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みたきちゃん係  作者: 中高下零郎
中学生へん
19/32

五 デート

「おはよう!」

「おはようみたきちゃん。どこ行きたい?」

「えーとね……プニキュアの映画と、動物園と……遊園地!」

「ちょっと待ってて。場所を確認するから」


 予行演習デートの翌日、日曜日。本村さんとSNSのやりとりをして、夜まで家族旅行で帰って来ない事を確認した俺は、この日も駅でみたきちゃんと待ち合わせし、地図アプリで映画館や動物園や遊園地を探し始める。


「昨日よりもう少し遠くにお出かけだね。副山ってとこ」

「はーい! 駅員さん、副山まで切符ください! あたる君の分も!」


 これから向かう駅を指差すと、みたきちゃんは窓口に向かい駅員に療育手帳を見せる。

 今日は本村さんとのデートの予行演習では無く、みたきちゃんとのデートだ。

 だから隣を歩く彼女が療育手帳を使うことに対しても受け入れる必要がある。

 身体や心の病気の手帳に比べると珍しいかもしれない色の手帳に、近くの人達が奇妙な視線を俺達に向けるも、気にするものかと自分の分の切符を買った俺はみたきちゃんの手を引いて改札をくぐり、電車に揺られて映画館や動物園、遊園地のある街へと向かう。


「今日もプニキュア見たの?」

「そうだよ。こないだ新しくなって、プニキュアが魔法少女になったんだよ」

「プニキュアって初代から魔法少女じゃないの……?」


 まずは駅前にある映画館で今日の朝もやっているらしいプニキュアの映画を彼女と見ることに。

 題材が題材だからか、基本的にはみたきちゃんよりも幼い女児とその親がメインの客で、たまに大きなお友達らしき人がいるくらい。

 少し疎外感を感じながらも並んで座り、ポップコーンとコーラをお供に昔見た時に比べると作画のレベルが格段と向上している、来週から少し見たくなってしまったプニキュア映画をじっと眺め続ける。


「応援しないの?」

「あはは、私もう14歳だよ。そんな子供じゃないよ」


 熱いシーンで子供や大きなお友達が声援をする中、黙って映画を見続けるみたきちゃんに気にせずに応援するように言うが、彼女もそれなりに恥じらいだとかの感情が育っているらしく、照れながら声を出す事無く、おそらくは心でプニキュアを応援し続ける。


「どのシーンが良かった?」

「やっぱり変身シーンと合体シーン!」

「俺も興味出て来たからさ、来週さ、一緒に見ようよ。お互い部屋で実況するんだ」

「面白そう!」


 映画館を出た俺達は近くのファーストフード店に向かい、そこで映画館の中では大人しくしていた分、魅力だったりを語りたくてたまらない彼女の話をたっぷりと聞く。

 昨日の予行演習とは違いすっかり上機嫌そうな彼女と共に今度は動物園に向かい、映画館とは違って動物園は付き添い含めて無料で入れるらしくラッキーだねと二人で笑いながら、少し獣臭い中へと入る。


「あ、ウサギ! 懐かしいね、小学校の頃」


 色んな動物を眺めながら、写真を撮りながら動物園の中をウロウロすることしばらく、みたきちゃんは特にウサギとの触れ合いコーナーがお気に入りらしく大量のウサギに包まれながら至福の表情。


「そういえば飼育されてたね。俺はあんまり見に行かなかったけど。そういえば、もう少し遠くには、ウサギだらけの島があるんだって」

「本当!? 今度行こうよ!」

「……都合がつけばね」


 更に少し離れた場所にある、王久野島というウサギ島について言及すると、彼女は目を輝かせながらまた今度行こうと俺を誘うが、そんな彼女の誘いに俺は目を逸らしながら曖昧な返答をする。

 今日のデートは昨日の予行演習で迷惑をかけてしまったみたきちゃんに対する償いの意味も込めたデート。

 本当ならば俺はもう本村さんの彼氏であり、みたきちゃんとこれ以上デートをするのはまずいのだ。

 だから今日のデートを彼女との最後のデートにしようという気概で臨んでおり、精一杯今日は彼女を喜ばせようと、向こうにも可愛い動物がいるよと全力で動物園を楽しむ。


「はー、可愛かった。私もペット飼いたいなぁ」

「実は引っ越した先がペット可のマンションなんだよね。だから何か飼おうかなんて話にもなってるんだけど、俺は猫がいいんだけど、親が猫アレルギーでさぁ」

「私もねー、最近庭に猫がいるから餌あげてるんだよ」

「ちゃんと不妊手術してるんだろうかなぁ……」


 様々な動物にすっかりと癒されて、家でペットを飼いたいという気持ちがお互いに高まった結果、遊園地に行く前に猫カフェでお茶をする事になった俺達。


「このコーヒーには猫がね」

「もう! 変な嘘ついて! 騙されないよ!」

「本当に猫のうんちを使ったコーヒーがあるらしいよ」

「あたる君……下品だよ」


 小学校の時に彼女と猫カフェに来た際の彼女の勘違いの応用で、実際に存在するコピ・ルアクについて語ってみたのだが、みたきちゃんは男子とは違い幼い頃からうんちで笑うような下品な感性は持ち合わせていないらしく、割とマジトーンで引かれてしまう。

 みたきちゃんに引かれてしまうという貴重な経験に少しゾクゾクしている自分を認めながら、猫カフェを出た俺達はメインイベントとも言える遊園地へと向かう。


「ジェットコースター……は並んでるから、他のにしようか」

「あたる君、怖いの?」

「ははは、まさか。時間は限りがあるんだから、空いてるアトラクションを楽しもう。ほら、コーヒーカップがあるよ」


 手帳のパワーで入園料は安く済むが、ファストパスには流石に適用されない。既に映画や動物園を経ておりそこまで時間に余裕が無い事もあり、コーヒーカップで全力でぐるぐる回したり、メリーゴーランドでゆらゆら揺られたり、そこまで行列の出来ない遊園地デートを楽しみ続ける。


「時間的に、後1つかな。観覧車見て、パレード見て、子供はもう帰らなきゃ」

「大丈夫? あたる君、高い所怖いんでしょ?」

「みたきちゃん? 僕がそんな事を一度でも言ったかい? みたきちゃんこそ、一番上で泣くんじゃないよ」


 夕方になり、パレード前の駆け込み乗車でそれなりに行列が出来ている観覧車に二人で乗り込み、頂上に近づくにつれて小さくなる遊園地やその向こうにある街並みを二人で眺める。


「すごーい! あんなに小さいんだ!」

「みたきちゃん、あまり動いちゃ駄目だよ」

「怖いの?」

「乗り物が壊れるかもしれないからね!」


 頂上からの眺めに興奮し、カプセル? の中で身体を揺らしてはしゃぐみたきちゃんと、少し足をカクカクさせながらそれを嗜める俺。

 とてもじゃないが観覧車の頂上でロマンティックな雰囲気になる事も無く、観覧車から降りるや否や始まったパレードに目を輝かせる彼女と、今度本村さんと遊園地に行った時に観覧車に乗りたいと言われたらどうしようと少し疲れた表情でゆっくりと降りる俺であった。


「何のキャラなんだろうね?」

「えーと……あれが弥勒菩薩ちゃんで、あれが金剛力士像くんだよ」

「変な名前……」


 その後は二人でパレードを楽しみ、それぞれの家族へのお土産を買って、電車に揺られて地元の駅へと向かう。もう辺りは暗くなったからとみたきちゃんの家まで彼女を送ると、家の前で彼女は満面の笑みを俺に見せて来た。


「今日は、とっても楽しかった! また、一緒にお出かけしようね!」

「……またね」


 昨日の予行演習とは違い、今日のデートはみたきちゃん的には大満足だったのだろう、俺に振る手もいつもよりもぶんぶんと振れている。

 ただ、俺はもうちゃんとした彼女がいる身で、みたきちゃんとの関係もタイミングを見て解消しなくてはいけない立場だ。

 彼女の次のデートのお誘いに対する回答をはぐらかし、彼女に背を向けると、罪悪感だとか色んなものを抱えたまま、苦虫を嚙み潰したような表情のまま自宅へと走って行くのだった。

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