【第9話】アデル、初めての婚約顔合わせ
突然の婚約話に戸惑うアデル。
女神様の無茶ぶりに振り回されながら、大広間での顔合わせに挑む。
波乱の予感漂う、ちょっとコミカルなアデルの奮闘をお楽しみください。
(婚約者か……一体どんな娘なんだろう……って、僕まだ5歳なんだぞ!?頭の中は16歳だけど!)
焦りを押さえつつ、授業を終え大広間へ向かう。
傍らのアリスはどこか落ち着かない様子。アデルはその理由にはまだ気づいていない。
「アリス、どうしたの?」
「い、いえ……アデル様が、なんだか遠くに感じられて……」
アデルは首をかしげてもう一度尋ねる。
「遠くに感じられるって……え、どういうこと?」
アリスは顔を真っ赤にして、言葉を詰まらせる。
「あ、あの……す、すみません……」
アデルは深く考えず、ただ微笑む。
(……いや、なんで僕が遠くに見えるんだ?)
その瞬間、脳内に女神ルミエールの声が響いた。
(あらぁ♡アデルったらモテモテね♡ほら、なんか言ってあげて!慰めて!)
「うわっ!?」アデルは思わず頭を抱え、振り返るが誰もいない。
(……女神様!?また勝手に脳内に登場か……ちょっとウザッ!でも無視できないし……)
深呼吸して、大広間の扉に手をかける。
「お父様、参りました」
扉が開くと、視界に飛び込んできたのは公爵である父と、恰幅の良い白髪の男性。そして、その後ろには……アデルの目を奪う少女が立っていた。
銀色のサラリとした髪、深い緑の瞳、透き通る白い肌、桜色の唇。幼いながらも際立つ美貌。アデルの頭は一瞬フリーズし、心臓がドキドキした。
「おおアデル来たか!こちらはダービー伯爵家のボルドン様と御息女のリリアンヌ嬢だ。年はお前の二つ上、7歳だ」
アデルはなんとか我に返り、紳士の礼を取りながら落ち着いた声で応える。
「お会いでき光栄です。ダービー伯爵様、リリアンヌ様。ヴァレンティア公爵家嫡男、アデルにございます」
ダービー伯爵は豪快に笑った。
「ハッハッハッ!なんとご立派なご子息か!娘も婚約できて喜んでおります」
しかし、背後のリリアンヌは少し浮かない表情。アデルは冷静に観察しつつも、脳内で女神ルミエールの声がまた響く。
(なんか波乱の幕開けね♡楽しくなってきたぁ✨)
アデルは小さくため息をつく。
そして、初めての婚約顔合わせは、“波乱の予感”とともに、静かに、しかし確実に始まったのだった。
女神様の無茶ぶりとアデルの頭脳フル回転の駆け引きが交錯する、ちょっと不思議なひととき。
次回、アデルと婚約者の関係はどう動くのか……お楽しみに!