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パンドラわーるど!!

作者: 分福茶釜

 何だこれは……


 部屋の中で胡坐をかき、腕を組みながら俺は目の前の箱を見つめる。この箱、俺が大学から今一人暮らししているこの安いアパートに帰って来た時に俺のポストに突っ込まれていたのだ。もちろん俺はこんな箱で届けられるようなものは通信販売で買った覚えはないし、誰かからの贈り物にしては包装が粗末だ。薄汚れた茶色い紙に包まれたその箱はどう考えてもお歳暮とかそういう感じのじゃない。では、田舎の親か?田舎の親が息子に何か送るのなら粗末な包装でも納得がいく。


 しかし、送り主の宛先とか郵便局とかのマークが一切この箱にはない。俺の親はいっつもトラネコヤマト郵便を使うからそういう判子とか何とかが包装紙に一杯あるはずだけど、この箱には全くそれがない。っていうかそもそも郵便局で送られてきたものじゃないかもしれない。

 とすればこれはいたずらの類か。まあ何にせよ中身が非常に気になるのは確かなことだ。だが……しかし、しかしだ、仮に悪質ないたずらだとしたら開けたくない。例えば藁人形とか、古い日本人形とか、お札とか、凶器とか、目玉とか、そんなのが入っていたら俺は絶対気絶する。それに数日間は絶対に引きずること必至。そしてそういうのって処分に困る。簡単にゴミ箱とか捨てられない。だから開けたくないのだが……中身が気になってこのままじゃ俺、眠れない気がする。



 あ~……なんだかんだグジグジと考えたわけだが、開ける!!もう駄目。気になる。いたずらだったら速攻で警察に連絡だ。ケータイを110番状態で発信を押せばいい状態にしておく。そしてどんなものが入ってても絶対に驚かないぞ、と心構えをする。っふ……これで俺は何も恐れない。目玉でも指でも、出てこいやー!!


 びりびりとやぶ……らないで俺は包装をのりづけの部分をゆっくりとはがしていく。そうして俺は茶色い包装紙を全く破らずに取り去ることに成功した。さすがは中学の頃美術の評価で5をとった俺の腕。なまってなくて良かった。包装紙の下から出てきたのは真っ黒で光沢のある箱だった。何かめっちゃ高級そうな箱だ。高級そうな箱って変だが、宝石とか大事なもの入れる箱って感じの奴だ。何だかこったつくりの鍵が箱の上にちょこんと乗っておりこれを黒い箱にある鍵穴に入れて開けろということらしい。


 なんか緊張してきた。今までも緊張していたがなんか別の意味でドキドキしてきた。さっきまでは怖くてびくびくって感じだったが今の心を言葉で表すと……わくわく……かな?俺は箱の上の鍵をとるとそれをはこの鍵穴に入れて回した。がちゃりと小気味良い音がしたことで箱の鍵が開いたことを俺は理解する。

 よし……俺は気合を入れると箱を開けた。…………そして直後後悔した。





 俺が箱を開けると、刹那何か黒いおどろおどろしい物がどばあああああって感じで出てきたのだ。例えるなら蛇口から水を出しているのを手で押さえるとびしゃああって水が自分にかかるみたいな感じ。うん……なにこれ?俺の凡骨頭では理解しがたい光景が広がっている。安アパートの狭い部屋いっぱいにガスみたいな靄みたいな化け物たちがうようよしている。目玉がいっぱいあったりでっかい口があったり。

 俺がボケッと声も上げられずそいつらを見ているとそいつらは俺なんかには見向きもしないで俺の部屋のドアを壊すと俺の部屋から出て行った。


 しばらく俺は焦点の合わない目でボーと部屋の天井と壁の境あたりを見ていたがしばらくして俺の凡骨頭はこんなことを考え始める。もしかして俺の幻覚だったんじゃね?ってやつだ。大抵人間は理解しがたい光景を見た場合、幻覚か夢だとまず疑う。俺もその一人だ。まあ、いい。俺に実害はなかったわけだし。……何か飲んで落ち着こう。うん、それが良い。俺は立ち上がって冷蔵庫へと足を進めようとした。


「おい、そこの屑男!!」


 背後から何か声が聞こえた気がするが俺は構わずに冷蔵庫に向かう。


「こら!!無視するな!!」


 お、そう言えば昨日買ったプリンが残ってる。あれを食べよう。賞味期限、切れて無かったよなあ……


「無視をするなと…………言っておろうがああ!!!」







 とうとう反応しない俺に怒ったのか声の主は俺にとび蹴りをかましてくる。もろに食らった俺はその場に思いっきり倒れてしまった。いくらなんでもこれはひどい。っていうか屑男って……普通に失礼な奴だ。俺は怒っていいと思う。


 俺は痛む体を起して、失礼極まりない何者かに目を向ける。そこにいたのはえらそうに腕を組んだ小さい女の子だった。女の子が俺の部屋にいると言うことだけで驚きなのだが、その女の子の格好もまたフツーではなかった。黒い服で、ゴシックファッションという奴だろうか。俺は男子物のファッションにすら疎くて、女性物ならなおさらだが、漫画とかのキャラが着てそうなフリフリしたやつだ。そっち系の人が見たら喜びそうだな。しかもその少女の髪は金、まず日本人じゃない。そんで目ん玉の色が左目が赤で右目が緑、左右で違うっていうね……確かオッドアイって奴だったと思うが、人間ってオッドアイが存在するのか?犬なら見たことあんだが。………………ああ、そうか。さっきのは幻覚じゃない。多分夢だ。そしてこれは夢の続きなんだ。俺は俺自身の常識を逸脱した夢に少し驚きながら、どうやり過ごそうかと考えるが、全く解決策は浮かばない。そうこうしているうちに少女が俺に声をかけてきた。


「おいっ屑男!!お前は自分が一体何をしたのか分かっているのか!!」


 子供なのに無理に偉そうな言葉を使っている感じがなんともほほえましい。俺はなるべくその少女に優しく話しかけた。夢の中で相手に気を使うのもなんだかなぁ……なのだが。


「君はどうしてこの部屋にいるのかな?早くお家に帰りなさい」


「やかましい!!屑男!!我の質問に答えろ!!」


 ムカッ……っとおっといけない。ここはぐっと我慢しないと。それに夢だし。


「質問って言っても、全然分かんないけど……」


 そう言うと彼女は眉を吊り上げて、蔑みの目を俺に向ける。


「お前は我の封印していたパンドラの箱を開けてしまったのだ!!この愚か者の屑男めがっ!!」


「パンドラの箱?……あの開けたら世界滅亡って奴?」


「そうなのだ。……屑男だが知識はあるようだな。説明が楽で助かるぞ、誉めてやろう」


 誉められてるんだか誉められてないんだかわからんが、どっちにしろ屈辱的だよなあ。けなされるのはまぁ、置いといてこんなちびっ子に誉められるって……


「んで、そのパンドラの箱がどうしたのよ?」


 なかなか進まない会話に俺はいらいらしながらエラそうにしている少女へストレートに疑問をぶつける。


「……その前に、我は生贄を欲している。何か我に供物をささげるがいい、屑男」


 台所を指差しながら得意げにしている少女は、つまり……飯をよこせということだろうか。何と言う高圧的な態度。一瞬、素で生贄って何?何あげればいいの?とか思っちゃったじゃねーか。こんなふうに育てた親の顔が見てみたいわ!!


 ……とは言いつつも、自分も空腹であることに気がつく。確か昨日のカレーがあったからあれを温めるとしよう。そんでこの少女が満足するかは知らんけど、まあいい。食わせたらすぐに追い出そう。


「何だこれは?」


 鍋のカレーを温めなおそうとしているところに少女がひょっこりと顔を見せる。ぐっと背伸びをして鍋の中のカレーを興味津津といった様子で覗きこんでいる。


「……カレーだよ。食べたことないのか?」


 初めて見たみたいな顔をしていた少女に俺は普通にほんとに何とはなしに聞いてみた。そしたらその少女は何を思ったのか、「お前が日ごろ食べているような低俗なものは食べないだけだ!!」と何か不満そうな顔で俺に怒鳴った。この発言はカレー好きの人全員を敵に回すと思う。給食で人気ナンバーワン!!といってもいいカレーを低俗って、給食楽しみにしている小中学生に謝れ!!


 しかし、俺がカレーを温めている間ずっと鍋を見ていたのは、やはり気になるからだろうか?心なしかわくわくしているように見える彼女は、見た目相応のかわいらしい子供といった感じだ。やっぱこんな小さい子が我とか屑男とかいうもんじゃないよ。うん。


「何をしている。終わったならさっさと皿によそうのだ!!屑男」


 ……少女の言葉は置いておいてだ、俺は朝の残りのご飯をレンジでチンするとそれを素早く皿によそってカレーをさっと米の上にかける。フッ……完璧だ。


「ほらよ」


「わぁい!!」


 少女を小さいテーブルの前に座らせて、その前にカレーを出してやる。俺も彼女に向かいあうような位置に自分のカレーをテーブルに置いて、座る。…………って、ちょっと待て、わぁいって今こいつ言わなかったか?俺の怪訝な視線に気がついたのか彼女は、コホンッと小さく咳払いをすると先程の口調で口を開いた。少し頬が赤い気がするが、まあ言わないでやろう。こういう奴に限ってそういうことを指摘すると逆切れするんだ……


「フ、フム。ご苦労であった屑男。ではありがたく供物をいただくとしよう」


 もしかしてこいつわざわざキャラ作ってんのか?夢の中にしてはキャラの設定に奥行きがある気がするが……まあいいや。外国人なのに日本語ぺらぺらとかその辺が完全に設定おかしいもんな。夢だから仕方ねえけど。 スプーンでカレーをすくって彼女は口へとそれを運ぶ。ここでマズイとか言われたら俺かなりショックなんだけど。……何か緊張するな。

 少し口をモゴモゴとさせてゴクリとカレーを飲み込む少女。俺は自分のカレーに手を付けることもせず彼女の反応をうかがう。少しの沈黙の後、彼女は口を開いた。


「おいし……美味であった、…………あったのだが!!」


 あったのだが?……ほっとしたのもつかの間、何!?食い入るように俺が彼女を見ていると、彼女はスプーンでニンジンをすくいだすと、ひょい…………ひょい、ひょい、ひょい


「……ニンジン嫌いなのか?」


 無言で俺の皿にニンジンを移していく少女。……何か拍子抜けというか、なんというか……呆れ気味に彼女に聞く。やっぱ子供だ。


「な!!ち、違う!!」


「じゃあ、何で俺の方にニンジンのっけてくるんだよ。」


「……固くもやわらかくもなくて…………気持ち悪い」


 どうやらニンジンの触感が気にいらなかった様子。……それをちまたではニンジン嫌いというのだよ。……だが、こんな小さいうちから好き嫌いなんてしていたら夢の中とはいえこの子の将来が心配だ。


「好き嫌いすんな!!ほら食え!!」


俺の皿に乗せられたニンジン達をスプーンにのせて少女の口へと持っていくが、つんとそれから顔をそむける彼女。……こうなったら何が何でも食わせてやる。



「なっ!!何をする!!屑男の分際で我に無礼を働くつもりか!!」


「何とでも言え。ほら!!」


 彼女の顎をつかんでニンジンの乗ったスプーンを差し出す。しかし絶対に食べないと言わんばかりにぎっちりと口を結ぶ彼女。……こうなっては仕方ない。最後の手段だ。俺はスプーンを一旦置く。そうして彼女が不思議そうな顔をしているうちに素早く彼女をくすぐった。


「ふわ!?やっ……やめろ!!」


 突然のくすぐりに彼女はたまらず抗議の声を上げる。……その一瞬を待っていたのだ。俺は素早くスプーンを手に取ると彼女の小さく開いた口にスプーンをねじ込みニンジンを放り込むと彼女の鼻と口を押さえた。

 勝った!!なんかよくわからんがこれで彼女はニンジンを食うしかない。しばらく俺の手をどうにかしようとしていた彼女だがあきらめたのかとうとうごくりとニンジンを飲み込んだ。それを確認して俺はゆっくりと彼女の口と鼻を覆っていた手をどけてやる。


「……ふぐっ……ううっ…………ぐすっ……」


 手を離して俺はぎょっとする。少女が泣きだしてしまったのだ。まずい……最悪な大人になりつつあるじゃないか……いや、もうすでになっているのか?とにかく何とか彼女を泣きやませないと……

 さすがにやりすぎたせいか泣かせてしまった少女を泣きやませるため俺は頭の脳味噌の引き出しを探し回るがなにもいいアイデアがない。というかこのくらいの歳の子供とあまり接することがないから分かるわけがない。と思っていたが、ふと、冷蔵庫のプリンの存在を思い出す。いや待て……確かに俺の冷蔵庫にプリンはあるが、それは現実の話で夢の中にあるとは限らない。……あ、でもカレーはあったよなあ。ということはプリンもあるのか? 慌てて冷蔵庫を確認すると…………あった!!ちゃんとあった!!


 急いで泣いている少女の元に戻りプリンを食べないかと猫なで声で言ってみる。機嫌を直してもらうためだ。大人げなく少女を泣かせたことに対しての罪悪感は仮に夢でも結構デカイ。……少しして彼女はごしごしと目元をこすると先程と同じような様子へと戻った。よかった……どうやら元気は戻ったらしい。

 俺の渡したプリンをちょこっとずつ食べている彼女に俺はずっと気になっていた箱について疑問を投げかける。



「んで、あの箱一体何なんだよ」


「……あれはこの世の真の絶望が詰まっていた、いわゆるパンドラの箱という奴だ。」


「真の……絶望?」


「そうなのだ。この世に絶望は数多く存在しているが、真の絶望がこの世に蔓延れば、いずれこの世界は……破滅する。」


 …………破滅?……ちょっと待てい。んじゃなにか、俺が箱を開けたせいで世界が滅亡すると。…………ま、待て!!これは夢だ。もう少しすれば覚めるはず。本気で現実にこんな話があるわけない。……そ、それより俺は彼女の正体について少し知りたい。彼女は一体何なのか。何で俺の部屋にいるのかとか……そりゃもう色々。


「んで、お前一体誰なんだ?何で俺の部屋にいる?お前もその絶望のうちの一つか?」


「そう言えば自己紹介がまだだった……我の名はメリヴェール・クレソン・ブルックフィールド。皆からは希望と呼ばれている者だ」


「……希望?」


「そう。我こそは絶望とともにあの箱に入っていた希望。絶望を抑えるためにあの箱に自分ごと封印を施していたのだ」


 絶望の次は希望か。しかし……希望にしては随分と頼りなさそうな。……それに何か希望っていうと天使的な奴を想像するんだが、この希望と名乗る少女は黒中心の服でどっちかっていうと悪魔っぽい。そんなことを考えていると彼女のオッドアイがこちらの様子を窺っていることに気がつく。

 なんだ!?……なんかいやな予感しかしない。



「……そこでだ、屑男には我とともに絶望をもう一度封印し直すのを手伝ってほしいのだ」


 うぐっ……世界は破滅…………しかも俺の軽率な行いのせいで。……これはもう嫌とは言えないんじゃ……だってどう考えても、言い訳しても俺に全責任があるじゃん。どうしよう。

 

 


 ……はっ!!いやいや、待て待て待て!!これは夢だ!!そう俺の頭ん中の夢。目覚めれば良いだけじゃないか!!早く覚めろ!!さあ早く………………………………あれ?


 夢……だよな?



続く……のか?

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