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無表情の先輩に溺愛されて逃げれません〜ヨハンサイド〜

作者: 松尾吏桜

先に公開しているイルマとオリヴァーの話を読んで頂けたら内容が分かりやすいです。


きっかけは匂い。



隣の校舎にある調理室から漂う甘い香り。

ふと教室の向かいにある調理室を見れば1人楽しそうにお菓子を作っている女生徒。




( 甘い…………良い匂いだな)



初めはその程度。



次の日。

課外授業が始まる数分前に昨日の女生徒が調理室に入って行くのに気付いた。彼女はすぐに窓を開け器具の準備をしている。授業中に漂ってきたのは焼き魚の匂いだった。

 

 


( お菓子だけじゃないのか……腹減ってきた )




また次の日。

課外授業が始まり調理室を見てみると1人腰掛け黙々と何やら作業をしている。不思議に思っていたが暫く授業に集中していると香ばしい香りが漂ってきた。



( 餃子まで作るのか?凄いな )




日々観察していると、やがて今日は何の料理かな?と楽しみにしてている自分に気付く。それは徐々に変化していき。




別の日

調理室の窓が開き女生徒の姿が見えると



「可愛い………………」 


     


その日

女生徒はいつもの簡単な一つ結びではなく

友人から髪を巻かれ、手の込んだ編み込みをされていた。



 

毎日、料理を作る姿を眺めていると

人間欲が出てくるもの。


 

 

君の作った料理を食べたい。

話したい。

触れたい。

その笑顔を近くで……




その時

魔道具顧問のピサノと親しげに会話しながら

料理を持ち並んで歩いていく姿を見て

頭が真っ白になった。    




友人から声を掛けられたが何を言われたかも

覚えていない。

ただ、足が勝手に動いていた。



2人が隠し部屋に入るのを見た時に

生まれて初めての感情が湧いてきて戸惑った。

それから彼女が度々料理を運ぶようになり

ある日とうとう我慢できず自身も部屋の中へ。



ピサノ先生の隠し部屋には何度も入室

しており、出入り自由と許可も貰っている。

何の問題もないだろう。

 

 

ゆっくりとソファーに近付くと、彼女が居た。


 

近距離で会うイルマに思考が停止する。

つい瞬きを忘れ、ジッと見つめてしまい

相手が戸惑っているのさえ全く気付かずにいた。



( 近い。可愛い。名前は? )




名前を聞いて。

手作りのパンケーキを食べる。

優しい甘さが本当に美味かった。

なにより嬉しかったのは

その日を境に彼女は俺の分も準備してくれること。




課外授業が終わりに近付くと

もうすぐ会える期待で気持ちが高揚していく。

隠し部屋に向かう途中、イルマの姿を発見し

つい温室まで後を追ってしまった。



イルマに会えて嬉しかったのだが。

直後、女生徒の大きい声がしたかと思えば

他にも大勢ゾロゾロと癒しの場を壊していく。



( 酷く不愉快だ―― )

 


自分のせいで、どうでも良い五月蝿い連中から

全く非のない彼女が責められ珍しく感情が露わになる。


 

ヨハンは周りを牽制し、イルマを連れて温室を後にした。



隠し部屋に辿り着いたまでは良いが……

珍しく感情が昂ってしまったせいで

イルマに対する自分の気持ちや

ずっと聞きたかったピサノとの関係など

一度口から手でしまうと止まらなくなっていた。




強引気味なヨハンを入室してきたピサノが抑止するも

勝手な解釈をした直後にイルマを抱え部屋を出て行く。

慌てて追いかけ扉を開けても、時はすでに遅し。

ヨハンは『姿くらまし』の魔道具を使用していた。



この魔道具は、日々女生徒に追いかけられウンザリしていたヨハンを不憫に思ったピサノがあげた物だった。



「……あの餓鬼〜!」

 



その頃、上機嫌な様子でイルマを抱え廊下を歩くヨハン。

一見普通なのだが制御不能なほど暴走していた。

特別室に辿り着き部屋に入ると鍵を掛け、防音装置を作動させる。

 


ヨハンの腕の中でガッチリと抱えられているイルマは

『え?此処何処?私どうなるの!?』と顔面蒼白になるが

ヨハンに満面の笑みを向けられ――諦めた。



( 笑顔の威力が半端ない……!)


 


笑顔に目が逸らせなくなっていると、端正な顔が徐々に近付き優しいキスが降ってくる。次第に深く重なっていた何度目かのキスの後ヨハンは目を覗き込み思いを口にする。

 


「イルマ。君が好きだ」



その一言から始まり部屋を出るまで蕩けそうな言葉を浴びせられ、これでもか!という程の気持ちを貰ったイルマ。


 


「……先輩に捕まってしまった」

 

「違うだろ?君が俺を捕まえたんだから。


      ――ちゃんと最後まで責任取れよ?」

 



( 絶対逃さないし誰にも渡さない。

俺が暴走しないように、ずっと捕まえててくれ)



 


ヨハンは初めて感じる幸福感と

言いようのない焦慮感。

何故こんな気持ちになるのか

本人には検討がついていた。

 

 

毎日の楽しみが出来たのと同時に

ある日、気付いてしまった

親友のオリヴァーも彼女を求めていることを。


 

言わなくても視線で分かる。

自分も同じだから。


 

( 類は友を呼ぶと言うが、正しくだな……)


 


ヨハンが警戒したとおり、親友にも動きがあった。


 

沢山の女性達と広く浅くの関係ばかりのオリヴァー。

そんな人間が柄にもなく変装し調理部に入部したと報告

してきたのだ。正直、初めは耳を疑った。


 


「え?理由?俺こう見えて料理好きだし

 ヨハンお気に入りの子がどんな子か気になるだけ」



 

『本音はもっと別にあるだろ?』

そう喉元まで出てきた言葉を呑み込む。


 

 

遊んでばかりいた奴が、初めて本気を知ると

こんなにガツガツいくのか……成る程。


 

だが先に彼女を見つけ出したのは俺だ。

残念だったな。お前には一切触れさせはしない。



 

( 早めに思い知らせとくか――)




実家のアベラルド公爵家は

相手の心理を逆手に取り悟らせず操るのを

得意としている。ヨハンも例外ではない。




「――悪いな」




初恋は実らないものだろ?

オリヴァー。



※※※


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