第5話:かつての誓い
その夜、レイリアンは暖炉の前にアリアを伴い、二人で静かに座っていた。火の粉がはぜる音が、時の流れをかき消すように響いている。
「・・・あの夜のことを、覚えているか」
彼が呟くように問いかけると、アリアはゆっくりと彼の方を見た。答えはない。だが、瞳に映る炎のゆらめきが、どこか切なげに揺れた。
レイリアンは、懐から小さな銀細工の指輪を取り出した。それは彼女と交わした婚礼の証だった。
「君が人間で、僕がエルフで、命の長さが違うことは・・・最初から分かっていた。それでも、僕は──」
彼は言葉を止めた。指輪をそっと彼女の手に乗せる。アリアはそれを見つめたまま、わずかに肩を震わせた。
「君が去った夜、僕はこの指輪を精霊の泉に投げ入れようとした。でも、できなかった。どんなに苦しくても、僕にとって君は、今も大切な妻なんだ」
そのとき、アリアの唇がわずかに動いた。
「誓った・・・」
かすれた、けれど確かに届いた声。
レイリアンの瞳が大きく見開かれる。アリアは、言葉を話した。魂が、記憶の奥底からわずかに戻りつつある証だった。
「君は・・・覚えているのか?」
アリアはゆっくりと頷いた。そして、銀の指輪を胸に当てるように両手で包み込む。
「あなたを・・・愛しています・・・今も・・・」
言葉は途切れ途切れだったが、その響きは、炎の揺らぎよりも温かく、確かなものだった。この世の理を超えるほど、愛している。
レイリアンは彼女の手をそっと握る。
「なら、もう一度・・・もう一度、君の名を呼ばせてくれ。アリア!」
彼女は涙をこぼした。それは、生者のものと変わらぬ、ぬくもりのある雫だった。
その夜、館を包む風は、どこか懐かしい調べを運んできた。ふたりがかつて誓った日、精霊の泉で歌った愛の旋律だった。