プロローグ
高校三年生にして小説家にあこがれた山田は、小説家になることを決意する。同じクラスの橘に誘われて入った文芸部は、自分以外全員女の子で―――!?
きっかけは、友達が持って帰るのが面倒だからと貸してくれた1冊の本だった。
先がどうなるのかと終始ハラハラドキドキしながらページをめくり、予想外の展開にはベッドの上で悶え耐える。文字だけなのに舞台のスピードを感じ、気付いたら一晩であっという間に読み終えてしまった。
そして俺は高3にしてこう決意するのだ。
―――俺は小説家になる、と。
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「この本貸してくれてありがとな。すごく面白かった!」
翌朝、教室に入るなり挨拶もそこそこに俺は後ろの席の橘に小説を渡す。橘はもう読んだのかと驚きつつも俺から小説を受け取った。それから腑に落ちたといわんばかりにニカッと笑って 「面白かっただろう?」 と言ってきた。
「悔しいが面白かった!」
それから堰を切ったように互いにあの小説について語り合い、橘は明日続編を貸してくれると約束してくれた。
一息ついたところで、昨夜の俺の決意を橘に話す。
「俺、小説家になりたいんだ」
面食らった顔をする橘。今まで本も碌に読んでいなかった俺が突然こんなことを言いだすんだ、そりゃぁ驚きもするだろう。しかし、次の橘の提案に逆に俺が驚かされることになるのだ。
「じゃぁ、文芸部入りなよ」
「え、うちの学校文芸部なんてあるのか」
「あるある! なんたってこの俺様が部長だ!!」
胸を張って部長を名乗る橘に、その部は本当に大丈夫なのかと心配になる。
「なに、山田君文芸部に興味あるの」
いつの間にか背後にいた担任の鈴原先生にびくっと肩を震わせる俺と橘。
「そうなんですよ、山田が小説家になりたいんですって」
「おーそりゃいいねぇ、それなら文芸部に入るべきだよ。なんたって、この私が顧問だからね!」
そう言って胸を張る鈴原先生。文芸部では胸を張るのが流行っているんだろうか。
「じゃぁまずは見学を――」
「えーっ!そんなまどろっこしいことしなくて大丈夫だって。はい、これ入部届。これペンな。はーいここにサインをしてくださーい」
新手の詐欺だろうか、まだ学生なのにやばい紙にサインさせられそうになって思わず涙目になる。橘に無理やりペンを握らされ、サインを書く書かないの問答をしている横では鈴原先生が、
「いいねー山田君すごく上手にペンを持ててるよ! さぁあとはここにサインを書くだけだ!上手にお名前書けてますねー」
俺の味方はいないのだと悟った俺は泣く泣く入部届にサインをし、その場で顧問である鈴原先生に受理されたのだ。
「まさか変な宗教がらみなんじゃないだろうな」
自分が大変なものにサインをしてしまったんじゃないかとしくしく泣く俺に、
「まっさかー! みんないい子だし文芸部楽しいよ! 小説家目指して頑張ろう!」
橘と鈴原先生が元気づけるのだった。
その言葉を信じた俺が馬鹿だった。
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放課後、文芸部の部室に案内をするという橘の後ろをついていく。
「みんなお待たせー! 新入部員だよー!!」
橘が元気よく扉をあけたそこには、四角い机を囲んだ5人のメンバーが座っていた。
それを見た瞬間、やられた!と俺は入部届を出したことを激しく後悔したのだ。
―――俺以外、全員女じゃねぇか!
しかしそれを今橘に抗議するのも何も知らない部員たちには失礼なわけで、声にならない声で抗議をするしかない俺に、
「挨拶はどうした? 新入り君よ」
そう言って茶化す橘のスカートが窓から入ってきた風でひらひらとはためくのだった。
はじめて投稿をさせていただきます。久々に小説を書くのでおかしなところや変な癖があったらご指摘いただけると幸いです。細々と続けていければと思いますので、よろしくお願いします。