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魔界の少女  作者: YossiDragon
第三章:六月~七月 体育祭『変態軍団アスメフコーフェッグVS体育祭実行委員会』編
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第五十一話「重なる敗北とそれぞれの追憶」・1

コメディものに相応しくないシリアス回ですが、今回ちょっといい話になってると思います。

 突如、一人の少年の頬を何か冷たいものが伝った。

 ポツ、ポツと徐々にその何かはたくさん降り注いで、それは夏の時期ということで少しジメッとしていた。そう、まるで六月の梅雨の様に……。

 しかし、少年はだんだん強くなってくる大量の粒――雨を気にも留めず、ずっと膝を折って項垂れていた。頭を垂れ、意気消沈とする彼の髪の毛――普通の人とは少し異なる、銀色に光り輝く髪の毛が、ツンツンとあちこちに跳ね、そこに水滴が降り注ぐ。だんだんと髪の毛が水分を含み、重さに耐え切れず重力に引っ張られて垂れてくる。


「くっ……何で、こんな時に……今日の天気は、晴れ……だったじゃないか」


 そう言って、銀髪の少年――神童響史は独りごちて、自分を嘲笑うような表情を浮かべた。

 彼は今、心の中にある感情を抱いていた。激しい敗北感と、罪悪感。前者は変態軍団の幹部であり同じクラスの日暮里と鶴吉に、勝利宣言紛いの事をさも自信満々に言った挙句の敗北からくるもので、後者は今回の体育祭で協力体制にあった、星空叶愛や北斗七星の丑凱北斗と七星乙女達、体育祭実行委員会に守ると言ったのに守れなかったという申し訳ない気持ちからくるものだった。

 この二つが原因で、響史は酷く気落ちしていた。だが、それだけならまだ立ち直れるはずである。では何故か……。理由は、響史とその関係者を巻き込んだとある事件が原因だった。

 そう、響史は二度同じ事を経験しているのだ。しかも、その傷跡は大きく、癒えるには四年を要した。そして、その四年が経とうという時に、またもやの大怪我。耐え切れるものではなかった。

 もう二度とこんな気持ちにはならないと誓っていた。同じことは繰り返さないと約束したはずなのに、何でこうなったのだと響史は自身を責め立てる。しかし、今更悔いた所で事実は変わらない。負けは負け、抗う事は出来ず、例えそれをしたとしても、文字通り無駄なあがきなのである。


〈お知らせです。急遽雨が降って来ましたので、保護者の皆様は体育館へ、生徒の皆さんは校舎へ入って下さ~い!〉


 実況――小城都の声が耳に聞こえるが、未だ鼓膜を震わせて脳内に響き渡る敵の(かまびす)しい声が邪魔をして、響史は立ち上がれなかった。いや、実際にはそれだけが理由ではない。肉体だけでなく、精神的な面でも立ち上がるのは難しかった。

 だが――。


「響史、どーしたの? みんな校舎に行ってるよ? 早くいこ?」


「あ、……あ、あぁ」


 大量の雨水を引っ被った響史の顔はずぶ濡れで、頬には雨の滴が涙の様に流れて顎から滴り落ちていた。しかし、実際には涙も流していた。心が痛み、流れる涙。四年前、守るべき相手を守れず、いたたまれなくなって流した物と同質の物だ。


「先に……行っててくれ」


 気付かれてはいないようだが、明らかに鼻声で胸につっかえる感じがして、上手く喋れる自信がなかった響史は、そう優しく声をかけてくれた女子生徒に返した。

 一方、響史にそう返された少女――蜜柑色の髪の毛を頭部で左右に結んだ――ツインテールの髪の毛を雨に濡らしながら、檸檬色の双眸を少し潤ませ瑠璃は心配そうに訊いた。


「……どこか、痛いの?」


「いや、なんでもない……」


 優しく声をかけてくれる瑠璃が嬉しくて、同時にその優しささえもが心に激しい痛みを与えたため、耐え切れなくなった響史は再び顔を伏せた。

 瑠璃は首を傾げてその姿を見ていた。震えているのは、てっきり雨に濡れて寒いからだと思っていたが、どうやらそうではないようだ。

 そして、再び声をかけようとしたその時――。


「お姉さま、急がないと風を引くわよ?」


「あ、ま、待ってよ麗魅! じゃあ、先に行ってるね?」


 去り際にもう一度心配そうな顔を浮かべて響史を見つめると、瑠璃はそのまま双子の妹――麗魅の後を追い掛けた。

 そんな響史の姿を見ている人物が、幾人かいた。


「やっぱり、あの時の事……まだ引きずってるんだな」


「無理ないですね、あんな思いをしたんですから……それに、一番辛い立場だと思いますよ? 従姉(ねえ)さんも、そう思うでしょう?」


「ああ、あいつは優しいからな……今も昔も。まぁ、そうなれって言ったのは俺だ。全面的に責任がある。だからこそ、俺はあいつから離れつつもあいつの側で見てた」


「うふっ、今日この場に来たのも……それが本音ですか? 建前上は近所に貼ってあった体育祭のチラシを見たとか言って」


「う、うるさいな」


 響史の姿を哀れむでもなく、思いやるように、慈しむように見守る二人の女性。

 夏場に相応しい薄着に薄い素材の羽織物を着て、足の付け根ギリギリの丈しかないショートパンツを履いた、男勝りな口調の女性。

 彼女――神童唯は、腰辺りまである長い金色の髪の毛を雨に濡らしながら、実の弟――響史を見ていた。

 その隣にいるのは、都立光影学園の体操服を着た、赤に近い黒色の髪の毛を同じく腰辺りまで伸ばしている少女――東條茜だった。響史の従姉に当たる彼女もまた、その長い髪の毛を雨に濡らしながら、年上を敬うようで、からかうように悪戯っぽい笑みを浮かべて唯と会話していた。

 この二人もまた、響史と同じく今から約四年前に起きた事件の関係者であり、被害者である。


「その男の様な喋り……やはり、そうなんですね。疲れませんか?」


「もう、慣れたさ」


「果たして慣れていいものかどうか、まぁ……それも個性ですかね。でも、やっぱりその様子から、傷は然程癒えてないようで」


「お前はもういいのか?」


 少し苛立たしげに隣に立つ茜を見据える唯に、茜はクスッと口元に手を運んで微笑を浮かべつつ、こう返した。


「……いいわけ、ないじゃないですか」


 そう返した時の茜の瞳は、怒りに満ち溢れていた。


「響ちゃんを、そして従姉さんをこんなにしてしまったあのヒトだけは……私、絶対に許しておけません!」


「ふっ、そうだな。でも、この負の感情はもう吐き捨てることは出来ない。その吐き捨てる相手が、いないんだからな」


「……もっと苦しめておくべきだったのに」


 唯の言葉に茜は下唇を噛んでそう口にした。


「だが、一番辛いのは――」


「従姉さんですか?」


「いや――響史の方だ」


 唯の言葉を遮るようにして茜がそう訊ねると、唯は首を振って弟の名を口にした。


「え? でも、従姉さんの方が精神的に……」


「確かに、俺の傷も大きい。だが、それ以上に……響史は傷が深い上に、肉体的ダメージも受けて、後遺症まで負った……」


「例のアレですか」


 響史に再び視線をやって、茜がそう静かに呟いた。


「ああ、四年間……完治するにはそれだけの時間を要した。長いようで短い、だけど長い四年間だ」


「……四だなんて、不吉な数字ですね」


 茜が恐ろしそうに身震いして唯に言う。


「俺が――私が悪いのさ。男の子は女の子を守るものよ、とか言ったから。くっ……だからあいつは、幼馴染との記憶も薄れて、互いになんて呼び合ってたかも忘れて、その相手の家まで忘れて……挙句には私との約束まで……忘れてるんだ。私のせいだ」


「従姉さんは悪くありませんっ! ……何で、こんなことに。やっぱり、お金持ちという名目で狙われたんでしょうか?」


「分からない、今となってはな。ホント、タイムマシンがあるならやり直したいよ」


 そう言って二人は、響史に話しかける言葉が見つからず、バツの悪そうな顔でその場を後にした。




 一方、こんな大雨の中、一人歓声をあげている人間がいた。


「やっほぉぉぉぉぉぉぉ! よっしゃぁああああああああああ! ついに、ついに俺は成し遂げたんだッ! 変態軍団のボスとして、七つの贖罪を行い、女子達のあられもない姿を収めてッ! くぅ~ッ!! 今日は赤飯だなッ! 昨日はあまりにも興奮して眠れなかったが、今日は枕を高くして眠れそうだぜッ!!」


 などと息巻いているこの男――藍川亮太郎。光影学園が出来たのと同時に出来た、変態軍団アスメフコーフェッグの現ボスで、前ボスの願いを果たさんために奮闘し、成功を収めたことから、彼は酷く興奮気味だった。まるで、その姿は大量の雨に喜ぶアマガエルの様である。

 そして、そんな彼を見ている人物が二人いた。

 綺麗な顔立ちにウェーブがかった金色の髪の毛の一部を結び、手元には手提げバックを持っている少女。その少女は、私服姿で軽く化粧をして、手提げバックを持っている手とは片方の手で、自分と、隣にいる背の高い青年を雨から守る様に傘を差していた。所謂、相合傘である。


「なぁ、叶亞……俺は今、酷くある感情に苛まれているのだが、君はどうだ?」


「奇遇ね、ひーくん。私も同感よ」


「なるほど、やはり俺達の赤い糸は意志さえも共有するのだな」


「は、恥ずかしいこと言わないでよっ!」


「フッ、すまんすまん。だが、今はイチャコラやっている場合ではなさそうだ」


「そうね、あの子には……ちゃんと分かってもらわないと」


 ひーくんと呼ばれる青年は、少し金色がくすんだ様な髪の毛の色をしていて、髪染めをしていた。耳にはピアスをつけ、拳には指ぬきグローブをつけている。

 二人仲良く相合傘などをして、目の前で愉快そうに飛び跳ねている少年――亮太郎を見据える二人は、共にある感情を抱いていた。とてもその表情から喜んでいるとは思えない。

 そして、そんな二人の視線を感じ取ったのか、亮太郎が、懐かしく尊敬するある人物を視界に捉えた。


「あっ、ボス~ッ!」


 そう、ひーくん――江口久熊は、現在の変態軍団のボスである亮太郎の、先代のボスなのである。

 そして、そんな久熊に飛びつき、懐かしさのあまり無邪気な子供のような仕草をする亮太郎。それから隣の人物の正体に気付いて不快そうな顔をする。


「げッ、星空叶亞! お前、何でここにッ!!」


「おい、人の彼女に対して何だその口の利き方は」


「え? 彼女? ま、マジっすか!?」


「ちょっ、ひーくん! 約束覚えてる!?」


「おっといかん、冗談だ。ただの大学のサークル仲間だ、忘れてくれ」


「? よ、よく分からないッスけど……それよりボス! 俺、俺ボスの夢成し遂げましたよ! 体育祭実行委員会に勝って封印も解いて、こうして七つの贖罪をやって!! 嬉しいッスか!?」


 喜んで欲しかった。ただそれだけだった。尊敬する先輩であり、ボス。見習いたい相手であり、いつか自分もこうなりたい、そんな目標とする人物。それが久熊だった。だが、彼から返って来た言葉は、あまりにも感情の篭っていない、冷たい言葉だった――。


「……悲しいな」


「え――ど、どうして!? なんでッスか!? ボス言ってたじゃないッスか! 七つの贖罪の素晴らしさを説いて、今まで変態軍団のトップにいた人が何を言ってるんスか!? 七つの贖罪は、俺ら変態軍団の至高であり、行わなければならない絶対なんスよね!? だから俺は、一生懸命奮闘して、友達に協力してもらって勝ったのに!! なのに、何がいけない――」


 ドゴッ! ズシャァアアッ!


「……ぅ、え? な、なんれ?」


 一瞬理解が遅れた。喋っている最中に突然激しい痛みが頬に走り、気づけば、濡れて泥みたいになった地面の上を滑るように横倒れになる亮太郎の体。さらに、喋っていた最中だったために誤って舌を噛んでしまい、呂律が回らなくなる。

 頬にそっと手を添えると、そこは腫れ上がっていて、それを理解してから激しくジンジンと熱を持ったような痛みが、激痛が、痛覚神経を通って襲ってくる。


「なっ――ボス? 何れ、俺を」


「亮太郎……はっきり言って、お前にはがっかりだ」


 その言葉が激しく亮太郎の心を揺さぶった。


「俺がお前にしてほしかったことはこんなことではない。こんな、くだらない……お遊戯みたいな、アホくさい物を見せてほしかったのではない! フッ、どこで教え方を誤ったのだろうな……ちゃんと七つの贖罪を、嘗ての様に正しき方向へ戻して欲しくてお前を鍛え上げたはずだったのだが、こんなことになるとは。こんな末路は想定外だ……こんなことなら、お前ではなく初代の息子を鍛え上げるべきだったな」


「しょ、らいの息子? そ、それって……」


 だんだん呂律が回り出す亮太郎だが、まだ少し今起きている状況が呑み込めない。俺が間違えた? 初代の息子ということは、伝説にもなっているあの人の息子――自分の悪友のことだろうか?

というわけで、シリアス回となった五十一話ですが、今回は主要キャラの過去なども交えます。はい、響史とか亮太郎とか、唯とか後は琴音ですね。んで、唯と茜の会話。うん、重たい。そして、亮太郎……軽い。が、久熊からの教えで改心、本来の自分を失う前に取り戻すと。まぁ、元々変態軍団の存在はあんなんではないので。本来のは、初代の時代と、今後の亮太郎達が生み出すでしょう。で、久熊と叶亞は相も変わらずラブラブと。はい、リア充~。

では引き続き重たくなる二部をお送りします。ちなみに今回は多分、四部構成。ページは少ないが、中身は濃い。

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