第2話:還らぬ声
その晩、レイリアンは彼女を館へと連れ帰った。拒絶はなかった。ただ静かに、従うように彼の後を歩いていた。
館の中に入り、暖炉に火を灯す。だが、彼女は炎の温かさにも反応を示さず、椅子に座ることも、言葉を発することもなかった。
レイリアンはそっと彼女の隣に座り、声をかける。
「お前は・・・本当に、アリアなのか」
彼女は答えない。ただ、その声に微かに瞳を揺らした。だが、そこに知性や記憶は感じられなかった。
まるで、魂の抜け殻。けれど、その姿が、声が、しぐさが──あまりにもアリアに似ていた。レイリアンは戸惑い、そして恐れていた。希望を持つことを。再び失うことを。
「お前が、アリアじゃなかったとしても・・・私は、お前を見捨てることはできない」
その言葉に、彼女は小さく頷いた。あるいは、頷いたように見えただけかもしれない。
夜が深まる中、レイリアンは彼女をかつてのアリアの部屋へ案内した。変わらぬまま残していた部屋。今はもう誰も使わない、亡き妻の空間。
彼女は戸口に立ったまま、中をじっと見つめていた。記憶の糸が、どこかで繋がろうとしているようだった。
そして、静かに部屋の奥へ歩き、窓際に立った。
月光が差し込む中、彼女は初めて、小さく唇を動かした。
レイリアンには、その声が──「レイ・・・」と聞こえた。