村襲撃戦悪鬼
森の奥、遠くの村からかすかな悲鳴が聞こえた。
主人公の胸が激しく波打つ。
足が自然に前へ進み、剣を握りしめる。
村に着いた瞬間、視界に飛び込んできたのは――子供がゴブリンに倒れる姿だった。
「――いやっ…!」
間に合わなかった。
その現実を理解した瞬間、頭の中が真っ白になる。
理性も、考えも、全部消えた。
ただ、怒りと悲しみだけが体を動かす。
ゴブリンの群れに突っ込む。
剣を振る。
何も考えていない。
ただ、目の前のものを斬る。
斬って、斬って、斬り続ける。
腕が軋む。
息が荒くなる。
それでも止まらない。
止まれば、あの光景が頭に浮かぶ。
だから、振る。
最後に残った一体。
子供を殺したゴブリン。
叫び声すら出ないまま、力任せに剣を叩きつけた。
鈍い音とともに、それは動かなくなる。
――終わった。
その瞬間、全身の力が抜ける。
主人公はその場に崩れ落ちた。
剣を握ったまま、震える手で地面に触れる。
視界が滲む。
「……」
言葉が出ない。
ただ、遅かったという事実だけが、胸に残る。
村人たちの声が遠くで響く。
感謝の言葉も、泣き声も、何もかもが遠い。
主人公は顔を上げることもできず、その場にうずくまっていた。
⸻
それから数日。
主人公は村の片隅で、剣を振り続けていた。
何も考えず、ただ振る。
朝も夜も関係ない。
飯も、水も、ほとんど口にしていない。
腕が重くなっても、止めない。
体が軋んでも、止めない。
止めた瞬間、あの光景が戻ってくる。
だから、振る。
ただ、それだけを繰り返していた。
村長が近くに立ち、静かに口を開く。
村長
「若者よ…そのままでは、いつか壊れるぞ」
声は聞こえている。
だが、意味は入ってこない。
剣を振る音だけが、頭の中に残る。
村長
「…もっと力をつけるなら、都市へ行くといい」
それでも、手は止まらない。
振る。
振る。
振る。
――そして。
限界が来た。
握っていた剣が手から滑り落ちる。
同時に、体から力が抜ける。
主人公はその場に膝をついた。
息が荒い。
視界が揺れる。
何もできなかった数日前の光景が、頭の奥でくすぶり続けている。
村長の言葉が、遠くで残響のように残る。
「都市へ…」
意味ははっきりとは掴めない。
けれど、その言葉だけが、どこかに引っかかる。
主人公は顔を上げないまま、ただ地面を見つめていた。
感情はまだ整理されていない。
怒りも、悲しみも、そのまま残っている。
それでも――
どこかで、次へ進む何かが、わずかに動き始めていた。




