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みたきちゃん係  作者: 中高下零郎
高校生編
25/32

二話 逢瀬

 ただ何となく仲が良かったから、恋人を作る事が一種のステータスだったから本村さんと付き合っていた頃に比べ、みたきちゃんと付き合うようになってからの俺は色々とモチベーションが向上していた。

 成績も上がったし、ファミレスのキッチンでアルバイトをするようになって、多少は料理の腕も向上した。


「あたる君、いらっしゃい!」

「やあみたきちゃん。はいこれ、冷めないうちにどうぞ」

「あたる君は将来料理屋さんになるの?」

「そうかもね」


 日曜日にアルバイトを終えた俺は、まかないとして作ったオムライスを持って急いでみたきちゃんの家に向かい、彼女が俺の作った料理を美味しそうに頬張るのを微笑ましく眺める。

 平日は毎日学校帰りに彼女の部屋で遊んで夫婦ごっこをし、土曜日には彼女とデートをし、日曜日にはアルバイトに精を出す。

 そんな忙しくも充実した学生生活、恋人生活を送り続ける事しばらく、季節は高校一年生の秋となり、何度目かの文化祭シーズン。


「ということで、2組は教室では喫茶店、出店はわたあめと焼きそばをやる事になりました」


 高校生になった俺達は喫茶店やお化け屋敷と言ったメジャーな出し物を優先的にやることが出来る。

 日頃のアルバイト経験が活かせそうな題材に決まったこともあり、準備期間に俺はメニュー案を出したり、レイアウトを考えたりと積極的に準備に参加する。

 勿論、積極的に準備に参加する理由はそれだけでは無い。

 とある土曜日、懐かしの猫カフェですっかり成長した片耳の無い猫を撫でているみたきちゃんに、俺は文化祭のパンフレットを差し出す。


「みたきちゃん、今年の文化祭はみたきちゃんも来れるようになったんだ。だから一緒に行こう」

「本当!? えへへ、お祭り、お祭り」


 本村さんとも別れて正式にみたきちゃんと恋人関係になった今となっては、彼女を拒む理由なんてどこにも無い。

 猫に囲まれながら文化祭をどんなルートで回るか盛り上がりながら話し合い、今までよりもずっと前向きな気持ちで文化祭の準備に参加して日々を過ごし、ついにその日がやって来る。


「おはようみたきちゃん。最初はどこ行こうか?」

「とりあえず学校探検したいな!」


 一般開放の文化祭当日。正門前でみたきちゃんと合流した俺は、結局プランは決まらずに当日に見て決めようとなったため彼女と共に学校をブラブラと巡る。


「教室も生徒も多いんだね」

「普段寂しい?」

「ううん、友達もいるし、あたる君もいるから」


 生徒数の少ない養護学校に通っているためか、生徒の多い普通の学校に一種の憧れを持っていそうな彼女に気を遣うと、彼女なりに惚気のつもりなのか、周囲には学生だったり別の客だったりがいるにもかかわらず、ぴとっと俺の身体に抱き着いて寂しくないアピールをしてくる。

 積極的な恋人にニヤつきながらその後もお化け屋敷に行ったり、学生バンドによる演奏を聞いたりしたりと文化祭を満喫し、ベンチに座って次はどこに行こうかと話をしていたのだが、そんな俺達の前で一人の少女が歩みを止める。


「高下君。……あの、その子って、ひょっとしてみたきちゃん?」

「……何で私を知ってるの?」

「みたきちゃん、この人は同じ小学校の子だよ。6年の時一緒だったんだ」

「……あたる君以外覚えてないや」


 俺がみたきちゃん係をやった時に同じクラスだった、その程度しか接点の無い、この学校に進学してからも同じクラスになる事も無く交流の無い、みたきちゃんを知っているくらいしか特徴の無いモブの女子生徒。

 俺とみたきちゃんが未だに一緒に行動している事を不思議に思ったのだろうが、そんな彼女の怪訝そうな視線を勘違いしたらしく、みたきちゃんは俺にぎゅっと抱き着いて彼女を敵意剥き出しで睨みつける。


「あたる君は、私のだよ」

「ごめん、高下君を取ろうって訳じゃ無くて。……付き合ってるの?」

「そうだよ、私達恋人なんだよ!」

「ま、そういうことで。みたきちゃん、いこっか」


 みたきちゃんに嫉妬という感情が芽生えている事に対し成長を感じながらも、目の前の少女と昔話をする趣味も無いので彼女の手を引いて場所を移動する。

 去り際にその少女が俺に対し軽蔑するような視線を向けていたような気がするが、きっと恋人がいなくて僻んでいるのだろう。

 女の嫉妬はみっともない。ただしみたきちゃんを除く。

 その後も彼女と文化祭を周り、やがて自分のクラスの喫茶店でのシフトの時間帯になったので彼女を連れて教室に向かい、テーブルに彼女を座らせて調理場へ。


「いつになく上機嫌だなお前……さっき一緒に来た子、ひょっとして彼女?」

「どこかで見たような……昔親戚の子だって言って写真見せて無かったか? ダ〇ンの顔面偏差値40の子」

「人の彼女をあまりジロジロ見たり失礼な評価しないでくれよ、彼女は天使なんだから」


 同じくキッチンで調理を担当している男子達の怪訝そうな視線など気にも留めず、鼻歌を歌いながらオムライスにクレープ、ジュースを用意して彼女のテーブルに持っていき、職務を放棄してテーブルに座り彼女が美味しそうに料理を食べるのを眺める。


「ごちそうさま! 美味しかったよ! えーと、オムライスと、クレープと、オレンジジュースで……1000円!」

「みたきちゃんは賢いね。ごめんね、俺はこの後も仕事しないといけないから。一人で大丈夫? 何かあったら連絡してね」

「大丈夫だよ、あたる君もしっかり働くんだよ!」


 食事を終え、満面の笑みで作り主である俺に感謝を述べた後、財布から千円札を取り出して俺に渡そうとする彼女。

 それを受け取った俺はレジにお金を入れる事無くポケットにそれをしまい込み、一人で文化祭を見て回るという彼女のチャレンジを応援しながら、早くシフトが終わらないかなと時間を気にしつつ仕事に戻る。

 心無しかクラスメイトから距離を置かれているような気がしたが、きっと恋人がいなくて僻んでいるのだろう。

 男の嫉妬はみっともない。


「今日は楽しかった! また来年も一緒にお祭り行こうね!」

「俺もみたきちゃんと一緒に回れて楽しかったよ。ごめんね、俺は後片付けがあるから」

「うん! ……あ、今日はお母さんもお父さんも遅くまで帰って来ないんだ」

「そっか。じゃあ片付けが終わったらすぐに家に行くよ」


 その後、シフトが終わってみたきちゃんと合流して、文化祭終了まで目一杯楽しんで、帰り際に彼女が今日は両親が家にいないからと俺を誘うので打ち上げへの不参加を決め込む事に。

 後片付けをしている途中、クラスメイトが俺の方を見てなにやらヒソヒソと話をしているようだが、きっと恋人がいなくて僻んでいるのだろう。

 独り身の嫉妬はみっともない。


「みたきちゃん、来たよ……寝てるのかな?」


 後片付けを終えてすぐに彼女の家に向かい、合鍵を使って家に入り彼女の部屋まで来るが、スマホで連絡しても反応が無いし、部屋の電気も消えている。

 文化祭で歩き疲れて寝てしまったのだろうかと、寝顔だけ確認するつもりで部屋の中に入りベッドに向かうと、


「ばぁっ!」

「ひっ……び、びっくりした」

「あはは、あたる君、男なのに怖がり」


 どうやら彼女はずっとお化け屋敷の準備をしていたらしく、シーツを被ってお化けに扮していた彼女が突然俺の前に踊り出て驚かし、俺は情けなく悲鳴を上げてしまう。


「やったな、仕返しだ」

「あ、あはは、あたる君、電気消したままくすぐらないでよ」


 本当に怖いのはお化けでは無く人間なのだと言う事を彼女に教えるべく、妖怪と化して暗闇の中で彼女の身体をまさぐり、いつもと違った夫婦ごっこをする。

 そうして充実した文化祭後の休日を過ごし、既にクリスマスの事を考えながら翌週に学校に向かい、普段は朝から挨拶なんてしないのだが今日は気分が良いので教室に入ってクラスメイト達に挨拶をかます。


「……」


 しかしクラスメイト達は俺に気づくと顔を背けて沈黙を貫き始める。

 俺の参加していなかった打ち上げで何か揉め事でもあったのだろうかと疑問に思いながらも、みたきちゃん最優先である今の俺はクラスメイトとの交流に大した意義を見出していないので、特に気にせずに授業を受けて、いつものように放課後にみたきちゃんの仕事が終わるまで男子達の下らない話に付き合う事に。


「……高下さ。いくら都合のいい彼女が欲しいからって、あれは無いだろ」


 しかし、この日の男子達の話題は俺に対する非難だった。

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事情も経緯も知らない外野からはそう見えてしまうわな…
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