第四十九話「体育祭(前編)」・7
「へっ、頂き――」
「渡しませんっ!!」
棒を取られそうになって焦った零は、慌ててその棒に飛びついた。そして、それを奪おうと棒を持った方とは逆の方――即ち相手の方に近い棒を上に持ち上げる。結果――。
「おっふッ!?」
先端が金的に命中してしまった。
――あぁ、お気の毒。
「……うっく」
「だ、大丈夫ですか?」
「お、おにょれぇ~! よくも、よくも俺の大事な棒をぉぉぉぉッ!」
そう言ってその場に飛び上がる男子生徒。恐らく、最後の気力を振り絞っているのだろう。が――。
「変態は近づかないでください!」
ゴチンッ!!
「ふがッ!?」
男子生徒は、もれなく零の徹底的な仕打ちに倒れた。顔面に棒をぶつけられたのだ。うん、自業自得であろう。
「いいなぁ、あの男子。俺もあの棒でぶっ叩かれたいッ!!」
何やら霧能先輩の声が聞こえたが、無視だ無視。
〈お~っと、水連寺選手! 表情一つ変えることなく冷静に棒を手に取り、襲いかかる男子生徒を倒しました! これはどうでしょうか? 解説の牡蒲校長!〉
〈そうね、あの子は才能があるわ〉
――何のだよッ!!
結局零はその後も棒を何本か取っていた。男子陣はあまり取れていないようだったが、女子は統率力でもあるのか?
そんなこんなでこの種目も幕を閉じた……。
●UFO
第九種目はこれだ。先程大玉転がしで使われた大玉を三人が手を繋いで持ち上げ、背中に乗せた状態でゴールまで行くというもの。結構チームワークが大切になるこの競技……霊の二つ目の競技でもある。しかし、先程単独行動取って暴走し、案の定俺が予想していた通りの動きを見せてくれたあいつがちゃんと出来るだろうか?
「おい、霊……また実況と解説のテントに突っ込むなよ?」
「は~い♪」
――ホントに分かってんのかこいつは。
イマイチ心配だが、出番が迫っている以上止めるわけにはいかない。一緒に出る『瀬戸 稲穂』と『蓬 風華』には頑張ってもらうしかないな。
「それでは準備いいですか? 位置について……よ~い――」
ピストルを構える係の生徒。
「ドンッ!」
走り出す走者。うん、どうやら霊と瀬戸と蓬は五番目みたいだな。
「ねぇ、響史」
「ん? どうした?」
瑠璃に声をかけられて返事をする俺。すると、瑠璃はお腹を押さえて俺に訴えるように言った。
「お腹減った~! お昼ご飯いつ~?」
その言い方はまさに駄々をこねる小さい子供そのもの。
「えっと、今が九番目だろ? これを含めても後一つ種目終わらないとお昼ご飯にはありつけないな」
「え~っ、そんな~!」
まるでこの世の終わりみたいな顔をして絶望し、顔面蒼白となりがっくしその場に手と膝をつく瑠璃。
「まぁ、そう落ち込むなよ。腹が減った分昼飯が美味くなるって!」
「う、うん……」
あまり納得がいっていない様子だったが、納得してもらうしかない。
と、そんなやり取りをしていると霊達がスタートしていた。
「頑張ってくださ~い、お姉様~!!」
ツインテールを振り乱しながら霰が声を張り上げ溺愛している霊を応援する。その周囲には何だかメルヘンチックな物が咲き乱れている。
それを苦笑しながら見ている俺達。
一方霊は、俺たちの応援が聞こえていないようで、いつもの能天気な顔が真剣な面持ちに変わっていた。
そして――。
「うにゃにゃにゃにゃ~!!」
「た、霊ちゃん!?」
「ち、ちょっと速すぎるって~!!」
霊の猛スピードに瀬戸と蓬は大変そうだった。これは、頑張ってもらうしかない。
そうして――。
「ごぉぉるっ♪」
満面の笑みを浮かべてその場に飛び上がる霊。瞬間、ズボンに裾を入れていない体操服の裾がめくれ上がる。それを俺は見逃さなかった。
めくれる霊の体操服の裾。同時、霊のへそが見えた。と、俺が思わず硬直していると、その真横を一瞬で過ぎ去り、霊の目の前に移動する巨大なシルエットが映った。
――あ、あれは!
俺が声をあげようとした刹那――。
「激写ですぞ!!」
シャッターが切られた。フラッシュを焚かれ、霊の視界を一瞬奪う。
「な、なに!?」
視界を奪われた霊は、恥ずかしがるよりも先に一時的に目が見えなくなって慌てふためきだした。
「お、おい落ち着けってた――」
「いにゃ~!!!」
「イッテェエエエエエ!!!」
いきなり肩を掴まれてびっくりしてしまったのだろう。霊は威嚇のあまり俺の顔面を思いっきり引っ掻き回した。そう、まんま猫のように――。
その後、俺は保健室の美川先生に治療してもらった。その際、何で猫なんかに引っ掻かれたの? と聞かれたので、気に留めないでくださいとだけ答えた。
●綱引き
第十種目はこれだ。生徒枠と保護者枠とあり、生徒が行った後に保護者が行う。
「なぁなぁ響史! これ、思いっきり引けばいいんだよな!」
嬉々として俺に訊いてくる霙。まぁ、あながち間違ってはいないが――。
「おい、一応言っておくが力任せに引っ張るんじゃねぇぞ?」
「ハハハ、分かってるって!」
――ホントに分かっているのだろうか?
そう不安に駆られながらも、ピストルの発射音が聞こえた。開始の合図だ。
「よしッ、引っ張れぇ!!」
「う~りゃぁっ!!」
刹那――俺達の綱がめいっぱい自分達の方へ引っ張られる。俺達も予想だにしないその綱の動きに思わず体勢を崩す。
結果――。
〈白ブロック側の勝利で~す!〉
実況の声が聞こるが、はっきり言って勝者であるはずの俺達は体勢を崩してその場に倒れてしまっていた。尻餅をついているものや、仰向けに倒れてしまっているやつ、中にはくんずほぐれつしてるやつが――。
――って、何でだよッ!!
「いったた……あちゃ~、ちょっと力んじまったかな?」
「ちょっとどころじゃねぇよ!! ったく、何してんだ霙!」
「まぁまぁ気にすんなって! それに、ちゃんと勝つこと出来ただろ?」
「まぁ、そうだけどさ……」
少し上手く丸め込まれた気がしたが、まぁ仕方ない。
俺達の次はいよいよ保護者枠だ。つまり――雫と霞さんが出るのだ。
「ほなら、うちら頑張ってくるで?」
「うん、頑張ってねお姉ちゃん!」
「応援、してる」
霖がガッツポーズをきめ、雪が棒つきキャンディーをペロペロ舐めながら静かな声音で言う。すると、霞さんの隣にいた変態兄貴が鼻息を荒くしながら振り返った。
「なぁ、俺には応援してくれないのか!?」
「え? あ、うん……頑張ってね?」
「……まぁ、応援してる」
明らかに霞さんとは態度が異なったが、当人は――。
「うっしゃぁああああああああああああああああ!!!」
ご満悦だった。
そして、ついに保護者枠の綱引きが始まった。
「オーエス、オーエス!」
何やらお決まりの掛け声が響き渡っていた。親御さん達も必死に頑張っている様子だった。
だが――。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ、えっしゃぁあああああああああああああああッ!!!」
若干一名のみ闘志を漲らせ過ぎて架空の炎が灼熱どころか業火と化していた。おかしい、水系統を操るはずの一族なのに、何故炎?
――てか、掛け声変わりすぎだっつの!!
「ピッ、勝者白ブロック!!」
「だらっしゃぁあああああああああああああ!!!」
〈何だか物凄く暑苦しい人が保護者の中にいたみたいですね……どうですか、解説の牡蒲校長〉
〈あら、あの子……なかなかいい体つきしてるわね! 好みだわ〉
――いやぁあああああああああああああ!!!
と、そんなこんなで綱引きも騒がしく終わりを告げた。
●中間休み(お昼ご飯)
体育祭の二十種目中の十種目が終わり、残り十種目を残すのみとなったところでお弁当の時間だ。瑠璃は余程この時間を心待ちにしていたらしい。んで、問題は七つの贖罪が後半ほぼ占めているということだ。これは、下手すると午後からは女子の悲鳴しか聞こえないということに成りうるのでは? という不安がのしかかってくる。もしもそうなれば、一大事だ。それにその七つの贖罪の内の一つには、保護者枠のある種目が一つある。そして、何よりもそれに大事な俺の従妹である奈緒が出るというのだから、余計に心配だ。
なのにこいつらと来たら――。
「あっ、霖~それ取って!」
「はい、どうぞ瑠璃お姉さん」
「わ~い、おにぎりだ~! いっただきま~す♪」
「何、おにぎりだと!? 霖、私にはツナマヨをくれっ!!」
「うん、ツナマヨだね? はい!」
「うむ、かたじけない!!」
瑠璃はともかく、霄までもが爛々と目を輝かせておにぎりを頬張っている。てか、かたじけないって何時代の武士だよ! お前は剣士だろうが!!
「しかし、あの綱引きとかいう競技はなかなか楽しかったぞ? 機会があればまたやってみたいものだ」
「いや、お前来年も出るつもりか? ったく、滅茶苦茶騒いでたろ!」
「当たり前だ、霖と雪が俺が頑張っている姿を見ているのだぞ? 頑張らなくてどうするというのだッ!!」
――あぁ、ダメだこいつ。既に頭が腐りきってやがる。絶対に妹の事しか考えてねぇよ。
「……まぁ、雫のことはともかくとしてやな……。響史、あん時話しとった子は一体誰なんや?」
「え?」
「ほら、あのウサ耳生やしとった子やがな!」
またまた~という風に手を動かして俺にそう言う霞さん。
「あぁ、羽鷺先輩ですか? ていうか、あれは本物じゃないですよ?」
「そうなんか? へぇ~、最近の作りもんはよ~出来とんのやな!」
「は、はぁ……。それで、羽鷺先輩がどうかしたんですか?」
「いや~、あんな見るからに面白そうな服着とったから興味湧いてなぁ? ちょっと訊いてみた次第や」
唐揚げを豪快に五つくらい宙に放り、それを上手に口で全てキャッチする霞さん。
「にひひ」
「こらっ! お姉ちゃん食べ物で遊んじゃダメだよ? めっ!」
「あはは~すまんすまん! せやったな、次からは気ぃつけるさかい!」
「もう~」
仕方ないなという半ば諦念の気持ちを抱きながら、霖は頬を膨らませ霞さんに優しく注意した。いかん、何だか物凄く癒される。
と、俺がそんなことをしていると――。
「霖、俺にも注意してくれッ!!」
「え……? いやでも、お兄ちゃんは何も悪いこと……していないし」
「何ッ!? では悪いことをすればいいのだな? よしッ、ちょっとばかり隣町まで行って街一個分吹き飛ばしてくるッ!!」
「何とんでも発言してやがんだ、やめやがれッ!!」
その場に立ち上がり本気で隣町に乗り込もうとしている雫の脚を、ガッシリ掴んで捕らえる俺。まったく、こいつはすぐに行動してしまう悪い癖があるからな。妹に注意されないと聞いてまた我を忘れて暴走しかけていたのだろう。この調子じゃあ午後からも不安が拭えない。
そんなこんなで、俺達は午後から始まる残りの十種目に備えて体力をつけようと昨晩霖と一緒に作った料理を食べるのだった……。
というわけで、四十九話終了です。一つ一つの種目を濃密に出来なかった上、昼休みでの絡みがあまり長く出来なかったのが悔やまれますね。まぁ、次の五十話でも少しだけ昼休みの絡みを入れてから午後の種目に入るつもりです。そして、五十話では七つの贖罪の残り五つがさらに女子を苦しめる……予定です。
次回予告、響史の体にとんでもない事態が!? また、借り物競走であの人登場!? 七つの贖罪にて麗魅が何かに目覚める……かも!?
みたいな感じでお送りします。多分また長めになると思いますので次の更新がいつになるかは微妙です。
では、また次回。




