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みたきちゃん係  作者: 中高下零郎
高校生編
24/32

一話 恋愛

 俺とみたきちゃんが恋人同士になって、本村さんと疎遠になって、モテる本村さんには新しい彼氏が出来て、俺を取り巻く環境も落ち着いて、そして俺は高校生になった。


「つうか高下は何で本村さん振ったんだよ、あれより可愛い彼女が出来たのか?」


 高校生になったとは言っても、中高一貫なので面々はあまり変わらない。

 放課後に集まって下らない話をする事も多く、その話題の大半は女絡み。

 本村さんに一方的に別れを告げた理由についてぼかし続けて来た俺ではあったが、いい加減に男子の追求をのらりくらりと躱すのも面倒なので、新しい彼女としてみたきちゃんの写真を見せてやろうとポケットの中にあるスマホに手を伸ばす。


「……お前らには教えねーよ。まぁ、天使みたいに可愛い子だよ」


 しかし、以前親戚の子だと言って男子達にみたきちゃんの写真を見せた際に顔面偏差値40だと失礼な事を言われた事を思い出したのと、それ以前に最近は裸の自撮り写真だったりを何枚か保存している事を思い出す。


「何でお前みたいなのがそんな天使みたいな美少女と付き合えるんだよ、イケメンでも無いのに」

「心がイケメンなんだよ」

「うっざ」


 本村さんよりも素敵な女性が見つかったから別れたんだと適当にぼかしながら、帰ったらスマホの中の画像はパソコンに移動させなくちゃと脳内TODOリストをアップデートする。


「んじゃ、俺そろそろ帰るわ。彼女のバイトがそろそろ終わるから」

「バイト? この時間に終わるって、まさかJDか!? JDなのか?」


 時計を見ると17時が近づいて来たので、下校時間になるまでずっと駄弁っているであろう暇な男子達に別れを告げて学校を出て、少し離れた場所にある、養護学校に併設されたパン屋へと向かう。


「いらっしゃいませー! あ、あたる君!」

「今日もお仕事してて偉いね」


 店内に入ると、レジに立っていたみたきちゃんがこちらに気づいてぶんぶんと手を振って来る。

 高校生相当になった彼女は作業所も兼ねている養護学校に進学しており、学業の傍らパンを作ったり、接客をしたりと俺より遥かに色んな事を学んでいる。

 仕事の終わった彼女と共に、売れ残ったパンを頬張りながら彼女の家まで並んで歩き、彼女の部屋でダラダラとしながら、週末にはどこにお出かけしようかなんて話をする。


「そういえば昔、ウサギだらけの島があるって言ったよね。そこに行こうよ」

「ウサギ! 行く行く!」


 本村さんと俺が付き合っていた頃、みたきちゃんと最後のデートをするつもりで動物園に行った際に、県内にウサギだらけの島があると言って彼女がとても興味を抱いておりいつか行こうと言って俺が返答を濁していた事を思い出し、そこに行こうと提案すると彼女は両手を頭につけてウサギの真似をしながら喜ぶ。

 朝何時に集合して、電車で移動して、船で島に行って……そんな週末のデートプランを二人で作って行きながら時間は過ぎて行き、彼女の両親が後30分もすれば帰ってくるという時間になると、みたきちゃんはまるでパプロフの犬かのように頬を赤らめてベッドに向かい服を脱ぎ始めた。


「あたる君、早く早く、夫婦ごっこしよ」


 急かす彼女に応じて俺もベッドに向かい、彼女にキスをして身体を触る。

 夫婦ごっことはお医者さんごっこを更に発展させた、恋人関係にのみ許されたごっこ遊びだ。

 とはいえあくまでごっこ遊びで、実際の夫婦のように子供が出来るような事はしない。


「私も、あたる君の身体とか、触った方がいい?」

「みたきちゃんは何もしなくていいんだよ」


 最近は彼女も多少そういう知識を持ってしまったようだが、彼女に汚い物を見せるつもりは無いし、ただ只管に彼女が満足するくらいに彼女を愛でる、ただそれだけだ。

 この日はいつもより盛り上がってしまい、疲れ果てて幸せそうに寝息を立てる彼女に服を着せて布団をかけてやり、家を出ようとすると丁度彼女の母親が帰ってきたので軽く会釈をする。


「いつも三滝を可愛がってくれてありがとうね。いつまでも仲良くしてあげてね」

「いえいえ」


 俺とみたきちゃんが恋人関係にあることも、そういう行為をしていることも当然彼女の両親は知っているが、娘に彼氏は早いだの、悪い男に利用されているだの、そんな心配するような親子関係は既に崩れ去っている。

 早く嫁に貰って欲しいとでも言いたげな表情の母親に別れを告げ、帰り道に寄ったコンビニで求人情報誌を読みながら、結婚は気が早すぎるが、大学に進学したら彼女と同棲もありかも知れないな、そのためには仕送り込みでいくら必要なんだろうかと数年後の将来設計について高校一年生なりに真面目に考える。

 彼女も学校に通いながら働いている? のだし、自分もアルバイトをしようかな、でも彼女と遊べる時間が減るしな、彼女も寂しがるだろうしなと悩みながら帰路につき、パソコンの前に座ってズボンを脱ぎ、


「みたきちゃん……みたきちゃん……」


 保存してある彼女の裸だったり、数時間前の感触だったりを使って自分を慰める。

 その翌日、また一人チェリーを卒業した男子がいるらしく下世話な話題で盛り上がる男子達。


「高下は新しい彼女と何回ヤったんだ?」

「一回もそういうことはしてないよ」

「はぁ? 本村さんともヤる前に別れたらしいし、お前どうなってんだよ?」

「相手を大切にしてるんだよ」


 チェリーを卒業するだとか、見た目が良い子とそういう事をするだとか、そんな事をステータスかのように捉えている、そんな事のためにお金も時間も浪費する哀れな男子達に余裕の笑みを見せた後、この日もみたきちゃんの家に行って夫婦ごっこをする。

 例え身体が直接繋がっていなくとも、毎日のように愛し合っている俺達の方が、たまにデートをして特別な日に繋がるそこらの恋人達なんかよりずっと恋人恋人しているのだ。

 そして週末、駅で待ち合わせた俺達は電車と船を乗り継いでウサギ島へ向かう。


「えへへ、ウサギさん可愛いね」

「これだけいるなら一匹持って帰ろうか」

「あたる君、それはダメだよ」

「みたきちゃんは偉いなぁ」


 島の中を闊歩するウサギ達と触れ合った後、レストランで昼食を採る俺達。

 いつかの猫カフェの時と違い、ウサギの肉を使っていてもおかしくはない料理に怯える彼女を微笑ましく眺めながら料理を楽しみ、伝票を持ってレジに向かおうとする俺の腕を彼女が掴む。


「こないだ、ちょっとだけどお給料が入ったんだよ。だから今日は私がご馳走するの」

「みたきちゃんは優しいね」


 今までは俺が奢ったり多めに払っていたものの、それは所詮お小遣いやお年玉という他人のお金によるもの。

 彼女が自分で稼いだお金を俺の為に使ってくれるという事に感動し、やっぱり時間の合間を縫ってアルバイトをしようと彼女に相応しい男になる事を決意してその後もデートを楽しみ、長い電車移動も相まってすっかりお疲れモードの彼女を家まで送り届ける。


「ただいまー、お母さん、お土産のウサギさんクッキー。あたる君、早く早く……ふぁあ」

「今日はみたきちゃん疲れてるでしょ? 部屋に戻ってゆっくりおやすみ」


 彼女はいつものように俺を部屋に招いて夫婦ごっこをしようとするが、今日は休日で彼女の両親が家にいるし、彼女も疲れているので身体を労わって玄関前で彼女に別れを告げて帰路につく。




 みたきちゃんとのデートは割引が効くのであまりお金がかからないし、そもそもみたきちゃんは外にデートに行かなくたって、部屋の中でまったりと過ごすだけでも十分に喜んでくれる。

 俺の薄汚い欲望も受け止めてくれるし喜んでくれる。

 いつも天真爛漫な、天使のような笑顔を俺に見せてくれる。

 顔面偏差値だとかスタイルだとか、そんな表面的な事ばかり拘っていた昔の自分が馬鹿みたいだ。

 みたきちゃんは理想の恋人なのだ。

 そして俺達は今、ラブラブなのだ。


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