「お前を愛することはない」と言われたので、スーパー銭湯を建てました。
「お前を愛することはない」
結婚初日の夜、夫となったユリウス公爵は私にそう宣言した。
「この結婚は家同士の都合だ。公爵夫人としての地位と生活は保証するが、私に愛情を期待するな」
「はい!」
「……はい?」
「承知いたしました!」
私は思わず笑顔になった。ユリウス様は眉をひそめる。
「意味がわかっているのか? 私はお前を愛さないと言っているのだぞ」
「もちろんです。つまり、私は好きなことをして暮らしてよろしいのですね?」
「……公爵家の名誉を傷つけない範囲ならな」
「素晴らしいです!」
「何がだ!?」
いけない。嬉しさのあまり声が大きくなってしまった。私は姿勢を正す。
「では、一つお願いがございます。南側のお庭を自由に使わせていただいてもよろしいでしょうか?」
「庭? 花壇でも作るつもりか?」
「似たようなものです!」
厳密には全然違うけれど。
「好きにしろ。ただし、屋敷に迷惑はかけるな」
「ありがとうございます!」
やった。ついに許可を手に入れた。
「それと、私は明日から隣国へ外交使節として赴く。一か月ほど帰国できん」
「一か月ですか!」
「……何をそんなに喜んでいる」
「いえ! お仕事、頑張ってくださいませ!」
ユリウス様は不審そうに私を見たが、それ以上は何も言わなかった。
こうして私は、人生最大の夢を実現する機会を手に入れた。
スーパー銭湯を建てるのである。
◇
私の名前はエミリア。侯爵家の次女として生まれた二十歳の貴族令嬢だ。ただし、一つだけ秘密がある。
私は転生者なのだ。
前世では日本という国で暮らしていた。そして、何よりも愛していたものがある。
スーパー銭湯である。
広い湯船。開放感あふれる露天風呂。熱々のサウナに、キンキンに冷えた水風呂。湯上がりの冷たい牛乳。
休憩室でだらだら過ごす、あの至福の時間。ああ、思い出すだけで涙が出そう。
ところが、この世界にはスーパー銭湯がない。貴族の屋敷には浴室があるし、都市には共同浴場も存在する。しかし、私の求めるものとは違う。
お風呂は娯楽であり、癒やしであり、人生そのものなのである!
私は十歳の頃から、いつかスーパー銭湯を再現しようと研究を重ねてきた。
幸い、この世界には魔法がある。火の魔石で加熱し、氷の魔石で冷却。水の魔石で循環させ、風の魔石で送風。幻影魔法で景色まで変えられる。
つまり、前世のスーパー銭湯を超えられるのだ!
問題は土地と資金だった。
侯爵家の娘が庭を掘り返そうとすれば、当然ながら止められる。父には三度叱られた。母には二度泣かれた。四度目の計画書を提出した時には、兄に真顔で言われた。
「エミリア。頼むから普通の結婚をしてくれ」
だから私は結婚した。そして夫から、好きに暮らしてよいと言われた。
なんという幸運! しかも一か月の不在!
これはもう、温泉の神様が私に微笑んでいるとしか思えない。
もっとも、神様に頼るつもりはない。必要なのは技術と資金と工期管理だ。
私は婚約期間中から、密かに準備を進めていた。地質調査、魔導技師との相談、建築業者の手配、資材の確保。費用は祖母から相続した私個人の財産で賄う。
そして王都にある公爵邸の南庭には、非常に都合のよい特徴があった。地下に温かい水脈が存在する可能性が高いのである。
夫が隣国へ出発した翌朝。私は庭園の南端に、建築業者と魔導技師たちを集めた。
「奥様。本当にこちらを掘るのでございますか?」
庭師長が青ざめている。
「はい!」
「旦那様の許可は……」
「いただきました!」
「どのようなご説明を?」
「お庭を自由に使いたいと!」
「……何をお作りになるとは?」
「花壇に似たものと!」
庭師長は両手で顔を覆った。
「旦那様……」
なぜ皆、夫の心配をするのだろう。
私は設計図を広げた。
「まずは天然温泉を掘り当てます。次に浴場、サウナ、休憩所、食堂を建設します!」
魔導技師たちが歓声を上げた。
「奥様! 例の浮遊魔法も導入するのですか!?」
「もちろんです!」
「幻影天井は!?」
「満天の星空にしましょう!」
「火の精霊を使った熱風装置は!?」
「採用です!」
技師たちの目が輝いている。素晴らしい。これぞ技術者の情熱だ。
なお、上下水道についても抜かりはない。王都の水道網に接続し、使用済みの湯や汚水は魔導設備で処理してから下水道へ流す。許可も取得済みである。
庭師長だけが空を見上げてつぶやいた。
「一か月……一か月で旦那様がお戻りになる……」
大丈夫。工期は二十八日で組んである。
◇
工事開始から五日目。
温泉が出た。
「出ましたあああああ!」
作業員の歓声が響く。地面から白い湯気が立ち上っていた。温度六十一度。湯量十分。水質も入浴に適している。
「温泉です……!」
私は感動で震えた。ついに、この世界で天然温泉を手に入れた!
「奥様! おめでとうございます!」
「ありがとうございます! では、浴場の建設に移ります!」
「おおーっ!」
ここからが本番である。
幸い、魔法建築は前世の建築技術とは比較にならないほど速い。土魔法で基礎を固め、石材を加工し、建物を組み上げる。熟練の魔導建築士が集まれば、数週間で立派な施設を建てられる。
そして今回、私は資金を惜しまなかった。
なぜなら、お風呂だからである。
十五日目。
第一浴場が完成した。大露天風呂、壺湯、寝湯。そして、魔法を利用した特別浴槽。
「奥様! 浮遊浴槽の試験準備が整いました!」
「では、さっそく!」
私は試験用の水着に着替え、浴槽へ入った。魔導技師長が装置を起動すると、身体がふわりと浮いた。浴槽の底から少しだけ持ち上がり、柔らかな魔力に全身を支えられる。
温かいお湯に包まれたまま、まるで無重力空間に漂っているようだ。
「素晴らしい! これこそ異世界のスーパー銭湯です!」
「奥様! 成功です!」
技師たちが拍手する。安全のため浮遊する高さは浴槽の底から数センチに制限し、魔力が切れればゆっくり浴槽の底に戻る仕組みだ。
次はサウナである。
火の精霊が室温を管理し、風の精霊が熱気を循環させる。熱した石に水をかければ、精霊が蒸気を送り届けてくれる。
「奥様! 熱波をお届けします!」
「お願いします!」
ぶわっ!
熱い蒸気が全身を包んだ。
「くううううっ!」
これぞ精霊ロウリュ!
続いて氷の精霊が管理する水風呂。冷たすぎない絶妙な温度。そして外気浴用の寝椅子。
私は目を閉じた。
「……整った」
前世では夢にも思わなかった。異世界で、精霊たちに整えてもらう日が来るなんて。
人生とは素晴らしいものである。
◇
二十八日目。
完成した。
公爵邸の南庭に、巨大なマジカルスーパー銭湯が。入口には立派な看板。
『公爵家天然温泉 湯けむりの館』
男女別の大浴場、露天風呂、浮遊風呂、精霊サウナ、氷精霊の水風呂。幻影魔法による星空浴場も完備している。
休憩室には寝椅子と柔らかな長椅子。食堂では温泉卵と冷たい果実牛乳を提供する。
前世のスーパー銭湯を再現し、さらに魔法で進化させた。
これぞマジカルスーパー銭湯!
「皆さん、本当にありがとうございました!」
私は作業員たちに頭を下げた。
「奥様! ぜひ我々も入らせてください!」
「もちろんです! 完成記念として、今日は無料開放いたします!」
歓声が上がった。こうして使用人と工事関係者を招いた試験営業が始まった。
「奥様! 身体が浮きます!」
「精霊が熱風を送ってくれました!」
「昼間なのに星空が見えます!」
「この卵、美味しいです!」
私は幸せだった。
ああ、スーパー銭湯。やはりあなたは最高です。
そして翌日。夫が帰ってきた。
◇
「……何だ、これは?」
ユリウス公爵は、屋敷の門前で立ち尽くしていた。一か月ぶりの帰宅である。
「あら! ユリウス様! お帰りなさいませ!」
「……ああ。ただいま」
ユリウス様は私の後ろを見た。そこには、立派な温泉施設が建っている。入口には『公爵家天然温泉 湯けむりの館』の看板。さらに、貴族の馬車が数台停まっていた。
「……エミリア。これは何だ?」
「スーパー銭湯です!」
「…………」
ユリウス様はもう一度看板を見た。
「……銭湯?」
「はい! 天然温泉を利用した総合入浴施設です!」
「……なぜ我が家に?」
「お庭を使ってよいとおっしゃいましたので!」
ユリウス様は額を押さえた。
「待て。私が許可したのは花壇ではなかったか?」
「花壇に似たものです!」
「どこがだ!?」
「地面を掘って、自然の恵みを楽しむところです!」
「似ていない!」
私は首をかしげた。
「ですが、工事費はすべて私の個人資産ですし、建築許可も取得しておりますよ?」
「そういう問題ではない!」
「屋敷の基礎にも影響はございません!」
「だからそういう問題ではない!」
「それに、南庭の範囲内です!」
「南庭が建物で埋まっているではないか!」
ユリウス様は天を仰いだ。
「……何人が利用している?」
「本日は三十名ほどです!」
「三十人!?」
「はい! 招待制にしておりますので!」
「公爵邸が浴場になっている……」
「正確には、南庭が浴場です!」
「訂正するな!」
しばらくして、ユリウス様は疲れた声で言った。
「……中を見せろ」
「はい!」
私は満面の笑みで案内した。
「こちらが大浴場です!」
「……広いな」
「こちらが浮遊風呂です!」
「人が浮いている!?」
「こちらが精霊サウナです!」
「火の精霊が働いている!?」
「こちらが星空露天風呂です!」
「まだ昼間だぞ!?」
「幻影魔法です!」
ユリウス様は壁に手をついた。
「……私は一か月、何をしていたのだろう」
「隣国で外交のお仕事をなさっていました!」
「知っている!」
最後に食堂へ案内した。
「こちらでは温泉卵を提供しております!」
「……温泉卵?」
「はい。絶妙な温度で加熱した卵です!」
私は一つ差し出した。ユリウス様は半信半疑で口に運んだ。
「……美味い」
「でしょう! おかわりもございますよ!」
「……いや、待て。卵で話を逸らすな!」
惜しい。もう少しだったのに。
◇
それから一週間。
ユリウス様は、スーパー銭湯の存在をどう扱うべきか悩み続けていた。取り壊すには立派すぎる。建築上の問題もない。費用は私が負担している。
しかも、使用人たちの評判が非常によい。王都の貴族たちの間でも噂が広がり、招待希望が殺到した。
「ユリウス様! 予約が二週間先まで埋まりました!」
「なぜ喜んでいる!?」
「大人気です!」
「公爵邸が観光名所になっているのだぞ!」
「素晴らしいですね!」
「素晴らしくない!」
ところが、その日の夕方。ユリウス様が私に尋ねた。
「……エミリア。浮遊風呂というのは、本当に浮くのか?」
「もちろんです!」
「……危険ではないのか?」
「安全装置も完備しております!」
「……一度、確認しておく必要があるな」
私は目を輝かせた。
「ご入浴ですね!」
「違う! 施設の安全確認だ!」
「承知いたしました!」
こうして、ユリウス様の初入浴が決まった。
私は男性浴場の入口で待つことにした。最初は安全確認だとおっしゃっていたユリウス様だが、一時間経っても出てこない。
さらに三十分。ようやく姿を現した夫は、入浴前とはまるで別人だった。
髪は少し湿り、頬はほんのり赤い。何より、普段の険しい表情が消えている。
「ユリウス様! いかがでしたか?」
「……エミリア」
「はい!」
「……あれは、何だ?」
「マジカルスーパー銭湯です!」
「……身体が浮いた」
「はい!」
「精霊が熱風を送ってきた」
「はい!」
「星空を眺めながら湯に浸かった」
「はい!」
ユリウス様は、ふらふらと休憩室の長椅子に腰を下ろした。
「……私は今まで、何のために働いていたのだろう」
「えっ?」
「こんなに素晴らしいものが、世の中にあったとは……」
私は拳を握った。
勝った。スーパー銭湯が、ついにユリウス様を陥落させた!
◇
翌週。
私は実家の侯爵一家を招待した。父と母、それから兄である。
三人は温泉施設を見て、しばらく言葉を失っていた。
「……エミリア。お前、本当に作ったのか」
父が震える声で言った。
「はい! ついに夢が叶いました!」
母が口元を押さえた。
「まあ……まあ……!」
「お母様?」
「十歳の頃から、ずっと作りたいと言っていたものね……」
母の目に涙が浮かんだ。
「本当に……本当に作ってしまったのね……!」
「はい!」
私は嬉しくなった。
「ぜひ皆さんも入ってください!」
父は感慨深そうにうなずいた。
「そうか……あれほど反対したのに、とうとう……」
そこで父は、隣に立つユリウス様を見た。
「……公爵閣下。娘が、とんでもないことをいたしまして……」
「……いえ」
「まさか結婚先のお庭に、こんなものを建てるとは……! 申し訳ございません!」
ユリウス様は慌てた。
「顔を上げてください。建築上の問題はありませんし、今では私も利用しております」
「しかし……!」
「それに、エミリアが作った施設は、本当に素晴らしいものです」
私は驚いた。ユリウス様が、私の温泉を褒めてくださった。
「ぜひ体験してください」
こうして、侯爵一家の入浴が始まった。
私は母と一緒に女性浴場へ向かった。星空浴場に入ると、母は頭上を見上げて感嘆の声を上げた。
「まあ……綺麗……!」
昼間なのに、頭上には満天の星。柔らかな湯に浸かりながら、流れ星を眺める。
「エミリア……あなた、本当に素晴らしいものを作ったのね……」
母は涙を浮かべた。私はその手を握った。
「ありがとうございます、お母様……!」
一方、父と兄の感想を聞いたのは入浴後だった。休憩室に現れた二人は、冷たい果実牛乳を飲みながら、何やら真剣に話し込んでいた。
「……父上。これはすごい」
「……ああ。まさか、あれほどのものとは」
「エミリアの夢を甘く見ていましたね」
父は深くうなずいた。
「……私は、娘を理解していなかったのかもしれん」
そして私に向き直った。
「エミリア」
「はい?」
「……実家にも、これを作れないか?」
「お父様!?」
兄も身を乗り出した。
「そうだ! うちの領地にも温泉があるかもしれない!」
「お兄様まで!」
「エミリア。地質調査から頼めるか?」
私は目を輝かせた。
「もちろんです!」
するとユリウス様が静かに口を開いた。
「……侯爵閣下。お気持ちはよくわかります」
「公爵閣下……!」
「ただし、先に申し上げておきます。この妻は、一度温泉の話を始めると止まりません」
「……存じております」
「私も最近、ようやく理解しました」
二人は深くうなずき合った。私は首をかしげた。
なぜか、男同士の友情が芽生えている。
◇
それからというもの。
ユリウス様は毎晩、温泉に入るようになった。
最初は「安全確認」と言っていた。次は「設備の点検」。その次は「公爵として施設の状況を把握する必要がある」。
しかし、五日目には言い訳すらしなくなった。
「エミリア。今日は星空風呂に入る」
「はい!」
「それから、温泉卵を二つ頼む」
「かしこまりました!」
「……果実牛乳も」
「はい!」
しかも、ユリウス様には意外な才能があった。経営である。
「エミリア。この予約方法では混雑する。時間帯ごとに人数を制限した方がよい」
「なるほど!」
「食堂も、利用時間に合わせて人員を配置すべきだ」
「素晴らしいです!」
「それから、温泉卵はもう少し増産できないか?」
「ユリウス様が食べたいだけでは?」
「……それもある」
私たちは顔を見合わせて笑った。いつの間にか、夫婦で温泉施設を運営するようになっていた。
◇
そんなある日。
王宮から一通の書状が届いた。差出人は国王陛下。
『公爵邸に素晴らしい温泉施設があると聞いた。ぜひ訪問したい』
「ユリウス様! 大変です!」
「今度は何だ!?」
「国王陛下が温泉にいらっしゃいます!」
「……何?」
ユリウス様は書状を受け取った。一読する。二読する。
そして叫んだ。
「なぜ陛下が我が家の風呂に入るのだあああああ!?」
「温泉です!」
「どちらでもよい!」
「違います!」
「そこにこだわるな!」
結局、ユリウス様は自ら警備と接遇の準備を整えた。私は浴場の準備を担当した。
夫婦の共同作業である。なんだか、とても楽しかった。
◇
国王陛下の訪問当日。
私は男性浴場の外で、陛下のご入浴が終わるのを待っていた。
最初に聞こえてきたのは、驚きの声だった。
「おおおっ!? 身体が浮くぞ!」
浮遊風呂だ。
しばらくすると、今度は別の声が響いた。
「熱い! しかし気持ちがよい!」
どうやら精霊サウナもお気に召したらしい。
そして、入浴を終えた陛下が休憩室に現れた。その表情は、驚くほど穏やかだった。
陛下は長椅子に腰を下ろし、冷たい果実牛乳を一口飲んだ。
「……極楽だ」
ユリウス様が隣に立っている。
「お気に召しましたか、陛下」
「うむ。実に素晴らしい」
陛下はしばらく目を閉じていた。やがて、静かにつぶやかれた。
「……余は、今まで何のために王をしていたのだろう」
ユリウス様が慌てた。
「陛下! どうかお気を確かに!」
「ユリウス」
「はっ!」
「お前は、よい妻を娶ったな」
「……はい」
「これほど素晴らしい施設を作るとは。見事だ!」
私は深々と頭を下げた。
「ありがとうございます、陛下!」
「ところで、ユリウス」
「はっ」
「明日も来てよいか?」
「……は?」
「明後日も来たい」
「陛下!?」
「できれば毎日入りたい」
「王宮のお仕事は!?」
「仕事が終わってから来ればよい!」
「……左様でございますか」
こうして国王陛下は、マジカルスーパー銭湯の常連になった。
しかも陛下は、ユリウス様と一緒に入浴することを大変お気に召された。
「ユリウス! 今日も来たぞ!」
「陛下! 本日もですか!?」
「うむ! 浮遊風呂に入ろう!」
「私はまだ仕事が……」
「仕事は風呂の後だ!」
「はっ!」
王国の重臣たちは、ユリウス様を羨ましがった。
「毎週、陛下と湯を共にされるとは」
「王国一の寵臣ですな」
「公爵閣下の政治的影響力はますます高まるでしょう」
ユリウス様は複雑な顔をしていた。
「……私はただ、風呂に入っているだけなのだが」
私は笑顔で答えた。
「温泉です!」
「……そうだったな」
◇
さらに三か月後。
マジカルスーパー銭湯『湯けむりの館』は、王都でも評判の名所になっていた。国王陛下は相変わらずの常連で、ユリウス様も毎晩のように温泉へ通っている。
そして私は、今日も新しい設備の計画を練っていた。
「エミリア。少しいいか?」
「はい!」
ユリウス様が、私の隣に腰を下ろした。
「結婚した日のことを覚えているか?」
「もちろんです! お庭を自由に使ってよいと許可していただいた日ですね!」
「……そこか」
ユリウス様は苦笑した。
「私は、お前を愛することはないと言った。だが、今は違う」
私を見つめるその瞳は、とても優しかった。
「お前と暮らすようになって、毎日が楽しくなった。屋敷も明るくなった。そして何より、お前が楽しそうに笑っている姿を見るのが好きになった」
「ユリウス様……」
「エミリア。私はお前を愛している」
胸がじんわりと温かくなった。私はその手を握り返した。
「私も、ユリウス様が大好きです!」
ユリウス様が嬉しそうに微笑む。
「……ありがとう」
私はその手をぎゅっと握った。
愛する夫と、大好きな温泉。これ以上の幸せがあるだろうか。
「ところで、ユリウス様。次は空飛ぶ温泉を作りたいのですが!」
「エミリアあああああ!!」
今日も公爵邸の庭には、夫の叫び声が響き渡る。
……本当に、温泉とは素晴らしいものである。




