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みたきちゃん係  作者: 中高下零郎
高校生編
29/32

六話 新生

「本当に中君だよね? 嘘じゃないよね?」

「嘘じゃ無いよ。高下中。おかえり、みたきちゃん」

「うん。……ただいま」


 自分で言っていた通り、病院暮らしで少し痩せたらしいみたきちゃん? 。

 ただ病院食なんてものは人間が健康になるための食事。

 彼女の顔色が悪いのは栄養失調なんかではなく、ずっと一人だった事に対する不安だったり、精神的なものだったのだろう。

 俺と再会して少し話をするだけで、彼女の表情にどんどん活気が漲って来る。


「本格的な退院はいつ頃?」

「一週間もあれば退院かな。別に身体が悪くて入院してた訳じゃ無いし。ずっと病院で過ごしてたから、身体を動かす事を忘れてて、その辺のリハビリは少し必要だけどね。……ごめん、来て貰ってなんだけど、そろそろメディカルチェックがあるから」

「うん。また明日来るよ。そうだ、お菓子持って来たから、引き出しの中に入れておくね。こっそり食べてね」


 数分ほど簡単な話をした後、検査があると寂しそうな表情をする彼女の為に、病院食だけでは大変だろうからとチョコレートだったりクッキーだったり、買って来たお菓子を机の引き出しの中に詰め込んで去ろうとする。


「待って。……ちゅーしよ」


 そんな俺を引き留めて、キスをしようとせがむ彼女。

 いつも彼女の部屋で夫婦ごっこをする前に軽くしていたように、俺はベッドに向かい彼女の隣に座り、彼女がいつものように自分からちゅーをするのを待つ。


「んっ……」


 最後にキスをしたのは一年近く前なので感触だったりを覚えている方が気持ち悪いのだが、今までの可愛らしいちゅーでは無いことは明確にわかる。

 なんせみたきちゃん? は舌を入れて来たのだから。子供がするような可愛らしいちゅーでは無く、大人がするようなディープキスをするのは初めてであり、思わずされるがままになり硬直してしまう俺。


「え、えへへ……こういうキスしたの、初めてだから緊張するね」

「びっくりしたよ俺も」

「ま、まぁ、私も、子供じゃ無くなったから。そ、それじゃ、またね!」


 やがて彼女が唇を離し、これから検査だと言うのに大丈夫なのだろうかと言うレベルに気が動転したまま、カラカラと点滴道具と共に病室を去って行く。

 それから毎日、俺はみたきちゃん? の病室に行き、彼女の会話や運動のリハビリに付き合い、あっという間に一週間が経過して、無事に彼女は退院した。


「久々にこの部屋に戻って来たけど、子供っぽい部屋だね」


 彼女の両親が治験の報酬で何をしようかと下品な会話を繰り広げている頃、俺達は彼女の部屋で、彼女のこれからについて話をすることに。

 俺がたまに手伝っているとは言えど、整理整頓のあまり出来ていない、ぬいぐるみやおもちゃが目立つ部屋を眺めながら、みたきちゃん? は困ったように笑う。


「断捨離でもしようかな」


 今までの彼女なら使う事の無かった難しい言葉を口にしながら押し入れを開けるも、そこに入っていたお化け屋敷セットを見て、これは捨てられないやと微笑む彼女。


「……これからみたきちゃんは、どうするの?」

「今まで通りだよ。ちょっと頭の回転とかが速くなったのかもしれないけど、私、全然馬鹿だもん。 とりあえず、勉強頑張らなくちゃ」


 みたきちゃん? の手術は成功したが、それで彼女がいきなり天才になる訳でも無ければ、年相当の知識を身に着けた訳でも無い。

 あくまで彼女のポテンシャルが、中の下くらいにまで引き上げられたくらいであり、彼女が本当に普通の人間になるためには、追いつくための凄まじい努力が必要なのだ。


「何でこんなに勉強しなくちゃいけないんだって、入院中ずっと辛かった。けど、中君に褒めて貰う私を想像して頑張れたんだ。満を持して私は13歳って名乗れるよ」


 カバンからかなり使い込まれた、中学一年生用の教科書や参考書、問題を解き続けた痕跡の見られるノートを手に取って入院中を懐かしむ彼女。

 治験を受ける前の彼女は、中学一年生レベルの問題が解けない事を、自分が年相当では無いことをずっと気にしていた。

 彼女と共にノートを眺めるが後半になるにつれ正答率は上がっており、彼女の努力の成果が伺える。


「……偉いね、みたきちゃんは。これからは俺も手伝うよ」

「駄目だよ、中君は受験生でしょ? 自分の勉強頑張らなきゃ」

「俺もみたきちゃんのために、勉強頑張って、滅茶苦茶優等生になったんだよ。だから大丈夫さ」


 彼女の今の吸収力がどのレベルなのかはわからないが、治験の一環として専門家の助けを借りる事が出来た入院中とは違い、今からの彼女は独学で学び続ける必要がある。

 そんな彼女の支えとなるべく、彼女が中学二年生レベルの問題を解き始めるのを見守りながら時間を過ごし、夕方になったのでそろそろお暇するねと部屋を去ろうとする。


「待って。……夫婦ごっこ、しようよ」

「みたきちゃん、病み上がりでしょ」

「私がしたいの」


 そんな俺の腕を掴み、強引にベッドまで連れていって座らせると、鼻歌を歌いながら服を脱ぎ始める彼女。

 当時はどんな事をしてたかな、と思い出しながら彼女の身体を触ろうとするが、彼女は俺のズボンに手をかけようとする。


「夫婦ごっこでそんな事はしてなかったでしょ」

「もう私、子供じゃないんだよ。今までみたいに、中君に気持ちよくして貰うだけじゃ嫌なの」

「みたきちゃんはそんな事をしなくていいんだよ」


 彼女は入院中にしっかり保健体育の勉強もしてしまったらしく、同年代の一般的な男女カップルがしているような事をしようとする。

 そんな彼女を制止して、自分のペースに持ち込むために彼女をベッドに押し倒して、昔やっていたように彼女を責める、もとい愛で続ける。


「え、えへへ、中君、しゅき……病み上がりって言ってた癖に、中君は激しいなぁ」

「ごめん、ついつい。ゆっくりおやすみ」


 至福の表情でベッドに横たわる彼女に服を着せてやり、また明日と別れを告げて部屋を出る。

 帰路につく途中、何で自分は拒否したんだろうなと、自分の気持ちがわからなくなる。

 彼女が精神的に成長したことで、そういう行為をしても客観的に問題は無くなったし、俺自身今の彼女とそういう行為をする事に対し罪悪感は覚えない。

 今までの日常に慣れ過ぎているのだろうかと自分の中で答えを出し、少しムラムラした気持ちのまま自宅に戻ると、スマホが震えて彼女からメッセージが届く。


『最新の写真だよ。中君、昔の私にも写真送らせてたよね。冷静に考えたら、良く無いと思うよ』

『ごめん、あの時の俺は、色々と猿でさ』


 メッセージには服をはだけさせた、昔の俺が彼女に送らせていたような、いわゆるオカズに使うための写真が添付されており、俺はそれを受け取るとパソコンに転送する。

 そして昔やっていたように、夫婦ごっこの余韻と彼女の写真を使って自分を慰めようとするが、画像フォルダの中に消し忘れていた昔の彼女の写真がある事に気づき、俺はその写真を並べて表示する。


 何で写真を要求されているのかも理解しないまま、まるで記念撮影かのように満面の笑みで裸になって撮った、ピントだったりもちゃんとしていない昔のみたきちゃんの写真。

 自分が何の為に写真を要求しているのかをしっかりと理解していて、どこで覚えたのか色んなポーズをとったり、目を隠したり、胸を強調させたり、実用性のある今のみたきちゃん? の写真。


「……ふぅ」


 気付けば俺は、昔のみたきちゃんの写真を拡大して、昔のように自分を慰めていた。

 そして自分の中で、ここ最近抱いていた違和感の正体に気づき不安になる。


「彼女は本当にみたきちゃんなのか?」

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― 新着の感想 ―
あっ…この流れは… あまりに変わっていて戸惑うのはわかる 思い出の品断捨離されたらどうしようかとビクビクしながら読んでしまった
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