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魔界の少女  作者: YossiDragon
第一章:四月~五月 護衛役『現れし青髪の脅威(前)』編
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第一話「魔界の少女」

 事件は夜遅くに起きた。

 時刻は午後十一時半。

 唐突だが、俺は都立『光影学園』に通う高校一年生の『神童響史(しんどうきょうし)』だ。


――えっ!? なぜこんな夜遅くに外をウロチョロしているのかって?




 それはあれだ……。俺には悪友がいるのだが、その悪友が学校の帰り道に俺に絡んできて、一緒にゲーセンなどで遊び回るはめになった。

 その結果、家に帰る時間が遅くなり、挙句の果てに食材がないことを思いだし、しょうがなくコンビニに寄る事にしたのだ。

 確かに家に帰れば親が既に晩御飯を用意しているのではないか? と思う人もいるだろう。

 だが、生憎と俺は一人暮らしをしている。元々は、母親と父親と弟と、少し年の離れた姉(といっても二十歳なのだが)と、俺を含めた五人で暮らしていたのだが、その姉が現在男と一緒に生活しているらしく家にいない。

 また、俺の両親は、家のローンを返したり生活費を稼いだりするために遠くへ仕事しに行っている。

 さらに弟は、友達の家に泊まりに行ったまま、未だに帰ってこない。

 結果、家には俺一人しか住んでいないので独り暮らしすることになったのだ。

 俺は最寄りのコンビニを目指して夜の路地を一人さびしく歩いていた。まだ四月上旬で、夜ということもあってか少し肌寒い。

 そして、俺が暗がりの路地を抜けて奥の方に見えているコンビニを目指して歩いていたその時、通行人も誰もいない真夜中に、空から誰かの声が聞こえてきた。


「どいてぇ~!!」



 俺はとっさの出来事に躱す事が出来ず、そのまま誰かとぶつかった。


「いってぇ~、何なんだいきなり……」


 物凄い勢いで衝突した何かにふっとばされた俺は、地面に打ち付けた後頭部をさすりながら目の前を見てみる。すると、煙がモワモワと舞い上がりアスファルトがヒビ割れてヘコんでいるのが見えた。


「――ッ!?」


 俺はよく眼を凝らして見てみた。すると、舞い上がる砂煙の中に人影があった。

 そして俺は、その人影の正体が俺と同じくらいの年齢の少女だということに気付いた。

 しかも、その少女が身に着けている不思議な印象を与える服装に、俺は疑問を抱いた。


「お前、誰なんだ?」


 気づけば俺は、咄嗟に彼女に質問していた。

 声が聞こえたのか、その少女はゆっくりとこちらに顔を向けた。

 蜜柑(みかん)色の髪の毛をなびかせ、その髪の毛が電灯の光に反射し綺麗な色をかもし出す。

 俺はしばらくの間、彼女の綺麗な髪の毛に見とれてしまっていた。

 その時、謎の少女の瞼が開かれる。

挿絵(By みてみん)

 その美しい檸檬(れもん)色の瞳に一瞬何かを思ったが、肝心なそれが思い出せなかった。

 と、俺が考え事をしていたその時、目の前の少女がふと上を見上げたかと思うと、


「危ないから逃げて!!」


 と、俺に向けて言い放った。


「え?」


 俺は少女が何を言っているのか分からず、その場に尻餅をついたままだった。しかし、背後にふと嫌な気配を感じたため、さっと後ろを振り向き上を見上げると、青い髪の毛をした謎の少女が、月夜をバックに電柱のてっぺんに立っていた。


「一体何なんだ!?」


 訳が分からず、俺は叫んだ。すると、電柱の上に立っていた少女がスッと姿を消したかと思うと、突然目の前にズイッと現れた。


「――ッ!?」


 咄嗟に身の危険を感じ、目を瞑り両腕で顔面を防御したが、相手から攻撃される寸前で、俺は言葉を発する暇もなく、ツインテールの少女に後ろにグイッと引っ張られた事によって、緊急回避に成功した。


「後ろに乗って!」


 少女にそう言われ、俺は言われるがままその華奢な肢体をした女の子の背中に乗った。

 背中に乗ったことを確認した少女は、


「いい? しっかり掴まっててね? じゃあ――行くよっ!!」


 と言って、勢いをつけるために足を強く踏み込み、その場から高く飛び上がった。同時に少女は、背中から真っ黒な漆黒の翼を展開する。


「な、何だこれ!?」


 俺は、今まで体験したことのないような出来事の連続で、思考回路が上手く機能していなかった。

 



 気がつくと、俺は謎の少女の背中に乗る――というよりも、おぶさるような感じで空を飛んでいた。ふと下の様子を眺めると、美しい光影(こうえい)都市の夜景が広がっていて、俺は少し感動した。しかし、今の俺にそんな暇はなかった。後ろから、先ほどの少女が追いかけて来ていたのだ。


「うわっ、来た!!」


「ちょっと黙っててくれないかな? 飛ぶのに集中出来ないから……」


「悪い……」


 後方から迫る敵に焦り騒いでいる所を少女に注意され、俺は謝罪して口を閉じた。




 しばらく夜の空を飛行していると、今度は向こうから話しかけられた。


「この近くに隠れられるところとかない?」


「えっ? そうだな……学校とか?」


「ガッコウ? まぁ、いいや。そこに案内してっ!!」


 唐突な質問をされ不意に浮かんだ候補名を挙げただけに、急に案内を頼まれてしまい少し戸惑ったが、「ああ……」と返事をして、俺の通う都立『光影(こうえい)学園』へ案内した。




 案内を開始して数分後、俺達は光影学園の真上に到着した。

 ゆっくりと運動場に着地し、そこから南にある昇降口とは別の、鍵のかかっていない秘密の入口へと向かい中に入っていく。

 俺は、その秘密の入口を三つほど知っている。中には、もっと知っているという人間もいるらしい。


――にしても、不用心すぎないかこの学園? 警備員たちは一体何をしているんだまったく……。



 俺は少女の手を引いて必死に走りながらそう思った。

 走り続けていると、ちょうどいい所に、鍵がかかっておらず開きっぱなしの教室を見つけた。


「こっちだ!」


 と声をかけ、少女の手を引いた俺は、誰もいないことを確認し、教室内に入った。辺りを見回し、ちょうどいい隠れ場所がないかどうか目視で探す。

 しかし、時間も遅く、外の月明かりも届かないこの場所では、暗闇に目が慣れていたとしても探すのは少し難しい。

 とりあえず、ふと目に留まった掃除用具箱の中に、二人で隠れることにした。


「ここなら誰もいないし、見つかる心配もないはずだ」


 掃除用具箱の中は、ただでさえ狭い上に掃除道具などが入っているため、空間がとても狭い。さらに、普通なら一人くらいのところを、無理やり二人で入っているのだ。そのため、俺の体と少女の体は凄く密着していた。


「うぅ……ごめんな、こんな狭い場所しかなくて」


「ううん、私は大丈夫……」


 狭い空間のため顔を上げるのも難しいのだろう。少女は顔を上げず、俺の胸に顔を密着させたまま言葉を返した。

 俺は、いつもは賑やかな学校が静まり返っていることに少々違和感を感じながら、ふと腕時計を見た。真っ暗な視界を、デジタル時計の光が(ほの)かに明るくする。


――やっば、もう12:30じゃん!!



 心の中で叫んだ俺は、頭を抱え込むように唸った。


――つ~か、何なんだこいつは! いきなり目の前に現れてなに!? しかも、何で空飛んでたんだ? 何なんだ、さっきの襲ってきたやつは? あいつもまさかこいつと同じ類なのか?



 そんなことを考えて無意識に唸っていると、いてもたってもいられなくなったのか、少女が話しかけてきた。


「ねぇ、あなた名前は?」


「えっ? 神童響史だけど……」


「ふ~ん……あっ、私の名前は『メリア=ラルロスト=アルゴン』。皆からは“ルリ”って呼ばれてるの。よろしく♪」


 俺は少女の――いや、ルリの名前にあることを思い、思い切って質問した。


「お前って、外国人なのか?」


「外国人ってゆーか、私は魔界の人間なの。私は魔界の大魔王の娘だから……」


 一瞬にして度肝を抜かれた様な感覚を感じた。


「えっ、魔界の大魔王の……娘?」


「まぁ、人間界で言うなら、貴族のお姫さまみたいな感じかな?」


 顎に人差し指をあてがい、少し首を傾げながらルリが言った。

 と、そんなことを話している間にも時間は刻々と過ぎていき、ついに時計の針が真夜中の一時を指した。


「もうこんな時間か……」


 改めて腕時計で時間を再確認しながら呟くと、ルリが外の様子を気にかけながら声をあげた。


「そろそろ、あの子も諦めた頃かな……」


 その言葉を聞いてようやく狭苦しい掃除用具箱から出る事になった。念のため警戒は怠らずに……。


「そういえば、さっきの奴は一体誰なんだ?」


 掃除道具に僅かに付着していた埃などが洋服についているとアレなので、それを手で叩き落としながら、先刻の敵について訊ねる。

 すると、ルリも同様に服を叩きながら周囲を見渡して答えた。


「詳しい事は後で話すよ。今はとにかく身を隠していられるような場所が必要なんだけど、どこかいい場所ない?」


「そうだな――」

 

 しばらく考え込んだ結果、我が家が一番安全だという答えに辿りつき、俺は思い切って少女に提案した。


「――じゃあ……(うち)に来るか?」


「う~ん、そうだね。分かった、連れて行って!!」


「……ああ」


 俺は頭をかいて返事をすると、ルリの手を引き教室から出て学校を後にし、家まで走って行った。最初はてっきり、さっきみたいに空を飛んでいくのかと思ったが、飛べばさっきの少女に見つかるとかなんとかで、結果的に徒歩になってしまった。




 俺の家は豪華って言う程大きくはなく、かといって貧相なまでボロボロの家に住んでいる訳でもない。俺の家の周りは住宅地などで囲まれていて、少し離れた所に『光影中央公園』があるくらいだ。

 また、学校までは、俺だけが知る秘密の通路を通って学校に通っているため、いつも学校に着くのが早い。本来の道を通れば、すごく時間がかかってしまうからだ。今回もその逆ルートで学校から家へ向かっている。


「さぁ、着いたぞ!」


 自分で家を指差した瞬間、あることが俺の頭の中をよぎった。


「あっ、そういえばコンビニ行くの忘れてた!! まずい、今からじゃ間に合わない!!」


 普段は24時間営業なのだが、この近所のコンビニは、最近の深夜帯の事件の連続で警戒が強まっており、営業時間を短縮しているのだ。

と、俺が頭を抱えてその場に座り込んだその時、ルリが俺の肩に手を置き微笑みかけながら言った。


「そんなことなら私に任せて? 今すぐ行って来るから、何を買って来ればいいか教えて?」


「ええ~と、じゃあ……このメモに書かれている物を買ってきてくれ! 金は、この中にあるから……」


 そう言って俺は、ルリにお金とメモを手渡した。


「じゃ、行ってくるね~♪」


 ルリは高く飛び上がり、悪魔特有の真っ黒な羽を羽ばたかせながら、コンビニへと向かった。


「大丈夫か?」


 俺が少し不安になりながら家の玄関のドアノブに手をかけたその瞬間、風が俺の背中に強く吹きつけた。


「な、何だ?」


 さっと振り向くと、そこにはルリが立っていた。しかも驚くべき事に、片手に頼んでいた物が入ったコンビニの袋を持っている。


「す、すげぇ……。もう買ってきたのか?」


「これでも時間がかかったほうだよ……。本当はもっと早いんだけどね」


 ルリの言葉に俺は息を呑んだ。


――俺のこの俊足を持ってしても、こいつの速さには負けるだろうな。



 俺はそう自覚した。ちなみに、俺は結構足が速い(自慢)。

 ルリを連れ、玄関ドアを開け家の中へと入る。……中は、相変わらず静まり返ったままだった。


――まぁ、誰もいないんだし当たり前か……。



 溜息をつきながら、俺は靴を脱ぎ散らかした。その様子に、ルリは驚愕の表情を浮かべていた。恐らく、大魔王の娘だとか言ってるから、貴族育ちで靴をこういう風に脱ぎ散らかしたりしたりしないのだろう。そもそも靴を脱ぐ文化もないかもしれない。


「とりあえず、二階に行くぞ!」


「う、うん……」


 ルリは少し気の置けない返事をした。まぁ無理もない、敵がいつここを嗅ぎ付けてくるか分からないからだ。

 階段を上り終え、廊下を進んで俺の部屋の前に着くと、ドアを開け中に入った。

それから悪魔の少女をその場に座らせたところで、飲み物でも持ってこようと台所を目指して足早に階段を駆け下りた。

 冷蔵庫から買い溜めしておいたお茶を取り出し冷蔵庫を閉めると、ほったらかしにしているルリの事が少し気になって、急ぎ部屋へ戻った。

 部屋に入ると、ルリは俺の持っているマンガなどを見て笑っていた。


「ふふっ、人間界には面白いものや興味深いものがたくさんあるんだね……。やっぱり来て良かった~。最初は何もかもが不安でしょうがなかったんだけど、私の選択は正しかったよ」


――選択? 何の話だ……?



 俺は首を傾げ片眉を少しつり上げたが、今は起きている事情について訊こうと、その場に座り真剣な表情で彼女に問うた。


「それで、さっきの話の続きは?」


 その言葉を聞いたルリは、冷静に深呼吸をし、マンガを元の棚に戻して俺の机の椅子に座ると、背もたれにもたれかかった。


「私が魔界から来た大魔王の娘だってことは、さっき話したよね?」


「ああ……」


「実は私、魔界から家出してきたの……」


「どうしてまた?」


 俺の質問に、ルリは一瞬先ほどの追っ手が気になったのか、真っ暗な外の景色を眺め、しばらくして俺の方に視線を戻すと、質問に答えた。


「お父様との暮らしや、今の生活が嫌になったの。毎日毎日、暗がりの部屋でいつも勉強してばかり。そんなのつまらないだけ……。だから私は、ここに自由な生活を求めて来たの。でも、すぐに追っ手に見つかった。さっき私達を襲ってきたのは、魔界の住人で『護衛役』って言うの……」


「護衛役?」


 初めて聞く言葉に、俺は興味を抱いた。


「その護衛役……って何なんだ?」


「うん。護衛役っていうのは、私達のような位の高い人達を護ることを言うの。魔界(つわもの)戦士育成教育学園――通称『魔界学園』の優秀な成績を残した卒業生にのみ与えられる称号。それが護衛役。今年は、最悪なことに最強の十二人が称号を受け取ったの……」


「最強の十二人?」


 俺の言葉にルリはコクリと頷いた。


水連寺(すいれんじ)一族。今年の護衛役は、どういうわけか偶然にも十二人全員同じ血を持った、古の一族である水連寺一族が引き継いだの。海の様な綺麗な瞳に空の様な透き通った髪の毛。それが彼らの特徴。それぞれ一人一人が特別な力を持っていて、その力量は計り知れない。恐らく、それも理由の一つになって、今年の護衛役が彼らに決まったんだろうね。……ここまでのことで何か分からない事はある?」


 ルリは、念のためなのか俺に確認を取った。しかし、俺にとっては何が何なのか、いまいちまだ理解出来ていなかった。


――はっきり言って全然わからない……。



 だが、ここにいる少女が間違いなく魔界の人間でお姫様だということは分かった。


――にしても、さっき話していた護衛役っていう強い奴らがここに来たらどうする? 魔界で最強だって言われてるやつに、人間の俺が勝てるのか?



 そんな不安な思いが、俺の頭の中を駆け巡る。


――☆★☆――


その頃、上空では……。


「ふっ……ようやく見つけたぞ、姫様」


 月明かりに照らされ、青空の様な色をした髪の毛をなびかせながら、謎の少女は電柱の上に佇んでいた……。

というわけで、今回は学園物の小説を書いてみることにしました。この話は別サイトでも投稿しているものを転載させてもらったものです。突然空から少女が降ってくるという何ともベタな展開ですが、多めに見てください(汗)。最後に出てきた少女は一体何者なのか――まぁ大体分かると思いますが(笑)。

更新頑張りたいと思います。

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