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第五十二話 恋に興味がない

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

 ムスカリはゆっくり顔を上げると、アルメリアに微笑みかけた。


「そうか、君がそうとらえてしまったのは仕方がないことかもしれないな。それで、そうだと仮定して君はどうしたいと?」


「今後殿下が本気になる方が現れたとしましょう。更にその方との婚姻の方が(わたくし)と婚姻するよりも国益をもたらすとしたら、(わたくし)という存在は邪魔となります。ですからそうなったときに、殿下の方から一方的に婚約を解消できるようにすれば、問題なくことを済ませられますでしょう? ですのでそういった内容を契約に盛り込んでいただきたいのです」


 ムスカリは腕を組み黙り込むと、眉根にシワを寄せ何事か考えているようだった。アルメリアはムスカリがもっと喜ぶと思っていたので、この反応は予想外であった。


 この反応をみるに、おそらくまだムスカリはダチュラと出会っていないのだろう。ダチュラはせっかく司教と城内に入れるというのに、なにをしているのだろうかと、少し疑問に思った。


 しばらくするとムスカリはゆっくりと口を開いた。


「君の言いたいことはわかった。だが、少し疑問に思うことがある。君はなぜか、近い将来私にそのような相手が現れるかのような言い方をするね。それはなぜだ?」


 鋭い、アルメリアはそう思いながら正直に答える。


「申し訳ありません、断定できる話ではないので今は申し上げられません。ですが、そういったこともあり得るとだけ申しておきます」


「うん、今のところ君のようにその条件すべてに完全に当てはまるような女性が、私の目の前に現れるとは到底思えないが……。聡明な君がそう言うなら、なにか考えがあるのだろう。で、私との婚約に迷う原因はそれだけか?」


 アルメリアは頷くと、もうひとつ付け加える。


「それと、その女性が殿下のお側に現れるのは数年先かもしれません。ですのでもしも(わたくし)と婚約するならば、しばらく待っていていてほしいのです。できれば婚約を解消するといった事態は極力避けた方がよろしいでしょうから」


「数年か……」


 数年と言っておいたが、ムスカリがダチュラと出会ってしまえば、そんなに待たなくともすぐに答えが出るだろう。なので実際はそんなに待つことはないはずだ。


 そこまで話したところでムスカリは、はっとしたように顔を上げアルメリアに質問する。


「君は、君にはそういった思いを寄せているような相手がいるのか?」


「はい。ですが、この件に影響はないと断言できますので、殿下はご安心ください」


 この答えにムスカリは酷く動揺した様子になると、突然立ち上がりアルメリアに問いただした。


「それは誰だ? アドニスか? それともリアムか!?」


 予想外のムスカリの反応に、アルメリアも驚き慌てて立ち上がりやんわり制した。


「殿下、落ち着いて下さい。廊下にいる者たちに聞かれてしまいますわ」


 そう言われ我に返ったムスカリは、そのまま力なくストンとソファに座ると平静を取り繕った。


「すまない、思いもよらぬ話で取り乱してしまったようだ。で、どこの誰なんだ? 君の、その、相手というのは。このさいだから正直に話すといい」


 アルメリアも座り直すとその問いに答える。


(わたくし)の伝え方が良くありませんでした、誤解を招いてしまい申し訳ありません。好きな相手と言っても、(わたくし)の幼少の頃の初恋相手で、正直どこの誰かもよくわからない方なのです」


 自分でも、随分センチメンタルなことを言っていると思い、おもわず苦笑した。それを受けムスカリは驚いた様子になった。


「そんな相手に操を立てていると言うのか?」


 アルメリアは満面の笑みで頷く。


「はい。それ以来恋をしていないもので」


「そういうことか」


 ほっとしたように呟くと、ムスカリはお茶をひとくち飲み下し、大きく息を吐くと自身の髪を頭に撫で付けた。そして、アルメリアに向かい笑顔を作ってみせる。


「ならばこれから新しい恋をすればいい」


 笑顔でアルメリアは答える。


「そうですわね。ですがまだ当分は他のことで手一杯ですから、そういったことに時間をさく余裕はありませんわ」


 それを聞いてムスカリはふっと笑った。


「恋というのは、忙しさなど関係ない。落ちてしまえば、あとは自分の思うようにコントロールもできない。そういうものだ。君にもそういう相手ができればわかるだろう」


 アルメリアもそれは十分わかっていた。それを分かっている上で今はやるべきことを優先し、誰も好きにならないようにしていた。


 と、そのとき視界にペルシックが入る。何か要件があるようだ。アルメリアはムスカリに断りを入れ、ペルシックの用件を聞くことにした。殿下との会話を中断させるほどなので、余程のことかもしれない。


「殿下、少々失礼致します。爺、なんですの?」


「お嬢様、お話し中大変申し訳ありません。ただいまスペンサー伯爵令息がお見えになられておりまして……」


 アルメリアは首を振る。


「今は殿下とお話し中ですわ、お断りしてちょうだい」


 するとペルシックも首を振った。


「それが『王太子殿下とは懇意にしているから大丈夫だ』と仰られて、頑として聞き入れてもらえないのです」


 明らかに困惑した顔で、対処しあぐねている様子だった。ペルシックが対応に困るのは珍しかったので、アルメリアもどう対処すべきか迷っていると、ムスカリが口を開いた。


「アルメリア、大丈夫だ」


 思いもよらない言葉に驚きムスカリの顔を見つめると、ムスカリは頷く。


「私とアドニスは付き合いが長くてね、無礼な振る舞いも公の場以外では目をつむってやっている仲だ。君が良いと言うならば、ここへ呼んでかまわない」


「殿下がそのように仰るなら」


 アルメリアは微笑んで返し、ペルシックへアドニスをここに通すよう指示した。だが、ムスカリがどんなに良いと言っても、決して失礼があってはならない。

 部屋に入ってきたアドニスに開口一番アルメリアは言った。


「アドニス、ごめんなさい。急ぎでなければ後にしていただけるかしら?」


「すみません、久々に領地から戻り貴女の顔を一番に見たかったもので」


 そんな二人のやり取りを見ていたムスカリは、ソファにゆったり座り肘掛けに頬杖をついて、足を組み溜め息をつくとアドニスに言った。


「君も無粋だね、二人の時間を邪魔しに来るなんて。だが、きてしまったものは仕方がない。アルメリアも困っているようだ。彼女が許すなら同席してもかまわない」


 アドニスはムスカリに対しむっとした顔をしたが、すぐにアルメリアに向き直ると手を取って言った。


「アルメリア、お茶の時間でもないのに、急に訪ねてきた非礼をお許しください」


 アルメリアは微笑んだ。


「いいえ、大丈夫ですわ。それに、殿下のお許しがありましたから、アドニスもご一緒にお茶をいかが?」


 内心思いもよらぬ展開に驚いていたが、アルメリアは努めて冷静に振る舞うようにした。


「貴女のお許しがいただけたので、ご一緒させていただきます」


 一礼すると、アドニスはアルメリアの正面の位置に座った。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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