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おまけ その頃のペルシック

文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。

本編の裏話なので、読まなくとも本編の内容はわかるようになっています。

 お嬢様がオルブライト領の孤児院へ出向されることになった。(わたくし)ことペルシックはそれを全力でサポートし見守るのが仕事だ。

 お嬢様は午前九時に孤児院へ向かうとのことだったので、その前に周辺に潜入する必要があるだろう。


 早朝、屋敷でのいつもの仕事を終えると、お嬢様が出発したのを見送った。そして、そのあとすぐに(わたくし)の愛馬を駆ってお嬢様の先回りをする。

 (わたくし)は麦わら帽子、首には手拭いをかけ白いシャツにズボンといういでたちで孤児院の向かいの牧場主の家に向かった。


「すみません、ここの主はいらっしゃいますか?」


 大きな声で尋ねると、年配の女性が対応する。


「息子ですか? ちょっと待っててくださいね」


 そう言ってその女性は奥へ走っていった。しばらくして中年の男性と一緒に戻ってくる。


「なんだいあんた、もしかして雇ってほしいとかそういうことか? それなら悪いが、うちは今人を雇う余裕がないんでね。他を当たってくれ」


 門前払いをされそうになり、慌ててくい下がる。


「違うのです。実は私は妻に捨てられて、娘は妻に引き取られました。それでずっと娘と会わせてもらえていない日々が続いていたのです。ですが、その娘がここの牧場前にある孤児院に勤めることになったと聞いたんです。私は娘を一目でも見たくて……。賃金はいりません。今日一日だけでよいのです。草むしりでもなんでもします。娘が勤める孤児院が見えるこの場所で働かせてもらえないでしょうか?」


 そう懇願する(わたくし)に、牧場主は少し同情した様子を見せた。みなこういった話には弱いものである。優しさにつけこむようで申し訳なかったが、これもお嬢様を守るためだ、致し方ない。


「賃金がいらないってなら、まぁ、かまわないが。あんたも苦労してんだな」


「ありがとうございます。無賃金でもしっかり働かせてもらいます」


 (わたくし)は深々と頭をさげた。


「じゃあ、そうだな。あんたには孤児院の近くの畑の草むしりをお願いするよ」


「はい、任せてください!」


 (わたくし)は配置につくと、さっさと草むしりを終えた。こんなことで任務に支障が出てはならない。お嬢様がまだお見えにならなかったのでついでに水撒きもすませた。


 しばらく待っていると、お嬢様の乗っているはずの馬車が見えたので、慌てて遠くからお嬢様の護衛につく。

 オルブライト子爵令息といらしたのは予定外だった。彼は王室の間者であり、それを隠そうともしない。それはお嬢様に興味がないというアピールなのだろう。

 だが、(わたくし)の目は欺けない。お嬢様に対し興味なさげにしているにもかかわらず、なにかとお嬢様に近づこうとしていることが見てとれた。これ以上近づくなら排除もやむなしと心に決めていた。


 ふと、お嬢様がこちらを向いた。(わたくし)は慌ててそこに頭を伏せる。お嬢様には気づかれなかったようだ。だが、地面についた手にグニャリと嫌な感触。そっと手のひらを見ると、思っていた通りべったりお馬さんが排出した『もの』がこびりついている。

 (わたくし)は手拭いでそれを拭き取る。お嬢様のため、これもやむ終えない犠牲である。


 そこに牧場主が現れる。


「おい、あんた、ペル……シックだっけ? あんたすげぇな、もうこんなに草むしりしたのか。終わったなら水やりも手伝ってもらえるか?」


「もう水やりも終わっています」


 そう言って微笑むと、孤児院の方へ向き直り思わず歯ぎしりしながら呟く。


「あの若造……お嬢様の手を握るとは」


 牧場主も孤児院に視線を移す。


「俺にゃ何にも見えないが。あそこにあんたの娘がいるのか? あんた眼鏡かけてるのに目もいいのな」


 (わたくし)は慌てて牧場主に向き直り涙目で訴える。


「そうなんです、娘の姿は遥か遠くでも見分けられます。これは親の愛情あればこそなのです。こちらで働かせていただいて本当に感謝しています。ありがとうございます」


「そ、そうか、良かったな。じゃあゆっくり娘の姿を見ていてくれ。邪魔したな」


 そう言ってその場を離れようとしたが、彼は戻ってきて言った。


「そうだ、なぁ、最初は雇わないと言ったが、あんた仕事早いし、なんならずっとここで働いてもらっていいよ。もちろん賃金はだすよ」


 (わたくし)は首を振る。


「とんでもない。娘を気にかけすぎてご迷惑になるといけなので、たまにこちらで無賃金で働かせていただければ、それだけでも幸せです!」


 そう言って頭を下げた。ここに来るのはお嬢様が孤児院にきたときだけでかまわないのだ。


「まぁ、あんたがそう言うなら仕方ないね。また来てくれるとこちらも助かるし」


 牧場主は笑顔で去っていった。


 すぐに孤児院の監視に戻ると、麦わら帽子を深くかぶり直し、手拭いで汗を拭くとお馬さんの『もの』の香りに包まれながら怒りを静めつつ、遠くからお嬢様を見守った。

誤字脱字報告ありがとうございます。

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