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みたきちゃん係  作者: 中高下零郎
中学生へん
15/32

一 再会

 中学二年生の秋。放課後に仲の良い男子達と空き教室で適当に駄弁っている中、男子の一人がスマホを見ながら絶叫をし始める。


「っしゃああああああああ! 付き合ってもいいってさ!」

「早く別れますように」


 SNSでの告白が無事に成功し、彼女が出来た男子に対して、祝福したり、悔しがったりする友人達。

 あっと言う間に話題は恋愛となり、誰が好きなのか、告白された事はあるのかと言った話で盛り上がる。


「高下は、隣のクラスの子と仲良いよな?」

「あぁ、小説とかの趣味が合うみたいでさ、たまにSNSとかでやり取りしてるよ」

「告白しねーの? それともされ待ち?」

「んー……正直悩んでる」


 その矛先は俺にも向かい、去年同じクラスになって、それなりに仲良くなって、連絡先も交換して、今でもそれなりに遊んだりしている女子の話をすると告白するべきだ、だとか無関係だからと適当なアドバイスをする男子達。


「なぁ、付き合ってどれくらい経ったら胸とか触っていいんだ?」

「知るかよ」


 そこから話題はエロに移動し、スマホで検索すればすぐに出て来るエロ動画を皆で鑑賞するという男子中学生の青春を謳歌して解散し、今日のオカズは何にしようかなと考えながら帰路につこうとしたのだが、


「あ、高下君。今帰り?」

「あぁ、友達と喋ってたらいつのまにかこんな時間だよ。そっちは文芸部?」

「うん。高下君も文芸部入ったら?」

「もう中二の秋だしなぁ」

「あはは、ここって中高一貫なんだから。今入っても全然間に合うよ」


 話題になっていた俺と仲の良い女子……本村さんと遭遇して、途中まで一緒に帰る事に。

 先程まで卑猥な動画を見ていたこともあり、彼女から目を逸らしつつ、少し隆起している自分の一部分を隠しながら無難な会話を繰り広げ、ゲームじゃないがそれなりに好感度を稼ぎながら分かれ道に差し掛かる。


「それじゃあまた……あ、そうだ! 私ね、最近電子書籍デビューしたんだ。今までは邪道だと思ってたんだけどさ、やっぱり寝ながらスマホでダラダラ読めるのっていいなぁって。無料セールとかもやってるから、帰るから色々おススメのリンク送るね」

「ありがと。暇な時に読むよ。またね、本村さん」


 そこで本村さんと別れた俺は、クリスマス前には告白しようかな、でもあの感じだとそろそろ向こうが告白して来そうだな、なんて色々と妄想に耽りながら一人帰路につく。




 中学生になった俺は、そこで孤立する事も無く、成績を落とす事も無く、仲の良い女子もいて、中の上くらいの中学生ライフを満喫していた。

 強いて普通の中学生と違う部分があるとすれば、小学生時代の知り合いとは交流したがらなかった。

 大半は6年生の時のクラスメイトでも無かったものの、当時『あの子』と一緒にばい菌扱いされた身からすれば、どうしても中学生になったし仲良くしようぜと言われても素直に受け入れることが出来なかった。


「みたきちゃんは、今頃何してるんだろなぁ」


 自分の中学生としての現状を考えているうちに、自然と『あの子』……みたきちゃんの事を思い出す。

 卒業式の日から既に1年半が経過しているが、それでも彼女が俺に与えた影響はそれなりに大きい。

 なんせ未だにクラスメイトに対しては憎しみを抱いているし、同級生とも仲良く出来ないのだから。


「……特別支援学校の送迎バスか」


 彼女の事を考えていたからか、駅の近くに止まっているバスが彼女のような人間を特別支援学校や作業所に送迎するためのバスである事に気づいた俺は、ぼーっとしながらそこから降りて来る人達を見やる。


「どいつもこいつも、似たような顔。顔の筋肉がうまく使えないと、ああなっちゃうのかねえ」


 バスから降りて来る、そのまま電車に乗ってセルフ車掌でもしそうな人達を眺めていたのだが、その中の一人を見た瞬間、直感と言うやつなのだろうか、胸の鼓動が速くなる。


「……似てるな。まさか」


 卒業後の彼女が1年半経過したらどう成長しているだろうか、という俺の想像上の姿にかなり近い女子が、つまらなそうにバスを降りて、自宅があるであろう方向へと歩いていく。

 あの方向は、みたきちゃんの家の方向だ。


 彼女にどうしても話しかけたいが、人違いだったらどうしようと悩んだ俺は、後ろから彼女を早歩きで追い抜くと共にわざとカバンから小物を落とす。俺の知っている彼女なら、きっと拾うだろうから。


「……! あの、落としましたよ!」

「ありがとう」


 思った通り小物に気づいた彼女はそれを拾い上げると、駆け足で俺に追いついてそれを渡そうとする。

 振り向いて、彼女を真正面から見やる俺。やはりよく似ている。

 しかしそれ以上に、彼女は俺に対してよく似ているという感情を抱いたのだろう、


「あ……あ……あたる……君……?」

「久々だね。みたきちゃん」


 人違いなんて可能性を全く考えずに、俺の名を呼びながら、縋るように肩を掴む、少し成長したのか俺の名前の呼び方から幼さが少し抜けている彼女。

 それに呼応して俺も彼女の名を呼ぶと、俺以上に彼女はロスで傷ついていたのだろう、泣きながら俺の肩をぐわんぐわんと揺らし始める。


「う……うう……あ、あたる君……私、私、あたる君がいなくて、私……!」

「ごめん。黙っていなくなっちゃって」


 きちんとあの時、もうみたきちゃんとは学校で会えないと説明するべきだったのかもしれない。

 それが俺の本当の最後の仕事だったんだろうな、と当時の失敗を悔やみながら、わんわんと泣く彼女の頭を撫でた。




「新しい学校に行って、皆知らない人だらけで、寂しくて、怖くて、あたる君の家にも行ったけど、誰もいなくて」

「引っ越ししたんだ。そんなに離れては無いけどね。マンション賃貸から、マンション一室購入になったって程度で」


 それから数十分後。久々にみたきちゃんの部屋に向かった俺は、そこで彼女の近況を聞く。

 俺にべっとりと依存していた彼女の当初の荒れ具合は凄まじいものだったらしく、去年は教室の中で突然暴れ出すような、6年生の時よりも悪化している問題児だったそうだ。

 ただ、流石に教師陣もその道に特化したプロ。専用の教育を受けて、普通の人間に比べればずっとゆっくりだが、少しずつ彼女は成長して行く。

 それこそ、『自分が普通では無い』事をある程度自覚してしまう程度には。

 中学校に相当する3年間で色々と学んで、そこを卒業したらそのまま作業所でパンを作ったりと自分に出来る事をしながら生きていく……1年間とは言えど一緒にいた身としては、彼女が何とか今後生きていくことが出来そうで一安心。


「お別れをちゃんと言わなかったのはごめんよ。でも、もうみたきちゃんも、新しい学校で、新しい友達と仲良くしなきゃいけないんだ。今日は久々に会えて嬉しかったよ。それじゃあね」


 一通り話を聞いた俺は、専用の学校で同じような人達と一緒に学んでいる以上は俺がこれ以上関わっても意味は無いのだろうと、彼女に対する未練を断ち切るつもりで別れを告げてその場を去ろうとする。


「待って! 私、スマホ買って貰ったの!」


 しかり彼女は俺に対する未練を断ち切るつもりは無いようで、カバンからスマホ……と言っても機能の制限されたキッズ用のモノなのだが、最低限の連絡機能を備えているソレを取り出して、連絡先を交換しようと持ち掛ける。


「わかった。ずっとは無理だけど、たまにお喋りしようか」


 そんな彼女に対し、『俺とみたきちゃんは別の人生を歩まないといけないんだよ』なんて非情な事を言う事の出来ない、卒業式の日から成長していない俺は、観念したようにスマホを取り出すと彼女と連絡先を交換して、彼女の家を後にする。


『この本、今なら90%オフだから週末までに読んだ方がいいよ』


 その日の夜。自室でインターネットの中にあるオカズを使って自分を慰める最中に、定期的に邪魔をするようにメッセージを送って来る本村さんと何度かやり取りをしている中、スマホが震えてやれやれまた彼女かとメッセージを開くと、そこに表示されていたのは、


『迷惑じゃなかたらまた遊ぼね』


 あまりスマホを使う事も無いし、文章を作る能力もそこまで無いであろうみたきちゃんの拙い文章。

 俺は彼女の文章に対してケチをつける事無く、自分を慰める事も本村さんとのやり取りも中断して、取り留めも無い会話を彼女と繰り広げるのだった。

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