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ある国の物語

作者: 平 筏

 ふふふ、またあの話が聞きたいの?困った子ね。でも、お母さんもあの話は好きよ。

 大丈夫、そんなにせがまなくても話してあげるわ。

 とあるところにね、大きな大きな町があったのよ。大変栄えていて、それはみごとな町だったそうなの。

 そこは、みんな心の底から笑ってた。

 これ以上ないくらい幸せで、毎日が楽しくて、理想郷・桃源郷なんて言葉が本当に相応しいような場所だったの。

 泣くときは大体感動するか、誰かが死んでしまった時だけ。

 そんな所の人たちだったから、みんな優しい人たちだったの。

 唯一人を除いては、ね。


 その子は捨てられていたの。

 その町でただ一人、孤児って呼ばれる子どもだった。

 その子は絶対に笑わなかった、いつも不幸で、毎日がつまんなくて、それでも絶対に泣かなかった。

 助けようとした人もいた、話そうとした人もいた、幸せにしてあげようとした人もいた。

 でも、誰も彼女を幸せにする事は出来なかった。

 まるで、彼女はその町の不幸とか悲しみを一手に引き受けていたような存在だったの。

 彼女は大きくなるまで、何も話さず、泣かず、笑う事もなかった。


 町の人達は、とっても困ったの。

 この町はみんな幸せなのに、なんで一人だけ幸せじゃないんだろう。

 みんな幸せなのに一人だけ幸せじゃないなんて変だ。

 彼女を幸せにしないと自分達も幸せじゃない。

 彼女から不幸が染み出てる。 彼女を何とかして幸せにしないといけない。

 どうしても彼女を幸せに出来ない。

 不幸せは嫌だ。

 幸せがいい。

 彼女がいると幸せじゃない。

--彼女がいなければ幸せに、なれ、る?


 町の人達は彼女を捨てることにした。

 お母さんとお父さんからも捨てられてしまった女の子はついに町からも捨てられてしまったの。


 女の子が捨てられたのは遠い国の大きな不幸と魔法の町。


 その町には、大きな不幸が渦巻いていたそうよ。

 それでも、その町の人達は、その不幸に負けないように一生懸命生きていたの。

 優しくない人なんていっぱいいたし、見渡す限り不幸ばかりだった。

 孤児って呼ばれる子だって沢山。 それでもやっぱり、みんな頑張って生きていた。


 彼女は、そんな町が好きだった。

 彼女はその町を愛した。


 その子も一生懸命生きてきたけど、ある日その町に流行り病広がったのよ。

 次々に人が死んでった。

 遂に、彼女の番が来た。

 それでも、彼女は死ななかった。

 彼女は、ひたすらに生きたいと思ったの。

 すると、彼女の皮に色とりどりの斑点が出来たそうなのよ。

 彼女が生き残った途端、流行り病もぴたりと止んだ。

 彼女は、その時から、その町のお姫様になった。


 一生懸命生きれば、幸運のお姫様から愛される。

 姫様に愛されれば、自分も幸福になる。

 人々は、敬いと親しみと感謝をこめてその姫様を『魔法の町の幸福姫』と呼んだそうよ。


 お姫様は頭が良かった。

 お姫様は、綺麗なドレスも服も冠も与えられなかったけど、権利と教育は与えたられた。

 町は栄え、名もない町には名前が付けられた。

 お姫様の名前にちなんで『ネムリの魔法国』と名付けられた。

 ネムリというのが、本当にお姫様の名前だったのかは分からないけれど。


 お姫様は決して幸せではなかったわ。

 けれども、お姫様は、最後の最後、国民が彼女を裏切って殺してしまうまで、お姫様は嬉しかった。

 なぜなら、お姫様の周りには、確かに沢山の幸せがあったのだから。

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― 新着の感想 ―
[一言] いい話ですね・・・本物の童話を読んでいるような気になりました。
[一言] 不思議な物語でした。 幸せにもいろいろな形がありますね。
[一言]  初めまして、こちら読み専の陸水立花と申します。  短い文章の中で一つの世界観と、姫となった少女の情景がきっちりとまとめられていて、とても驚きました。  読みやすく、語り口調であることも…
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