七 くすぐりあい
「高下君、こないだは本当にごめんね。友達に話したら、どう考えても私が悪いって」
「気にしなくていいよ。他人は他人、自分は自分でしょ」
本村さんに拒まれ、寂しさを埋めるようにみたきちゃんとキスをした数日後。
友達に愚痴を言った結果、数ヶ月付き合っていて彼氏を部屋に呼んでキスもしないのは非常識だと怒られたらしく、久々に空き教室で二人食事を採りながら彼女はペコペコと謝って来る。
そんな彼女に全然気にしてないよと言う俺であるが、その余裕の正体は紳士的な本心なのか、みたきちゃんとキスをしたからなのか自分でもわからない。
「……ということで、今からキスしない?」
「無理しなくても」
「別に無理とかじゃ無いよ、こないだは、その、突然でびっくりしただけで、私もしたいと思ってたし」
埋め合わせのつもりなのかは不明だが、彼女は食事を終えるとキスをしようと提案し、口を綺麗にしたいのかお茶をコクコクと飲み始める。
俺もそれに合わせてお茶を飲んで唇を綺麗にし、空き教室で二人はキスをする。
二回目のキスは無味無臭だった。
「……え、えへへ、恥ずかしいね。初めてのキスだったから、凄くドキドキして」
「そうだね。俺も初めてだよ。キスってこんなに恥ずかしいんだね」
しばらくして唇を離し、顔を赤らめさせながらファーストキスである事を告白する彼女。
そんな彼女に数日前別の女とキスをしたなんて勿論言わず、精一杯同じような反応をしようと務め、それからは再び仲を取り戻した彼女との恋人生活が少し続き、また文化祭の準備期間がやって来る。
「俺さ、こないだ彼女とヤったんだよね」
「まじかよ、卒業かよ」
男子達だけで力仕事をしている最中、一人のお調子者の男子が先日チェリーで無くなった事を告白しその場が盛り上がる。
普段だったらあまりそういった下世話な会話には積極的に参加しなかった俺であったが、先日キスを拒まれた事もあり、
「……後何ヶ月付き合ったら、胸とか触っていいのかな」
「高下の彼女って本村さんだろ? ガード硬そうだから、あと半年はかかるんじゃねえの?」
「半年? 後半年も我慢しないといけないのか? デートにも金がかかるのに」
「恋人をそういう目で評価すんなよなー」
積極的にその話題に乗っかり、俺が卒業するためにはこのままだとどれくらいかかりそうかについて話し合う。
本村さんは顔面偏差値高いんだからあまり不満を垂らすな、彼女がいない男子からしたら嫌味でしか無いとは言われるも、何度もデートをして、しかもカッコつけて多めに払っている分としては、本村さんと致すまでにかかる費用だとか時間を計算してしまい、我ながら最低な考えだとは思うがげんなりしてしまう。
その翌日は俺も本村さんも準備のシフトでは無いので放課後に一緒に帰り、手も繋いで彼女の部屋に向かい、談笑に興じる。
「それじゃあそろそろ帰るよ」
「うん、またね……あ、高下君。キスしよ?」
「……うん」
そして帰る間際に彼女とキスをする。何度も彼女とデートはしたし、キスもしたし、手だって繋いでいる。
可愛い彼女と順調な交際を続けてはいるものの、俺も男だ、彼女が欲しい理由の大半はソレだ。
かなり好感度は稼いでいるだろうし、お願いすれば本村さんも身体くらいは触らせてくれるのかもしれないが、拒否された時の事を考えると勇気が出ずに、彼女の方からいいよと言ってくれるのを待つ道を選ぶ。
もやもやとした感情を抱いたまま、その翌日の放課後はみたきちゃんと駅で待ち合わせで彼女の家に向かうのだが、その途中で突然の大雨に見舞われる。
「家まで走って!」
雨に気づくや否や家に向かって走り出すみたきちゃんに続き走り出すも、時既に遅く、家に到着する頃にはかなりのずぶ濡れ状態に。
コンビニかどこかで雨宿りをしたり、ビニール傘を買った方が良かったなと反省していると、家の中に入ったみたきちゃんはその場で服を脱ぎ始めたので慌てて制止する。
「み、みたきちゃん、ここで脱いじゃ駄目だよ」
「服濡れて気持ち悪いし、早くお風呂入りたいし……あたる君も濡れてるんだから、服脱いで、お風呂入ろ?」
顔を背ける俺を気にする事無く、あっと言う間に丸裸になったばかりか、俺の腕を掴んで無理矢理風呂場の方へと連れて行く彼女。
俺の服も濡れていて彼女の家を濡らす訳には行かないこともあり、脱衣所に置いてあるバスタオルを手に取って大事なところを隠すと共に彼女にもそれを渡して身体に巻くように指示し、俺達は彼女の風呂でシャワーを浴びる。
「背中流してあげるね」
「ありがとう……」
恥ずかしさからずっと俯いたまま、彼女に背中をごしごしと洗われて時間を過ごし、風呂からあがった俺はひとまず彼女の父親の服を借りて、彼女の部屋で濡れた服をドライヤーで乾かしながらも、脳内は先ほど少しだけ見てしまった彼女の肌。
「乾くのに時間がかかるなら、今日はお父さんの服を着て帰ったら? 洗濯するよ?」
「問題無く着れるくらいになったら残りは自分の家で乾かすから大丈夫だよ」
平静を装って彼女と会話をするも、顔を背けていた先程とは打って変わって、みたきちゃんの昔に比べると少し女性らしく成長した身体つきをじろじろと眺めてしまう。
更には服が乾き脱衣所で着替える途中、カゴに脱ぎ捨てられていた彼女の下着だったりを見てしまい、自分の中に悪魔のような考えが浮かび上がる。
「……みたきちゃん、今日は身体をくすぐりあって遊ぼうか」
本村さんと違って、みたきちゃんは絶対に俺を拒絶しない。
遊びだと言えば身体を触らせてくれるし、服を脱いで欲しいと言えば脱いでくれるはずだ。
自分でも最低だとは思っているが、ある意味ではこれはガードの硬い本村さんが悪く、ある意味では大雨と安易に服を脱いだみたきちゃんが悪く、俺だけが悪い訳では無いのだと言い訳をしながら、部屋に戻った俺はみたきちゃんにそんな悪魔の提案をする。
しかしながら、
「……えーと、えーと、そうだ、これを引くんだった」
「!?」
みたきちゃんは何かを思い出そうと悩んだ挙句、カバンについている卵型の防犯ブザーを鳴らそうとする。
彼女の両親は帰って来ていないし、外ならともかく部屋の中で鳴らしたところで警察が乗り込んで来る事も無いのだが、本能的にやばいと感じた俺はみたきちゃんの行動を制止する。
「な、何で防犯ブザーを鳴らそうとするの?」
「先生がね。身体をくすぐってあげるとか、服を脱いで欲しいって言われたら、大声を出したり、これを鳴らしなさいって」
そして彼女は行動の理由を俺に語り、彼女の通う学校はしっかりと不審者や性犯罪対策をしているのだなと感心すると共に冷静さを取り戻すが、それだけで自分の行動に待ったをかけられる程、俺も大人では無い。
「本当に好きな人なら大丈夫なんだよ。みたきちゃん、俺の事好きだよね? 先生より好きだよね?」
「うん。私、あたる君の事好きだよ」
「俺もみたきちゃんの事が好きなんだ。だからこちょこちょして遊ぼうよ」
「わかった」
言葉巧みに普段じゃ使わないような好きなんて言葉も使って彼女を納得させてベッドに寝かせ、馬乗りになると、一方的に彼女の身体を服越しにまさぐり始める。
「あ、あはは、あたる君、くすぐった、いひひ、ギブ、ギブギブ」
俺が彼女を喜ばせるためでは無く、自分のためにくすぐっている事なんて知らずに、されるがままにくすぐられてゲラゲラと笑う彼女。
やがて体力を使い果たし、ベッドの上でぜーはーした後に眠りについた彼女を見下ろした俺は、彼女の純真無垢な寝顔を見て封じ込めていた罪悪感だとか理性だとかが沸き上がり、
「うわあああああ!」
自分がやってしまった事の醜悪さに耐えることが出来ず、色んな物から逃げるように彼女の家を飛び出して帰路につくも、身体の一部分はずっと興奮したままであった。




