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第六十七話 冤罪は許さない

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

 意外に思って見ていると、寝物語にいかにも女の子が喜びそうな話をし始めた。その話はどれも聞いたことのない話で、リカオンは暇つぶしにずっとその話に耳を傾けていた。そして、子どもたちがうとうとし始めたころ、最後にその令嬢は悲しそうに人魚姫の話を始めた。

 その話を最初から最後まで聞いていたリカオンは突然、この令嬢はいつか自分をないがしろにし続け、人魚姫のように泡になり風の妖精になってしまうのではないかと思った。


 そんな、なんとも言えない焦燥感にかられたリカオンは、いても立ってもいられず、その令嬢と二人きりになる時間を作った。

 そして、その令嬢に質問する。


『もしもお嬢様が人魚姫の立場ならどうされますか?』


 と。だが、そんな質問は意味がないものだと、言った後にすぐに気づいた。この令嬢は、恐らく王子なんかとっとと諦めて人生楽しく過ごすとでも言うだろう。だがわかっている。実際にそういう立場になったとき、すぐにでも身を引いて相手が幸せになる道を選ぶに違いないのだ。


 それがわかってからは、自分の任務はお嬢様をお守りすることなのだと思うようになった。

 別にお嬢様が好きなわけではない、これは任務を全うするための行動である。と、リカオンは自分に言い聞かせた。


 なので、ことあるごとにその令嬢本人にも、それを念押した。だが、もともとそうったことに鈍感で鈍いその令嬢は、リカオンが言っていることにもピンと来ていない様子だった。


 最初の頃、令息にちやほやされてその令嬢がいい気になっていると思っていたのは、リカオンの大きな勘違いだった。

 それに気づいてからは、その令嬢が自分はそういう対象として見られていると思わずに、令息たちをあしらったり、だからこそ隙が多かったりする姿を面白く見ていた。

 だが、今はそんなしつこく言い寄る令息からも、その令嬢を守ることは自分の任務だとわかっている。


 だからこそ、自分はその令嬢に勘違いさせてはいけない、そう思ったのだ。

 だが、そうして自分はその令嬢のことをなんとも思っていない。と、アピールする度に、お嬢様に全く相手にされていないような対応をされ、ショックを受けた。


 リカオンは、落ち込む自分に必死にショックを受ける必要はないのだと言い聞かせ、自分の気持ちを否定し続けていた。


 そんなある日、朝早くからエントランスホールの騒がしさで目が覚めた。何事かと慌てて下に降りていくと、オルブライト子爵が教会の審問官に捕らえられているのが目に入った。

 リカオンは冷静にどうしたのか問診官に訪ねると、オルブライト子爵は横領をやらかしたらしい。リカオンはオルブライト子爵ならやりかねないと、そう思った。


 オルブライトはリカオンを見つめると、情けない顔で


「なにかあれば孤児院を訪ねるように」


 と言い残し、連行されていった。リカオンはオルブライト子爵は社交界から追放されるかもしれない。そう思いながら自分の職務に戻ることにした。






 アルメリアはその日、いつものように日課の早朝の領地見回りを終えると屋敷に戻り、書類に目を通していた。そこにペルシックが慌てた様子で執務室へノックもなしに入ってきた。


「お嬢様、オルブライト子爵のことなのですが、どうやら横領で教会側に捕らえられてしまったようです」


 その瞬間、前世の記憶がよみがえる。ゲームの設定にあった内容を。オルブライト子爵は横領の罪を着せられ捕らえられてしまうのだが、からだが弱くそのまま獄中死してしまったということを。

 リカオンのイベントを進めると、リカオン自信がその濡れ衣を晴らしその名誉を回復するのだが、それを今やればオルブライト子爵を救うことができるだろう。アルメリアは慌ててペルシックに命令する。


「それは間違いなく冤罪ですわ! 爺、ただちにオルブライト子爵の……」


 すると、ペルシックが書類を手渡す。


「お嬢様、資料はこちらです」


 アルメリアは急いでそれを受けとり、目を通しながらペルシックに質問する。


「罪状は?」


「はい、どうやらブロン司教と裏で手を組んで寄付金を横領し、孤児院の資金も個人的流用をしたとかで、捕らえたのは教会本部の審問官だそうで、騎士団のほうでも手も足もだせない状況です」


「爺、ルフスを今すぐにこちらに呼び出すことはできるかしら?」


「承知いたしました」


 ペルシックは踵を返し、部屋を出ていく。それをちらりと見て確認すると、アルメリアはすぐにまた書類に目を落とした。

 教会側の言い分によると、去年からブロン司教とオルブライト子爵が横領していることになっていた。証拠としては、教会本部より発行されたオルブライト領教区宛の寄付金の分配金と、それに対して孤児院が受け取ったとされる金額に差があり、本部が分配した分配金の一部がなくなってしまっているというのだ。

 その金額が、ブロン司教とオルブライト子爵が共同で出資している団体に入金した金額と同じ額であったことから、この得たいの知れない団体に分配したお金を流出している。それが教会側の主張だった。


 教会は正直に言って詰めが甘く、ブロン司教とオルブライト子爵が共同で出資運営している団体を、架空の団体であり、ブロン司教たちが横領したお金をマネーロンダリングするような団体だと主張している。だがちゃんと調べればわかる通り、この団体は孤児院を出た後の子どもたちのサポートや、片親の子育てを支援する団体であり、その実績は折り紙つきであった。しかし、それを証明したところで横領していないという証拠にはならない。


 アルメリアは、なんとしてでも横領していないという証拠を得るために、書類を隅々まで読んだ。そうして読んでいて気づいたことは、なくなってしまったという教会本部からの分配金の入金そのものが、最初からなかったのではないか? ということだ。薄々わかってはいたが、ブロン司教とオルブライト子爵は教会側の誰かに嵌められたに違いなかった。だが嵌めると言っても、教会本部の書類は厳重に管理されており改ざんは難しいだろう。最初から、意図的にそのような目的で教会側が書類を発行していれば別だが、ブロン司教とオルブライト子爵が団体にお金を入金しているのを確認してから改ざん書類を作ったとなれば、教会本部の台帳を不正に改ざんするのは容易ではないからである。


 教会本部にある台帳を確認できれば、オルブライト子爵とブロン司教の無罪は証明されるはずだ。


 だが、そうだとしたら嵌めたのは教会側の人間が、そう簡単には台帳を開示はしてくれないだろう。そこまで思考を巡らせたとき、ドアがノックされた。顔を上げるとそこにペルシックに呼ばれたルーファスが立っていた。


「今とてもお忙しいでしょうに、わざわざお呼び立てしてごめんなさい」


 アルメリアはそう言いながら、ソファへ座るように案内した。ルーファスはソファに腰掛けると、すぐに口を開いた。


「とんでもないことでございます。私もこんなことになると思っておりませんでしたし、どうしたら良いかわからず、ご相談しようと調度こちらに向かっているところでした。すれ違わなくて良かったです」


 そう言って力なく笑った。


「ルフスは、どういうことなのか事情を御存じかしら?」


「いいえ、まったく。ただ、今朝になって本部から知らせが届き、捕らえられたとしか」


 アルメリアは怒りを押さえつつ言った。


「これはまちがいなく冤罪ですわね。オルブライト領の孤児院に行けばわかることですもの。あそこにいた子どもたちは、とても幸せそうな表情でしたし、ブロン司教が何より子どもたちの食事や住環境を優先に経営していることは一目瞭然でしたから」


「信じてくださってありがとうございます」


 ルーファスは深々と頭を下げたが、信じるのは当然のことだった。アルメリアは前世の記憶がなくとも、ブロン司教とオルブライト子爵を信じただろう。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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