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みたきちゃん係  作者: 中高下零郎
中学生へん
17/32

三 文化祭

「ただいまより、第〇〇回、〇〇中学校及び高校の文化祭を開催致します」


 あっと言う間に文化祭当日がやってきた。

 初日は一般参加者を迎える翌日のリハーサルも兼ねて、学内だけで完結する簡素なレベルの文化祭を行いつつ、どのクラスの出し物が面白そうだとかの下見も行うのが習わしだ。


「こことかデートに最適なんじゃねーの?」


 適当に学内をブラついている途中、占いの館なんて手抜きな出し物をしているクラスを見つけ、俺が明日本村さんとデートをする事と知っている友人達が冷やかしながらもプランについてアドバイスをする。

 あまり茶化すなよと少し顔を赤らめながら友人達に対応していたのだが、前方から女子のグループが歩いて来る。


「……」

「……」


 その中には本村さんも混じっており、目が合ってしまった俺はすぐに顔を背けながらチラッと彼女の方を見やる。

 彼女も恥ずかしそうに俺から顔を背けようとしており、お互いの友人達がニヤニヤとするという青春の1ページが繰り広げられ、初日の文化祭は終了。

 少し興奮してしまったので睡眠薬に頼って翌日を迎え、午前中は友人達と学校を適当に巡り、12時になると文芸部の部室へと向かい本村さんと談笑をしながら彼女の書いた本を読む。

 彼女の優しさが滲み出て来るような、とてもいい文章だ。


「それじゃ、とりあえずお昼でも食べに行こうか」


 13時になり、本村さんの仕事が終わったので彼女を連れ出した俺は、事前に色々と調べておいた屋台のコースへと向かい、そこで素人のグルメを二人で味わう。


「高下君、さっきから色々買ってるけど、差し入れ?」

「へ……? あぁ、妹のお土産にね」

「あれ? 高下君って、いるのはお姉さんじゃなかったっけ?」

「あー……親戚の子供なんだよ。よく懐いてて、妹みたいなもんなんだ」

「そうなんだ。高下君って優しいもんね、懐かれるのもわかるよ」


 気付けば俺は無意識にみたきちゃんへのお土産用に食べ物をいくつか買っていたらしく、それを疑問に思った本村さんに突っ込まれてしまい適当に誤魔化す羽目に。

 例えそれが普通では無い、本当に手のかかる妹のような存在だとしても、別の女子とも遊んだりしているなんて本村さんに知られたら俺の青春は頓挫する。

 今日はスマホを見るのも控えた方がいいなと、普段なら割とすぐに返信しているみたきちゃんからのメッセージも無視しつつ、その後は本村さんと文化祭を満喫して行く。


「高下君はどんな音楽聞いてるの?」

「すごいワイシャツ屋さんとか、ソイレントサイレンとか、拘りはないけど、動画サイトとかで流行りのをたまに聞く程度かな」

「私は今度親がチケット当たったから、さいみょんのライブ行くんだー」


 生徒達によるバンド演奏を聞きながら、普段のように小説関連では無く、音楽だったり別のジャンルについて話し合ったり、


「……」

「……」


 お化け屋敷に二人で入るも、怖かった時に抱き着いてしまうという恥ずかしいシチュエーションを警戒してか彼女は俺から距離を取り、俺も距離を詰めるのも何だかなぁと思った結果、二人で入ったと言っていいのかも怪しいレベルの距離感でお化け屋敷を踏破したりと、お互いに意識しているからこその初々しい文化祭デートは過ぎて行く。


「今日は本当に楽しかったよ。……それじゃ、私自分のクラスの片づけとかあるから」


 文化祭の終了を告げる校内放送が流れ、本村さんは俺にニコリと微笑むと片付け作業のために去って行く。

 確かな手応えを感じながら俺も自分のクラスで後片付けや打ち上げを行い、帰る頃には既に21時近くとなっていた。


「……この時間に家に行くのは非常識だよな。そもそももう冷めてるし」


 すっかり冷え切ってしまい美味しく無くなってしまった、みたきちゃんへのお土産用に購入したたこ焼きや焼きそば、クレープと言った文化祭グルメを持ったまま、俺は彼女の家に向かう事無く帰路につき、平日だが代休である翌日の食事用にとそれを冷蔵庫にしまい込む。

 そしてその翌日。平日なので両親は仕事に出掛けており、俺は温めても美味しくない文化祭グルメを食べながら暇潰しにとスマホを開き同じように休んでいる本村さんに連絡をしようとするも、昨日デートをしたこともあり恥ずかしくて自分から連絡が出来ない。

 向こうから連絡が来ないのは、同じ事を考えているからなのだろうかと希望的観測を抱きながら、第二候補としてみたきちゃんに連絡をするも、向こうは普通に学校で授業中。


『ごめんね 勉強してるの』


 休憩時間であろう時間帯に彼女からそんな返信が届き、みたきちゃんに配慮させてしまったら人間終わりだよと溜め息をつきながら自室でダラダラと時間を過ごす。

 彼女の学校が終わる頃に再度連絡を入れ、いつもは放課後に駅で彼女と待ち合わせするが、この日は私服姿で放課後に彼女の家に向かう。


「えーと……お化け屋敷に入ったんだよ」

「一人で? 怖くない?」

「仲の良いおんn……男友達と一緒にね」


 そこで主に文化祭の思い出話だったりを彼女にするのだが、基本的に本村さんとデートをしていた事もあり、それをぼかしながら喋るのはなかなかに大変。

 本村さんにみたきちゃんの存在を知られるのはまずいが、みたきちゃんに本村さんの存在が知られるのはまずい事なのだろうかと自分でもよくわからない疑問を抱きながら文化祭について語り続け、彼女はすっかりお祭りの口になったようで、昔一緒に夏祭りに行った時にくじ引きで当てた、というより外れて貰った吹くと何か音がして紙が前に出て来るやつを引き出しから取り出して吹き始める。


「いいなぁ。私の学校も、お祭りしないのかな」

「幼稚園の子とかと交流するって聞いたけど。お遊戯会とかしてるんでしょ?」

「うーん……そういうのは、何か違う。ちなみに私はこないだシンデレラやったんだよ」


 学校で行うお祭りを渇望する彼女ではあるが、現実問題ただでさえ教師だったりの負担が高い彼女の学校でそういったイベントを行うことは困難だろう。

 何とかしてあげたいな、と彼女がぴゅーぴゅーしているのを眺めながら考える事しばらく、部屋の中にある何かを取り出したまま片付けされていない小さな段ボールを見つけて妙案を閃く。


「そうだ。ここで小さなお祭りをやろう。お絵描きをしてお化け屋敷を作ったり、家にたこ焼き器があるからそれでたこ焼きを作ったりするんだ」

「この部屋がお化け屋敷になるの? 楽しそう!」


 彼女の部屋でプチ文化祭を行う事を提案すると、彼女はすぐに目を輝かせながら画用紙にお化けらしきものを描き始める。

 俺も段ボールを切ってなんかそれっぽいオブジェクトを作り、それからの平日の放課後は彼女の部屋をお化け屋敷にすべく準備を続け、そして迎えた土曜日。


「じゃあ電気消すね!」


 みたきちゃんが部屋のカーテンを閉めて電気を消すと、辺りが暗闇に包まれてお化けや人魂のような、暗闇で光る塗料を塗った絵やオブジェクトが周囲に浮かび上がる。


「みたきちゃーん、どこに行ったのー?」

「ぐおおおおおおお!」

「うわーーーーーー」


 みたきちゃんはお化け役がやりたいらしく、懐中電灯を持って部屋の中をうろつく俺をシーツを被って何度も脅かしにかかる。

 最初は結構真面目に驚いていたのだが流石に何度も驚かされると慣れてしまい、彼女も飽きたのか交代しようと俺にシーツを被せて懐中電灯を振り回す。


「あたる君……あれ? おーい、いるよね……?」

「ごめんごめん」


 今度は俺が彼女を暗闇から驚かす番なのだが、中学二年生にもなって男子が女子を、それも彼女のような幼気な子を驚かすというのはどうにも抵抗があり、近くから彼女を背後霊のようにじっと眺め続けた結果、彼女は静寂に耐えかねて泣き出しそうになってしまったので慌てて電気をつけて彼女を慰める。


「ごめんね、あたる君にばかり焼かせちゃって」

「いいんだよ。今日は俺が店主でみたきちゃんがお客さんだから」

「私ね、今学校で料理の勉強もしてるんだよ。いつかあたる君に作ってあげるからね」


 その後は家から持って来たたこ焼き器を使って屋台の店主になりきり、彼女に小学生の時に比べたら若干マシになっているであろう料理を振舞う。


「はー、お腹いっぱい……」

「お祭り楽しかった?」

「うん! あ、駄目だよ、飾りを捨てちゃ。押し入れに入れるの」


 こうして第一回みたきちゃん祭りは無事に終了し、彼女の部屋の押し入れはお化けの絵や人魂のオブジェクトで埋まり墓地となるのだった。





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― 新着の感想 ―
ここで、みたきちゃんの部屋でお祭りをやろう ってなるのはもう…… あの時の吹き戻し、取っておいてあったんだね みたきちゃんの中で楽しかったお祭りの思い出の品なんだとわかる良い描写
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