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第3話:禁忌の研究書
その翌朝、レイリアンは館の地下に眠る書庫を訪れた。かつて、精霊と契約した祖先が集めた膨大な魔術と歴史の記録。その中に「魂と霊の遷移」についての書があったはずだ。
彼は埃を払いながら、手ずから一冊一冊を調べていく。日が昇っても、彼女の様子は変わらなかった。目を閉じ、ただ眠るように静かに部屋に佇んでいる。
やがて、一冊の黒革の綴じ本が彼の目に留まった。
『霊魂留滞現象──未昇化存在の分類と対処法』
それは精霊界において禁忌とされる知識であり、特定の魂が現世に留まる条件と、その危険性を記したものだった。
(強い未練、強固な絆、あるいは生者の呼び声によって、魂は昇華を拒むことがある)
その記述に、レイリアンの指が止まる。
──ならば、彼女は俺が呼んだから、戻ってきたのか?
意図せずして、彼が日々呼び続けた名、その想い。それが魂をこの世に縛りつけたのだとすれば──。
「それでも・・・後悔はない」
彼は本を閉じた。
愛が彼女を縛ったのなら、今度はその愛で、彼女を自由にしてやりたい。
彼の中で、決意が生まれ始めていた。