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第九十話 暗闇 ※残虐シーンあり

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

 もちろんそれが嘘だということはわかっている。だが、わざとその話に乗るような素振りを見せる。


「それは本当ですか? では、その前に誘拐した子どもたちをここに連れてきてください」


 山賊はにやにやしながら、アルメリアに少しずつ近づく。


「お嬢さん、子どもたちはもう安全な場所にいるよ。心配ならまずそこに行こうか」


 更に背後の暗闇からもう一人、山賊が現れた。


「どうした、騒がしいな。そのお嬢さんは?」


 手前にいる山賊二人は、いやらしい笑みを浮かべたまま、あとから来た山賊の方に振り返り言う。


「このお嬢さん、農園長の娘だそうだ。台帳には書いてなかったが、農園長に娘がいたとはね。こちらまで出向いてくださって本当にありがたいことだよなぁ」


 すると、その最後に現れた山賊は、他の二人に気づかれないようにアルメリアの顔を見ると頷いた。彼がイーデンだろう。アルメリアはイーデンにだけわかるように監禁場所に視線を送ると、他の山賊に視線を戻して叫ぶ。


「とにかく人質を守ることが第一だわ! だから、貴男たちに捕まる訳にはいきません!」


「何言ってんだお前? こんなところに一人でのこのこ来やがったくせに!」


 山賊たちがアルメリアを捕えようとこちらに向かってきたので、アルメリアは森の方向へ駆け出し彼らを森の方へ誘導した。


「まちやがれ! そう簡単には逃さないからな!」


 アルメリアは更に山賊を徴発する。


「このまぬけ! 追えるものなら追ってみなさい!!」


 ここら辺の地形は熟知している。アルメリアは余裕で逃げられると思っていた。ところがそのとき、木の根に足を取られ転んでしまった。

 振り向き見上げると、ダガーを構えて立っている山賊が目に入った。アウルスは必要のない人質を、彼らは躊躇なく処分すると言っていたのを思いだす。


 殺される!


 もうここで終わりなのだ、そう思いギュッと目を閉じ覚悟した。すると切れ味の良い剣が、なにかを切り裂くような音がした。それに続き


「ごぼっ、ぐぼぐぼ」


 と、なにかくぐもった声がすると同時に、重たいものが地面に落ちる音がした。そして、アルメリアの顔に生暖かいなにかが降り注ぐ。これはきっと自分の血に違いない、痛みはないがきられるとこんなにも出血するものなのだと思っていると、突然誰かに肩を掴まれ揺すられる。


「アンジー、無事で良かった。怪我はないか?」


 その聞き覚えのある声に驚いて、そっと目を開けるとそこにアウルスがいた。


「アズル? なぜこちらに?」


 すると、アウルスは優しくアルメリアの頬をハンカチで拭いながら微笑む。


「待たせてすまなかった。私は君を守ると言ったのに……」


 そう言われ、ふと横を見ると先ほどアルメリアを追ってきていた山賊の首が転がっているのが目に入った。


「ひっ!」


 アルメリアが思わず悲鳴を上げそうになると、アウルスはその首をアルメリアにせないようにギュッと抱きしめた。


「見てはいけない。もう大丈夫、大丈夫だから」


 そう言いながら、アルメリアの背中を撫でながら耳元で優しくささやく。


「大丈夫だ、アンジー、大丈夫だよ。大丈夫、君が落ち着くまでずっとそばにいる。怖かっただろう、もう大丈夫だ」


 アルメリアはそう言われ、命の危険を感じていたこと、恐怖から開放されたこと、今見てしまったもの、そしてアウルスが目の前にいる安心感、その全ての感情がないまぜになり抑えきれず、思わず泣き出してしまった。自分のせいで人の命が奪われたのだ、平気ではいられなかった。涙が頬を伝うと、アウルスはそれを指で拭った。そんなアウルスを見つめると、アルメリアはアウルスにおもいきりしがみついた。


(わたくし)、ころ、殺されそうに……。でも、その人の命が……」


「君のせいじゃない。君は悪くない。悪くないんだ」


 アウルスはそう言いながら、アルメリアの頭に何度もキスをし、更に力強く抱きしめた。

 アルメリアはそうしているうちに包み込まれているような感覚になり、落ち着くことができた。アウルスの鼓動が伝わり、なによりそれがとても心地よく感じた。

 しばらくして落ち着くと、アルメリアはアウルスの胸から少し顔を離し、アウルスの顔を見上げた。すると、アウルスも自分の顔を見下ろし微笑んでいた。


「大丈夫か? 少しは落ち着いたか?」


 アルメリアは恥ずかしくなり、すぐに俯く。


「はい、落ち着きました。それに子どもたちは無事でしょうか」


「無事だよ。みな家族の元に返した」


 その言葉に安堵し、ふと気づく。アルメリアは、アウルスの膝の上に座りしっかり抱き抱えられていた。


「アズルの膝の上に座るだなんて、大変失礼なことをしてしまい、申し訳ありま……」


 アウルスはそう言うアルメリアの頬に手を当て、上を向かせ唇に指を当てた。


「君は辛い思いをしたんだ、今は気を使う必要はない」 


 そう言うと、アルメリアの顔を濡らしたハンカチで拭った。


「では、君の屋敷まで送らせてもらおう」


 アウルスはアルメリアを抱きかかえたまま立ち上がり、歩き始める。アルメリアは慌てて言った。


「大丈夫ですわ、自分で歩けます」


 これ以上アウルスに迷惑をかけるわけにはいかなかった。だが、アウルスは立ち止まると、アルメリアの顔をじっと見つめた。


「いや、君の精神状態を考えたら、こんな岩のある足場の悪い山道を歩かせるわけにはいかない。お願いだ、このまま送らせてほしい」


 懇願するようにそう言われ、アルメリアはこくりと頷いた。確かに精神的に動揺している今、暗闇の中足場の悪い場所を問題なく歩く自信はなかった。


「良かった、頑なに断られてしまったら立つ瀬がないからね」


 ほっとしたように微笑むと、アウルスは歩き始めた。


「あの、本当にこんなことまでしていただき、申し訳ございません」


「いや、私がこうしたいのだ。アンジー、私は君に優しくしたいし、君を守りたいんだよ」


 そう言うと、アウルスは苦しそうに微笑んだ。アルメリアは頷くと、アウルスに身を任せた。


 屋敷につくと、返り血を浴びていて気持ちが悪かったのですぐに湯浴みをした。アルメリアは、血を浴びた場所が気持ち悪くて何度も何度も擦ったため、メイドのサラが心配してその行動を止めた。


「お嬢様、そこはもう洗ったあとで御座います」


「そう、よね。なんだか、汚れている気がして……」


 アルメリアがそう言うと、メイドのサラは優しくその手を握って言った。


「お嬢様に汚いところなど一つもありません。ほら、見てください。とても美しい優しい御手に御座います」


 アルメリアはサラの顔をじっと見つめると、その優しい眼差しに救われる思いがした。


「サラ、ありがとう」


 そう言って力を抜くと、後はサラにすべて任せた。しっかり湯船に浸かり、上がるとサラは優しく体を拭い身支度を整えてくれた。


 そうしてぼんやりしているとアウルスが待っているとの報告を受け、アルメリアは慌てて客間に向かった。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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