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第七十七話 フィルブライト公爵のお願い

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

 そうしてまた、しばらくは平穏な日常が続いた。アブセンティーでは、ムスカリから横領の冤罪事件ついてはっきりなにか聞かれることはなく、ただ一言


「アルメリア、この前は有益な忠告をありがとう」


 と言われるだけにとどまった。


 唯一いつもと一つ違いがあるとするなら、毎日必ず顔を出していたアドニスが、ここ最近姿を見せなくなったことだろう。


「アドニスはここ最近、忙しくされているみたいですわね」


 空席になっている、いつもアドニスが座っている場所をみつめながらアルメリアがそう言うと、リアムがそれに答える。


「アドニスの領土は海岸線が広いですからね、ここ最近北方のクチヤ海域からの海賊行為を取り締まるのに忙しいようです。南方にはモーガン一派がいて、そちらにも目を光らせなければなりませんから、なかなかうまくいかないのでしょう。そう言えば、クンシラン領にも港町がありましたね。南方に位置しているし、モーガン一派による被害報告はありますか?」


 アルメリアは首を振りながら答える。


「いいえ、ありませんわ。おそらくアドニスたち率いる海軍のお陰ですわね。それに、どうしても危険な海域を通過するさいには、傭兵を雇ってますから、今のところは大丈夫ですわ」


 そう答えながら、アルメリアは実はモーガン一派にピンと来ていなかった。今までは、実害がなかったからよかったものの、今後のことを考えれば調べてみなければならないだろう。

 それを聞いていたムスカリが口を挟む。


「うまく取り締まれないのは、アドニスが無能だからだ。アドニスの父親はもう少しうまくやっていた」


「殿下、アドニスも十分よくやっていると思いますわ。ですがまだまだ若いですし、スペンサー伯爵のようにはいかないと思いますの」


 ムスカリはアルメリアを見つめる。


「他の男を庇うとは、少し妬けてしまうな。だが、君の言うことも一理あるね。君に免じて、アドニスのことは気長に見守ってやることにしよう」


 そう言うと、アルメリアの髪に手を伸ばしそれをそっと耳にかけた。その瞬間、アルメリアが体を硬直させるのを見てムスカリは苦笑する。


「他の令嬢ならば、私がこうすれば喜ぶものだが君は違うようだね。なかなかうまくいかないものだ」


「も、申し訳ございません」


「ならば、指先ならば触れてもかまわないか」


 ムスカリはアルメリアの指先をつかみ、微笑む。


「それぐらいならば、大丈夫です」


 そこでリカオンが、思い切り咳払いをした。


「殿下、二人きりではありませんよ。お忘れなく」


 ムスカリは不機嫌そうに答える。


「なぜ私が、周囲の者の目を気にする必要がある」


 そこでルーファスが、空気を変えるようにアルメリアに声をかけた。


「アルメリア、そう言えばパーテルが一度お会いしたいと仰っていました」


「そうなんですのね? わかりました。お会いできるのを楽しみにしていますとお伝えください」


 おそらく先日の冤罪事件のことと、あの鍵のかかった箱について話があるのだろう。こうして、後日ブロン司教と会う約束をし、この日のアブセンティーは終了した。


 アブセンティーの後片付けが終わると、今度はフィルブライト公爵の訪問があった。


「突然お邪魔して申し訳ありません」


「いいえ、どうぞお入りになられて下さいな」


 アルメリアは笑顔で対応した。相談役として、突然の来訪者こそ快く受け入れたいと常々思っていたからだ。そうして招き入れると、ソファに座るように促した。お茶が出されるとフィルブライト公爵は口を開く。


「今日は、他でもない息子の治療のことでお伺いさせていただきました。その、お礼をせねばとおもいまして」


「とんでもないことでございます。今回のことで(わたくし)もとても勉強になりましたから、そんなお礼なんて必要ありませんわ」


 今回の症例では杖や牽引装着の開発など、アルメリアが学ぶことも多かった。それにこの件が発端で医療関係の開発に着手し始め、恩恵を受けたことも多かったので特にお礼をされる必要はないと思っていた。だがフィルブライト公爵は頑なに言った。


「いえ、是非お礼をさせて欲しいのです。でないと私の気持ちが収まりません。お礼を受けてくれないと、私の立場がありません」


 そこまで言われると、断ることはできないと思ったアルメリアはお礼を受けることにした。そして、少し考えフィルブライト公爵にでないと頼めないことがあったのを思い出した。


「では、公爵。ひとつお願いがありますの、引き受けてくださるかしら?」


 フィルブライト公爵が頷くと、アルメリアは話を続ける。


「公爵は教会派ですわね、でしたら孤児院出身の子どもたちを、ちゃんとした貴族の屋敷の使用人として雇ってもらえるように、専用枠を作っていただけないかしら? 孤児院も関わるはなしですから、(わたくし)としてはあまり口出しできませんでしょう? その点公爵ならば、教会派ですし他の教会派の貴族たちにも働きかけ安いと思いますの」


「なるほど、急には無理かもしれませんができるだけやってみましょう。その他には?」


 アルメリアは微笑み返した。


「いいえ、他にはなにも。このお願いを聞いてくださるだけで、とても助かりますわ。(わたくし)には、どうにもできないことですもの」


「そうですか、わかりました。そういうことなら尽力いたします」


 そう言って頭を下げると、不意に思い付いたように話し始める。


「しかしなぜ、孤児に興味をお持ちになられたのですか? 失礼を承知で申し上げますが、公爵令嬢という立場上ほとんど彼らに接触することはないでしょう?」


「確かに不思議に思われるかもしれませんわね。クンシラン領では、人材の育成にも力を注いでいますの。それで私設で孤児院を設立してますから、教会の孤児院にも触れる機会があり、ずっと気にかけていたのです。ですが(わたくし)は、教会の方々と縁があまりありませんでしょう? まして自分の領地のことならば多少対処できても、他の領地のこととなると余計に口出しできませんから」


 フィルブライト公爵は感心したように頷く。


「私設で孤児院を建てるとは素晴らしいですね。確かにこれからは、教会に孤児たちを任せきりにするのではなく、我々領主がそこに注力し人材を育てるということが必要かもしれませんね」


 そう言うと、フィルブライト公爵はしばらく眉間に皺を寄せ少し考えてから言った。


「方々から貴女の噂を予々伺っておりましたが、こうして実際にお会いして話を聞くと、その噂以上の方なのだと実感いたしました。我々は貴女から学ばなければならないことが、たくさんあるようです」


「とんでもないことでございます」


 すると、フィルブライト公爵はしばらく無言になり、何事か考えたのち口を開く。


「貴女を見込んでお願いがあります。図々しいのは重々承知で申し上げるのですが、貴女のもとにルーカスを預け学ばせたいのですが、どうでしょうか」


 アルメリアは思わずリカオンに視線をやった。現状として、リカオンだけで十分だった。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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