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第九十一話 初恋のエピソード

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

「お待たせしてしまったようで申し訳ありませんでした」


 アルメリアがそう言って室内に入ると、アウルスは駆け寄り言った。


「アンジー、大丈夫なのか?」


 先ほどアウルスに甘えてしまったのを思い出し、どういう顔をしてよいかわからず、努めて平静を装った。


「もうなんともありませんわ。先ほどは取り乱してしまって申し訳ありませんでした。今日はゆっくり休んで、色々な報告は後日にいたしましょう」


 すると、アウルスはじっとアルメリアを見つめた。


「君がどう言おうと、今は君のそばにいると決めている。君は今日とてもショックを受けていた、そんな精神状態のときに一人になんてできない」


 そう言うとアウルスはアルメリアの手を取り、身体を引き寄せ力強く抱きしめた。


 アルメリアは気丈に振る舞ってはいたが、山賊が死んだ件に関して自責の念にかられつらく、更に死をとても身近に感じてショックを受けてもいた。そんなときに力強く抱きしめられ、全てを包み込むような温もりに触れて安心感を覚えた。そしてそれを心地よく感じ、思わず素直にアウルスの胸に顔を埋める。そうしていると、また涙が込み上げた。


「アズル……」


 アルメリアがアウルスの胸の中で泣いていると、落ち着くまでじっとアルメリアの背中を擦ってくれていた。しばらくして落ち着くと、アウルスの顔を見上げて言った。


「有り難う御座います。もう、大丈夫ですわ」


 アウルスはアルメリアの頬に涙で張り付いた髪をかきあげ耳にかけると、優しく微笑みかけた。


「いや、もう少し話をしないか?」


 そう言うと、アウルスはアルメリアの手を引いて、ソファに腰掛けた。そして、しばらく見つめ合っていたが、その沈黙を破って先に口を開いたのはアルメリアの方だった。


「あの、その、そういえば結局イーデンはどうなりましたの?」


「彼はこちらに協力的な行動を取ったので、とりあえずは捕らえているものの、今回の件については不問にするかもしれない。だが軍は抜けてもらうことになるだろう」


 これは嘘かもしれない。と、アルメリアは思った。なぜなら、アウルスがそんなに甘い判断をするとは思えなかったからだ。今ショックを受けているアルメリアを気遣って、処刑するのを隠しているかもしれなかった。


「イーデンを釈放するなら、会わせてもらいたいのですがよろしいでしょうか?」


 アウルスは怪訝な顔をした。


「なぜ? 君は彼と会えば色々思い出してしまうかもしれない。会わない方がよいのではないか?」


「大丈夫ですわ、聞きたいことがありますの」


 処刑させないためにも、会う必要があった。甘い考えなのはわかっているが、人の命を奪うようなことはもうたくさんだとアルメリアは思っていた。


「君がそういうのなら、かまわないが」


 そう言ったあと苦笑した。


「君は全てにおいて、無駄なことをしない人間だ。彼に会うのにもなにかしらの理由があるのだろう? それを止めるつもりはない」


 アルメリアは力なく微笑むと、頭を下げる。


「有り難う御座います。ですが、そんなに大層なことを考えている訳ではありませんの」


 その返事にアウルスも微笑んで返した。


「君はずっとヒフラで過ごしていただろう? ここは国境に近いから君の噂は帝国でもよく聞いたものだ。その内容は船乗り病の解決法やインフラ整備、どれを取っても素晴らしいものだった。たがら、君のやること全てに無駄がないことを私は知っているんだよ。それに、実は君は私のお手本でもある」


 アルメリアは驚いて答える。


「とんでもないことでございます。(わたくし)がアズルのお手本だなんて」


 するとアウルスは、優しく微笑み返した。


「いや、本当のことなんだ。これは私的な話なのだが、幼少のころ近所に大きな貴族の屋敷があってね。その屋敷の前を毎日通っていたらあることに気がついた」


「なんですの?」


 照れくさそうにアウルスは言った。


「美しい令嬢がいつもこちらを見ていた。思えばあれが初恋だろう。私は彼女に恋い焦がれた」


 アルメリアはそれを聞いたとき、胸がギュッと締め付けられるような感じがした。だが、その原因はわからなかった。とにかく、平静を装って無理に笑顔を作る。


「そうなんですの、素敵ですわね」


 アウルスは頷く。


「私は彼女に恥じぬよう生きると決めた。そんなときだ、隣国から君の話をよく耳にするようになった。君の行うことは全て素晴らしかったからね、君を手本に自分も頑張ろうと思ったものだ」


 アルメリアは褒められて恥ずかしくなり、顔を赤くして俯いた。すると、それを見ていたアウルスがアルメリアの顔を覗き込む。


「他の令嬢は褒めると、さも当然のことといった顔をするが、照れて俯く君は本当に愛らしい」


 その台詞に思わずびっくりして、アウルスの顔をまじまじ見つめ、更に顔を赤くした。


「そ、そんなことは、ありません……」


 そう返すと、恥ずかしすぎて思わず俯いた。


「君は?」


 そう問われて、なんのことかと顔を上げアウルスを見つめ次の言葉を待つ。


「君の初恋は?」


 アウルスにそう質問されると、初恋相手本人から聞かれているようで余計に恥ずかしくなった。


「あの、(わたくし)の話は、大したことではありませんから」


「そんなことはないだろう? 私も話したのだから、君も話してくれないと不公平と言うものだ」


 イタズラっぽく笑うと、アウルスはアルメリアが話すのを待っている。その圧に負け、仕方なくアルメリアは話し始めた。


(わたくし)の初恋相手は、近所に住んでいた男の子ですわ。せっかく仲良くなりましたのに、それを恋だと自覚するまもなく相手の行方がわからなくなってしまって」


 それから忘れられない。という言葉をアルメリアは飲み込んだ。


「そうか、悲しい思い出なのだね」


「いいえ、素敵な思い出をたくさんもらいましたから」


 そう言って微笑んだ。アウルスも微笑み返すと言った。


「きっといつか会えるだろう」


「えぇ、そうだといいですわね」


 お互い見つめ合って、しばらく沈黙した。


 そして、アウルスは突然なにかを思い出したように言った。


「そうだ、話が変わるのだが、君にお願いしたいことがある」


 皇帝からのお願いとは何事かと、アルメリアは少し緊張した。


「なんでしょうか」


「なに、そんなに難しいことではない。君の領地は港を保有しているね?」


 アルメリアは黙って頷く。


「では輸出も請け負っているか?」


「はい。特に発酵塩レモンは注文が多く、他国とも取引は多いですわ」


「東の海域にある、ルリユアイランドに発酵塩レモンを届けて欲しい。もちろん只でとは言わない、正式な取引だ」


 ルリユアイランドは帝国の港からは離れたところにある領土であり、距離的にはクンシラン領の港からの方が近い位置にあった。

 だがルリユアイランドに行商に行くには、帝国の海域に入るための許可証が必要となる。そんな理由から、アルメリアはルリユアイランドと直接の取引はしていなかった。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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