【第6話】姉妹のささやき
今回はアデルの姉妹視点のお話です。
10歳の姉リリアと、3歳の妹ルチア。
彼女たちが見た“変わり始めたアデル”の姿とは……?
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午後の柔らかな日差しが差し込む広間。
公爵家の長女リリア(10歳)は、積み木を並べて遊ぶ妹ルチア(3歳)の相手をしながら、小さく溜め息をもらした。
「ふぅ……」
すぐにルチアが気づき、ぱちりと大きな瞳を瞬かせて見上げてくる。
舌足らずな声が響いた。
「どうちたの? おねぇたま?」
「いや……」リリアは少し考え込むように返す。
「最近のアデル、急に変わったなぁって思って……」
アデルはまだ5歳。リリアより5歳年下で、ルチアにとっては2歳年上の兄だ。
甘えん坊で、時にはすぐに癇癪を起こす、幼い弟――それがリリアの知るアデルの姿だった。
だが今は違う。
「うん! おにぃたま優しくなった。まえはおこってばかりだった」
ルチアが積み木を崩しながら、にこにこと笑う。
「そうなのよ!」リリアは大きく頷いた。
「急に人が変わったみたい。今朝なんて、私に“おはよう”の挨拶までしに来たのよ!」
ルチアはきらきらと目を輝かせて問いかける。
「おにぃたま、かわったのうれちくないの?」
「いいえ!」リリアは慌てて首を横に振った。
「今の方がずっと良いわ! ただ……何があったのかしらって……」
そう言って、10歳の少女は思わず顔に手を当てて考え込む。
ルチアはこてんと首をかしげる。
「よくなったのに、理由がいるの?」
その幼い問いかけに、リリアははっと目を見開いた。
そしてゆっくりと微笑む。
「そうね……良くなったなら、それでいいわね。理由はいらないわ」
年上の姉として弟を見てきたリリアにとって、5歳年下のアデルはまだまだ子どもであるはずだった。
けれど――その弟が今や、大人顔負けの気遣いと優しさを見せている。
(……私より年下なのに、まるで立派な大人みたい)
リリアは心の中でそう呟き、そっとルチアの頭を撫でた。
窓から差し込む陽光の中、姉妹の笑い声が広間に響き渡る。
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姉妹の何気ない会話から、アデルの成長が浮き彫りになりました。
リリアにとっては「5歳年下の幼い弟」、ルチアにとっては「少し年上のおにぃたま」。
そんな存在が、急に頼もしく、大人びて見え始める――兄妹ならではの微笑ましい変化の一幕でした。
次回もお楽しみに!✨