第十話「漆の型『舞踏・散血祭』」
挿絵を入れたところ、なんか……グロ?くなったんで、血が苦手な人は気をつけてください。嫌な人は挿絵機能OFFの方向で!
時刻はもう既に夜の九時……。良い子の皆はもう既に眠っているくらいの時間。そんな中、俺は今護衛役の水連寺零に襲われ、危機的状況に陥っていた。
そんな中、ルリにもらった腕輪が突然光り輝き始めた。
「何なんだ一体!?」
「この光は、まさか……?」
零の慌て様に、俺は何事かと思った。すると、空から謎の光が急降下し地面に落下した。巻き起こる煙が晴れると、そこには銀色に光り輝く刀が、月夜の光に照らされて一層輝いていた。
「これは?」
「それは、伝説の聖剣『聖夜の月夜』。またの名を、妖刀『夜月刀』」
「妖刀? 聖剣なのに、どうして妖刀なんだ?」
「私も詳しくは知りませんが、その聖剣には恐ろしい力が宿っていると聞きます。もしかすると、その恐ろしさが故に……しかし、何故あなたがそれを持っているんですか?」
「お、俺にもよく分からない……」
聖剣であり妖刀だというこの得物を眺め、俺は困惑する。
「それは、姫様のお母様が以前使っていた剣だよ!」
霊に言われ、俺は千本の血の針に刺された状態で一か八かとその剣に手を伸ばし掴み取った。痛みを堪えてぐっと力を込めて剣を抜き取ると、謎の光が俺の体を包み込み、一瞬にして致命傷の傷が全て治った。最初に霊に直してもらった数倍早い。
しかも、零が放った千本の血の針を全て破壊し、まるで俺の周りにバリアが張られているような感覚を感じた。
「くっ、まさかこれほどの力を持っているとは……。神童さん、あなたは一体!?」
「ふん、ただの人間だ」
「だったら、ただの人間らしく大人しく死んでください!!」
そう言って舞花刀の片方を空高く振り上げる。同時、零が叫んだ。
「陸の型『雨酸血祭』!!」
その声と共に、掲げた刀身から放たれた血が空に大きく広がって雨雲へと変わり、夜空全体を覆った。すると、しばらくして俺の頬に一筋の赤い液体が流れた。
「これは……血?」
そう、この雨はただの雨ではなく、血の雨だったのだ。雨雲から落ちてくる大量の血の雨……それによって、地面は血で真っ赤に染められていった。黄色かった月も、血の雨雲のせいか、いささか淡い赤色に見えた。
「この雨が血の雨だということは見て分かりますが、これがただの血の雨だと思ったら大間違いですよ?」
「何!?」
俺がさっと零の方を見ると、目は半開きのまま口元だけニヤリと微笑ませる零の姿があった。そのまま何をするのか見ていると、下ろしていたもう片方の刀から血の雨雲に向かって何かを発射した。
刹那――先程の血の雨がまたしても俺の頬を伝った。しかし、それはただの血の雨ではなかった。なんと、俺の頬がシュ~ッと嫌な音を立てだしたのだ。
――頬が熱い……ッ!?
触ってみると、頬が焼け爛れているような状態になっていた。俺がハッとして零を見ると、この雨について説明を始めた。
「これは、いわゆる酸性雨です。しかし、この血の雨はそれ以上の威力を持っています。普通の人間であれば、跡形もなく溶けるでしょう」
零は恐ろしいことを軽くサラッと口走った。
「そんなことしたら、俺以外の人間も溶けて死ぬだろ!?」
「その通りです。さぁ、どうしますか?」
「くっ!」
俺は勝手も何も分からぬまま、ただ無我夢中でこうなってほしいという願いだけを胸に、手に持っている剣を空高く振り上げた。すると、眩い光が剣から放たれ、雨酸血祭の雲と同じ広さのバリアが張られた。これでバリアが傘の役目を果たして地上を守ってくれる。奇しくも、俺の願いが叶えられる形となった。
「へへっ、これでもうお前の攻撃は効かないぜ?」
たまたま成功した技を、いとも狙ってやったんですと言わんばかりに強がりの姿勢を見せる俺に、零も段々と後がなくなってきたのだろう、悔し気に歯噛みして俺を睨む。
「くっ! 全く、あなたという人は理解できませんね……。さすがは人間……まぁいいでしょう。ここまで頑張った人は人間では初めてですから……仕方ありません、私の最後の型をお見せしましょう。今まで誰もこれを使った後に生き残った者はいません。行きます! 漆の型『舞踏・散血祭』!!」
「いよいよ、来たか!」
俺は夜月刀と呼ばれる刀を構え零の動きを見た。彼女は、二本の刀の片方の刃先から大量の血を流し、自分の周りを囲むようにした。すると、もう片方の刀を空中に放り投げた。それと同時に、表情を変えることなくジャンプして体を捻り、宙を旋回している刀を俺に向かって蹴り飛ばした。
「まずい! ……うわっと!!」
全くもって、零は危険だ。何せ、今の俺は正しく危機一髪と言わざるを得ない状況だったからだ。後ろにはコンクリの塀。目の前には刃先を俺に向けて、青い瞳を見開き俺を睨み付けている護衛役の少女。しかも俺の左脇には、先程零が蹴った片方の刀が突き刺さっていた。刺さったばかりで、まだ僅かに震えている刀身。霊もその驚きの光景に、何の言葉も発することが出来ないようだ。
「言っておきますが、私のこの型はまだ続きがあるんですよ? ですから、最後まで頑張って耐えてくださいね?」
「――ッ!?」
ヒュン!!
今まで無表情だった零が急に作り笑顔をしてきたので、俺は怪しく思った。しかし、そのおかげで咄嗟にその攻撃を躱すことが出来た。零の横をすり抜け、前転をして躱す俺。
我ながらカッコイイと思う。しかし、この状況ではそんな冗談を言っている暇はなさそうだ。その証拠に、俺がさっきまでいたコンクリのブロック塀には、零が振るった剣戟の跡がくっきりと刻みつけられていたのだ。
――もしも俺の反応が一秒でも遅ければ……ううぅっ、想像しただけでも身の毛がよだつ……。
「へぇ、なかなかやりますね。では、次の攻撃は躱せますか?」
零は、片足を後ろに引き上半身を少し捻ると、舞花刀の片方を逆手に、もう片方を順手に持って勢いよく回転した。凄まじい勢いによって足から火花が散り、コンクリートにも少しばかり黒い跡が残っていく。
すると、ヒュンッ! という音と共に、四方八方から風を纏った血の刃が飛んできた。
「くっ!!」
俺はその場で軽くジャンプして背中を猫背にし、体をカタカナの『コ』の字にしてそれを躱した。
「あ、危ねぇ……」
「休んでいる暇はありませんよ?」
「くっ!?」
――いつの間に……?
零は一瞬にして回転を止め、俺の背後に回っていた。流石の俺でもこの攻撃は躱せるはずもなく、攻撃をまともにくらってしまった。
「ぐはッ!」
余程切れ味がいいのか、零の一閃が俺の脇腹辺りを勢いよく切り裂いた。
切り口から溢れ出る大量の血……。
――これは、何だか零に勝っても大量出血で死ぬか、貧血で倒れそうだな……。
「これで終わりです……!」
クックッと巧みにジグザグと向きを変えながら、零が死角から攻撃してくる。しかし、俺はその攻撃を見事防いでみせた。
「ぐっ!!」
「そ、そんな……!? 今まで溜めておいた全魔力を、この一撃に籠めたのに……」
「そいつは残念――だったなッ!」
俺は今までの攻撃の分のお返しとばかりに、相手が女だろうと容赦なく剣を斜めに振るい、袈裟斬りをお見舞いした。
「ぐあぁぁぁぁぁぁっ!!」
バキンッ!
ジュンッ!
ブシィィィィィィィィイイイイッ! ドンッ!!
俺の一撃によって零の舞花刀の刃は折れ、しかも俺の斬撃によって右肩から左腋腹にかけてを斬られた零は、その衝撃でコンクリートのブロック塀に吹っ飛ばされ背中を激しく打ちつけた。
「うぅ、あぁっ……ぐぅっ!」
どうやら一番肩へのダメージが大きかったらしく、痛みのあまり肩を押さえる零だったが、どんどん手や制服が血で汚れていくだけで出血が止まらない。
俺は体をよろめかせながらも零に近づいた。その動きに気付いたのか、零は下唇を噛み締めながら折れた舞花刀を手に取った。しかし、俺の動きの方が早く、その細い首元に剣先を突きつけた。
すると、零は顔を俯かせ含み笑いをした。
「ふふっ……。人間に負けてしまいました。全く、あなたには完敗ですよ神童さん。さぁ、もう既に闘う時から覚悟は出来ています。どうぞ、首を切ってください!」
あろうことか、零は霄の時と同じように俺に首を斬るように頼んできた。
「はぁ~お前もかよ……ったく。断るッ!!」
「――っ!? 何故ですか?」
信じられないと言った顔で訊く零に、俺は言った。
「嫌なもんは嫌なんだ!」
「なるほど……。髪の毛が邪魔で斬れないのですね?」
そう言って零は、三つ編みの一部と残りの青い髪の毛をサッと右に寄せ、頭を右側に倒して首を斬りやすいようにした。
「さぁ、これでいいでしょう?」
「そういう問題じゃない!! 俺は、お前を殺さないってことだよ……」
「どうしてですか? 私はあなたに負けたんですよ? ……早くっ!」
何やら切羽詰まった様子で零が俺の剣を手で掴む。無論この刀は真剣で刃もあるため、手の平が切れて赤い血が流れた。
赤い血が、彼女の白く細い腕をゆっくり流れていくのを見て、俺は悲しい表情を浮かべて零に訊いた。
「……そんなに、殺されたいのか?」
コクリ……。
黙ったまま、ただ頷く零。そんな彼女の覚悟を感じ、俺は嘆息交じりに口を開いた。
「……分かった。そんなに死にたいなら、お望み通り殺してやるよ!!」
「なっ!? ダメだよ響史!!」
俺が血迷ったのではというように、慌てて止めにかかる霊。
「止めるな!! 命を粗末にする奴は、一度くらい命の大切さってのを学ばないといけないんだ!!」
声を張り上げ叱咤した俺は、剣を横向きにして勢いよく振るった。咄嗟に眼を瞑る零と、妹が死ぬ姿なんか見たくないと慌てて顔を手で覆い隠す霊。
しかし何の音も聞こえない。それを疑問に思ったのだろう、ゆっくり零が眼を開くと、ヒラリと足元に落ちる青い髪の毛。
「な、何のつもりですか……?」
一体何がしたいんですか? と言った怪訝な顔でこちらを見る零に、俺は鼻を鳴らしてこう言った。
「ふん、女にとって髪の毛は命みたいなもんなんだろ?」
「そ、それは……」
何か言いたそうな顔をしているが、言い訳は聞かんとばかりに先に俺が声を発し、続ける。
「さっきからその前髪うっとうしかったんだよ。うん、これでスッキリした」
今更ながら、先ほどのクサいセリフが恥ずかしくなってきた俺は、少し赤くなりながら照れ隠しで頭をかいた。
「あ、ありがとう……ございます」
零から聞こえてくる御礼の言葉。その眼には、一瞬だが涙を浮かべていた――ように見えた気がした。
というのも、零の今の凄惨な血まみれの姿を見ていて目が合わせられなくなり、確認できなかっただけなのだが……。
「き、響史……。ありがとう、零を許してくれて」
「いや……。だが、この戦いの跡どうするんだ?」
妹に加えて姉の霊にもお礼の言葉を言われた俺は、荒れ果てた道路やその周辺を見て訊いた。すると、表情が少しだけ柔らかくなった零が答えた。
「それは、大丈夫です……。後で私が責任を持って直しておきます」
零の言葉を聞いて、俺は少し安心した。
「そうか。それはよか……っ――」
バタッ!
安心したというのもあるが、やはり俺の方も出血が多すぎたようで、その場に倒れてしまった。
同時、意識が完全にシャットダウンされて闇に飲まれてしまった……。
気がつくと、俺は何故か霊におぶられていた。
「お、おい霊、何やってるんだ! 下ろしてくれ……!」
「ダメだよ。まだ安静が必要なんだから……」
霊に言われ、俺は仕方なく言うことを聞いた。背中が凄く温かい。これが女の子の背中……。小さい頃に姉におぶられた事はあるが、自分よりも後に生まれた女の子におぶられるというのは、男として少しばかり情けなく思う気持ちと、恥ずかしいという気持ちがあった。
ふと視界を広げると、霊の隣に零の姿も見受けられた。袈裟斬りの傷跡が綺麗さっぱりなくなっている所から察するに、どうやら霊に治してもらったようだ。
まぁ、俺もそれを見越して一時的な瀕死状態に陥らせたんだしな。……ほ、ホントだぞ?
ただ、顔や体、その他衣服に飛び散った俺の返り血や自分の血は拭き取っていなかったようで、血みどろな雰囲気ぷんぷんだった。
せめて顔や体に付着した血くらいは、拭いてもよさそうなものだが。
しばらくして、俺は霊におぶられたまま家に帰り着いた。
霊が玄関ドアを開けると、霄が腰に手を当てムスッとした顔で立っていた。
そして一瞬俺を睨んだかと思うと、俺の状況を見て、心配するどころか「ふふっ」と笑い出した。
「何だよ霄! 人がこんなにも怪我だらけで帰ってきたのに、心配するよりも笑うって!」
「ふふっ……悪い悪い、少し不意を突かれたのでな。にしても、何というザマだ……誰にやられた?」
「お前の妹だよ」
霄の質問に、躊躇なく俺は半眼で即答した。
「――っ!?」
「お久しぶりです、姉上……」
零がひょっこり玄関から顔を覗かせる姿を見て、目を見開きハッとなる霄。だが、自分から訊いておいてそこまで驚くのか?
「れ、零……なのか?」
「はい……姉上。会いたかったです!!」
零は今まで見せなかった悲しみの表情を浮かべて、涙をボロボロ流しながら霄に抱きついた。さすがに血まみれの服のまま抱き着かれるのはどうかとも思ったが、然程霄は気にしている様子もない。
「そうか……。私もお前に会いたかった。よしよし、これからはずっと一緒だからな」
「本当ですか?」
霄の言葉に、零が真偽を確かめるように、無垢な子供のような愛くるしい眼差しで訊いた。すると霄は、少し調子が狂うみたいな顔をして零を抱き留めたまま言った。
「いい加減身内に対して敬語を使うのは止めたらどうだ?」
「は、はい……グスッ!!」
敬愛する姉の霄に言われても、零は敬語を止めようとはしなかった。まぁ、それも個性だしな。
零は崩れ落ちるように床に膝をつき、しばらく泣き続けた。
俺は、霊におぶられたままその光景をボ~ッと眺めていた。何というか、昔を思い出す。俺の家族……。
――母さんと父さん、元気にしてるかな……。
俺はそんなことを思いながら霊に話し掛けた。
「なぁ、お願いがあるんだが……」
「ふぁ~あ、何?」
――えっ? 何で今欠伸した? まぁいいや。
霊は霊で、今回俺の頭痛を治してくれたり零の怪我を治してくれたりしたから、その分疲れが出て眠くなったのだろうと思うことにした。
「俺を二階に運んでくれるか?」
「う~ん……じゃあ今度、魚料理作ってくれたらいいよ?」
――うわ、現金な奴。あっ、そういえば……。
魚料理という言葉を耳にして、弁当の一件を思い出す。
「霊、お前料理作れるのか?」
「え?」
俺の質問に疑問符を浮かべてきょとんとなる霊に、俺は言った。
「実は、俺の弁当がいつの間にか魚料理だけになってて……」
この説明で、霊がようやく思い出したというように声を発する。
「ああーっ!? そうだ、せっかくお昼ごはんの時に食べようと思って弁当箱に入れたのに、いつの間にか私のお弁当なくなってるんだもん! 響史、間違って私の弁当持ってったんでしょ?」
「あ、ああ……そうみたいだな。てか、それじゃあお前は昼どうしたんだ?」
「ああ、うん。響史が作ったお弁当食べたよ? 美味しかった~♪」
まるで悪びれていない。まぁでも、取り違えたのは俺の方みたいだし、不問にしておくか。とりあえず、これで事の顛末は大体わかったな。
「で、結局お前は魚料理作れるのか?」
「うん、魚料理“だけ”は作れるよ?」
――あ、やっぱり猫だね。
やはりこいつは紛れもなく猫だと、俺はこの時改めて確信した。
「とにかく、ちゃんと魚料理作ってくれるんだよね?」
「あ、ああ……いいぞ」
しつこく再確認してくる霊に、笑顔を引きつらせながら、俺はそう言った。
――まぁ、今回霊も頑張ってくれたしな。
「やったぁ~♪」
腕を高く上げ、霊は大喜びの様子だ。
――全く、お前はどんだけ魚が好きなんだ。
霊に魚料理を振る舞う約束をした俺は、無事二階に運んでもらった。
それから血で汚れた制服を自分で脱ぎ、とりあえず近くのテーブルに置くと、寝巻きに着替えてゆっくり布団の中にもぐりこんだ。
――はぁ、今日はほんと大変な一日だったな。ルリの腕輪のおかげで出てきた剣も、気がついたらなくなってるし。まぁ風呂は後で入るとして、とりあえず今は体を休めよう……めちゃくちゃ眠い。にしても凄いな……体のあちこちの怪我も、あの剣のおかげで綺麗さっぱり消えてるし……。
こうして慌ただしい一日の出来事を思い返しながら俺は就寝した……。
というわけで、無事三人目の護衛役である零に勝利した響史。そして、今回初登場した聖剣『聖夜の月夜』。まだ、全能力を解放してはいませんが、何度も使う内に徐々に力も解放されていくと思います。
ちなみに、あのあとちゃんと道路は零が元に戻しておきました。でないと、周囲の住民が騒ぎを起こすかもしれませんからね。
次回は霊が中心の話です。




