から見て叶愛は二歳離れた年上だ。誰かと勘違いでもしているのだろうか? でも、にしては様子がおかしい。
「どうかしたの?」
「……俺――僕が弱いせいで、姉ちゃんは傷ついた。全部、あいつのせいなのに、でも……どこかで自分が悪いんじゃないかって。だから、僕……強くなりたかった。だから、中学時代この光影学園に入った時、剣道部に入って必死に練習した」
「な、何を言っているの?」
「二度と姉ちゃんが襲われないように、傷つけられないように守るために……でも、せっかく剣道部に入部したのに……姉ちゃんは僕から離れてくみたいに家を出て行った。だけど、学校には通ってたから僕は姉ちゃんを見かける度に自分を鼓舞して部活に励んだ。いつか、僕は大会に出られるくらい強くなってた。だから、大会に優勝して姉ちゃんを喜ばせたかった。なのに……姉ちゃんは卒業して僕との連絡も絶った。ねぇ、どうして? 僕が弱かったから、僕と一緒にいたら……また迷惑かけるから? だからいなくなったの? 守るべき対象がいなくなった僕は、一気にやる気を失った。だから、中等部三年になって、僕は言い訳を作って剣道部を退部した。辛かったよ、友達もできて仲の良かった女の子もいたのに」
「ねぇ、落ち着いて?」
だが、止まらなかった。
「……怖いよ、たまに忘れるんだ。お姉ちゃんとの記憶。楽しかった思い出が、母さんや父さんとの思い出、亮祐との思い出。幼馴染の子も、たまに顔にモヤがかかってしまうんだ! いやだ、忘れたくない! なんで、何でこんな目に遭わないといけないんだ! 僕が――俺が何をしたっていうんだッ!! 全部、全部お前の、お前のせいだ!! お前が、お前が俺達を壊したッ!! 許さない、なのに――なのに何で死んだんだッ!! お前が死んだら、もう……この感情を吐き捨てられないじゃねぇか……! くそッ、俺は、俺は――」
「もうやめてっ!!」
こうするしかなかった。
叶愛はたまらず、半ば無意識的に彼を抱擁していた。荒ぶる息遣い、完全に鼓動が速くなっている。体を密着させることで、酷く彼が興奮して体温が上昇しているのが分かった。その顔色は酷く蒼白していて、それでいて、紅くなっていた。
ふと違和感を覚えて手を彼の額に添える。
「あ、熱い……神童くん、あなた熱が」
「あ、あの……委員長これは?」「どうなってんの?」「神童くん、調子悪いのかな?」「熱あるって大変じゃないですか!」「保健室、連れてかないと!」「それよりも、今の話ってどういうこと?」
口々に言う女子生徒達。皆、様子がおかしい響史の身を案じていた。心配しているのだ。期間が短かったとはいえ、響史は体育祭実行委員会でもないのに、協力してくれて、そして委員会の仲間とも気兼ねなく接してくれた。会話していても楽しく、いつの間にか同じ委員会の仲間と思ってしまう程に。
割とコミュニケーション能力が高い響史は、幼い時から近所づきあいもよく、すぐに友達を作っていた。そのため、入学してから一か月後には同じクラスメイトとは全員友達になっているほどだった。
だが、現在はそれほどでもない。その原因とも言えるのが、彼の肉体に与えられた枷とも呼べる存在――後遺症だった。
「……こ、ここは」
長らく抱擁していてようやく落ち着きを取り戻してきたのか、響史がか細い声音でそう口にする。
「大丈夫、響史くん? ここは会議室よ。体育祭実行委員会の集まりで皆ここにいるのだけど……大丈夫? あなた、熱があるのよ。雨が降って来たのに早く校舎に入らなかったでしょう? 全く……少しは自分の体を大切になさい? 私達に心配かけないで」
「心配……して、くれてたんですか?」
「当たり前じゃない」
当然と言わんばかりに腰に手を添えて嘆息する叶愛。それを、朧げな双眸で見つめ、体を震わせはじめる。
「ご、ごめ……ごめん、な、ざい……ぐすっ!」
「ちょっ、何泣いてるの!?」
「委員長、泣かせたらダメですよ」「何したんですか?」「何か酷いことでも言ったんじゃ」
などと、周りから文句の言葉を言われるが、叶愛は身に覚えがない。
「何で泣くのよ! それに、謝る意味も分からないわ」
「だ、だっでぇ……お、俺が……守るどが、言っだのに……守れなくで」
まるで子供のように泣きじゃくる響史。その言葉を聴いて、理解した叶愛はクスッと小さく笑って言った。
「どうしてあなたがそこまで気にするのよ。こうなったのは全て私の責任よ? あなたが責任を感じる必要はないわ。それに、心の何処かでこうなる事は予想ついてたのよ」
「じゃ、何で勝負したんです?」
だんだんと落ち着いてきた響史が、目元を赤く腫らしながら訊く。
「うぅ~ん、そうね……お姉様に言われたの。変態にもいろいろいるんだ、ってね。それで少し考えたの。もしかしたら、彼も必死なのかもしれないって。だって、彼らにとって大事な七つの贖罪を封印したのは私達の方だし……。確かに女子には悪いけれど、昔はこうじゃなかったらしいしね」
それを聴いて響史は疑問符を浮かべた。昔とはどういうことだろう、七つの贖罪は昔から今回のようなものではなかったのだろうか。
「覚悟は、出来てるわ。七星さんと丑凱さんには申し訳ないのだけれど」
「うふふ、何を言っているんですか星空委員長。私達はとうに覚悟などできています」
「そうだぜ、先輩。おれらは常に先輩とともにありッス!」
北斗七星の二人がそう言って叶愛を励ます。
「……そういえば、七星さん。あなた仮装バトンリレーの時、偉く暴走してたようだったけれど、大丈夫?」
「うへへ……大丈夫ですよぉ~星空委員長♪ ちょっとネジが緩んだだけで、まだまだいけます!」
何やら危ない扉が全開になりつつあるようだ。早く閉めて裏打ちしなければ。
「さて……後は彼らが来るのを待つだけね」
そう言って叶愛は時計の時刻を一瞥した。もう時刻は午後四時を回っている。
「……随分遅いわね。普通、変態ならこういった事はすぐに行動に移しそうなものだけれど」
「何かあったんですかね~、うふふ」
「ちっ、姉貴を辱めやがった巨郷の野郎をブッ飛ばす予定だったのによ!」
何やら意味合いは違えど危ない事を企んでいる二人に苦笑しつつ、叶愛が幾度目かの時刻の確認の為に時計を一瞥する。
というわけで、二部。頑なに亮太郎の勧誘を断っていた理由がこれで分かったかと。まぁ、後付みたいになってますがご了承。さらに、七つの贖罪の本来の姿!? 果たしてなんなんですかね。んで、叶亞の反応が自分で書いててヤバス。にしても、久熊はすごいですね、いきなり亮太郎殴ってからの教え諭す。そして、変態紳士として叶亞をいじることも忘れない、マジパネェ。
また、重たい話のはずなのに、真剣な会話をしてるはずなのに、内容としては変態道の究極を目指すと言う。真面目な話なのか笑い話なのか分からないですね。んで、挙句の果てに男同士の抱擁――需要あんの?
そして、星空委員長の響史へ対する世話焼き。ちなみに、星空委員長を巨乳にして金髪ロングにしたのも、性格も、全ては響史が叶愛を姉の唯と重ねるための布石だったりする。なので、本文中で姉と叶愛が重なり急にベラベラと自分の想いを告げたんですね~。まぁ、本人じゃないので叶愛は?だらけ。さらに、ここで中等部の頃に剣道部をしていた理由も暴露。女の子というのは――分かりますよね? で、相も変わらずキャラのぶれない乙女さん、マジドS。それでは引き続き、重たい、だけど一部軽い五十一話をお楽しみください。




